おまけ if
あぁ…今、私の人生で1番幸せだ…
松尾は今、澤田と共に警察病院に来ていた。目的はたった一つ。神田のお見舞い兼起きていたら事情聴取をせねばならない。白で統一された無機質な病院を歩きながら松尾は澤田に話しかけた。
「神田は1人部屋なんですね。」
「あぁ、何人も殺してるし、あいつの状態があぁだからな。」
「なるほど…」
「でも良かったよ。松尾があの時神田を止めてなければ今頃、神田の葬式に出てたところだ。」
「ですね…」
あの時、それは神田が松尾の目の前でワイングラスのガラス片で首を掻っ切って自殺しようとしていた時の事だった。あの時、朦朧とする意識の中で「神田を助けたい」そう思った時、動かせなかったはずの体が少し軽くなって、松尾は神田の自殺を阻止した。その時、神田はガラス片が首に刺さってしまい、救急車で運ばれた。神田は、何とか一命は取り留めたが未だ昏睡状態だった。
「もう少し早く捕まえていれば、神田がああならなかった…僕の落ち度です…」
「その点に関しては俺も一緒だ。だから、気に病むな。神田は生きてる、松尾のおかげでな。松尾はよくやったよ。」
そう言って澤田は隣を歩く松尾の背中をポンポンと軽く叩く。
「ありがとうございます。」
「おう!あっ302、ここじゃないか?」
澤田は302号室の扉を指さす。松尾も上からのメールを確認し、神田の病室であることを再確認する。
「はい、302であってます。」
「よし。」
澤田はコンコンとノックする。中からはい、と返事が聞こえる。ガラガラと病室の引き戸を開けると、眠っている神田の横に神田のバディである山本が座っていた。
「澤田さん、松尾さん!お疲れ様です!」
「山本、また来てたのか!」
「山本さんは優しいですね。」
近くの机の上に持ってきていたお見舞いのプリンを置く。
「神田は俺の大切な相方ですから、殺人犯であっても。」
そう寂しそうに神田を見つめながら山本はつぶやく。澤田はそんな山本を見て、プリンの箱を開けるとプリンを3つ取り出す。
「そんな辛気臭い顔してないでプリンでも食え!プリン食ってたら、食べたくなって神田が起きるかもな!」
澤田はハッハッハッと大口を開けて笑いながら松尾と山本にプリンと付いていた使い捨てスプーンを一つずつ渡す。
「ありがとうございます!」
「ありがとうございます。」
松尾と山本は受け取り、礼を言って3人はプリンを食べ始めた。
「山本、神田はどうなんだ?」
「あぁ、お医者さんもこれ以上は神田の頑張り次第だと言ってました。でもきっと、神田だからタダでは死にません。起きます!」
「そうか。早く起きるといいな!」
「はい!」
「山本さん、ずっと神田さんに付き添ってるんですか?」
「えぇまぁ、相方ですからね!」
「神田さんの家族とかは…」
「来てません…前に酒に酔った神田が話してくれたんですけど、神田はあんまり家族と過ごしてなかったみたいで…僕だけでも、神田が起きた時横にいてやりたいなっと思いまして…」
眉毛を8の字にしながら神田に笑いかける山本を見て松尾は、山本は神田を大切に思ってるんだな…と思った。
「山本さんは神田さんをとても大事にしてるんですね。」
「それはもちろん!僕の大切なこの世でたった1人の相方ですから!いつかはお二人に負けないくらいのバディになるんです!でも、それもこうなってしまっては無理ですね…」
アハハ…っと悲しそうに作り笑いをする山本。確かに、神田が目覚めて犯行を全て認めたら神田は間違いなく死刑で刑務所に入る。山本の夢は夢で終わってしまうだろう。
「でも、次の相方ができるまでは神田が僕の相方です!相方じゃなくなっても神田は僕の友達です!」
山本は口の端にプリンをつけながら笑顔でそう語った。彼はこういう人間なのだと松尾は実感した。松尾自身、婚約者を殺されたことを怒ってはいない。もちろん喜んでる訳では無いが、なんというか実感がなかった。あまりにも非現実的で頭も心も彼女が死んだことを受け入れていなかった。受け入れればきっと涙をぼろぼろ流しながら大泣きしてしまうだろう。しかし、松尾は心のどこかで、きっと彼女の家に行けばいつものように花の世話をしながら鼻歌を歌っている彼女がいると思っていた。それほどまでに松尾にとって彼女の死は受け入れ難い事だった。プリンを食べながら彼女のことを考えていると山本が急に声を荒らげた。
「神田!!!!」
「神田!起きたか!?」
「神田さん!!」
見ると、神田の目がパチリと開き、3人の顔を見ている。
「松尾…さん…澤田…山本…」
「俺、医者呼んでくる!」
「お願いします!」
「僕も行きます!!」
そう言って澤田と山本は走って病室を出ていった。松尾はその背中を見送り、神田の方を見た。
「神田さん!生きててよかった…」
「松尾…さん…なんで…」
「神田さん、ちゃんと生きて罪を償って貰いますよ!!!」
そう真剣な顔で神田に言うと神田はフフフっと笑った。
その後、神田は徐々に回復し、罪を認めて刑務所に入った。松尾と澤田はそれをしっかりとみとどけ、山本は新たなバディと新たな事件をおっている。3人はたまに神田に面会に行っている。神田は共犯者はおらず自分1人で全てやったのだと話した。それともうひとつ、神田の最近の楽しみは大宮光という女優が初の主役を務めるドラマをリアルタイムで見ることだと話した。
これで最後です!シーズン2まで続いた冒頭だけシリーズをここまで読んでくださりありがとうございました!