1.契約したい男 (新編集版)
前に書いた1話目を少し書き直したものです。
ちなみに神秘生物とは現実には存在しない生物の
総称です。
プレアデス学園。将来有望とされた、貴族や騎士の子供が
通う王国随一の名門校。主に魔法を学ぶための学園だ。
そんなところに俺、シリウス・ラングレーは通っていた。
「では皆さん、今日からバカンスに入ります。課題はさっき
言った通りです。いいですね、必ずこのバカンスの間に、
神生との契約を結んでおくんですよ」
1学期の最後の授業で、我らが担任、シーファ先生は何度も
そう釘を刺した。
....神生....ついに来たか.....
この国には神秘生物、通称、神生と呼ばれる生物が存在する。
その名の通り、神秘の生物のことである。
有名なところでいうと、竜や妖精、魔王、ゴーレムなどだ。
そして俺たちプレアデス学園の生徒は毎回、2年のバカンスに
この神生と契約するという伝統行事がある。
そしてこの国で英雄となるには強い力を持った神生と契約する
ことが大切となる。
つまり普段、学園であまり目立たない俺が有名になる大好機と
いうわけだ。
別に目立ちたいわけではないが....
「先生、契約魔法が使えない奴はどうすればいいんでしょうか?」
1人の生徒が手を上げて質問した。ロバート・ジンクス、
名門貴族であるジンクス家の次男だ。
だが俺はこいつをもっと簡単に表せる言葉を知ったいる。
いじめっ子だ。それも身分と容姿を鼻にかけて人を見下す、かなり
レベルの高いいじめっ子だ。つまりクズだ。
「契約魔法は詠唱するだけなので、万が一にも使えないということ
は、ありません」
「その万が一が起こるかもしれませんよ」
ロバートが俺の方をチラッと見て嘲笑うような目を向けた。
俺のことを言ってるな...だが、さして怒る気にもならない。
いつものことだから慣れている。
「詠唱を覚えておいたら絶対にそんなことは起こりません」
シーファ先生はそう強く断言する。
それと同時に鐘が鳴り、2年1学期の最初の授業が終わった。
「お〜い、シリウスくん〜、君は何と契約するんだい?」
荷物をまとめ、馬車に乗り込もうとしていた俺にロバートが
聞いてきた。めんどくさいのに捕まってしまった.....
「まぁ、ミニゴーレムくらいが狙えたらいいかと」
「はぁ?ミニゴーレム?君には難しすぎるんじゃないの??」
ロバートはくすくす笑いながら、俺の肩に手を置く。
「君にはゴブリンくらいがお似合いだと〜僕は思うよ」
「あぁ、じゃあ、ゴブリンでも狙ってみるよ」
俺は軽く受け流す。ロバートに絡まれた時は彼の意見に
逆らってはいけない。
とりあえず彼が言うことを全て肯定しておけばいいのだ。
「チッ、没落貴族のくせに」
喧嘩の口実を作ることができなかったロバートは捨て台詞を
吐いて去っていった。別に俺、没落貴族じゃないんだが...
バカンスが始まって3週間経った。新学期まであと1週間。
俺はこの3週間の間に神生と契約するために走り回った。
しかし神生と契約することはできなかった。
「この時期には全ての神生が品薄になる。早めに契約しておいた
ほうがいいぞ」
父の言葉を信じて、俺はバカンス初日から走り回って、探しまく
った。
なのに、運が悪いのか、いつもは身の回りにたくさんいるはずの
神生を見つけることさえできなかったのだ。
「父さん、全くいないんだが」
「心配することはないぞ。余りものには福があると昔から言うじゃ
ないか」
「目撃情報とか無いわけ?」
「あ...あぁ、そういえば、街のウレイリアパークでロウナイトが
目撃されたらしいぞ」
「マジかっ、ちょっと行ってくる」
俺は父さんの情報を信じ、ウレイリアパークに向かった。
「にしても、ロウナイトか...」
最優の神生ナイト。その上位互換がロウナイトである。
神生の中でもかなり上位に入る強者だ。
最優と呼ばれる理由は、ナイトもロウナイトも契約者の命令を
きちんとこなす、絶対的な信用生から来ているらしい。
ちなみに騎士とナイトは別である。騎士は人間、ナイトは神生だ。
ナイトは身を全て、銀のアーマーで固めているため、そのアーマー
の中に何があるかは謎に包まれているそうだ。
「もし契約できたら、すごいことになるな」
ロウナイトの噂を嗅ぎつけた、他の人たちに先を越されないよう、
俺は走り出した。
ウレイリアパークに着くと、すでに人だかりができている場所が
あった。
.....あそこか.....?
