2.遭難事故を追え
本編の後日談的な話です。
ほとんど出番が無かったカガリを描くために海ネタにしました。
魔大陸同盟の統制官として忙しい日々を送っていたある日、カガチに意外な訪問者が来た。
「え、トンガの総督が訪ねて来たって?」
「そうなんすよ、兄貴。大至急、相談したい事があるって言ってます」
現在、カガチの運営を任せているケンツを通して俺に面会依頼があったようだ。
「今はちょうど時間あるからいいよ。どこに行けばいい?」
「それは良かったっす。役場の応接室で待ってるから、一緒に来てください」
今、このカガチには俺達”妖精の盾”だけでなく、いろんな人間が集まって来てちょっとした町になっており、役場まであるのだ。
最初はせいぜいケレスが配下に収めた海賊だけだったのだが、徐々に魔大陸中のあちこちから人が集まって来た。
俺がフェアリー印のワイバーン便と、ケレス配下の船乗りを使って商売している事を聞きつけた各集落の有力者が、自分の子弟に修業させてくれと送り付けて来るからだ。
実際に修業が主目的で来ている奴らも居るには居るのだが、ほとんどは魔大陸の影番である俺と関係を持つのが狙いだ。
最初は面倒臭いので断っていたのだが、俺も統制官と言う立場があるため全ては断りきれなくなる。
一旦受け入れてしまうと、雪崩をうったように希望者が殺到し、見る間にこの町の住人が膨れ上がったって寸法だ。
ただし使えない奴はすぐに追い返すので、ここに居るのは優秀な奴ばかり。
おかげで商売が繁盛し、その規模はどんどん膨らんでいる。
そこで儲けの一部を惜しみなく同盟に還元したら、ますます俺の声望が高まり、修業希望が増えると言う悪循環になってしまった。
なんとか歯止めを掛けたい所だが、今の所妙案が無いのが実情だ。
そんな事を考えながら歩いていると応接室に着き、ドアの向こうにトンガの総督が待っていた。
「これは総督、お久しぶりです」
「ああ、久しぶりだ。それにしても何だここは? いつの間にか町になっとるじゃないか」
「ええ、お陰様で商売が繁盛してまして」
「商売繁盛するにしても限度があるだろうに……」
「そう言う総督だってかなり羽振りがいいらしいじゃないですか。連日、魔大陸産の食料貿易に食い込みたい商人達が貢いでいるとかいないとか」
「ブホッ……人聞きの悪い事を言うな。交易量が増えてその遣り繰りに大変なんだぞ」
奴隷貿易の替わりにエルフが提案した鮮度維持魔法付き食料の輸出は大当たりし、今やトンガの主力製品になっている。
1ヶ月経っても新鮮なままの肉や果物は人族国家で大きな需要を喚起し、常に供給が不足気味な状況だ。
「それで、お忙しい総督が何の御用ですか?」
「そうだ、今日は折り入ってデイル殿に相談したい事があって来たのだ……実は最近、交易船の遭難が増えておってな」
「遭難ですか。それは大変ですね」
遠く離れたミッドランド大陸と行き来する船は巨大で高価なものだし、多くの船員も乗せている。
最近、輸出が増えているトンガにとっては頭の痛い問題だろう。
「以前はめったに無かったのが、最近は月に1件かそれ以上発生している」
「原因は分かっているのですか?」
「西に半日程行った所にある岩礁地帯で発生しているんだが、原因が分からん。岩礁は遠くから見えるし、暗礁の調査も進んでいるので、普通なら避ければ済む話だ」
「生き残った人は居ないんですか?」
「座礁して救命艇で逃げて来た者は多い。しかし、気が付いたら座礁していて、それまでの過程は覚えていないと言うのだ」
「ああ~、それは魔物か何かが関わってそうですね」
「やはりおぬしもそう思うか? 儂もそんな気がしたので船を1隻、調べにやったのだ」
「それでどうだったんですか?」
「何も見つけられずに座礁して、救命艇で帰って来おったわ」
