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5話:気高き心、その源流

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「アンジュよ。今や其方そちは、我ら風の民にとって、なくてはならない大戦士へと成長した。先の戦いで半壊したグリムガル族に代わり、新たな部族連合首座(しゅざ)グ・ヒュー族の筆頭戦士アイオーン・エナとなり、稲妻いなずまの予言の示す通り、邪悪なる月の帝国を討ち滅ぼすのだ」


「はい、承知しました、ダンファラス司教座下(ざか)


よろしい!それでは、我らが大神エイラーンの祝福されし神槍しんそうを受け取るがよい」


「こ、これは!?」


「大神エイラーンが天宮ズ・フェンティアーより奪いし、稲妻の英霊デアベララを封じたベラ・ズ・フェンティル。今や嵐の眷属けんぞくとして我らの精霊しょうろうたる電童子いなずまわらしを宿す神槍かんやりなり」


「有りがたき幸せ!」



―――――



 “黒の華墨かぼく”が届いた――



 英傑探求業ヘロスコンキシティオは、またもついえた。

 三度みたび、『嵐を呼ぶ者たちの探索行たんさくこう』の再現にいどみ、失敗した。

 有史以来、“嵐を呼ぶ者たち(ストームブリンガーズ)の探索行(クエスト)”の再現を成功した例は数少なく、断片的な成功を収めただけで大英傑グランドヒーロー賞賛しょうさんされる程の偉業。

 私はいまだ、部分的な成功どころか、その目途めどさえも立っていない。


 探索行についての数々の伝承や散逸さんいつした書物を調べ尽くし、数多あまた精霊しょうろう達にたずね、幾度いくどとなく神託をたまわり、入念な準備を整え、精神も肉体も魔力もきたえた。

 しかし、とどかず、及ばない。

 隠世かくりよ英傑世ひろよいま常闇とこやみ曠空むなし黒暗淵やみわだ

 果てしない久遠くおんごう、英傑とはくも厳しくはるかなる道程みちのりなのか。


「――母さん…」



―――――



 母さんは、本当に強いヒトだった。

 グ・ヒュー族の中にあって五大氏族の一つ、ヴァン・ヒュー氏族の族長ゲランドムスの娘としてジョシュカは生まれ、氏族の一番槍トアネモイェンコスとして育てられた。


 月の友カナーシュに援軍を送った遊牧民ノマデスを指揮していた将、“極星の(ナヴィガトリア)”オルガ・ベキとの戦いは、ザンジムの丘で繰り広げられた。

 遠大えんだいな遠征をしてきた極星きょくせい率いる遊牧民の戦士達は、見知らぬ土地での戦いに苦戦をいられ、カナーシュ本隊から切り離され孤軍奮闘こぐんふんとう、吹きすさぶ風の祝福に満たされたザンジムで孤独な野営にあった。


 いよいよ決戦が近いとさとったヴァン・ヒューの族長代にあったジョシュカは、ガドン・ヒュー、バラム・ヒュー、エイドン、アルルバラカの四氏族の戦士長や司祭達を集め、ザンジムに立てもる遊牧民を蹴散けちらす為の会議を取り仕切った。

 集まった各氏族の猛者もさや長老達は、口々に数で勝る我々からの突撃で敵を根絶ねだやしにする強行案を述べた。

 ディヘリッサ族の賢者ティコワントは、熱い猛攻が語られる中、冷静な兵糧ひょうろう攻めを提案。

 輜重しちょうが断たれ、飢餓きがに苦しむ遊牧民共を相手に、風の戦士達を無闇むやみに負傷させる訳にはいかない、そう彼は主張した。

 兵糧攻めに長老や司祭達は賛同したが、猛者達はそんな“卑怯ひきょう”なり方では六徳りくとくの一つ“名誉”を失うと反対した。


 六徳りくとくとは、エイラーンのたっとぶ徳ある生き方であり、名誉、勇気、寛大かんだい、正義、敬虔けいけん、知恵の6つを指す。

 勝利は敬虔さを示し、その為の手法として、兵糧攻めは、知恵と正義を、正面突破は、勇気と正義、名誉をそれぞれ示し、前者は名誉を失い、2つの徳を得、後者は3つの徳を得て失わない、それが敬虔なるエイラーン信徒のあるべき姿、それが大勢を占めた。

 しかし、カナーシュ本隊との戦いを考慮した場合、戦傷者を増やすのは愚策ぐさくである事もみな知っている。

 勝利そのもののり方が名誉であれば、勝利に至る迄の遣り方は不名誉ならざるすべ、そう考える者達がいてもなんら不思議ではなかった。


 まとまりを欠く会議にあり、ジョシュカは大胆な意見をとなえる。

 ――それは…


 ザンジムにある遊牧民に食糧しょくりょうを届けたすける、というもの。

 会議に居並ぶ風の代表者達は驚愕きょうがくし、間もなくジョシュカをののしり、その後、理由をうた。


 ジョシュカ、いわく――

 故郷を離れ遠く異郷いきょうまでやってきた遊牧民は、たとえ敵とはえ、勇気ある者達である、と。

 その勇気ある者達が見知らぬ土地で孤立し、飢餓きがあえいでいる。

 たとえ敵であろうと六徳りくとくを示した者はたっとぶ、それがエイラーン神の在り方、さりよう

 我々は、そんな勇気ある敵達に寛大さをもっせっするき、それが敬虔なるエイラーン信徒の理想の姿である、と。

 寛大さを示し、名誉ある正義の行動を取り、勇気と知恵をしぼり、信心しんしんを誇る、それが我々の真の姿である、と。


 居並ぶ風の民達は、ジョシュカの言に再び驚嘆きょうたん

 確かに、追い詰められた者達の抵抗は想像を超えて頑強がんきょう

 下手に追い詰め刺激をすれば、我らの戦死者も増える可能性が高い。

 ジョシュカの提言に賞賛、そして、誇らしく彼女をたたえた。


「なんたる女傑!まさにエイラーンの言動にしてお考え。ジョシュカよ、正に神の子(なり)。我らの長に相応ふさわしき者也」


 くして、ジョシュカは只一人ただひとりでザンジムの丘に出向いた。

 魔力を込めた口笛に率いられ、輜重しちょうの牛馬、羊に山羊、鶏らが彼女を追った。

 彼女は出立しゅったつ前、風の戦士達に語った。


七度ななたび太陽が昇って私が戻らなかったら、丘にある敵を攻めよ。私が戻り、七度太陽が昇って尚、丘から敵が退去しなければ、敵を攻める」



―――空白の時



 ジョシュカが丘から戻ったのは、7度目の朝を迎える直前の事だった。

 間近まぢかに日の出を迎える黎明れいめい、まるで太陽を背負せおうかのようにして彼女は帰還きかんした。

 彼女の笑顔は雄々(おお)しく雄大にして優しく、それでいてつやっぽく、なお、美しかった。


 彼女は戻って一言、つぶやく。


「――徳は示された」


 やがて、遊牧民は丘を下り、北方へと立ち去った。

 そのさまは、敵ながら雄壮ゆうそうであった。

 我々を背にし、振り返る素振りも見せず、悠々(ゆうゆう)と立ち去る。

 背後をかれる恐れ、それを微塵みじんさえ感じさせぬさま

 敵は我々の言を信じたのだ。

 我らも彼らを信じ、見送るのだ。

 再び相見あいまみえるその日(まで)しばし我らと彼ら、互いの栄誉えいよを称えよ。


 そして、ジョシュカよ――

 ――我らの英雄にさちあれ!

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