第17話 ガジェット
毎週日曜日に投稿すると先週言ったと思いますが、時間は19:00にしようと思います。 今回は違いますが、次回からはその時間に投稿します。
「ガジェットねぇ...」
襲撃者が困ったように頭を掻く。
その様子を見て、因幡は訝しげな表情を浮かべた。
「...答えられないの?」
「いや、答えてやってもいいが...1つ、条件があるぜうさ耳のお嬢ちゃん」
「...言ってみなさい」
条件か...。 こういう時って大体エロい要求が飛んでくるよなぁ(個人的見解)。
なんて考えてたらこころちゃんが冷たい目線でこちらを見ていたので、これ以上はやめることにする。
「なんか微妙にシリアスできてない気がするんだけど続けていいのかこれ」
「はぁ...。 構わないわ、さっさと条件を言いなさい」
何となく釈然としない表情をしつつも、襲撃者は意を決したように口を開いた。
「俺を匿ってくれ」
「...」
匿う...ってどういうことだろうか。
その要求は因幡にとっても予想外だったらしく、眉をひそめて黙っている。
「いや、これはそのまんま、文字通り受け取ってくれていいぜ」
「どういうこと? オカルトの国に居たいということなの?」
「んー、まぁ、そういうことだな。 というかこのまま戻ったら殺されるんだよ、俺」
殺される、って...。 どういうことだ? さっきの襲撃が失敗したから殺されるってこと?
「そうさ。このままおめおめと逃げ帰ったら殺されるんだよ、多分。 ...そうでなくてもガジェットのことを話そうとしてる時点で殺されるだろうな」
「なるほど...。 だから私達に匿って欲しいという訳ね」
任務に失敗しただけで殺されるって...。 こっちの世界の人間社会はヤバイ奴らの巣窟か...?
...これじゃあ、オカルトの方が正義じゃないか。
「因幡、僕が言うべきことじゃないかもしれないけど...」
そこまで言ったところで、因幡が僕を制した。
「分かってるわよ。 ...いいわ、貴方を匿ってあげる」
「...じゃあ取引成立だ。 ガジェットのことでも何でも聞いてくれ」
襲撃者は安心したように息をついた。
こころちゃんの反応もないし、多分彼が言ったことは全て本当のことなんだろう。
と、ここで因幡が思い出したように口を開く。
「そういえば貴方の名前を聞いていなかったわね」
「そういやそうだな。 俺は『倉木 闇』だ。 よろしく頼むぜ」
「私の名前は...」
「あー、『白玉 因幡』だろ? それに『鬼ケ原 勇』に『覚読 こころ』に『不敗 逃避』。 この国の守護者なら全員知ってる」
...これ、僕達も自己紹介しないとダメだよね。
「えっと、神木です」
「黒帯の中村だ」
「『鷲尾』だ」
「音ゲーマー名波です」
「先生と呼んでください」
先程とほとんど変わらない自己紹介をする僕達。 どうやら鷲尾君は人間だとバレても鷲尾と名乗り続けるようだ。
「おう、同じ人間同士よろしく頼むぜ」
「さて、名前も分かったことだし、早速ガジェットについて教えてもらおうかしら」
因幡が改めて尋ねると、倉木さんは軽く頷いて、
「んー、まぁ大した話じゃない。 ガジェットというのは、オカルトと対等に渡り合うために開発された科学の産物なんだよ」
「人間の科学はそれほどまでに発展しているのね...スピードが異常すぎる」
「なんでこれほどまでに科学が発展したかってのは俺にも分からん。 もっとお偉いさんなら知ってるかもな」
因幡は首(とうさ耳)を傾げ、
「貴方はそのお偉いさんじゃないの?」
「俺はただの兵。 駒だ」
「だったら何故ガジェットについて知っているのかしら?」
機密事項レベルの筈でしょう、と因幡は続けた。
...確かに、対オカルト用の特別アイテムだとしたら隠しておかないと不味いよな。 ...それかまさか、もう隠すには遅いくらいに世間に広く浸透してしまった、とか?
