4、村人、スキルポイントがえらい溜まってることに気づく。
一ヶ月ほど前、本格的に村で生活することが決まってからスカイは改めてスキルツリーと、溜まったスキルポイントを確認した。
このスキルポイントは俗に熟練度値と呼ばれるもので、そのスキルを繰り返し使うか、もしくはモンスターを倒せば手に入る仕組みになっていた。そして溜まったスキルポイントでスキルを獲得してゆくのだ。
スカイは、勇者パーティーの一員として戦っている間ほとんどスキルを解放してこなかった。だからスキルポイントが、これでもか、というほど溜まっていた。
「うーん……何のスキルから解放しようかな……」
今までスカイが優先して解放してきたスキルは、喧嘩屋系のスキルと、狩人系のスキルと、宿屋系のスキルと、そして料理系のスキルだ。
喧嘩屋は近距離戦闘用スキル。
狩人は遠距離戦闘用スキル。
宿屋と料理は眠りと食べ物に関するスキルだ。
「っていうか、あれ?」
ここでスカイはあることに気づく。なんと、今まで獲得したスキルポイントですべてのスキルを解放できるではないか。
「なんだ、迷う必要なかったじゃん。じゃあ、ちゃっちゃと開けてこうかな」
そう言ってスカイは次々とロックされているスキルを解放してゆく。
しかし、その解放されたスキル名がなんともしょぼかった……。
たとえばこれ↓
【 畑起こし 】
それにこれも↓
【 種まき 】
更にこれ↓
【 草刈り 】
どうでもいいようなスキルばかりだ。というか、そんなスキルなんか無くても十分にやれそうなんだが……。
スカイは【 畑起こし 】の説明欄を読む。
どれどれ、え~っと。通常の1・5倍のスピードで土を掘ることができ、畑起こし作業が非常に能率的になります……。
……。
しかも、これ【 畑起こしレベル1 】【 畑起こしレベル2 】【 畑起こしレベル3 】と続いている。
……。
本音をいえば激しくどうでもよかったが、溜まったスキルポイントを消化しないともったいないような気がしたので、とにかくスキルを解放していった。
そしてスキルの使い方も分からず小さな畑を起こし、そこに種をまいた。
変化を実感したのは翌日だった。
あくびをしながら、ボロボロの借家から出ると、すでに畑に芽が出ていた。
あれ? こんなに早く芽って出るものだったっけ?
と思ったところで、種まきから派生したスキルを解放したことを思い出した。
【 発育促進 】というスキルだ。
これは非常に早いスピードで野菜を育てるスキルで。発育促進レベル1、レベル2、レベル3とあげればあげるほど早く育つらしい。
「おおお」とスカイは一人で感嘆の声をあげた。
皮膚が悦びで粟立つのを感じた。
これは職業が村人のせいだからだろうか。
モンスターの牙をかいくぐり、命を奪い合うスリルよりも、嬉しさを感じた。
いや、違うな。なんといえばいいのだろう。
そう、幸せだ。
心がほんのり温かくなってゆくような感じを覚えたのだ。
スカイはその場で深呼吸し、グンマーの新鮮な空気を肺にたっぷり送り込むと、それをゆっくりと吐き出した。
ここからスカイの生活は飛躍的に進化してゆく。
土木工事系のスキルで家を改造し、畑の耕地面積を増やすために木を抜き始めた。
そして、ひと月もしないうちに立派な農園が完成したのである。
トマトにかぶりついたスカイは「ああ、そうだ忘れる所だった」と言い、畑で実がなっているものすべてに【 成長鈍化 】のスキルを施す。
こうすることで、収穫時期を長くするのだ。
これをしないと恐ろしい速度で腐っていくことになる。
「あぶねーあぶねー気が付いて良かったぁ」と言いほっこり顔でもう一度トマトにかぶりつき、ニンマリする。
こうしてスカイのスローライフは始まったのである。