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妖精付きの迷宮探索  作者: 青雲あゆむ
第2章 魔大陸解放編
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67.シーサーペント

 帝国側との交渉が決裂した後も、俺達は奴隷狩りを摘発し続けた。

 あれから2週間で3組を拘束し、鉱山に送り届けて雇い主の商会にも報告してある。

 さすがに並みの冒険者では歯が立たないと業者も理解して大人しくなったが、まだまだ油断は禁物だろう。


 一方で俺達は西部同盟の戦力強化を急いでいた。

 まず各集落で自警団を増強し、訓練を始めている。

 獣人や鬼人に強靭な戦士が多く居るのは事実だが、戦闘経験のある人材は意外に少ないのだ。

 最悪は軍隊との戦闘も想定されるので、集団戦闘にも慣れておいて欲しい。

 幸いな事に、この件については竜人族のリューガさんが引き受けてくれた。

 元Aクラス冒険者のリューガさんはリューナ達を奴隷狩りに攫われて恨み骨髄に達している。

 あのような悲劇を少しでも減らすためと、精力的に同盟の集落を回って訓練を付けてくれている。


 それから同盟内の連絡手段についても目処が立った。

 ミレーニアからもらったつなぎ石は念話が可能な相手同志をつなぐアイテムである。

 だから使役スキルで契約していない人との連絡には使えないのだが、かと言って俺の部下をいちいち集落に配置するのも現実的でない。

 そこで何かいい方法が無いかと、試しに猫妖精ケット・シーのナゴに相談してみた。


 彼が女王と相談した結果、各集落の巫女に使役スキルを使えばいい、と言う話になった。

 ほとんど知らない人達が契約してくれる訳無いと言ったら、女王から神託を下すから大丈夫と言われる。

 そんなアホな、と思ったが実際に集落を回ってみると、全員が快く契約してくれた。

 巫女さん達から言わせると、妖精女王の後ろ盾を持つ俺にはその資格があるんだそうだ。


 少々申し訳無かったが、今回は彼女達の厚意に甘えさせてもらう事にする。

 こうして巫女さん達と使役契約を結び、それぞれにつなぎ石を持たせる事で同盟内のネットワークが完成した。

 ちなみに俺にだけ念話が集中しても困るので、通信は数人の部下に担当を割り振ってある。

 実は最初、バンバン念話が掛かって来て大変だったんだ。

 巫女さんの愚痴とか聞かされても困るっての。



 こんな風に着々と同盟が強化されつつあったある日、ドワーフのガムが俺に相談を持ち込んだ。

 その手には傷だらけの白っぽい蛇みたいな生き物を抱いている。


「デイル様、海辺にこれが打ち上げられてただ。なんとなく知性があるみてえだから助けてやりてえんだけど」

「知性があるって、何か喋ったのか?」

「いや、なんとなくだけど、助けてくれって言ってる気がして……」


 ガムがその蛇を揺すると、そいつが弱々しげに目を開け、”クー”と鳴いた。

 体長が1mくらいで、背びれの付いた蛇みたいな体にヒレ状の足を4本持ち、頭部には角も付いてる。

 確かにただの生き物では無さそうだ。


「チャッピー、これ何か分かるか?」

「儂にもよく分からんが、明らかに魔物じゃな。ひょっとして海蛇竜シーサーペントの幼体かも知れん」

「シーサーペント? それって凄くでかくなるんだよな。下手に助けない方がいいかも知れないな」


 俺がそう言うと、ガムが涙目で訴えてくる。

 うわ、そんな切なそうな目で見るなって。

 何か俺が汚れてるような気分になるじゃねーか。


「そうじゃな、下手に暴れられても困るから、おぬしの使役スキルを受け入れるなら助けてやると言うのでどうじゃ?」

「それもそうだな……どれ、契約が通じるかな?」


 この不思議生物に使役スキルを行使すると、速攻で契約が成立した。


(ママ、ママ、どこにいるの? わたしをおいてかないで)


