第18話 勧誘
テスト終わり! れ!
「俺達が? アンタと一緒に?」
中村が明らかな動揺を浮かべて問い返した。 僕を含め、因幡を除く全員は中村と同じような感情を抱いているだろう。
「えぇ。 貴方達、人間なんでしょう? だったらガジェットにも対抗できるじゃない」
...無茶言うなぁ。 僕達何の取柄もない普通の人間だし、超人高校生として異世界を無双するなんてこともできないんだけど...。
「...本当に、そうでしょうか」
「ん?」
僕の心を読み取ったであろうこころちゃんは神妙な顔をして、
「あ...いえ、別に因幡さんの意見に賛同する訳ではないですけど。 神木さん達はすごい科学の発明品を扱うと聞いています。 何の取柄もない普通の人間どころか、私達オカルトと比べても謙遜ないかと」
「ちょーっとそれは買い被りすぎじゃあ...?」
「そんなことないわ。 先の襲撃で私達を助けてくれたのは紛れもない貴方達よ。 そうよね、勇ちゃん」
因幡にそう尋ねられた勇ちゃんは不服そうにそっぽを向いた。
「...まぁ、結果的には助けられたかもな」
「これがリアルツンデレか...?」
「殺すぞ」
因幡はじゃれ合う中村と勇ちゃん(実際には中村が半殺しにされているだけだが)を無視して続ける。
「ま、強制はしないわ。 じっくり考えてみて頂戴」
うーん、そうは言ってもなぁ...。 因幡達と協力するってことはそりゃあ戦闘に参加する訳だし、命の危険も伴う。 僕だって高校生なんだし、もうちょっと長生きしたい。
「神木君、どうするのさ」
名波君が困ったような顔で尋ねてくる。
「どうもこうも、僕だってどうすればいいのか分かんないよ。 つい昨日まで異世界の『い』の字もなかったんだぜ」
「そうだね...。 でも、できるなら、僕は因幡達を助けてあげたいかな」
「名波君...」
名波君のその言葉を聞いて、僕は思わず苦笑する。 さっきも襲撃してきたはずの倉木さんのことを心配していたし、どんだけお人よしなんだ。
「だってだって、助けたら物凄い見返りがあるかもしれないよ!? そう、あの因幡の膝枕以上の!!」
「そっちか!! 名波君をお人よしなんて思った僕が馬鹿だったよ!!」
「「何!? 膝枕だと!?」」
「お前らは黙ってろ!!」
と、そんな僕らのやり取りを見ていた因幡がふと口を開いた。
「そうね...。 協力してくれるなら、何かしらの見返りを用意する必要があるわね」
「「「「何!?」」」」
「おいちょっと因幡お前何勝手に」
「嫌ですよ因幡さん貞操の危機を感じます」
「俺が膝枕...は誰も喜ばないと思うから、俺は俺で別の報酬を用意しておくよ」
そうかそうか、因幡達から何かしらの報酬が貰えるのか...。
やるしかないだろ!!!