総督がガックリと項垂れている。
「ほほう、それで俺にどうしろと?」
「おぬしの方で改めて調査してくれんか?」
「すでに調査失敗してるのに、なんで俺なんですか?」
「おぬしは魔物とか魔族に強そうだからな。サキュバスクイーンとも懇意にしてるらしいじゃないか」
「そりゃまあ、多少はそう言う付き合いもありますが、海は全くの専門外ですよ」
「中型の交易船で商売もしとるんだろう? もうおぬししか頼れる者が居らんのだ」
嘘吐け、また船を座礁させたくねえだけだろうが。
そう思ったが、けっこう必死なので追及は止めておいた。
実際問題、海蛇竜のカガリを味方に付けている俺が調査に最適なのも事実だろう。
「仮に調査を受けるとして、報酬はどうなりますか?」
「原因の調査に帝国金貨20枚、原因を排除してくれればさらに20枚払おう」
「もし船を沈められたりしたら、補償はしてもらえますか?」
「いや、船と船員はこちらで準備するからそちらは調査に集中してくれればいい」
ふむ、それなりに考えてはいるようだな。
船が必要な時は手を借りるか。
いずれにしろカガリを入れて今後の事を相談してから考えればいい。
「分かりました。やり方は仲間と相談するので、必要ならこちらから連絡します」
「おお、受けてくれるか。さすが同盟の統制官だけあって義侠心に溢れているな」
この野郎、調子のいい事言いやがって。
まあ、この総督には奴隷狩り廃止で力になってもらったから、手を貸してやるか。
その後、ケンツとケレスを呼んで対策会議を開く。
ちなみにチャッピーとレミリアは特に用事が無い限り、俺の側にいるので自動参加だ。
さらにカガチの近くのねぐらで待機しているカガリには念話で参加させる。
彼女はすでに30m級の巨体に成長しているので、下手に呼べないのだ。
俺は簡単に総督からの依頼を皆に説明し、意見を求めた。
「と言う訳でトンガの総督から頻発する遭難の原因調査を依頼された。どうも話からすると魔物か魔族が裏に居るような気がするんだが、どうかな?」
「それは魔物の可能性が高いね、ご主人。人魚とかセイレーンて奴が船を惑わせるって聞いた事があるよ」
「そうっすね。町の中でも船乗りがそんな噂をしてるらしいっすよ。そのくせ誰も見た者は居ないらしいけど」
「ふーん、人魚とかセイレーンってのが居るのか。カガリ、実際この辺にそんな魔物は居るのか?」
(人魚ならたまに見るよ、ご主人様)
「人魚が居るのか……まあ、まだ決めつけるには早いけど、その可能性を視野に入れて調査しよう」
「そうだね。とりあえずあたいは配下の船乗りから情報を集めるよ」
「うん、ケレスの方はそれで頼む。後は現地の調査をカガリに頼みたいんだが、出来るか?」
(どうすればいいの?)
「西の岩礁は分かるよな? あそこに交代で見張りを置きたい。確かカガリには部下がいっぱい居るんだよな?」
(うん、いっぱい居るよ。ケルピーとか、針アザラシとか、刃鮫なんか強いよ)
「うーん、出来れば目立たなくて頭のいい奴がいいな」
(それなら幽霊タコとかお喋りイルカにお願いするね。遭難した船は助けなくていいんだよね?)
「ああ、見張るだけでいいよ。それで犯人が分かったら、その住処も分かるとなおいい。無理はしなくていいけどな」
(分かった。今からお願いしてくる。うまく見つけたらご褒美ちょうだいね)
「おう、魔力でも食い物でも好きな方をやろう」
(やったー)
カガリが喜んで離れて行く気配がする。
「まあ、とりあえず出来る事はこんなとこか」
「そうじゃな、しかし仮に人魚が悪さしていたら、どうやって止めさせるか、じゃのう」
「それは何か分かってから考えればいいよ。変に先入観を持たない方がいい」
「それもそうじゃな」
想像以上にボリュームが膨らんだので、6/21に続きを投稿します。