俺はそこまで急ぐ。
「見ろよ、ロウナイトだってよ」
「あぁ、あんなのと契約できたらいいよな」
「お前はもう契約してんだろ」
「すみません、ちょっとどいてください」
俺は周りの人たちを掻き分け進む。
「すみません、すみません」
そうして、俺はようやく先頭に来た。
「あれがロウナイトか」
銀一色のアーマーのナイトとは違って、ロウナイトは
銀に加え、所々が金でできたアーマーをつけている。
俺はロウナイトに契約を頼もうと前に出る...が..
「やぁ、シリウスくんじゃないか。君も僕の晴れ舞台を見に
きてくれたのかい?」
.....嘘だろ.....
そこにはそのロウナイトを従えた、ロバートがいた。
「ロバート....もう契約したのか?」
「ついさっきに、このロウナイトとね」
「そうか、じゃあ俺は帰るよ」
俺は方向転換するが、ロバートに腕を掴まれる。
「もしかして、君はまだ契約できていないのかい?」
「.....あぁ、だから忙しいんだ」
「なるほど。つまり君はこのロウナイトを狙ってきたと
いうわけだ」
「だったらなんだ?」
「いや、ごめんよ。僕が先に契約してしまって。でも言った
よなぁ。君にはゴブリンがお似合いだって」
「俺は忙しいんだ。その手を離してくれ」
腕を離さないロバートに俺は初めて強気に出る。
「そんなこと言っていいのかい?僕にはロウナイトがいる。
反抗的な態度をとると...」
「逆にお前こそいいのか?ジンクス家の次男であるお前が
こんな民衆の目前で、弱いものをいたぶって」
ロバートは「くっ」と顔を歪ませると、乱暴に俺の手を離す。
「帰るぞ、ロウナイト!」
そのまま、ロウナイトを連れて、逃げ帰って行った?ロバート
を見て、少しすっきりした俺であった。
バカンス終了まであと1日となった。俺は今まで、寝る暇も
惜しんで神生を探し続けた。
だが!! またしても契約することはおろか、見つけること
さえできなかった。
「最後の希望か....あの廃城だな」
「やっぱり、父さんもそう思うか」
「あぁ。あそこなら何体か居てもおかしくないだろう」
俺は一応、父さんにも意見を聞いて2人の一致した意見の場所、
謎の廃城に行くことにした。
ということでさぁやってきた、謎の廃城。
何十年も前に没落貴族が住んでいて、そこで、その貴族の一家、
全員がある日、突然の変死を遂げたという、謎の都市伝説を
持つ謎の城。
王国が出版する「ポツンとお城」シリーズの記念すべき第1巻と
して紹介された、有名だけど誰も近寄らない廃城!
それを目の前にして、率直に出た感想は....
「くさい、そしてボロい」
蜘蛛の巣だらけの城の中へ、俺は足を踏み入れる。
もうここまできたら何でもいい。ゴブリンだろうと何だろうと、
契約しないよりはマシだ。
入ってすぐに周りを見渡して確認するが、神生の気配はもちろん、
他の生物の気配もない。
20分くらい探したが、いなかったので、俺は古い王座がある、
2階に上る。
2階も探し回り、俺は遂に古い王座を目の前にする。
相変わらず、何の音も聞こえず何の気配もない。
以前は廃城ながらある程度の活気を保っていた城は本当の廃城と
化していた。
「....嘘だろ....ここもいないのかよ....」
王座の真ん前まできて、俺はがっくりと肩を落とす。
「...契約....できなかったのか.....]
明日から学園が始まる。ロバートたちに何と言われるだろう...
俺が甘かったのだ。俺は神生と契約するために毎日、走り回り
ながらも、心のどこかでは神生との契約を大したことではないと
思っていた。
それがダメだったのだ....これはその報いなのだ....
だが、明日からの学園での日常のことを思うと、引き返そうにも
引き返せない。諦めようにも諦めれない。
何で....何で...何で誰もいないんだよー!?
「誰か....誰か俺と契約してくれぇー!!」
俺は無意識のうちにそう叫んでいた。
そして、それに答えたものがいた.....
「ならば、この我輩が力を貸してやろう!」
ん? 今なんか聞こえたな....?
うざキャラのロバートくん。実は作者の知り合いが
モデルになっています。