2本目 ファンタジー
今日はファンタジー映画でも見ようかしら、クッキーと紅茶を用意しないと!
新たな死体が見つかり、澤田と共に車で現場に向かう。最近、妙に視線を感じる。家から出て職場に向かう時や帰る時、酷い時は現場に行っても視線を感じることがある。その視線は殺気のようなものはなく、ただただ見守られていると感じている。
「どうした松尾。何かあったのか?」
「えっ、いえ、特には…」
「何かあったら教えてくれ。今一番危ないかもしれないのはお前なんだ松尾。」
そう真剣に語る澤田の目には炎が見える。確かに、松尾を狙っていた神田が死んで1ヶ月経ってからまた神田を真似た事件が起き始めたのだ。次こそ松尾自身に何かあるかもしれない。松尾もそれを分かってはいる。
「・・・実は、最近視線を感じるんです…」
「視線…?どんな?」
「その、殺気とか憎悪とかはなくてただただ見守っているような視線です。」
「見守っている…ふむ…」
澤田は顎に手を当て考え始める。少し待っていると、さらに分からなくなったのか頭をブンブン横に振って頭の中から戻ってきた。
「よく分からんが…松尾を狙っているやつかもしれん。これからはできるだけ人といるようにしろ。なんだったら俺の家の近くにあるアパートに引っ越してこい。」
「大丈夫ですよ。でも、一応電車通勤はやめておきます。」
「あぁ。」
澤田と松尾がたわいもない会話をしているうちに現場へ到着した。
現場は数年前に廃墟となった工場だった。中に入ると広々としたコンクリートの床にトタンの壁の空間にぽつんと正座している死体が置物のように置いてある。死体の頭には猫の耳のような物が着いており、本来耳があるはずの場所は血で染っている。背中には様々な色の羽が着いた天使の翼のようなものが無理やりつけられており、本来無いはずの狐の尻尾のような物が尾てい骨辺りから生えている。生えていると言うよりぶっ刺さっているという方が正しいかもしれない。足は膝から下がなく、代わりに人魚の尾ひれのようなものが無理やり縫い付けられている。
「これはひでぇ…」
「色んな生き物の要素が無理やりくっつけられているようですね…」
「彼女は飯村 彩乃さん、昨夜から家に帰っておらず、今朝ここの管理人が見回りをして死体を発見したようです。」
「なるほど…」
横に来た、山本が手帳を見ながら説明をしてくれる。その山本の手にはあの封筒がまた握られている。
「今回もあるのか…」
「はい…」
顔を顰めた山本から封筒を受け取り、見ると表面に『ファンタジー映画』と書かれている。封筒をあけ、3つ折りの紙を取りだし小説のような文章を読む。
『彼女はファンタジーな小説や漫画、映画を好んでいた。彼女は私の昔からの友達だった。よく好きな作品をオススメしあったり、2人とも好きな作品について語り合ったり、とても楽しく過ごしたよ。そんな彼女はいつかファンタジー小説や映画に出てくる可愛らしい異種族のようになりたいと言っていた。猫や犬、狐なんかの耳としっぽを持った獣人族、鳥の羽や足を持った鳥人族、魚の尾びれを持った人魚、彼女様々な異種族について私に教えてくれた。とても楽しそうに。でも最近、元気がなかった。元気の無い理由は教えてくれなかったが、そんな元気の無い彼女を私は助けてあげたかった。死は魂の救済なんて言葉を使おうか、そうして彼女は私の仕込んだ毒で人生の幕を下ろした。その後、彼女が好きだった姿にしてあげようと思ったんだ。でも、私は彼女に聞くのを忘れていてね。うっかりしてたよ、神田はんならこんなうっかりなんてしないのに。私も、まだまだだね。それで彼女が教えてくれた異種族の特徴をできる限り再現してみたんだ。とても綺麗になったよ。彼女の異種族をすきな気持ちも少しはわかった気がする。次のターゲットは彼女の双子の妹だよ。』
「こいつ…昔からの友達を手にかけたってのか…!?」
「本当にやばいやつですね…早く捕まえなくては…次のターゲットは彼女、飯村さんの双子の妹さんだと書いてくれている。妹さんに会いに行こう。」
「松尾さん、待ってください!」
「どうした?山本。」
「飯村さんに双子の妹はいません…」
「は!?」
「どういうことだ!?」
澤田は山本の手帳を横から覗き込んでいる。松尾も妹がいないのに双子の妹はどういうことだ?と考えていると、あの視線を感じ、視線を感じた方を見た。
「!?」
見覚えのある顔が工場の一つだけ開いた窓からこちらを見ていた。その顔は松尾の目の前でガラスで自分の喉をかっきり自殺したはずの神田だった。あのにっこりと張り付いたような笑顔、黒い目の奥は全くもって笑っていない。しかし、松尾は気付いた。あの神田は顔は神田だが明らかに背が小さく、大きく開いた胸元は谷間が見える。あの神田は松尾の知っている男の神田ではなく、女の神田だった。
「神田…?なんで…?あれは女…?でも、神田は死んだし…男だ…」
「どうした松尾」
「どうしたんですか松尾さん」
固まった松尾に声をかける澤田と山本。松尾は異常なほど汗をかき、小声で「神田?あれは神田なのか?いや、でも…」と呟いている。
「おい!松尾!」
「松尾さん!」
明らかにおかしい松尾の様子に澤田と山本は恐怖を感じつつもさっきより大声で声をかける。
「す、すみません…澤田さん…山本さん…」
「どうした松尾。」
「何か見たんですか?」
「さっき、あそこに、神田と瓜二つの女が立ってて…」
澤田と山本は松尾が指さす方にある一つだけ開いた窓を見る。しかし、そこには誰もおらず窓の枠に何か白いものが置いてあるのが見える。
「あれ、なんでしょう…僕取ってきます。」
「おう、頼んだぞ山本。」
「すみません…」
山本が窓に近づき、白いものを手に取る。それはハンカチのようだった。ハンカチは何かを包んでいる。山本が澤田と松尾の元に歩いて戻りながらハンカチを広げる。ハンカチに包まれていたのはふたつの目玉だった。
「うわっ!!?!?」
思わずびっくりする山本。そんな山本に澤田と松尾は駆け寄り、ハンカチを受け取る。
「どうした山本!」
「そ、その中に目が…目玉が!!」
「目玉!?」
澤田はハンカチを開く。確かに目玉が2つ包まれている。その目玉はまだ新鮮で濡れている。
「今すぐ鑑識に回せ!!!次の被害者のものかもしれない!!」
「はい!」
澤田はハンカチに包み治し、近くにいた部下に渡す。松尾はショックで固まっている山本を支える。澤田はショックで固まっている山本に外の空気を松尾と吸ってくるよういい捜査を始めた。
次回は9月1日火曜日に投稿します。