中編
胸糞注意。
読みやすさ重視で前後編ではなく前中後編と小刻みにさせて頂きました。
後編ではスカッとするーーハズ……多分。
犯罪者は全員死刑で良いと思います。法改正されてほしい。
「紹介するまでもなく、いっかちょーさんは知ってるよね?上梨晶ちゃん。いっかちょーさんと同じ捜査一課の刑事さん。付け加えると、私がさっき言ったある人っていうのは、晶ちゃんのことだよ。つまりは、前科者連続殺人の実行犯」
紹介するよりも、未だに自分に向けられた拳銃を下ろすように言ってほしいのだが、そうしないのはサトリちゃんには、上梨が撃つつもりがないことが分かっているからなのだろうか?
「正木先輩……残念です。先輩のこと、結構尊敬してたんですよ、私……」
可愛い後輩に尊敬されていたとは嬉しい事実だが、悲しいかな過去形である。少女のスカートを弄るこの姿を見られては、無理もないが。
「やめなよ、晶ちゃん。私が触って良いっていったんだし、私がもしも嫌がる素振りを見せてたら、いっかちょーさんはすぐに止めてくれたよ。私に欲情したって、当の私が受け入れているんだから、何も悪くないでしょう?」
そう言いながら、サトリちゃんは自分の顔をほんの少し膨らんだ胸に抱き寄せた。
頭部に未成熟で柔らかな乳房の感触を感じる。
振り向いてその乳房にむしゃぶりつきたくなる衝動を、自分は必死になって抑えた。
「くすくすっ。可愛いなぁ、いっかちょーさんは」
そう言ってサトリちゃんは優しく自分の頭を撫でた。はちきれそうな程に、堪らなく勃起した。
「……まぁ、サトリが楽しんでいるんなら、好きにすれば良いけど……。すみませんでした先輩。いや、もう一課長と御呼びすべきでしたか?」
「いや、先輩でいいよ。一課長なんて呼ばれたら、一々照れてしまってやり辛い」
「なんて言いながら、若い女の子に先輩呼びされなくなるのが寂しいだけのいっかちょーさんなのでした」
「ちょっーー!」
返す言葉も無い。実際、自分にサトリちゃんの言うような感情が無かったわけではないのだ。上梨は正直、後輩としてとは違う意味でも可愛いと思う。今、改めて心を読まれるということの恐怖を思い知った。潜在的な僅かな感情の動きも、ハッキリと手に取るように分かられてしまうらしい。
「別に、先輩を喜ばせたいわけじゃないですけど、じゃあこれまで通り先輩と呼ばせてもらいますね……」
と、とても冷ややかな視線を向けながら、上梨は言った。
「それにしてもーー」
訊くべきことがある。聞かなければならないことがある。とてつもない緊張に耐えながら、自分は口を開いた。
「それにしても、お前が殺人を犯していたっていうのか。お前も、サトリちゃんに弱みを握られてーー」
「違います。私は、先輩とは違います。サトリは只の協力者で、犯罪者殺しは私の意思です」
自分の言葉を遮って、食い気味に上梨はそう言った。
「それじゃあ早速、いっかちょーさんには共犯者になってきてもらおうかな」
サトリちゃんのその言葉に従って、現在自分は上梨の運転する車に乗っている。
詳しい行き先こそ教えてもらえなかったが、今回は目隠しも耳栓も付けさせられなかった。
「共犯者ってことは、これから自分は人を殺しに行くのか?」
殺人。この法治国家において、許されざる蛮行。例え相手が誰でどんな理由があってもーーとは言うまい。
殺されて当然の奴は、確かにこの世に存在する。
実際、この手で殺してやりたいと思いながら犯人を逮捕したことなど、何度もある。
山程に。
犯罪者を殺しても逮捕されないというのなら、自分は間違いなく大量殺人者になっていただろう。
だからだろうーー。
そんな自分だから、サトリちゃんは自分を一課長にしたのだろう。しかも、ロリコンという握りやすい弱みであり、美しい少女である自身の意のままに操りやすい要素も持ち合わせていたのだから、もう適任すぎるといったところだろう。
「殺すのはあくまで私です……。もうターゲットは捕えてあります。この一週間程、私が痛打っていました……。先輩は、私がただとどめを刺すのを見ていてくれれば良いだけです。
