第1話 婚約者候補を探しに旅に出るカイン
私の名前はララと申します。
両親はいないのですがごく普通の女の子で十三歳です。
私の特徴と言えば、隣の家のご夫婦には私みたいな目の大きな、愛らしい笑顔の、優しい女の子が欲しいって言われます。
そして私の幼馴染みはカインと申します。
カインも私と同じで両親はいませんし、私と同じ十三歳ですがそれにしては大人のような考えを持ち、私が困っている時など嫌な顔をせず助けてくれます。
私達は小さな頃からいつも一緒でした。
何をするにも一緒で大きくなっても変わらないのだと思っていました。
「ララ」
「何? カイン」
「君はもうすぐ一人になってしまうんだ」
「どうして? カインが一緒にいてくれるでしょう?」
「俺は旅に出ることにしたんだ」
「旅? それなら私も一緒に行くわ」
「それは無理だよ」
カインは悲しそうな顔で言っています。
「どうして無理なの?」
「ララはこの家と家畜や植物を守っていかなきゃならないだろう?」
「そうね。私がいなきゃ家畜や植物はダメになっちゃうわね」
「だからララはここに残るんだ」
「それならカインも旅に行かないでこの村に残ってよ」
「それは無理なんだよ。俺は行かなければならないんだ」
「私を一人にするの?」
「ララには家畜や植物が傍にいてくれるだろう? それと俺が紹介する婚約者候補達がいるから大丈夫だよ」
「婚約者候補?」
「そうだよ。俺が旅の途中で出会ったララに相応しい婚約者候補をここに連れてくるよ。だからララは一人じゃないんだ」
彼は何を言っているのでしょう?
彼が私の結婚相手を見つけるということでしょうか?
「どうしてカインが私の結婚相手を決めるの?」
「ララは自分では決められないだろう? それなら俺が相応しい人を何人か選んでくるからララは俺が紹介する婚約者候補の中から選べばいいんだよ」
カインの言うことは分かります。
私は小さな頃からカインに全てを決めてもらっていました。
でも婚約者は違います。
一生、傍にいるのだからそんな人をカインが探すのはおかしいのです。
「カイン。私は自分で婚約者は探せるわ」
「ララがこの村にいて探せると思う? この村には年配者や夫婦。それに放浪者やホラ吹き者しかいないだろう?」
「それでも私は自分で探すわ。隣の町で探すのもいいわね」
「隣の町がどのくらい遠いか知ってるのか?」
「知ってるわ。半日くらいはかかるわよね?」
「ララには一日はかかるよ」
「どうしてよ。私は子供じゃないのよ? 歩くのだって速いわ」
「ララは知らないんだよ。この村がどれだけ安全なのかを」
カインは何か大事なことを知っているのでしょう。
だからこんなに私に対して必死にこの村から出ないように言っているのです。
「カイン? 私には何か知らないことがあるの?」
「ララ。この村には十五歳になった時に聞く話があるんだ」
「後、二年後ね」
「そうだよ。だからそれまでは話せないけれど一つだけ言えるのは俺がララに相応しい婚約者を選んでくるからね」
「よく分からないけど婚約者ってすぐに決めなくちゃダメなの?」
「期限は後、二年だよ」
「私が二年後に聞くお話は結婚のことってことなの?」
「そんな簡単な話じゃないけどまぁそれもあるよ」
「でもどうしてカインが旅に出なければいけないの?」
「ララの婚約者になる相手を俺が探したいから行くんだよ」
「私の為に?」
「そう。ララ、君の為にね」
カインはそう言って微笑みました。
「外は危険なんでしょう?」
「うん。色んな生き物が襲ってくると思うよ」
「そんな話なんて聞いたことがないわ」
「この村では外の話は禁句なんだ。この村は不思議な力で守られていて出るのも入るのもその不思議な力が決めるんだ。あっ、話し過ぎたかな? これも十五歳の時に聞く話だからね」
「でもカインは私と同じ歳なのにどうして聞いたの?」
「俺には役目があるからね」
「役目?」
「そのお陰でララの為にこの村を出られるんだよ」
「旅に出たいの?」
「どうだろう? ララのことは心配だし、外の世界は危険がたくさんだろうし、でもララの幸せの為ならって思うと早く旅に出たいのかもしれないね」
「私はカインが傍にいなかったら不安だよ? それに危険と隣合わせの旅なんてカインがどうなるか分からないから行ってほしくないわ」
「ララ。必ず二年後には帰って来るから」
「二年後?」
