第2話 一人目の婚約者候補 ルーイ
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カインが旅に出て一ヶ月が経ちました。
私はカインに会いたくて仕方ありません。
一ヶ月がこんなにも長いなんて初めて知りました。
それが二年なんて私はどうなってしまうのでしょうか?
今日も朝から家畜達のお世話で大忙しです。
「豚さん。そのご飯はニワトリさんのだよ」
今日も豚さんはニワトリさんのご飯を食べています。
ニワトリさんは豚さんをつついていました。
でもたまに二匹は仲良くお昼寝をする時があります。
本当は仲良しなんです。
「ララ。君に訪問者が来てるんだがゲートを君が見ることは許されていないんだ」
私が家畜達のお世話をしている所に話しかけてきたこの方はこの村の村長さんです。
優しいおじいちゃんで私とカインが小さい時はおじいちゃんが育ててくれました。
「その人が入って来ればいいでしょう?」
「そのゲートを通ることができるのは選ばれた者だけなんだよ」
そういえばカインが言っていました。
この村は不思議な力で守られていると。
「私はそのゲートを見ないようにすればいいの?」
「そうだね」
「それなら目隠しをして訪問者に会うわ」
「それでいいか? すまんなララ」
「いいよ。おじいちゃんが悪い訳じゃないんだから」
そして私は目隠しをして訪問者に会います。
「初めまして。俺はこの村の隣のその隣の町から来ましたルーイと申します。年齢は十三歳でカインの友です」
ルーイ様の声は大人のように声が低くカインと似ています。
私の頭に残るルーイ様の低い声はカインを思い出します。
「初めまして。私はララと申します。カインのお友達なんて初めて聞きました」
「そうでしょうね。俺が初めての友とカインから聞いております」
「カインったらルーイ様に失礼な態度をしませんでしたか?」
「そうですね。最初は失礼でしたよ」
ルーイ様の顔は見えなくても苦笑いをしているのだと分かりました。
「そうでしょうね。カインは少し人見知りな所があるので最初は冷たい言葉を言うんです。でもルーイ様はそんなカインの本当は優しい所に気付いて頂けたのでしょうか?」
「はいそうです。話をしているうちに、カインといると楽しくなったんです」
「良かったです。カインは元気でしたか? 怪我などしていませんでしたか? ちゃんとご飯は食べていましたか? 私のことを心配していませんでしたか?」
私はカインのことを聞きたくて早口でルーイ様に言います。
「カインは大丈夫ですから落ち着いて下さい。カインなら少し疲れていたようですが大丈夫です。グッスリ寝たら次の日には旅に出ましたよ」
「そうですか。また旅に出たんですね」
カインに会ったルーイ様が羨ましいです。
「カインが言っていました」
「えっ何をですか?」
「ララのことはララと呼んであげてくれないか? と」
「どうしてそんなことを?」
「ララなら分かると言っていましたよ?」
「そうですね。分かります」
それが。
ルーイ様の声はカインの声にそっくりなんです。
カインはそれを分かっていたようです。
カインは私に寂しい思いをさせないようにルーイ様を婚約者候補にしたのでしょう。
いつでもカインに似た声を聞かせ、寂しく思わせないようにです。
「ララ」
ルーイ様にララと呼ばれ少しドキッとしました。
「はいっ」
「カインから手紙を預かっていますよ。どうします? ここで俺が読みますか?」
カインに似た声で聞く手紙もいいのでしょうがこの手紙は私への手紙です。
私は一人で読みたいのです。
「ルーイ様。その手紙は家へ持って帰って一人で読みますね」
「そうですか。カインもそう言っていましたよ」
「カインには何でもお見通しなんて何か悔しいです」
「どうしてですか?」
「私はそんなにカインの事を知らない気がします」
「それなら俺が知っている限りのカインの話をしましょうか? これから長いお付き合いになるのですから」
「そうですね。二年はありますね」
私とルーイ様は二人で笑いました。
「手紙はどうすればいいですか?」
「このまま私に渡して下さい」
「えっでも」
「隙間はないのですか? どこか必ず隙間というものはあると思うのですが」
私には目の前のゲートがどうなっているのか分からないのでルーイ様に頼るしかないのです。
「隙間と言われましても」
ルーイ様は困っているようです。
声で分かります。
「ルーイ様。あなたの目の前には何があるのですか?」
「ララがいます」
「柵か何かではないのですか?」
「ララがいるのです」
ルーイ様の言っていることがよく分からないのですが柵はないのならこのまま受け取れるのではと思い私は両手を差し出します。
「ルーイ様。私の手に手紙をください」
「はい」
そしてルーイ様は私の手に手紙を置いてくれました。
その時、少しだけルーイ様の指に触れた気がしました。
「ルーイ様。わざわざ来て頂きありがとうございます」
「いいえ。俺はララに出会えて良かったです。カインの言った通りです」
「えっ」
カインは私のことを何と言ったのでしょうか?
