6本目 冒険
今日は冒険映画でも見ようかな!冒険といえばキャンプ!キャンプといえばカレー!カレーを食べながら見るなんて、映画館ではできないからすごい贅沢な気分!
松尾は静かな車内に耐えきれず、ラジオをつけた。ちょうどニュース番組が始まり、聞き取りやすいハキハキとした声で「おはようございます。朝のニュースの時間です。」と流れ始める。1番初めのニュースは数ヶ月前から行方不明の女優大宮 光の捜索を打ち切るというものだった。松尾はそれを流し聞きしながら、助手席でイライラしている澤田に恐る恐る声をかける。
「どうしたんですか?」
「えっ、な、何も無い。」
「絶対なんかありますよね?」
「・・・実は、昨日の夜帰っている時に知らない車に家近くまでつけられたんだ。」
「つけられた!?もしかして、最近の事件の犯人…」
「あぁ、多分な。だが、俺を舐めてもらっちゃぁ困る。しっかりまいてから帰ったさ。」
「さすがですね!」
「だろ?ところで松尾は?かわりないか?」
「えぇ、今のところは大丈夫そうです。写真は毎日きますけど、実害はないです。」
「そうか、まぁ、何かあったらすぐ電話しろよ。」
「はい。」
澤田と他愛もない会話をしていると、すぐ現場に着いた。
現場は子供連れが多い住宅街にある孤児院だった。現場になってしまった孤児院の広い教室には孤児院の子供たちと孤児院の職員の遺体があった。職員である大人の遺体にはナイフやフォーク、ハサミなどの日常生活でよく使う刃物が大量に刺さっていた。子供達の方はみんな色とりどりの紙が握られている。今回の殺人事件の生き残りは孤児院に居た小学4年生以下の子供たちだけだった。
「未来ある子供たちがこんなにも…」
澤田は怒りで顔を赤くしている。松尾はあまりにも多い死体とこれまで臭ったことの無いほどの濃い血の匂いで絶句している。ハンカチで口と鼻を抑えた山本が2人に話しかける。
「澤田さん、松尾さん…殺害されなかった子供たちは全員保護しました…後、またこれが落ちてました…」
そう言って松尾に血で濡れたジッパーに入れられた封筒を渡す。ジッパーから封筒を出し、封筒の表面を見ると『冒険映画』と書かれていた。封筒をあけ、3つ折りの紙を取りだし小説のような文章を読み始める。
『子供である彼らは大人の都合によってここに連れてこられた。大人の自分勝手な都合でここに連れてこられ、職員である大人達から虐待を受けていた。可哀想な子供達…鳥かごに無理やり入れられ、言うことを聞かなければ殴られ、逃げることは出来ない…子供は宝なんて言葉があるにもかかわらず宝を傷つけ、殺すこともある。この世は、小さな子供たちを守るものが少なすぎると思う。望まぬ妊娠などでこの世に性を受け、大人の都合でこの小さく劣悪な環境の鳥かごに囚われた小さな命たち。守ってくれるものはなく、ただただ毎日職員から受ける虐待に耐える日々…私はそんな彼らを見捨てられなかった。職員という化け物を倒し、子供たちに幸せを与えた。しかし、やはり私は思った。大人の力なくして、子供たちは幸せになれるのかと。大人の力であるお金がなければ子供たちを育てることは出来ないし、ここで生き残ったってどうせ違う鳥かごに移るだけ…ならばいっそ彼らをしっかりと救ってあげよう。そう思って子供たちを殺した。子供たちに将来の夢を紙に書くよう言って、子供たちを殺し、子供たちにその紙を握らせた。しかし、私は盲点だった。まだ小さな子供たちには将来の夢を聞いたところで将来の夢というものも分からなかった。仕方の無いことだ。この小さな鳥かごに夢を見せてくれるものなど無いに等しい。ここから出たことの無い小さな子供たちには夢なんてなかった。夢のない彼らを私は殺せなかった。だから、寝るよう言った。眠って夢を見るよう言った。子供たちは素直に睡眠薬の入ったジュースを飲んで眠ったよ。眠った姿は天使のようだった。小さな眼を閉じ、小さな鼻と口で一生懸命酸素を吸って二酸化炭素を吐く。そんな姿を見て、生きて欲しいと思ったよ。やはり、純粋無垢な子供は生きて欲しいと思うね。この血に濡れた手でこの白い肌を撫でて良いものかと悩んだよ。それでも、親に捨てられここに来た、愛に飢えた子供たちはこの血に濡れた手でも容易く受け入れてくれたよ。とても嬉しかった。神田はんも子供が好きだったよ。神田はんが公園で子供と遊んでいる時に見せる笑顔は今でも私の心の中で保存している。松尾はんも子供が好きみたいだし、やはり私は神田はんとお似合いだと思うわ。』
「子供好きはこんな事しねぇよ…」
「まったくです…」
「この口ぶりからして一時的でもここで働いていたんでしょうか…」
封筒を鑑識にまわし、3人は捜査を始めた。
次回は9月15日に投稿します。