第20話 村の終わり (カイン視点)
俺の名前はカイン。
俺には小さな頃からずっと隣で笑っている幼馴染みがいる。
彼女はとても優しく可愛い女の子。
名前はララ。
俺はこの先もずっとララの隣でララを守り続けていくと思っていた。
それなのに俺は知ってしまった。
この村の秘密とララの運命を。
ララの為なら何でもできる。
ララの為なら命さえも捧げられる。
だってララは俺以上に悲しい運命を背負わなければならないから。
死ぬよりも悲しい運命を、、、。
◇
俺は大人しか入ることを許されていない部屋に入った。
俺はもう、子供ではない。
まだ大人と呼べる歳ではないが俺は、心も体も大人と同じだ。
だから大人しか入れない場所に入った。
村長のじいちゃんが毎日、入る部屋へ入ったんだ。
そこには黒い尾びれの人魚が大きな水槽に入っていた。
美しく綺麗だが黒い尾びれは何処か寂しさを感じさせる。
人魚の顔がそう思わせるのかもしれない。
人魚は俺を見て驚いていた。
俺を知っているのだろうか?
『カイン?』
人魚は俺に話しかけてきた。
しかし、水の中にいる人魚の声が聞こえるわけがない。
俺はキョロキョロと辺りを見る。
『カイン。あなたの心に話しかけているのよ?』
「心に? あなたは誰?」
『私はあなたにとって憎い相手かもしれない存在よ』
「憎い相手?」
『私の中にあなたを知っている者がいるの』
「あなたの中に?」
『そうよ。あなたのお母様よ』
「俺の母親?」
『時間がないから簡単に言うわよ。ちゃんと聞いてね』
「はい」
『救える命を救って』
「救える命?」
『ララを、、、』
「ララ? ララが何?」
『ララの命を救って』
「ララの命? ララは死ぬのか?」
『…………』
人魚は何も話さなくなった。
何なんだよ。
「カイン?」
俺は声のする方を振り向き相手を確認した。
「じいさん」
「何でお前がここにいるんじゃ?」
「知りたかったんだ。この秘密を」
俺はそう言って人魚を指差した。
「お前にはまだ早いんじゃ」
「何で? 俺はもう、大人と同じだよ?」
「お前がこの人魚のことを聞いても何もできないんじゃよ」
「何でそれをじいさんが決めるわけ?」
「子供には無理なんじゃよ」
「勝手に決めるなよ。俺は必ずララを守る。救える命は全て救うよ」
「ララのことを聞いたのか?」
「うん。母親からな」
「知ってしまったのじゃな。それなら全てを話そう」
それからじいさんは全てを俺に話してくれた。
この村の秘密とララのこと。
そして俺の母親とララの母親のこと。
人魚が何故ここにいるのかを。
「俺は諦めない」
「お前には何もできんのじゃ」
「だから勝手に決めるなよ」
「それなら何か考えがあるんじゃろうな?」
「俺はこの村を出るよ」
「この村から出ると入れなくなるんじゃぞ?」
「それでいいんだよ。ララが幸せにならなければ大丈夫なんだから」
「しかし、それだとお前は外で何をするんじゃ?」
「この村にかかった魔法を解くよ。そしてララを隣で守ってくれる信頼できる人を集めるよ」
「カイン。お前がそこまですることはないんじゃ。ワシが決断すればいいんじゃ」
「じいさんは決断できないから何百年もこの村はなくならず、残り続けているんだろう?」
「そうじゃのう」
「俺が見つけるから。必ずララを救うから」
俺はじいさんに言った。
この何百年も続いた村を終わらせることを。
自信があるわけではない。
俺はララを救う。
ただ、それだけだ。
俺はララ無しでは生きられない。
このまま何もしなかったらララはいなくなってしまう。
そんなことはあってはならないんだ。
必ずララを救うんだ。
ララの為に。
俺の為に、、、。
◇◇
俺は旅に出た。
ララを救う為に。
青色
最初に出会ったのは俺にそっくりな声をしているルーイだ。
ルーイは母親に必要とされていなかった。
そんなルーイは母親から逃げようとしていた。
ルーイならララが待っている村に、入ることができる。
ルーイといるとすごく落ち着けた。
ルーイは俺の初めての友になった。
心から信頼できた。
黄色
ルーイと別れ次に出会ったのはコリーだ。
コリーは力持ちなのに父親に反抗すらできず、ただ黙って言われたことをやっていた。