その後、実際に殺人をその目にして、その隠蔽に加担させられて、先輩の心がどう動いたのかをサトリが調べます。犯罪者狩に加担することに良心が痛むようなら、前一課長と同じ様に一課長を辞めていただきます」
「一週間痛打っていたーーか。確かに、前科者連続殺人被害者の遺体は、皆酷いものだったな。上梨は、そんなにも犯罪者が憎いのか?」
自分も犯罪者を憎む気持ちはあるし、殺意を持つこともある。
しかし、実際に実行するとなると、それには生半ならない覚悟が必要だ。いかにサトリちゃんという、絶対的な後ろ盾を得たとしてもだ。少なくとも、自分はサトリちゃんのご褒美がなければ、こうして法に背くような事はとてもじゃないが出来なかっただろう。
「……では、胸糞悪いお話を聞かせてあげましょう。私も先輩の秘密を知ってしまったわけですし……。
子供の頃、レイプされたんです、私……」
突然のその告白に、自分は声も出なかった。軽い気持ちというわけでもなかったが、上梨に動機を訊いたことを後悔する程に、心の奥がドロドロと不快になるのを確かに感じた。サトリちゃんならば、この自分でもよく分からない不快感の正体を言語化できるのだろうか?
「まだ小学生の頃です……。突然車に引きずり込まれて、そのまま一週間弄ばれ続けました。男は私が泣き叫ぶのを、とても楽しそうに見ていました。脅されて、感じるだとかイクだとか、そんな言葉をわけもわからずに何度も言わされました」
もういい。そう言いたかったが、喉が詰まって、自分は言葉を発することができなかった。
耳を塞ぎたくなるような話を、上梨は淡々と続けた。
「でも、それが犯罪者を憎む理由じゃないんです。犯罪者を殺したい理由は、その先です……。
私には、歳の離れた妹がいたんです。
私にそっくりな妹が……。
共働きの両親に代わって世話をしていた私にべったりで、とても可愛い娘でした。あの娘がいたから、私はあの地獄のような日々を乗り越えて生きることができたんです。
ねぇ、先輩……。何故性犯罪者は死刑にはならないんでしょうね?
人生がメチャクチャにされるのに、何故世間は軽く見るんでしょうね?
私に似ていたからだそうです。
あの時の快感が忘れられなかったそうです。
懲役を終えて、私を探していたところに、当時の私にそっくりな妹を見つけたんだそうです。
あの男を死刑にしてくれていれば、起きなかった事件なんです。
防げた、事件なんです。
妹は私と同じように無茶苦茶にされて、私以上に傷つけられました。
自殺したんです。
助け出された一ヶ月後に。
一ヶ月の間、頑張ってくれたんです。
自殺なんてしたら私や両親が悲しむから、頑張ってくれたんです。
でも、耐えられなくて……遺書に、ごめんねって……」
淡々と語っていた、その声が震えた。
上梨は何も言わず、車を路肩に止めた。
自分はただ静かに、上梨の震えが収まるのを待った。ただ、待つしかできなかった。
一見するとただの廃工場。しかし、人気の無い堤防沿いに建つそれの内部には完璧なセキュリディが敷かれ、尚かつ様々な権力者達による見えない力にも守られているらしい。
仮に子供が冒険心で忍び込もうとも、決して深部には辿り着けないようにできていて、上辺だけを見て好奇心を満たして帰っていくようになっているらしい。
地下室で、その足の下で、どれ程恐ろしい事が行われているかは知ることなく、帰れるようになっているらしい。
部屋と言うにはあまりにも大きい地下室に降りると、そこには三つのコンテナが並んでいた。
「真ん中のコンテナです。そこに私のターゲットがいます。一応、覚悟はしてください……。結構グロテスクな事になっていますから……。死体を見慣れている先輩なら大丈夫だとは思いますが、動かない死体と蠢く半死体では、結構違いますから。私も初めての時は、不覚にも気分が悪くなってしまいました……」
その上梨の言葉を聞いて、自分は生唾を飲んだ。自分の唾が喉を通る音を聞くなんて、人生で数える程しかない事だろう。
自分は覚悟を持って、コンテナの扉に手をかけた。