前編
犯罪者なんて皆死ねば良いのに。
皆死刑にすれば大分と犯罪は減らせるのに。
そんな自分の欲望や願望を詰め込んだ作品です。
エログロありなので御注意ください。
警視庁捜査一課長。
殺人、強盗、暴行、傷害、誘拐、立てこもり、性犯罪、放火などの強行犯と言われる凶悪犯罪の捜査を扱う部署、捜査一課の長。
そんな大層な役職に、今年三十になったばかりの若輩者ーーつまりは自分、正木義隆が不自然に抜擢された。
まだ定年も遠い一課長が突然退職されたのも不自然な話だが、一課に配属こそされたものの、自分の様な特別優秀というわけでもない者が、優秀で経験の豊富な先輩方を飛び越えて課長などと、更にとんでもなく不自然な話である。
陰謀のニオイがする。
などと、半分は冗談のつもりで思っていたのだが、本当に何かしらの陰謀があったようだ。
辞令を頂戴したその日、警視総監に行き先も用件も教えてもらえぬまま車に乗せられた。しかも、目隠しと耳栓をされてである。
一時間程経っただろうか。
車を降ろされ、数分歩いた先でようやく目隠しを外してもらうと、目の前にはエレベーターがあった。
窓の無いコンクリートの部屋。扉も自分と警視総監が入ってきたものとエレベーターの2つキリだった。
「乗り給え。私はここで待つ」
戸惑う自分をまるで気にもせず、警視総監は自分をエレベーターに乗るよう促した。
この様子では答えてもらえる可能性は低そうに思えたが、それでもダメ元で
「ここはどこです?一体、自分はどのような用件でこちらに連れてこられたのでしょうか?」
と尋ねた。
しかし予想通り
「私から話すことは許可されていない。いきなりの事に戸惑うのは当然だが、私を信じて言うとおりに動いてもらえると助かる」
と、期待した回答は得られなかった。
それでも自分は、言われるがままにエレベーターに乗った。
そのエレベーターには扉の開閉ボタンはおろか、行き先を指定するためのボタンすらついていなかったが、自分が乗ると扉は閉まり、ひとりでに動き出した。
おそらくは遠隔操作で、行き先が何階か知られない為の処置なのだろう。
エレベーターが目的地に着くまでの数分間、正直不安だった。
それは警視総監という肩書きが持つ信頼感よりも、この『闇』を匂わせる一連の動きに感じる不信感の方が上回ってしまったということだろう。
それなのに、大人しく従い言われるままにエレベーターに乗る自分は、平和ボケしてしまっているのだろうか?
人によっては愚かしく思われるかもしれないが、上司の言葉に逆らおうと考えることが、自分には出来なかった。
こういうのを奴隷根性ーーまたは、只の歯車と言うのだろうか。
自分の選択に疑問を持ちながらも逆らわず、辿り着いたその先ーー開かれたエレベーターの扉の先には、一人の少女がいた。
「待ってたよ、いっかちょーさん」
エレベーターの扉が開いたすぐ先は、その少女の部屋だった。
きれいな壁紙に、小さなテーブルやクッション。エレベーターから直通という以外は、ごく普通の女の子の部屋という感じだった。
そしてキングサイズのベッドに腰掛けるその部屋の主と思われる少女に、自分は目を奪われた。
肩まで伸びた美しく艶のある黒髪に、まだあどけないが整った顔立ち。正に美少女とは、彼女のためにある言葉だと思えた。
「あはは、そんなに褒められたら照れちゃうなぁ」
少女の美しさに目を奪われ固まってしまっていた自分に、彼女はそう声をかけた。
それを聞いて
「えーー?」
と、自分は思わず声を漏らした。
