5、その頃、勇者一行は……。
スカイが悠々自適なスローライフを楽しんでいた頃、勇者一行は苦戦していた。
「あーもう! やってられるか!」と戦士ドーナンが声を荒げ、カップを放り投げる。「毎日毎日こんな飯ばかり!」
「それになんだか眠りも浅いしねぇ~」と踊り子マネアがあくびをする。
「まったく、皆さんヤワですねぇ」と勇者エスバインがニヒルな笑みを浮かべる。「そんなにヤワならあの負け犬のように帰ってもいいんですよ」
「あんな奴と一緒にするんじゃねぇ!」と戦士は声をあらげる。
「ふふふ。皆さん、さぁ出発ですよ?」と勇者は焚火を蹴り飛ばし、強引に火を消した。
勇者一行はエスロ渓谷を抜けられずにいた。
途中補給もなく、なぜかこのあたりからモンスターが強力になってきていたからだ。
それに、残り少ない食べ物が底を尽きつつあったし、何より満足な睡眠をとれていなかった。
「ひょっとしてさぁ、失敗だったんじゃない?」とマネアは言った。「アルを追放してさ。失敗したかもね」
「ケッ」と戦士はツバを吐いた。
「だってさぁ。あいつが居た頃はあいつが食事当番だったし、たぶん睡眠だって宿屋スキルを使ってたんじゃないかしら……。だから良い睡眠がとれてたのかも……」
「だからこんな所で立ち往生していると言いたいのですか?」と勇者エスバインが恐ろしい顔つきで言った。
「マネア……次に私を疑うようなセリフを言えば、私が自らあなたを殺してさしあげてもよいのですよ? いいですか? あなたのような貧乳が私に意見しようなんて100年早いのですよ」
「……」
「そう。沈黙。それがいい。それが貧乳の正しい態度です。貧乳は悪、いいですか? 覚えておきなさい。そして、そんなあなたを許し続けている私の寛大さに感謝しなさい」
「……」
「さぁ、先を急ぎますよ」
「エスバイン!」と戦士が声を荒げた。「敵だ! いつのまにか四方を敵に囲まれてる!」
勇者エスバインはあたりを見回した。
確かに囲まれている。
「そういえば、敵がどこにいるか、という斥候の役目もあの負け犬の役目でしたねぇ」と言いエスバインは唇をかんだ。
敵に囲まれている。しかも、数百。数千、という規模の敵だ。
これに気づかなかったとは、確かに致命的だった。
「エスバイン! どうすりゃいい」と戦士は声を荒げる。
「ねぇエスバイン! どうにかしてよ! 勇者なんでしょう?」と踊り子マネアも泣きながら叫ぶ。
「戦うしかないでしょう? 皆さん、一旦ラズライトの街まで引きますよ。出直しです! しんがりは私に任せなさい。さぁ! 行くのです!」
その声を合図に踊り子マネアは短剣を抜き、先頭切って元来た道を走りはじめる。
戦士ドーナンがそれに続く。
そして、勇者エスバインが勇者の盾を天高く掲げた。
「いかずちよ! 荒ぶりたまえ!」
雷鳴が轟き、それがモンスターの群れに直撃した。
こうして勇者一行の撤退戦がはじまった。