「うおっ、いきなり念話が成立したぞ、こいつ」

「本当じゃ……やはりシーサーペントのようじゃな、こやつは」


 その後は水を入れた大きな桶を持って来て、水の中で治療を試みた。

 最初はチャッピーが回復魔法を使ったのだが、体中の傷や衰弱は治らない。

 そこで俺が魔力を注入してやると、少し元気になって来た。


「母親を探してるみたいだから、なんかの拍子にはぐれたのかな」

「おそらくそんな所じゃろう」

「それにしてもなんて呼べばいいんだ。おい、お前に名前はあるのか?」


(なまえってなーに? それおいしーの?)


「駄目だこりゃ。それじゃあ適当に付けるか。カガチで見つけたんだからカガコ、カガミ……そうだカガリでどうだ?」


 次の瞬間、俺の魔力がごっそり持って行かれ、眩暈に襲われた。

 またやっちまったか。

 バルカンに名前付けた時以来だな、この感覚は。


「デイル、シーサーペントのような高位の魔物に下手に名付けなどするものでは無いぞ……もう遅いがな」


 そう、目の前のカガリは大きく変化していた。

 体が倍くらいに大きくなって桶からはみ出しているし、背びれや角、手足が立派になっている。

 おまけにその瞳には知性が宿り、明らかに別の存在に成り変わっていた。


(ママ、ママ、そこに居たんだね。でも前と見た目が違うみたいー)


「カガリ、俺はお前のママじゃない。明らかに違う生き物だろ。俺の事はご主人様か主と呼びなさい」


(分かった、ご主人様。私はシーサーペントのカガリ。ご主人様に忠誠を誓う第一の眷属だよ)


 第一の眷属って、いきなり知性レベルが跳ね上がってるぞ!


(産まれたばかりのシーサーペントが第一の眷属などと付け上がるな。汝はせいぜい4番目だ)


 ここでバルカンが割り込んできてケンカが始まった。

 そのままギャアギャア言い合ってる事から見て、こいつら相性悪そうだ。

 頼むから仲良くしてくれ。


 落ち着いてから話を聞くと、カガリはずっと遠い所で母親と暮らしていたらしいのだがある日、その母親に勝負を挑む存在が現れた。

 母親は縄張りを掛けてそいつと激戦を繰り広げたのだが、どうやらその過程でカガリが強い海流に捕まり、親とはぐれてしまったらしい。

 そして延々と流されてきた挙句にここの海岸に打ち上げられ、ガムに拾われたようだ。


 カガリはまだ産まれたばかりなので、親から魔力を分けてもらわないと生きて行けない。

 エサも取れず、魔力も枯渇して死に掛けていた所で俺に拾われたってのは、これも何かの縁なのか?

 実は同盟の立ち上げによって、この拠点が攻撃を受ける可能性が高まっているので、海の魔物を手に入れたのは都合がいい。

 最低でも海側の警戒には使えるし、あわよくば結構な戦力になるかも知れないからだ。


 しかし俺がシーサーペントを使役獣に加えた事に対する仲間の反応は微妙だった。

 サンドラを始めとする戦闘系脳筋タイプは”さすがデイル様”で済んだが、まずレミリアに怒られた。


「いきなりシーサーペントなんか飼ってどうするんですか、ご主人様。どれだけ大きくなるか分からないし、はぐれた母親が取り返しに来るかもしれないんですよ。もう少し自重して下さい」


 レミリアの言う事ももっともだが、あそこで見捨てる選択肢は無かった。

 人族からの反撃に備えるために必要だと言って、その場は説き伏せた。


 他にもシュウやケンツなどの孤児組は”デイルさんだからしょうがないよね”みたいな感じで呆れてる感じだ。

 唯一、カガリを持ち込んだガムだけは俺への尊敬を強めたようだが、それ以外のメンバーにとっては微妙な評価である。


 なぜシーサーペントなどと言う高位魔物を味方に付けたのに、俺が責められねばならないのだ?