本当は他にしたいこともあるのに、ずっと文句も言わず過ごしていた。
コリーは今の立ち場から逃げたいのだろう。
自分の好きなようにしたいようだった。
だから俺はコリーにコリーの知らないことを教えた。
コリーは目を輝かせながら話を聞いていた。
コリーは俺が教えたことをすぐに覚えた。
まるでライバルのようにコリーは俺と勝負をした。
勝ち負けなんて決まらない。
コリーは俺のライバルになった。
そんなコリーは正々堂々と勝負を挑んできた。
だからコリーも信頼できた。
ピンク色と赤色
コリーとも別れ次に出会ったのはライトだ。
ライトは幼いのに誰にも頼らず動物達と一緒に生きていこうとしていた。
そんなライトに動物達とは違うことを知ってほしかった。
それなのに俺は体調が悪くなり、ライトはそんな俺を助けてくれた。
人を信用できず、怯えていたライトが俺を助けてくれたんだ。
優しい心を持つ幼いライトをどうしてもララに会わせたかった。
ライトに、怯えることなく人を信用してほしかった。
それをララなら教えてくれると思った。
ライトは俺の可愛い弟になった。
ララの可愛い弟にもなるだろう。
緑色
ライトと別れ、次に出会ったのはスワンだ。
スワンはお腹を空かせた俺と、一緒に旅をしている豚のララ嬢を助けてくれた。
スワンは小さな頃に棄てられ、育ててくれた長老もスワンの目の前で殺された。
そんなスワンは自分を必要のない人間だと思っていた。
自分は生きていても何の役にもたたないと。
だから俺はスワンを頼った。
スワンは色んな知識があった。
その知識が必要だと伝えた。
スワンと少しだけ旅を共にした。
スワンは俺の戦友になり、命を預けることができるほど信用できた。
水色と白色
スワンと別れて次は二人の戦士と出会った。
二人は双子なのにお互い敵として戦っていた。
どうしても二人に協力し合いながら戦ってほしかった。
二人は最強の戦士だと思ったからだ。
二人の戦士を仲良くさせたのは戦士と一緒にいた人魚だった。
人魚は虹色の鱗を持っていた。
人魚に黒い人魚の話をしたが聞いたことはないと言った。
しかし、人魚の済む海の向こう側へ行けば、何か答えが見つかるかもしれないと言われた。
だから俺は危険だと知りながら向こう側の大陸へ向かった。
ここまで誰も俺の村のことを知らなかった。
何故、誰も知らないんだ?
その時、俺は気づいた。
村に訪れる人達はみんな必要とされていない人達だ。
いなくなったことさえ気づかれない。
老人は家族に厄介者と思われる。
放浪者は元々、決まった居場所がない。
ホラ吹き者は嘘しか言わず、誰にも信用されず記憶にも残らない。
しかし、そんな村にも夫婦がいる。
でもそんな夫婦にも秘密はあった。
今、思えば不思議な夫婦がたくさんいた。
歳が親子くらい離れた夫婦。
両方が傷つき、疲れた顔をした夫婦。
お互いが似ている顔の夫婦。
俺の村は誰の記憶にも残らない村なんだ。
俺の村の人達は記憶に残らない人達なんだ。
そんな村は必要ないんだ。
そんな村にララが閉じ込められる必要はないんだ。
オレンジ色
俺は向こう側の大陸に着き、気がついた。
この大陸は自由なんだって。
それなのにこの大陸に住んでいる人達はその自由を力の弱い、子供達に与えなかった。
大人の勝手な考えに子供達は苦しんでいた。
俺の村と同じだ。
大人が決めたことに子供は訳もわからず抵抗することも知らず命を落としていた。
俺はこの大陸の人達に嫉妬した。
ララには自由なんてないのに。
俺は自由が欲しかった。
ララの為に自由が欲しかったんだ。
だからだと思う。
俺がこの大陸の人の寿命を奪う力があるのは。
そんな力、使えるわけがない。
しかし俺は、命を大事にしないロードにその力を使ってしまった。
でも、それでロードの本当の気持ちが知れた。
ロードには魔法なんて使えない俺の村で過ごしてほしかった。
寿命もない俺の村で過ごしてほしかった。
黄緑色
それからロードに救って欲しいと言われた、フラークの元へ向かった。
フラークは魔法の力を制御できないでいた。
俺に何ができるか分からない。
だからロードから聞いていた大魔法使いに会いにいった。
大魔法使いはロードによく似た女の子だった。
俺はすぐにロードの妹だと気づいた。