声には出していないはずだ。良い年の大人が、幼い少女を一目見て心を奪われるなんて、それはまるでーー。
「まるで自分はロリコンですって、自供しているみたい?」
少女は可愛らしい笑みを浮かべて、そう言った。自分の心の先を読んだかのようなその言葉に、自分はまるで本当に一瞬心臓が止まったかと思うほどの衝撃を受け、何も言葉を返せずただ黙り込んでしまった。
手にはじんわりと、嫌な汗が滲む。
「うふふ。いっかちょーさんが取り乱すタイプじゃなくて良かったよ〜。表向きはって感じだけど。
内心パニクっちゃってるとこ悪いけれど、ちょっと我慢して、静かに私のお話を聞いてくれるかな?」
そう少女は言ったが、そもそも言われずとも自分にはただ黙って少女の言葉を待つことしかできそうもなかった。
このパニック状態からの解放を、彼女に期待することしかできなかった。
「この異様な状況で私が只者じゃあ無いってことはわかってもらえているよね?だから、勿体ぶらずに簡潔に言うよ。
私は人の心が読める能力をもっているの。その能力を使ってこの国の偉い人達の弱みを握って、いうことをきいてもらっているんだよ。
つまりは、いっかちょーさんにもその偉い人達の仲間入りをしてほしいんだ。えへっ」
心を読む。漫画などではよくある能力だが、そんなものが現実にあるとはとても信じられない。そう自分が頭の中で考えた瞬間
「そつか〜、まだ信じられないか〜。最初にいっかちょーさんが心の中で私の容姿をべた褒めしてくれたのを読み取ってみせたのにな〜。それでも、やっぱりすんなりとは信じられないか〜」
ーーと、そう言って即座に彼女はその考えを覆した。
つまりは、今目の前の少女に自分の許されざる心の闇を知られてしまったということだ。
「闇だなんて大袈裟だよ。やめてやめて、ほんの少しでも自殺しようとか考えないでよ。逆に私の心が痛むよ。
ロリコンだって別にいいじゃない。私のこと厭らしい目で見はしたけれど、実際に乱暴するつもりはないでしょう。それもちゃんと読み取ってるから。だから、私はいっかちょーさんを軽蔑したりはしないよ。
人の頭の中を覗ける私からしたら、頭の中で考えるくらいの事は許してあげないと、この世の中怪物だらけって事になっちゃうよ」
隠し続けてきた本性。少女に対する強烈な性欲。自己嫌悪に陥る程の自分の歪みを少女に許され、逆に自分の中でその少女に対する欲望が更に増大してしまったのを感じた。自分の醜さを受け入れてくれる少女に、堪らなく欲情した。
しかも、今自分はその少女と二人きりなのだ。
醜い妄想が自分の頭の中でどんどんと膨らむ。
目の前の少女が本当に人の心が読めるというのなら、頭の中で考えるだけでそれはとてつもない悪事だ。少女に恐怖を与え、辱める悪行だ。
「ふふっ。いっかちょーさんは真面目だなぁ。心の中は本来自分だけのものなんだから、罪悪感なんて感じなくて良いよ。
むしろ、心の中を覗いてる私の方が悪といえるんじゃないかな?それも、その能力を利用して今からいっかちょーさんを脅そうっていうんだから」
「脅すーー?」
「そうだよ。さっき言ったでしょ、弱みを握って偉い人達にいうことをきいてもらっているって。
いっかちょーさんを一課長さんにしたのは私なんだよ。いっかちょーさんが人に知られたくない弱みを持っていて、私の操り人形にしやすそうだったから、優秀な先輩達を飛び越えて抜擢されたんだよ。
いっかちょーさんがロリコンだって世間に知れ渡ったら嫌でしょう?全て失っちゃうでしょう?人生終わっちゃうでしょう?