私は驚き過ぎてカインの腕を引っ張りました。
カインはいきなり引っ張られ体勢を崩しましたがすぐに元に戻し落ち着いてと言うように私の頭を撫でました。
「二年もあれば見つけられると思うんだ」
「そうね二年もあればたくさんの人が集まりそうね。でも二年なんて長いわ」
「そうだね」
「二年もカインに会えないなんて寂しいわ」
「俺はララが心配だよ。ちゃんと一人で生活できるか」
「大丈夫よ。今までも一人でちゃんと出来てたでしょう?」
「力仕事はほとんど俺だっただろう?」
「大丈夫。この村には頼りになる大人の人はたくさんいるんだからね」
「そうだね。しかしずっとは迷惑だから俺が婚約者候補を早く見つけるよ」
「そうね。カインが帰ってくるまでのカインの変わりの人ね」
「ララの婚約者候補だよ」
カインは苦笑いをしながら言いました。
「婚約者候補って言うけど私はまだ結婚なんて考えた事もないわ」
私は少し拗ねながら言いました。
「ララは俺の選んだ婚約者候補と仲良く過ごしてくれればそれでいいよ」
「でも婚約者を決めなきゃいけないでしょう?」
「俺が帰るまでは決めなくていいよ。でも、もし二年経っても戻らなかったらその時は誰か一人を選んでよ」
「二年後には私に婚約者ができるってことね」
「そうだね。その時はごめんね」
「どうしてカインが謝るの?」
「俺が戻れなかったら君は悲しいでしょう?」
「そうね。やっと会えるのに会えないものね」
カインが戻れなかったらと言った言葉の本当の意味を私はちゃんと分かっています。
それを知らないフリをするのは私が弱いからなのでしょう。
カインに一生、会えないことを受け入れたくないからなのでしょう。
カインが旅へ出る日の夜。
私達は二人で大きな木がある丘に来ました。
私は木の幹の横に座りカインは幹に背を預け立っていました。
私達は丘から見える綺麗な星空を見上げます。
「ララ」
「何? カイン」
「もし、俺に何かあったら……」
「何もないわよ」
私はカインの言葉を遮って言います。
カインが言おうとした事を口にしたら本当にそうなりそうで怖かったからです。
「そうだな」
そしてカインは何も言わなくなりました。
私は今日が最後だと思うと寂しくなって星空からカインへと視線を向けカインを見上げました。
それに気付いたカインは私の目を見つめてきました。
私達に言葉はいりませんでした。
本当は私の為に旅に行く必要はないと言いたいです。
でもそう言ってもカインは旅に出るでしょう。
私の知らない秘密をカインは知っているのです。
私が後、二年後に聞くお話はカインが旅へ出なければいけないほど大事なことなのでしょう。
それなら私はカインが選んできた婚約者候補から婚約者を選ぶ事に全力で向き合うことに決めました。
◇
そしてカインが旅に出る日が訪れました。
カインはいろんな道具を持ち、背中にはカインの大事な弓を背負い腰には立派な剣が刺さっています。
本当にこの村の外は危険なのがカインの持ち物で分かります。
「カイン。気を付けてね」
「うん。ララ、必ず手紙を書いて婚約者候補に届けてもらうよ」
「分かったわ。待ってるわ」
「ララ」
カインは真剣な眼差しで私を見つめます。
「何? カイン」
「待っててくれよ」
「うん。待ってるわ」
私達は見つめ合います。
少し見つめ合った後、彼は村の出入口のゲートへ向かいました。
私はまだお話を知らないのでゲートまで行けません。
最後まで送りたかったのですがカインにここでいいと言われたら送れませんでした。
カインは私から離れる時に俺の決心が揺らぐからと小さな声で言いました。
だから私はカインの為に我慢をしました。
カインが無事に帰ってくることを祈る手は少し震えていました。
だってすごく怖いのです。
カインがこのまま帰って来なかったら私は一人で大丈夫なのでしょうか?
考えないようにしていてもカインが見えなくなるとどうしても考えてしまいます。
カインが帰って来なければ……。
私は本当に二年後に婚約者を決めるのでしょうか?
どうか神様。
私のカインを御守り下さい。
私は待つことしかできません。
私は願うことしかできません。
私は一生懸命、毎日を生きることしかできません。
私はカインの為に何もしてあげられません。
読んで頂きありがとうございます。
ジャンルがヒューマンドラマですが恋愛もファンタジー要素も入っています。
楽しく読んで頂けたら幸いです。