彼女は大魔法使いと呼ばれていることを知っていた。
◇◇◇
俺は大魔法使いのローナと一緒にロードに会いに山を下りている時に話をした。
「ローナは大魔法使いだと呼ばれていることを知ってどう思ったんだ?」
「私は大魔法使いじゃないよ。みんなと同じだよって思ったよ」
「それを誰かに言おうとは思わなかったのか?」
「だってこのお城から離れたら、お城に住んでるみんなが困るでしょう?」
「この城が朽ちるかもしれないけれど、君が誰かに言えば何かが変わったかもしれないよ?」
「私よりもこのお城がキラキラ輝いてた方がいいのよ」
「君はもう少し、欲張ってもいいと思うよ?」
「私はみんなが幸せならそれでいいの」
「君は大魔法使いじゃなくて大天使だね」
「大天使なんて嬉しいけどそれも、もう終わりだね」
彼女はそんな言葉を言うので、悲しそうな顔をしていると思いながら見ると、彼女は嬉しそうに笑っていた。
「何で笑ってんだよ? 大天使じゃなくなるんだろう?」
「そうだよ。でも彼の為に生きていけるから」
「えっ」
「自分の為に願って幸せになれるのよ? 嬉しいでしょう?」
「自分の為?」
「彼と一緒にいたい。彼に好きと言われたい。彼の一番になりたい。たくさん願うの」
「君の魔法は願えば叶う魔法だからね」
「魔法なんて使わないわよ」
「えっ」
「魔法なんて必要ないわよ」
そうだな。
魔法なんて使わなくてもフラークはローナを好きだと思う。
だから魔法を使わないように消さなければならない。
「魔法を消すことはできるのか?」
「魔法は本当は存在しないよ」
「どういう意味なんだよ?」
「どうして魔法を使いたいの?」
「えっ、それは、その」
「魔法を消すにはどうして魔法を使いたいのか知ればいいの」
「使いたい理由なんて色々あるだろう?」
「人を傷つけたくて使う魔法は攻撃の魔法よね?」
「炎とか氷とかだろう?」
「魔法は願って叶うのなら、攻撃をしてほしくないと願えば叶うのよ」
「そうすれば魔法は消える! 魔法は存在しないんだな」
「そうだよだからこの国では魔法は存在しないの。私はそう思ってるよ」
「そうだな。ありがとうローナ」
俺はローナの頭を撫でた。
可愛いローナは大魔法使いではなく、大天使だ。
そんなローナはフラークの為に生きていくのだろうな。
大切な人の隣でいつまでも笑って。
帰ろう。
俺の大切な人の元へ。
ララの元へ。
俺はララの為に生きていく。
ララと一緒に生きていくんだ。
だから。
さあ。
村を終わらせよう。
◇◇◇◇
村に帰ったその日の夜中に、ゲートの前でララと二人で話をする。
「ララ。今日は、もう遅い。また明日、ここに来てくれないか?」
「うん」
ララは俺に背を向けてゲートから離れる。
「ララ」
「何?」
ララは振り向き首を傾げて俺を見る。
「ララ」
「クスクス。どうしたの?」
ララは笑いながら言った。
「ララの幸せって、、、」
「私の幸せはカインが笑ってることよ」
ララは俺が言いにくそうにしていたからなのか、俺の知りたいことをララから話をしてくれた。
「俺?」
「うん。それにカインが私の為に頑張っていると分かった時。カインが私の為に怒ってくれた時。カインが豚さんやニワトリさんと遊んでいる時。カインが好きな食べ物を私の分まで食べてる時」
「全部、俺じゃん」
「そうよ。私はカインの笑顔で幸せを感じるの」
「俺と同じ?」
「うん。だからカインが私の隣にいなかったら私は幸せなんて感じないのよ」
「そうだな。それじゃあ、またな」
「うん。また明日ね」
ララは帰っていく。
俺は敢えて、また明日と言わなかった。
だって会えるのか分からないから。
俺は虹色の鱗を持つ人魚から貰った鱗をゲートの膜に当てる。
すると穴ができ、俺は村の中へ入ることができた。
人魚が作った膜なら人魚の物を持てば通れるんだと思ったんだ。
そして人魚がいる部屋へ入る。
人魚は俺が来ることを分かっていたのだろう。
俺が来ても驚く様子は見せず俺をただ見つめていた。
「俺はあんたをこの水槽から出すよ」
『そんなことをしなくても自分で出るわ』
「えっ」
『とうとう、この日が来たのね』
「何?」
『決断の時が』
人魚は悲しそうな顔をして言った。
決断?
人魚は出られなかったのではないのか?
