第13話 決着
大遅れ。
失踪はしてません!
「っと、大体これで片付いたか?」
鬼ケ原 勇はそう言うと右手に持った銃をくるくると回した。
....もう少し詳しく言うと、自身の身長を優に超えた超巨大な銃をくるくると回した、のである。
「相も変わらず凄まじい力ね、勇ちゃん。 ものを生み出す程度の力しかない私にも分けてもらいたいところよ」
「何がものを生み出す程度だ。 下手すれば私よりおっかないんじゃないか、因幡」
「あはは、冗談が過ぎるわ」
「私は大真面目なんだが...」
彼女らは、地面に倒れている人間達へと目を向けた。
「で、どうする? せっかく眠らせた訳だけど...」
「いつも通り送り返す」
「でも、彼ら送り返しても送り返しても全然諦めそうにないわよ?」
「ハッ、奴らは決意とかいうものでも抱いてるんじゃないか? まぁ、それでも私達がやるべきことは変わらないがな」
と、勇が嘲笑しながら言ったその時だった。
「....人類も、随分と舐められたものだな...」
「「ッッ!?」」
慌てて辺りを見渡すが、誰もいない。
「チッ、一匹逃してたか」
「勇ちゃん、気配感じる?」
「さっきは気配が集まってたから何とかなったが...。だった1人の気配を探るとなると少し難しいかもな...」
「不味いわね...」
...最強の鬼をもってしても、これだ。 外界の科学がここまで発達していたことに、因幡は今更ながら若干の恐怖を覚えた。
「ハッ...。 安心しな、気配を消した程度ではお嬢ちゃん達に勝てないってことぐらい俺にだって分かる」
「だったら何故諦めない?」
姿の見えない男は、勇の問いかけを無視して喋り続ける。
「姿を消した程度じゃ勝てねぇ。 だったら他の手を考えるまでだ」
「...? 一体何を言っている?」
「まぁ要するに、俺はまだ諦めてないぜ」
と、そんな声が聞こえた時だった。
今まで忽然と消えていたはずの男が、勇達の前に姿を現したのである。
「さぁ、勝負だお嬢ちゃん達」
「自ら姿を晒すとは...。 何を考えているかは知らんが、そう簡単に私に勝てるなどと思うなよ、人間!」
勇は剣を構え、迷わず男の方へと向かって行く。
「お嬢ちゃん、俺が何の考えもなしに姿を晒したとでも思ったか?」
「知るか、小細工などでこの私は崩せない」
勇は剣を振りかぶった。
「寝てろ」
そのまま振り下ろされた剣は、吸い込まれるように男の胸元へと叩きつけられ.....。
「ハハ....」
「あぁ?」
しかし、男が倒れることはなかった。
「ゴフッ...。 おいおい、対オカルト用のガジェット付けててもこれかよ。 さすがの化け物っぷりだな、鬼のお嬢ちゃん」
「ガジェット...?」
「そんなことよりこの剣をどけてくれないか? 物騒だぜ、お嬢ちゃん」
男は口から血を吐きながら、胸元に叩きつけられた剣を手で掴み取った。
「勇ちゃんの一撃に耐えた...?」
「そこのうさ耳のお嬢ちゃん、俺が鬼のお嬢ちゃんと張り合ってるのがそんなに不思議か? なぁに、人間、決意さえあれば大抵のことはできるんだよ」
「...貴様の仕組んだカラクリがどういうものかは大体分かった。 ガジェット...確かそう言っていたよな、人間?」
「げっ、バレた!?」
「フン、口を滑らした貴様が悪い。 大方、そのガジェットとやらを装着する事で何かしらの効果が発揮されるとかそんなところだろう。 推測するに、今貴様が装着しているガジェットは...」
「もしかして、オカルトに対して滅法強くなる、とか....?」
「...多分、そういうことだろうな。 最初に気配を消していたのも、何かしらのガジェットの効果に違いない」
そこで初めて、男の顔に動揺の表情が現れた。
「ご名答だぜ....。 なかなか賢いお嬢ちゃん達だ...」
「いや、まぁ貴方がほとんど口を滑らせたのだけれど...」
「ゴホッ、ゴホンゴホン」
男は咳払いをして話を続ける。
「とにかく! これで俺とお嬢ちゃんは対等だぜ。 いくらお嬢ちゃんが強いと言えど、果たして俺に勝てると言い切れ」
「洗練されたキック!!!!」
「ぐはぁぁぁ!!!!」
突然、横腹に何者かの襲撃を受けて男が吹っ飛んだ。
男は受け身をとる暇もなく、地面を転がって壁へと突っ込んでいく。