そんな風に考えていた僕だったが、倉木さんはそれを否定するかのように小さく呟いた。
「俺が、適正者だからだよ」
「...適正者?」
倉木さんは頷いて、
「まだ説明していなかったが、ガジェットって2種類あるんだよな。 1つは、純粋な科学の産物。 これは、誰にでも簡単に扱うことができる。 例としては、さっき使った『気配消し』とかだな」
「葉加瀬、ドンピシャで当たりじゃん...」
「葉加瀬がどうした、神木」
「いや、こっちの話」
葉加瀬と言えば、さっきから電話もかかってこないし、今何をしているんだろう?
「なるほどね...もう一種類の方は?」
因幡が続きを促す。
「...うさ耳のお嬢ちゃん、さっき『科学の発展のスピードが異常』って言ってたよな? 多分、その理由がもう一種類のガジェットに隠されてると俺は思ってるんだが...」
因幡はうさ耳を傾げた。
「勿体ぶらないで、分かりやすく言って欲しいのだけれど」
「つまり、何らかの特殊なエネルギーを使った、純粋な科学の産物じゃないガジェットが存在するってことさ。 例を挙げると、俺の『怪異の天敵』とかがそれにあたる」
「なるほど、わからん」
鷲尾君の呟きを完全に無視して、倉木さんは説明を続ける。
「この何らかのエネルギー...それが影響しているのかどうかは俺も知らないが、こっちのガジェットは誰にでも使える訳じゃない。 適正者にしか使えないんだよ」
「ふーん...。 貴方は適正者だったから、他の人間より詳しくガジェットについて説明されていたってことね。 ...ちなみに、その何らかのエネルギーっていうのは...」
「あー、さっきも言ったと思うが、それは俺も知らん」
そう、と残念そうに因幡が呟く。 うさ耳がへにょってなってるのがちょっと面白い。
「まぁ、俺がガジェットについて知ってるのはこのくらいだ。 ...少なくて悪いな」
「情報提供、感謝するわ」
...これで倉木さんへの尋問は終わりか。
「そうだ、貴方の家はこちらで用意しておくわ」
「お、ありがたいな。 ところで、食事とかはどうなるんだ?」
「食事に限らず、欲しいものがあったらネットで注文してちょうだい」
...ネットあるんだ。 まぁ携帯電話があるくらいなんだし、あってもおかしくないけど。
もしかしたら、僕らの世界と同じくらい、もしくはそれ以上に科学が発展しているのかもしれない。
「そうだ、代金はどうすればいい?」
「無料...という訳にもいかないわね。 それ相応の対価は貰うわ」
倉木さんは首を傾げ、
「だが俺はここの貨幣なんて...」
「お金がないなら稼げばいいのよ。 ということで私のところで働いてもらうわね」
「あー、そういうことか。 OK、バリバリ働いてやるよ」
倉木さんの了承を得たところで、因幡はパン、と手を叩いた。
「さ、この話はおしまいね。 で、次は...」
「ガジェットの対策、そうだろ因幡?」
勇ちゃんの言葉に因幡は頷いて、
「そう、今日はその為に守護者を集めたって訳なのよ」
それを聞いて、こころちゃんが困ったような顔をする。
「とは言っても、対オカルトと銘打って作られた代物です。 まだどんなガジェットがあるのかも不明ですし、対策と言われても...」
「そうだなぁ。 ましてや俺とかこころちゃんは戦闘に向かないタイプだし...」
確かに、ガジェット相手だったらオカルトが不利になるのは間違いない。 勇ちゃんみたいにこの世の理から外れているような化け物ならまだしm
「神木さん、女の子にそれは失礼ですよ」
「女の子...?」
うん、まぁそれは置いといて、さっきだって倉木さんのガジェットに因幡達が苦戦したことは事実だ。 対策といっても、そう簡単には無理だろう。
と、そんな僕の考えを見透かしたかのように、因幡がにっこりと笑った。
「対オカルト用...ってことは、オカルトにしか効かないのでしょう?」
「おい因幡まさか」
勇ちゃんが焦ったように早口で呟く。
勇ちゃんが焦っているところを見たのは初めてかも......ってあれ? なんか今、因幡が不吉なことを言っていたような...。
そんな僕の嫌な予感は、見事に的中した。
「神木君、中村君、イグルテイル君、名波君、先生君。...私達と一緒に戦ってくれないかしら?」
次の日曜日はテスト前なのでお休みします、ごめんなさい。