折角頑張って隠してきたこと全部、私は知っちゃってるんだよ。
記憶もね、心の一部なんだよ。だから心が読めるってことはね、記憶も知れるんだよ。
いっかちょーさんのお家にある、合法だけれど世間に知られちゃったらいっかちょーさんの人間関係とか社会的地位がボロボロになっちゃうようなアイテムとか、パソコンに入ってる法的にもイケナイものの事も知ってるよ」
彼女のその言葉は、心底恐ろしかった。
もしも自分の歪んだ性癖が知られれば、自分は確かに彼女の言うように、家族も友人も地位も名誉も全て失うことになるだろう。
本当に、死ぬしかなくなるーーというより、死にたくなる。自分の醜さを周囲に知られたまま生き続けるなんて、とてもじゃないが考えられない。そんなこと、できるわけがない。
「だから、そんな勝手に追い詰められないでよ。いっかちょーさんは、ただ私の言うことをきいてくれれば良いんだって。
そうすればいっかちょーさんの誰にも知られたくない秘密を知っているのは私だけだし、ご褒美もあげるし、Win-Winなんだよ〜」
「ご褒美…?」
こんな状況で、自分はその言葉に反応した。思わず、期待してしまった。少女からのご褒美とは、もしかして自分の諦めていた望みを叶えてくれるものなのではないかと。
「そうだね、そのとおり。真面目で理性が性欲に勝るいっかちょーさんじゃあ、一生叶わない望みを叶えてあげるよ。流石にえっちはさせてあげられないけれど、いうことをきいてくれたら、そのご褒美に私の足を好きに触らせてあげるよ」
「ーー!!」
ベッドに座る少女がそう言って差し出した足に、自分は恐る恐るながら、なんの迷いもなく手を伸ばした。
少し体温の低い滑らかな肌。
自分は彼女のふくらはぎを優しく撫でた。
片手で掴めそうなほど細いその足を軽く握ると、心地よい弾力を感じることができた。
少女の肌に触れるーーそれは自分が心の奥底にしまい込み、諦めた醜く歪んだ願望。
「そういえば自己紹介してなかったね。私の名前はサトリ。もちろん偽名だけれど。
私のお願いは聞き入れられたってことで良いよね?
これからいっかちょーさんには、私の友達がする犯罪者狩に目を瞑って、その友達が捕まらないように隠蔽のお手伝いをしてほしいんだ。
いっかちょーさんも当然知っている、前科者連続殺人事件。あれは、私がある人に頼んでやってもらっていることなんだよ」
彼女の言葉を聞きながら、自分は返事もせずーーというより、返事ができないほど夢中になって、彼女の足を触り続けた。
彼女には決して逆らわない。
彼女のお願いが何であれ、自分の心はもう決まっていた。
こうして彼女に触れられるなら、犯罪の隠蔽も殺人も、どんな命令も自分は受け入れてしまうだろう。
願望が叶えられる程に、寧ろ欲望は膨らんでいった。その白いワンピースから伸びる足を撫でるだけで満足するはずが、自分は彼女のワンピースの中にまで、手を伸ばした。
彼女は足を好きに触って良いといった。
そのワンピースに隠れた太股も足なのだと、そんな酷い言い訳をして自分の行いを自分の中で正当化した。
彼女が自分の行為にどんな思いをしているか恐れながらも、欲望を満たすことを優先させてしまったのだ。
自分は今、少女のスカートに手を差し込み、太股を擦っている。この状況に、とてつもなく興奮した。
「ストップ。それは駄目だよ」
少女の口から出たその拒絶に、暴走していた自分の頭は一瞬で冷静に戻った。
そして、少女に不快な思いをさせてしまったという罪悪感よりも、少女の機嫌を損ねてもう触らせてもらえなくなるのではないかという恐怖の方が真っ先に頭に浮かんだことに、自己嫌悪に陥った。
自分はなんて、なんで、こんなにも醜いのか……。
「違うよ、いっかちょーさん。そんな悲しそうな顔をしないでよ。私が今言ったのは、いっかちょーさんの後ろにいる、晶さんに向かってだよ」
その少女の言葉を耳にして、ようやく自分は背後に立つ人の気配に気づいた。
振り返ると、自分のすぐ目の前に銃口があった。自分に強い軽蔑の眼差しと拳銃を向ける、捜査一課の同僚ーー上梨晶(かみなし晶)の姿が、そこにはあった。