「いやー、敵の姿がみんな消えてて全然戦えなかったが、ここに姿が消えてないアホがいるじゃねぇか!!! オラオラ勝負だ! 黒帯持ちの俺に勝てるかな!?」
「中村君! 最低なセリフと共に現れたことを除けばナイスカウンターだわ!」
男に綺麗な飛び蹴りを決めたのは、彼女らと共に敵の元へと飛び出していった中村だった。
彼は因幡と勇に気付くと、慌てたように声をかけた。
「大丈夫か、勇ちゃん! 怪我はないか!?」
「あらぁ、私のことは完全無視かしら?」
「お前はロリ化してから出直してこい!」
「これほどまでに最低なセリフを聞いたのは初めてかもしれないわ」
「私が怪我をするはずがないだろ、吹き飛ばすぞ」
「よかった...ロリが傷つくのを見るのは辛いからな...」
「吹き飛ばすぞ」
「二人とも、今はふざけてる場合じゃないのよ」
「何を言ってる、俺はいつでも大真面目...って痛え!」
突然、因幡が中村の足を払った。 たまらず、中村は地面へと倒れこむ。
「いきなり何するんだ!!」
因幡の行動に困惑して声をあげた中村だったが、彼女はそれを無視して目の前の何もない空間に銃を向けた。
「殺気が隠せてないわよ」
「あらら、バレちまったか」
声が聞こえ、先程中村に吹き飛ばされた筈の男が虚空から出現した。 手には、鋭いナイフを持っている。
「殺気、隠せてなかったか...。そうか、俺もまだまだってことだな」
「ふふ、そのまま消え続けていたら麻酔銃で楽に眠れたのにね」
「まぁ俺もそっちの方が楽なんだがな...。 それでも諦める訳にはいかな」
「洗練されたキック!!!!」
「おっと、2度もその手には引っかからないぜ」
またしても中村が飛び蹴りを放つが、今度はひらりと簡単に躱されてしまった。
「やべぇぞオイ、このままじゃジリ貧だ!」
「うーん、オカルトに滅法強くなるってことはおそらく私の武器も通じないわね...」
「私も戦える可能性があるが、なにせ殺さないように手加減しているからな...。 上手くは戦えない」
「だったら俺が...」
とは言え、中村は気配を察することはできない。 男が透明化するガジェットを使用してくれば、戦うことさえ難しくなってしまう。
「ハッハー、そろそろ分かってきたかなお嬢ちゃん達。 人間だって、こうなっちまえばそう簡単には倒せないだろ?」
焦りが生じる。 思考が頭を駆け巡る。 それでも何も思い付かずに、中村は、ついに目の前の男に向かって走り出した...。
その、直前の出来事だった。
「伏せろぉ!!!!!!」
中村の耳に、聞き覚えのある声が入ってきた。
「なんだ!?」
「今のは神木君の声ね」
中村達は、急いで地に伏せつつ疑問の声をあげる。 と、次の瞬間、彼らの上を燃え盛る炎が勢いよく通過していった。
「うわっ、なんだこりゃ!?」
「は! なんだなんだ援護射撃か? 俺にオカルトは効かねぇぜ!?」
しかし、そんな炎を前にしても男は微動だにしない。 受け身も取らずに、突っ立って、その炎が自らを包むのを待っているようにさえ見える。
それは、オカルトに対する自信の表れか。
と、右手で火炎放射器を回しながら、神木が男に向かって言い放った。
「いやー、あんまりオカルトも舐めたもんじゃないよ?」
「はっ! 関係ないね! 俺にはオカルト自体が通じないんだから!!」
「あ、別にそれがオカルトだとは言ってないよ?」
「は?」
男が疑問の声をあげるが、もう遅い。 炎は、あっという間に男を飲み込んでしまった。
「がっ!? 熱ッ!」
「オカルトの国だからと言って、科学の産物が存在しないと思うなよ?」
炎に包まれ、火だるまとなって転げ回る男に、神木の隣に立っていた鷲尾がそう言い放つ。
そう、煽ること、そしてハッタリをかますことに関して彼の右に出る者は存在しない。
「ッッ! 消えない! 何だ何だ何だこの炎は!?」
「消えない炎って時点で分かりそうなもんだがな」
その炎は、全てを焼き尽くす。 そう、それはまるでカグツチの炎のように。
なおも、炎は男を焼き続ける。 熱は喉を焼き、更には周りの酸素を奪っていく。
「て...めぇらは...一体...」
「俺達? 見りゃわかんだろ、オカルトだよ」
直後、ドッ、と何かが倒れる音が辺りに響いた。
異世界転移してから初めての戦い。 その決着がついた瞬間だった。
いや、マジで忙しいんですごめんなさい。
多分頻度はこれからも落ちます許してください。