勇者の剣を抜いて勇者になった!
「魔王だ! 逃げろ!」
「ひぃいいい!」
お城の中庭にワープすると、皆がパニックになる。
「あの……すいません」
「近衛兵! 早く来い!」
「お待たせしました! お前ら! 囲め!」
「承知!」
ズラリと百人くらいの騎士に囲まれる。
どうしよう? 何があったのか聞きたいだけなのに、大騒ぎになってしまった。
「な、なんて威圧感だ!」
「た、立って居るだけなのに、気絶しそうだ!」
「あ、あの! 大丈夫ですか! 顔色が悪いですよ!」
「ぐ! 無念!」
近づこうとすると、バタバタ倒れる!
「引け引け引け!」
「世界の終わりだ!」
あっという間に逃げてしまった。倒れた人たちは一緒に連れ出されたから、大丈夫だとは思うけど、ちょっと心配だ。
「そっか。人間形態になってなかった」
鏡を作り出して姿を確認する。
失敗した。
そもそも顔が怖い。口が耳まで裂けている。角も禍々しく生えている。
これじゃ悪い魔王だ。
「出直そう。皆、ごめんね」
これでは怖がられて当たり前だ。
「……これで良いかな?」
魔王城に戻ってメイクを済ませる。
とりあえず髪は黒、瞳も黒に設定した。
そして顔! これが重要。お目目パッチリで笑顔の似合う可愛い顔にした!
「怖がらせちゃダメだからね!」
身長も小さめにした! まるで子供だ!
「友達百人できるかな! 特に女の子!」
服は冒険者っぽい奴を選ぶ! 旅の基本!
「出発!」
もう一度お城へ行く!
「魔王が蘇ったぞ!」
お城の近くにワープすると、何やら人々が騒いでいた。
「何が起きたんですか?」
「ガキはどけ!」
聞いたけど誰も立ち止まってくれない。
仕方ないのでお城の周りをウロウロする。
「静粛に!」
突然人々が押し黙る。
「何が起きるんだろう!」
僕も一緒にドキドキと押し黙る。
「これより、勇者の選定を行う!」
「勇者の選定!」
ソワソワと隣の可愛い女の子に耳打ちする。
「ねえねえ! 何が起きるの!」
「何よあんた突然!」
「僕、初めてここに来たから、何が起きたのか知らないんだ!」
「野次馬? 早く帰ったほうが良いわよ」
「お願いだから教えて!」
「うるさいわね! 魔王が蘇ったのよ! だから魔王を打ち倒す勇者を選ぶの! 私たちはそのために来たの!」
「勇者! じゃあ君は勇者!」
「その資格があるか調べるの! うるさいから黙って!」
怒られた。
「では選定を行う。一人一人、前に出てこの剣を抜け。見事抜けた者が勇者だ」
王様が言うと人々が一斉に並ぶ。
「ねえねえ、あれって勇者の剣?」
「そうよ!」
「何で台座に突き刺さってるの?」
「昔の勇者様が魔王を倒したから必要ないと、突き刺したって聞いたわ」
「何で突き刺すの?」
「知らないわよ! もう関わらないで!」
女の子はプリプリと怒って列に並ぶ。
だから僕も並ぶ。
「何であんたが並んでんの?」
「僕も勇者になりたくて」
夢だった魔王を倒す勇者になれる機会だ!
やってみないと損!
何より女の子が可愛い。
「勇者になりたい? 野次馬根性丸出しね。早く帰ったほうが良いわよ」
「何で? 君も並んでいるじゃないか」
「私は由緒正しい勇者の家系! あなたとは違うの!」
「そうなの! じゃあこの人たちもそうなの!」
「こいつらは自称勇者の家系よ。私が本物なんだから間違いないわ」
「へー! じゃあ君は魔王城へ行くんだ!」
「そうよ!」
「僕に会いに来てくれるんだ!」
「あんた、悪魔祓いしたほうが良いんじゃない? 何言ってるのか分からないわ」
女の子はウンザリした顔で剣の前に立つ。
「行きます!」
そして王様に宣言すると、柄を握りしめる。
「ムー!」
そしてうんうんと頑張って引っ張る。
「そ、そんな!」
女の子は顔が真っ赤になるまで頑張ったけど、ダメだった。
「次の者!」
係りの人が泣きわめく女の子を台座から下ろし、僕に声をかける。
「抜いていいんですか!」
「そのために並んだんだろ。早くやれ」
「はい!」
ドキドキと剣の柄を握りしめる。抜けたら勇者だ!
「よいしょ!」
ベキ!
「……は?」
王様や係りの人、そして女の子、周りにいる人全員が目をパチパチさせる。
「お、折れた?」
剣が真ん中からポッキリと折れてしまった!
「ご、ごめんなさい! 時よ戻れ!」
慌てて時を戻し、剣を抜く前の時間に戻る。
周りをチラチラ見る。僕が時を戻したことには気づいていない! 良かった。怒られなくて済む。
「早くやれ!」
「はい!」
もたもたしていたため叱られた。急いで、今度は優しく抜こう。
「よいしょ」
ズボ!
「抜けました!」
「地面がぁあああああ!」
よく見ると台座が剣の先っぽに付いたままだった。足元には大きな穴ぼこが空いている。
「時間よ戻れ!」
それから何十回も試したけど、傷つけず抜くことができない。
「何かおかしいな?」
時を止めて台座と剣を調べる。
「何でボルトで固定してあるんだ? これじゃ抜けないよ」
よく分からないけど、ボルトを外して時を動かす。
スポ。
「抜けました!」
シーン。
「ぬ、抜けた? 固定してあったのに?」
王様と係りの人が目を点にしている。
「うそ! あいつが勇者! なら私は誰!」
女の子は目を回している。
「えっと! 抜けたから僕が勇者ですよね!」
「え、あ、うん」
係りの人が気まずそうに王様を見る。
「よ、よくぞ現れたな勇者よ!」
「どうもです! 魔王兼勇者です!」
「げ、元気が良いな」
「はい! それで僕はどうしたらいいですか?」
「え、うん。あれだ、まずは仲間を集めなさい」
「仲間? 僕を倒しに行かなくていいんですか?」
「は? いや、とりあえず仲間を集めなさい。三人か四人くらい。集めたらまた来なさい」
変な王様。だけど、仲間! そうだ! 僕は勇者だ! 仲間を作らなくちゃ!
「分かりました! 女の子を仲間にします!」
「ん! ああ! まあ勝手にして」
よし! まずは仲間集めだ!
すでに一人は決定している!
あの泣いている可愛い女の子だ!