 リーダーとしての俺の権威をお前達は何と――


 まあいい、実際にちょっと迂闊だったと思うしな。


 ちなみにチャッピーによると、シーサーペントは竜種のひとつで海に適合した下位のドラゴンなんだそうだ。

 つまり飛竜ワイバーンのバルカンとはライバルみたいなもので、それで対抗意識も強いんじゃ無いかって話だ。

 いずれにしろカガリが竜の仲間なら、相当強くなる事が期待できる。

 しばらくは俺の魔力注入が必要だが、エサは自分で取れるようになってるので、さして手間は掛からないだろう。

 当面は拠点周辺を警戒するよう指示して放っておいた。



 それから数日後、リーランド王国の官僚を名乗る者がカガチを訪れた。


「私はリーランド王国三等書記官アラン・ガイストである。今日は貴様らが不法に占拠しているカガチの即時引き渡しを要求するために来た」

「私がここの責任者のデイルです。このカガチはすでに放棄されて久しいと聞いていますが」

「放棄したのでは無い。一時的に留守にしていただけだ。リーランド王国の財産を無断で使用するなど断じて許されん」


 最初に来た時、グチャグチャに荒らされてたんだがな、ここは。

 それを一時的に留守してたとか、どの口が言うのかね。


「いや、現実に私が来た時に門は壊れてたし、中もグチャグチャでしたよ」

「少々壊れていようが、この敷地全体が王国の物だ。我々の留守中に乗っ取るとは不届き千万。直ちに引き渡せ」


 話にならないな。

 確かに一部施設を流用してるから、こんな事もあるかとは思っていたが。


「でも、ここは私達以外には維持できませんよ。貴方達は魔物の侵攻を押さえ切れずに放棄したんでしょう?」

「だから、ちょっと留守にしていただけだ。現実にお前ら程度が暮らしているんだから、放棄などする訳が無いであろうが」

「俺達は特殊な魔物除けの手段を持ってるから、ここに住めるんです。普通の人は1週間も保たないですよ」

「何? よし、その魔物除けの手段を残していけば処罰だけは見逃してやる。良かったな、莫大な賠償金か懲役を課される所だったぞ、ハッハッハ」


 うーん、何でこんなに強気なんだろうね。


「あのー、さっきから随分と偉そうな事を言ってますが、どうやって法を執行するんですか?」

「何っ、貴様リーランド王国をバカにするのか? さっさと王国の権威に服して明け渡せば良いのだ」

「いや、だからこの魔大陸では王国の権威なんて無いじゃないですか」

「バカめ、これだから冒険者と言う奴は。帝国の兵力を借りるとか冒険者を雇うなど、やり方は幾らでもあるのだ。今の内に明け渡した方が身の為だぞ」

「ほほう、帝国が協力してくれるんですか? さては西部同盟の件でそそのかされましたね」

「な、何を言っておる。同盟など関係無いわ」


 ようやく話が見えて来た。

 大方、帝国の役人が俺の力を削ぐために、王国の役人を動かしたのだろう。

 その後も役人は高圧的に喋っていたが、適当にあしらっていたら怒って帰ってしまった。


 全く、何だったんだ、と思っていたらその晩、冒険者らしき一団がカガチを襲撃して来た。

 最初、シルヴァの探知に引っ掛かり、ボビンの結界にも反応があったのだ。

 仕方なく迎撃に出ると、20人を超える男達が防壁を乗り越えようとしていたので、弓と散弾で返り討ちにする。

 さすがに殺すのは忍びないので手加減してやったら、ひーひー言って逃げ帰って行った。

 おそらく昼間の役人に襲撃を依頼されたんだろうが、ご苦労なこった。


 さて、次はどんな手で来るのやら。

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