ドジっ子ロベルタ
「多分ここだ!」
数時間王都を歩き回り、ようやく冒険者ギルドを見つける。長かった。
「ジルって見た目によらず力あるんだ」
お姫様抱っこ中のロベルタが目をパチパチさせる。
「実は凄いでしょ!」
「さすが勇者様! 頼もしいわ!」
ひょいと地面に下ろす。ロベルタはトントンとつま先で地面を叩く。
「痛い?」
「もう大丈夫! ジルのおかげで治ったわ!」
ロベルタの靴擦れはもう治ったようだ。初めて回復魔法を使ったけど、上手く行った!
「中に入ろう!」
ロベルタの手を引いて扉を潜った。
「蒸し暑い! 汗臭い!」
ロベルタは中に入るなり顔をしかめる。
中は夜なのに人でごった返していた。
また皆汗だくの泥だらけといった感じで汚れている。剣などには血が付いている。
皆の汗で天井に汗臭い霧ができている。
「退け!」
強そうな男女四人組のパーティーがイライラとこっちへ来る。
素直に退いて道を開ける。
「な、何だか怖そうなところね」
ロベルタがビクビクと腕にしがみつく。
「大丈夫大丈夫! 何とかなるって!」
ロベルタを引っ張って受付に行く。予想通り綺麗なお姉さんが座っていた。煙草を吸っているのが意外だったが。
「可愛いお客さん。迷子?」
口紅で鮮やかな赤に輝く唇が微笑む。
「えっと、僕たちお腹空いたんです。何か食べ物をください」
「直球ね! まあいいわ。親分! 迷子が来ました!」
「いつも通り皿洗いさせとけ! あと親分じゃねえ!」
受付の奥にある部屋から怒鳴り声が聞こえた。
「坊やたち、あっちに厨房が見えるでしょ。皿洗いさせてくださいって言ってごらん」
「皿洗いしたらご飯食べて良いんですか?」
「良いわよ。その代わりしっかりやりなさい」
「はーい! 行こう、ロベルタ!」
「わ、私、皿洗いなんてやったこと無いんだけど」
「僕もやったこと無いから大丈夫だって!」
「何が大丈夫なの?」
厨房に入ると年配のコックさんが現れる。
「この皿全部洗え。そしたら食わせてやる」
ざっと見て数十人前のお皿が積み重なる。
「割ったらどうしよう?」
ロベルタはお皿の前で青くなる。
「大丈夫大丈夫! 優しく洗えば何とかなるよ」
「そう?」
ロベルタは恐る恐るお皿を一枚手に取る。
ガチャン!
「時よ戻れ!」
仕切り直し。今度は僕が彼女に手渡す。小皿だから落とさないだろう。
「これ洗って」
「ありがとう」
ガチャン!
「時よ戻れ!」
もう一度仕切り直し。
「これ洗おう。滑るから両手で持って」
「ええ。でもこれじゃ洗えないわよ?」
「しっかり片手で持ってから洗えばいいよ」
「しっかりね」
ベキ!
今度は片手で握りつぶすか。めんどくさくなってきた。
「はいはい、時を戻します」
三度目の正直にしたい。
「えっとね、まずは両手で持って。次に力を入れすぎないように片手で持って」
「何よ? 馬鹿にしてるの?」
「何で突然不機嫌になるの?」
「だってあなた、まるで私を子供みたいに扱ってる!」
「皿洗いが初めてだから心配で」
「余計なお世話よ」
「ああ! そんな乱暴な手つきでお皿の山に触ったら!」
ドンガラガッシャーン!
「こうなったら何回でも時を戻してやる!」
「僕が洗うから、洗い終わったお皿を拭いて」
「拭けばいいの? あなたが大変じゃない?」
「大丈夫! それにロベルタでも水をふき取るくらいならできるでしょ!」
「何? 馬鹿にしてるの? そんなの子供でもできるわよ」
ツルリ! ガチャン!
「流しに置いて洗おう! お皿をピッタリ流しにくっつければ落とさない!」
「落とさないって、流しに置くんだから落とすも何もないでしょ?」
「ちょっと! 僕がお皿を置いてあげるから!」
「そんなことしなくていいわよ! こんなことボケ老人でもできるわ!」
パリン!
「僕が洗うからロベルタは休んでて!」
「良いの?」
「大丈夫大丈夫! ロベルタは疲れているんだ!」
「なら頑張るわ!」
「何で?」
「あなたが頑張ってるのに見てるだけなんて嫌!」
グシャ! メリメリメリ!
「僕と一緒に洗おう」
ロベルタの背中に回って、手を取る。
「ちょ、ちょっと!」
「大丈夫大丈夫! これなら上手く行くから」
ロベルタの手からお皿が零れ落ちないようにアシストする。
「やった! 上手く洗えた!」
ついに無傷でお皿が生還した!
「も、もういいわ! 十分分かったから!」
「ダメダメ! せっかく上手く行ったんだから、このまま洗おう」
「そ、そう。まあ、あなたがどうしてもって言うなら良いけど」
「どうしても! お願い!」
「しょ、しょうがないわね……ところであなた疲れてない? 何か地獄から這い上がってきたような顔してるけど?」
「一億五千万回も時を戻したからね……勇者以上の強敵だった」
「あなた、やっぱり疲れているわ。私が一人でやるから休んでなさい」
「それは勘弁して!」
「いただきます!」
洗い終わったのでようやくご飯が食べられる! パンとジャガイモのスープだ!
「美味しい!」
ロベルタは笑顔でパクパクと食べる。
とっても苦労して、正直怒りを覚えたけど、この笑顔には敵わない。
「どうしたの? 食べないの?」
「ロベルタが可愛いから見とれちゃって」
ブッとロベルタが熱々のジャガイモを噴き出す!
「目が! 目が!」
「突然何を言い出すのよこの馬鹿!」
ロベルタはそっぽを向いて食べる。
「でも、今日はありがとう。ジルのおかげでご飯が食べられた」
ぼそりと呟く。真っ赤な顔はやっぱり可愛かった。