5本目 恋愛
今日は恋愛映画でも見ようかな。青春映画と違って恋愛映画はドロドロしてたり大人な雰囲気があるものばかりだから面白いのよね〜今日は桃のゼリーでも食べながら見よ〜
車を運転する松尾は犯人を捕まえられない焦燥感と犯人に監視されているという怖気に悩まされている。助手席に座る澤田も、それを感じ取っていた。
「大丈夫か松尾。」
「大丈夫です…」
「まだ視線とか感じんのか?」
「はい…視線というか最近は家のポストに写真が入ってます…」
「写真?」
「明らかに盗撮とわかる神田と僕の写真が毎日1枚ポストに入ってるんです…」
「なんだそりゃ…本当に悪趣味なやつだ…」
澤田はフルーティーな匂いをさせながら新しいガムを噛み始め、松尾の口にも横からひとつ入る。
「これくらいしか今はやれないがちょっとは気を紛らわせれるだろ。」
「ありがとうございます。」
モグモグとガムを食べながら2人は現場に向かった。
現場は、閑静な住宅街にある一軒家の隣にある道場だった。家主である夫婦が剣道の道場をしているらしく、その道場で夫婦の遺体が見つかった。現場に入ると、広い道場の真ん中にぽつんと2つの遺体が置いてある。遺体はお腹の部分が切り開かれ、内臓が見えている。そして、2人の腸が固結びされ、心臓がハート型の箱に詰められている。
「こりゃまたひでぇもんだな…」
「これを自分と同じ人間がやっているとは思えないです…」
「松尾さんと同感です…」
夫婦の遺体に手を合わせ、松尾はいつも通り山本から封筒を受け取り、表面を見る。封筒の表面には『恋愛映画』と書かれている。封筒をあけ、三つ折りの紙をだし、いつもと同じように小説のような文章を読み始める。
『彼らもまた愛し合っていた。しかし、それは昔の話だった。最近では彼らの相手に向ける愛はとても冷めきっていた。話し合う話題もなく会話も減り、相手への関心はなくなり、それと同時に体を重ねることも減っていった。そんな彼らも昔、映画のような大恋愛をした。大きな壁を2人で協力し乗り越え、結ばれた彼ら。乗り越えられたのは愛の力か?いいや、彼らの若さだ。若さとはとても危ないものだ。愛だと思っていた物が実は若さゆえに芽生えた承認欲求を満たすだけのものだった。本物の愛は相手を認め、受け入れること。しかし、若さゆえの愛はただの承認欲求と変わらない。相手に認めて欲しい、周りに認められない私を彼にだけでも認めて慰めて欲しい。そんな感情から出来た偽りの愛だ。彼らはその偽りの愛によって結ばれた夫婦だった。そんな偽りの愛は夫婦生活をするにつれてメッキが剥がれ、本当の姿を表し始めた。相手の嫌なところが目につき、徐々に相手への愛が失せていく…そうして彼らの愛は冷めきっていった。偽りの愛は本物の愛より壊れやすい。しかし、そんな彼らを私は見過ごせなかった。私は彼らに魂の救済を施した!2人は偽りの愛ではなく肉体的な愛で結ばれたのだ!私の手によって!まぁ、肉と肉を繋ぎ合わせただけだけどね!私はわかる、神田はんが松尾はんに向ける愛は本物の愛であると!1番近くで見てきた私だから断言出来る。ねぇ、松尾はん…神田はんの気持ちをどうして受け取らなかったの?松尾はんを責める気持ちはないわ、神田はんの死は神田はんが望んだ死…神田はんが夢みた理想の最後…とても美しく綺麗だった…私は、あの神田はんの美しさを越えられない…でも、松尾はんなら越えられると思うの。楽しみにしていて?私が松尾はんにピッタリの美しい死を迎えさせてあげるわ。』
「こいつ…何様なんだ!」
クソッ!っと澤田は壁を叩く。山本も苦虫を噛み潰したような顔をしている。松尾は紙がぐしゃりと歪むほど強い力で握っている。
「松尾さん、これは立派な殺人予告です。僕がしっかりとお守りします!」
「山本の言う通りだ!俺も松尾を守る。もう部下を死なせたくはないからな。」
「澤田さん…山本さん…ありがとうございます…」
封筒を鑑識にまわし、3人は捜査を始めた。