7本目 ミステリー
今日はミステリー映画見よ〜!コーヒーでも飲みながらみよっかな〜
山本が松尾をかばい、犯人に連れ去られた日から今日で3日。松尾と澤田は身を粉にして山本と犯人を探していた。そして今朝、松尾のスマホに山本から着信が入った。山本は一方的に早口で自分は無事であり、自力で帰るから探さないで欲しいというとこを松尾に伝え、切ってしまった。松尾と澤田は発信元を特定し、今急いで車で向かっているところだった。車は街から離れ、山の中を走っている。
「これどこなんでしょうね。」
「さぁな…ただ、何かしらの建物があればいいんだが…山の中に放置されてたりしたら…」
山本の命はない、そう言おうとした口を澤田は紡ぐ。もし言ってしまえば言霊で山本が死んでしまうかもしれない。今だけは、神様でもキリストでもなんでも信じて願ってしまう。大切な部下が死ぬ姿はもう見たくなかった。
「でも、今朝電話があったんですから生きてますよ。絶対。」
「そうだな。生きてるよな。」
松尾は澤田にそういい、山本が生きていることを願う。森の中を車で進んでいくと大きなコンクリートの建物が見えた。マップを確認すると、発信元はこのコンクリートの建物の中らしい。澤田と松尾は腹を括った。
コンクリートの建物は30年ほど前に閉鎖された聖堂だった。入り口の壁についている十字架は苔が生え、少し欠けている。ボロボロで今にも外れそうな木で出来た扉をキィという音を鳴らしながら開き、ボロボロの聖堂内に入る。聖堂内は木でできた長椅子が大量に並べられており、聖堂の右側の天井には穴が空いているため、光が入っている。1番前にある大きな祭壇には燭台が置いてあり、その前には無惨な姿になった山本がいた。山本は口から血を吐き、手や足を釘で刺され、十字架に貼り付けられていた。山本の服は泥や葉っぱで汚れており、山の中を歩いたのだろうとわかった。
「山本!!!」
「山…本…さん…」
澤田はもう返事をしなくなった山本の名を叫ぶ、その声は聖堂内に響き渡る。松尾はとぼとぼと力の入らない足を無理やり動かし、冷たくなった山本の元へ行く。澤田は涙を流しながら、無線で応援を呼びに聖堂前に停めている車へ戻った。松尾は冷たくなった山本の頬を触る。冷たくなってしまった頬に触り、山本との短くも楽しかったこの数ヶ月を思い出す。
「ごめん…ごめんなさい…僕のせいで…山本さん…」
もう届かぬ謝罪を山本だったものに向かって泣きじゃくり嘔吐きながら言う。松尾は自分のせいで山本がこんなことになってしまったという後悔と罪悪感に押しつぶされそうになる。無線で応援を呼んだ澤田が戻ってくる。山本の前でへたり込み泣きじゃくる松尾に近付き、ハンカチを渡す。
「松尾、思い詰めるな。山本が死んだのはお前のせいじゃない。」
「でも…僕の代わりに捕まってしまったから…彼は…山本さんは…」
「それなら…あの日、山本を止めた俺も同罪だ…」
うずくまってわんわん泣く松尾の背中をさすりながら澤田もまた頬を伝う涙を拭う。
松尾が流す涙も枯れ果てた頃、澤田が祭壇に置いてある燭台の下にあの封筒があるのを見つけた。
「松尾、あれがある…」
「・・・読みます…」
「大丈夫か?」
「大丈夫です。」
「本当か?」
「読ませてください。」
食い気味にいつもの優しい声から想像もできない強い声でそういう松尾。
「・・・わかった。辛かったら俺に代われよ。」
「はい…」
澤田のハンカチをポケットに入れ、澤田から憎い封筒を受け取る。開けて、3つ折りの紙を取り出す。いつもの小説のような文章を読み始める。
『彼は、まるでミステリー映画に1番初めに登場する人物のようだった。初めに登場する、まぁ作品にもよるが1番初めに登場する人物といえば第1被害者だろう。そう、私は彼がミステリー映画に登場する第1被害者のようだと思ったんだ。彼は明るく、不器用だが不器用なりに努力し、神田はんのバディになった。人を恨むことはなく、人に恨まれることも無いそんな人物。しかし、そんな人はそうそういない。人に恨まれない人などいない。彼は私に恨まれていた。そうして私に殺された。でも、今までのようにすぐに殺すのは面白くなかった。だから、私は彼とゲームをした。さながらミステリー映画に出てくる主人公のように彼は私を追いかけた、私という悪役を。彼に水のペットボトル1本と菓子パン3つだけ残して私は彼を山の頂上に放置した。そうして私の残した手がかりと自分の知識を使って彼はここまで来た。すごいでしょう?1週間はかかると思ったわ。でも、彼は3日でここにたどり着いた。そして、私が預かっていた彼の荷物と私の情報を彼は手に入れた。そして、彼が松尾はんに電話した後、後ろから殴り殺した。そうして、飾り付けして私は情報を片付けた。彼の知った情報は彼で終わってしまった。誰にも知られることなく、闇に葬られた。松尾はん、次はあなたですよ?死ぬ前に、私を捕まえれるかしら?』
最後の煽るような文章に苛立ちを隠せない2人は奥歯を噛み締める。
「クソ…」
澤田はそうつぶやくと祭壇を大きな音を立てて叩く。松尾は無言で、生きていた頃の山本を思い出していた。ふと、松尾はあることを思い出し、山本の死体に駆け寄る。山本の着ている服のポケットを漁る。
「どうした、松尾。」
「山本さんは・・・なんでもすぐにメモを取る、とても模範的な人でした・・・もしかしたらっと思いまして・・・」
松尾は探しながら澤田の問に答える。澤田は今だ首をかしげながら松尾を見ている。
「あった。」
松尾は山本がいつも着ているジャケットの内ポケットからあるものを取り出す。それを見て澤田はハッとする。
「それは山本の手帳!」
「はい!山本さんなら、きっとメモを取っているはずです!」
松尾は力強い声で澤田に断言する。そう、松尾は山本が肌身離さず手帳を持っており、すぐに重要そうなことをメモする癖を持っていることを思い出したのだ。前に「すぐメモを取ることはいい事だ」と褒めた時、山本は「恥ずかしながら僕、すごい忘れっぽくて…それを補填するためにメモを取る癖をつけたんです!褒めてもらえて嬉しいです!」と笑顔で語っていた。山本の笑顔を思い出し、松尾は枯れたはずの涙が目に溜まる。しかし、泣いてばかりはいられない。松尾は手帳をペラペラとめくり、情報を探す。すると1番最後のページに殴り書きでこう書かれていた。
『これを誰かが読んでいるということは僕は死んでるんですね。でも、それでいい。下の箇条書きの情報をきっと役に立てて欲しい。
・今回の事件の犯人は岡田 舞花
・女優
・芸名は大宮 光
・神田の顔に整形してる
・松尾さんを狙ってる
松尾さん、澤田さん、僕のこと気にかけてくれてありがとうございました』
ページの所々に丸いシミがついているところを見ると山本はこれを書きながら泣いていたのかもしれないと松尾は思った。
「澤田さん、絶対こいつを捕まえましょう。」
「あぁ、もちろんだ。こいつを捕まえて、教えてやろうぜ、俺らの大切な部下の山本はタダでは死なねぇかっこいい男だって。」
「はい!」
外から警察のサイレンの音がする。やっと応援が来たようだ。2人は応援を迎えに聖堂の外へ出た。