「どういう意味?」
『説明をしている暇はないの。ただ、、、』
「何をしているんじゃ?」
人魚がいきなり黙ったと思ったらじいさんが俺の後ろから現れた。
「じいさん。人魚がこの水槽から出ると言うんだ」
「ダメじゃ。人魚が出ればこの村の人々がほとんど死ぬんじゃよ」
「えっ」
「膜が無くなればこの村の魔法も消える。村の人々に死の期限ができるんじゃ」
「じいさん。死の期限じゃなくてそれが生きるってことだろう?」
「死んだら何もできないんじゃ。死んだら彼女と話をすることもできないんじゃよ」
じいさんは人魚を見て言った。
じいさんの目を見ると真っ黒だ。
まるで闇に囚われているようだ。
『闇に支配されているのは私ではなくて彼なのよ』
人魚は真実を教えてくれた。
じいさんは死が目前に迫ってきた歳になった時、人魚と離れることが嫌で闇に体を差し出してしまった。
そんなじいさんを救おうとしても、じいさんは言うことを聞かなかった。
じいさんを救うことはじいさんの死を意味することだと知っている人魚は何百年という時間が経っても、決断ができなかったんだと思う。
『あなた達、二人を見ていたらこのままじゃダメなんだって思ったの。もしかしたら彼だけじゃなくて、私も闇に囚われていたのよ』
「誰もが好きな人とはいつまでも一緒にいたいと思うんだ。闇に囚われていたんじゃなくて現実に目を背けていただけなんだ」
「現実?」
じいさんが俺の言葉に反応し、現実と言いながら俺を見た。
その後じいさんは人魚を見て、頭を抱えて座り込んだ。
黒い人魚を見て後悔をしているようだ。
「ワシは死なないんじゃ。ワシはずっとこの村で幸せに暮らしていくんじゃ」
じいさんは狂ったようにそう何度も繰り返し言っている。
『お願い。彼を助けて。私が愛した彼を元に戻して』
人魚が願っている。
俺の心に、俺にしか聞こえない声で願っている。
「じいさんと会えなくなってもいいのか?」
『もういいわ。彼を苦しみから解放してあげたいの』
「分かった」
それから俺は背中に背負っていた弓を持ち、水槽に向けてかまえる。
水槽から人魚を出せば膜はなくなる。
そして魔法も消える。
人魚は俺を見て頷いている。
じいさんは狂ったように頭を抱えて座り込んでいる。
俺が終わらせる。
この二人の悲劇を。
この村を。
「カイン」
俺が矢を射る前に俺を誰かが呼んだ。
誰かではない。
俺はすぐに誰なのか分かっていた。
いつもの声。
ララだ。
「ララ? 何でここに?」
「カインが変だったから戻って来たの」
「ララ。まだ終わっていないんだ」
「終わる? 終わらせないわよ。やっとカインに触れることができるのに」
ララはそう言って俺に近づく。
「ララ? ララが幸せそうにしている」
じいさんが頭を上げ、ニヤリと笑いララを見た。
ララが狙われてしまう。
それだけはダメだ。
「ララ、来るな! 俺はお前よりも大切な人がいるんだ」
「カイン?」
ララは足を止める。
「ララ。ごめん。旅で出会った女の子に恋をしてしまったんだ」
「嘘よ。さっきはそんなことを言ってなかったじゃない」
「ごめん。言えなかったんだ」
「嘘でもそんなことを言ってほしくなかったよ」
ララはそう言って部屋を出ていく。
これでいい。
ララには生きていてほしいんだ。
「ララの幸せが消えた。それならこんな体はいらない」
じいさんはそう言って近くにあった椅子で人魚の水槽を割った。
すると人魚と水が流れ出る。
それと一緒にじいさんの体がどんどん朽ちていき、灰となっていく。
「えっ、じいさん!」
俺はじいさんに近寄る。
じいさんの顔はどんどんシワが増えて衰えていく。
「カイン。すまない」
じいさんの黒い目は無くなり、じいさんは元に戻っていた。
「あなた」
黒い鱗の人魚がじいさんに近寄る。
「君にもヒドイことをさせてきたな」
「大丈夫よ。私は大丈夫だから、あなたはゆっくり休んでね。そしてまた会いましょう」
「そうだな。愛しているよ」
「私も愛してるよ」
そしてじいさんは灰になって消えていった。
人魚は泣いていた。
これで終わった。
この村の歴史は今日で終わりなんだ。
「きゃー」
叫び声が聞こえた。
この声が誰なのかなんてすぐに分かる。
村が終わってもまだ全ては終わっていなかった。
まだ彼女の命は救えていない。
まだ彼女は幸せにはなっていない。
読んでいただき、誠にありがとうございます。