「よっしゃお前らやるぞ!」
「「「おうよ!!!!」」」
いや、別に邪な気持ちとかないけどね? 強いて言うならあれですよ、不敗さんが用意してくれる報酬が何なのか気になっただけですよ。
「えーと、持ち掛けた私が言うのも何だけど、そんな簡単に決めちゃっていいのかしら?」
「いやもう因幡の膝枕とか、男子校の僕達(中村を除く)にとっては命張る価値あるんで」
「そんな面と向かって言われると少し照れるわね」
「じゃ、そういうことで僕らは因幡達に協力するよ! 先生もそれでいいよね?」
先生は頷いて、
「困っている人を助けるのは当然です。 協力しましょう」
なんだこの人聖人君子か? ...あーいや、僕だって報酬につられたわけではないけれ(ry
「まぁこの子達もただ報酬につられた、という訳でもないと思うのでそこはご理解頂けると幸いですが」
「分かってるわよ、ねぇ、こころちゃん」
「えぇ...。 神木さん達が報酬の為に私達に協力した訳ではないというのは心を読むまでもなく分かることです」
中村さんはちょっと微妙ですが、とこころちゃんが呟く。
いやぁ、なんかわざわざ深層心理を暴かれると照れるなぁ...。
「えー、俺だって報酬につられてなんかないのに..」
「嘘をつけロリコン」
「まぁそれはともかくとして、貴方達は私達、オカルトに協力してくれる、ということでいいのね?」
因幡に問われ、僕らは頷く。
今更引き返せないし、『報酬』は今チャンスを逃したらこの先ずっと後悔する気しかしない。
「じゃあ、そういうことで」
「待て」
と、因幡の言葉を勇ちゃんが遮った。
「私は人間どもに協力して貰うつもりなどさらさらない。 ガジェットなんて私1人で十分だ」
膝枕など言語道断、と勇ちゃんは小さく呟く。
「確かに、今更人間に協力して貰うのはちょっと図々しい気がしないでもないけど」
「不敗さん、よく勇さんの本心が分かりますね...」
勇ちゃんはそっぽを向いて、
「別にそういう訳ではない」
「さすがリアルツンデレ」
勇ちゃんが鷲尾君とじゃれ合い始めたので放っておくとして。
「因幡、別にそういう風に感じることはないんじゃない? 僕らは、あくまで『報酬』の為に協力している訳だし」
僕がそう言うと因幡は苦笑した。
「じゃあそういうことにしておきましょうか。 勇ちゃん、いいわね?」
「...勝手にしろ。 どうなっても私は知らないからな」
不機嫌そうに言う勇ちゃんだったが、実際不機嫌なのだろう。 その証拠に、彼女の傍らには半殺しを通り越して4分の3殺しくらいにされた鷲尾君が横たわっていた。
「おーい、鷲尾君。 大丈夫か?」
「大丈夫な訳ないだろお前も同じ目にあってみるか」
「大丈夫そうじゃん」
「勇ちゃんの暴行を食らっておきながら問題無く喋れるってことは相当体が丈夫なのね」
「俺はそのレベルの攻撃を食らっていたのか!?」
うん、さっき吐血してたような気がしないでもないけど多分気のせいだろう。
「おーい、話は終わったか? 俺はこれからどうすればいいんだ?」
壁際にもたれて座っていた倉木さんが口を開いた。
「あー、そうね。 貴方には明日からいろいろやって貰うことがあるから、今は休んでいてもいいわよ」
「休むってここで? いいのか?」
「いいわよ。 こころちゃんも居るし、何も問題ないわ」
「えー、私今日泊まりなんですか?」
因幡は当然だと言うように頷いて、
「もちろんよ。 というか貴方も含めて今日は全員私の家に泊まっていって貰うわ」
「「「「は!?」」」」
僕らが、因幡の家に泊まる?
「えーと、因幡、それどういうこと?」
「だってまだガジェット対策会議は終わってないわよ? 具体的にどう対策していくのかを決めないと」
「それって今からじゃ駄目なのか?」
「ちょっと野暮用があるのよね」
「?」
因幡はうさ耳をピンと伸ばして、
「ま、ということで夜になったらまた私の家に集合して頂戴」
もう解散してくれて結構よ、と因幡は言った。
「えー、そうは言ってもなぁ」
「諦めた方がいいですよ。 因幡さん、一度決めたら絶対にそれを貫き通すので」
「でもここら辺のこと何も知らないし、僕達どうやって時間潰せば...」
正確な時刻は分からないけど、多分そろそろ昼も中頃へと差し掛かっている筈だ。
あと3時間弱、手持ち無沙汰になるのはちょっとキツい。
「みんな、どうする?」
と、これからの予定を決めようと、みんなに尋ねた時だった。
僕のポケットの中で何かが震え出した。
「ん? 電話か?」
見ると、そこには『葉加瀬』の文字が表示されている。
「ごめんみんな、葉加瀬から電話だ」
「葉加瀬から? 何の用だ?」
僕はボタンを押して電話に出た。
「もしもし? 葉加瀬、どうしたの?」
「・・・今、暇そうだな」
「あーうん、暇だけど、それが?」
「・・・暇なら一回こっちに戻ってきて欲しい。 やらなきゃいけないことがある」
早くも異世界から帰還します。