気になります。
「そこの少年。この村に入ってよいという許可が出た」
門番さんが大きな声でルーイ様に言いました。
「えっ俺が入ってよいのでしょうか?」
「ルーイ様。いいのですよ。どうぞお入り下さい」
この村の住人として人が入るのは嬉しいのです。
それにカインのお友達なのでカインの話をたくさん聞けます。
私はルーイ様に手を引かれながらゲートが見えなくなる場所まで門番さんと一緒に来ました。
門番さんに目隠しを外してもよいと言われたので取りますが目は開けられません。
ルーイ様を見るのが怖いのです。
私の想像している方とは全く違うお顔だったらどんな反応をすればよいのでしょうか?
それにカインに似た声だからと、カインと比べたりしたら失礼ですよね?
「ララ、目を開けても大丈夫ですよ?」
ルーイ様の優しい声に私はゆっくり目を開けます。
目の前にいるのはカインではありません。
それは当たり前です。
声が似ているルーイ様。
ルーイ様のお顔は美しく整っており、女性と間違える方もいるかもしれません。
まだ幼さが残る顔なのに身長や体の大きさは大人と言っても過言ではありません。
「ルーイ様。初めましてララと申します」
「ララ。初めましてルーイと申します」
私達はまた笑い合いました。
ルーイ様は村長の家に今日は泊まるみたいです。
一度、村に入ると出られないみたいなのですがルーイ様は出ることは考えていないようですね。
私は一人になりカインの手紙を読みます。
『 ララへ
元気かな?
泣いてないかな?
寂しくないかな?
俺はララの心配しかしてないよ
俺が最近、思うことは話し相手が欲しい
それだけだね
ララがいれば毎日、楽しく話せるのに
ルーイはいい奴だから
何でも話してストレス発散をすればいい
ララ
必ず帰るから待ってて
カイン 』
カインらしい手紙です。
そんなに長々と手紙を書かないカイン。
昔、言っていました。
手紙を長々と書くくらいなら会って話をした方が早いのにと。
その時はカインと同じ気持ちでした。
しかし今は違います。
ずっと会えないのだから。
長々と書いて欲しかったです。
旅をしているカインのことをもっと知りたかったです。
会いたいです。
カインにとても会いたいです。
私はカインからの手紙をギュッと抱き締めました。
私からは手紙なんて出せないのです。
返事も書けない私はカインに会いたいと伝えたいのにその手段がないのです。
だから私はカインからの手紙を抱き締めることしかできないのです。
どうか神様。
私のカインを御守り下さい。
私は待つことしかできません。
私は願うことしかできません。
私は一生懸命、毎日を生きることしかできません。
そして私はカインが見つけた婚約者候補のルーイ様をもっと知らなくてはなりません。
もし、二年後にカインが帰って来なかったらのことを考えて。
私は二年後どうなっているのでしょうか?
カインもどうなっているのでしょうか?
幸せだといいのですが。
しかし、私とカインの幸せとは何なのでしょうか?
私とカインの幸せは同じなのでしょうか?
読んで頂き誠にありがとうございます。
ファンタジー要素は次のお話から少し入ってきます。
楽しく読んで頂ければ幸いです。