66.西部同盟
【告】
我々、魔大陸西部異種族同盟は、人族に対し魔大陸内での奴隷狩りを即座に中止する事を要求する。
万一、この要求が叶えられない場合は、我々は独自の判断で奴隷狩り集団を逮捕し、処罰を与えるものなり。
逮捕された犯罪者は初犯のみガサルに預け、1ヶ月の鉱山労働に従事させた後、放免と成す。
ただし再犯者についてはその場での処刑を含む厳重な処罰で臨む事をここに宣告する。
尚、ドワーフ族は本件に関し中立を保ち、同盟と帝国との間で仲介の労を取る事をここに記す。
竜人族代表 一の庄のリューデン
鬼人族代表 一の郷のゲイル
エルフ族代表 二の庄のラナウス
ダークエルフ族代表 一の庄のリガン
狼人族代表 二の郷のダイロン
獅子人族代表 一の郷のライアス
虎人族代表 三の郷のザイド
狐人族代表 一の郷のサラム
猫人族代表 一の郷のブラム
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西部同盟会議の翌日、トンガの総督府と奴隷狩りを牛耳っている4大商会に抗議文が届けられた。
この文書に対し、総督府からは直ちにガサルの町役場へ人が送られ、強い抗議が寄せられた。
帝国は奴隷狩りを推奨するものでは無いが、一方的な中止要求は受け入れられず、またドワーフが今後も同盟に協力するのなら、商業活動に差し支えるだろうと脅されたそうだ。
しかも今まで奴隷狩りの対象から外されていたドワーフ族を、今後は守り切れないかも知れないとまで言って来たらしい。
これに対して町長のガサルカは、あくまでドワーフは中立であり、帝国と同盟の友好を橋渡ししたいと考えていると回答した。
これくらいの脅しは想定の範囲内だったのと、ドワーフの中でも人族の横暴に対して反感が高まっているため、町長の判断が案外支持されているんだそうだ。
まあ、俺が簡単にガサルの産業に打撃を与えられると思い知ったのもあるんだけどな。
一方、4大商会も激怒していた。
こいつらは裏で何をやるか分からないので、チャッピーや猫妖精のナゴに偵察してもらった。
4大商会とはゲッコー商会、ゴクド商会、ハッサン商会、テバル商会で、ゲッコーのトンガ支店は俺達がぶっ潰したばかりだ。
ゲッコーは懲りずに新たな人員を派遣して再建しようとしているらしいが、当面は再建だけで精一杯なのでここは放っておいていい。
問題はゴクド、ハッサン、テバルとなるが、どの商会もカンカンになって怒っているらしい。
そりゃあ、奴らの最大の収益事業をすぐに止めろと言われりゃ怒るのも当然だろうが、そもそもが卑劣な犯罪行為なのだ。
それを棚に上げて一方的に怒るような奴らに遠慮する必要は無い。
容赦無く叩き潰してやろう。
幸い、当面は連携するような動きは見えなかったので、個別に対応する事にした。
やがて猫妖精のナゴから狐人族の村周辺で奴隷狩り発見の知らせがあった。
メンバーとしてレミリア、ケンツ、ケレス、キョロ、シルヴァを選び、バルカンに乗って出発する。
半刻ほどで現場に到着してシルヴァに探してもらうと、すぐに見つかった。
冒険者風の男達が5人、狐人を3人引き連れて移動していたので、前方に回り込んでお出迎えをする。
「よう、あんたら、どう見ても奴隷狩りだよな?」
「何だお前ら? 俺達の邪魔をするなら容赦しねえぞ。それともそっちの獣人を俺達に献上しに来たのか? ギャハハハハッ」
「あんたらが知らないのも当然なんだが、今日から奴隷狩りは禁止されたんだよ。さすがに初回で処刑するのも何だから、鉱山で1ヶ月、無償労働してもらう。次に捕まえたらその場で処刑されるかもしれないから覚えとくようにね」
「はあ? そんなの知るか。やれるもんならやってみろってんだ!」
「じゃ、そうさせてもらうよ。キョロ、やれ」
次の瞬間、キョロの雷撃で5人の丸焼きが出来上がった。
俺達は手早く奴らを武装解除して縛り上げ、バルカンの飛行箱に放り込む。
一応、ケレスに尋問させたら、こいつらはゴクド商会に雇われている事が分かった。
過去の余罪を考えると、さっさと殺した方がいいような奴らなんだけど、さすがに最初から処刑すると帝国との関係がこじれるので我慢しておく。
隷属の首輪を嵌められていた狐人はその場で解放し、村まで送ってやった。
その後はガサルに飛び、犯人を鉱山で働かせるよう手配してから拠点へ戻った。
それから1週間、ポツポツと監視網から連絡が入り、新たに4組の奴隷狩り集団を拘束した。
全て鉱山に送り届け、雇い主の商会には連絡済みだ。
この状況に対し、新たに帝国側から会談の申し入れがあったので、ドワーフ族に会議の場を設定してもらった。
同盟側は俺とカイン、そして狐人族代表のサラムさんが出席する。
ガサルで設けられた会談の場に赴くと、帝国の役人と4大商会の代表が揃っていた。
「関係者が揃ったので会議を始めよう。私はガサルの町長ガサルカだ。まず最初に我々ドワーフ族はあくまで中立である事を改めて宣言しておく」
「中立だなどと白々しい。我々の従業員をお前たちの鉱山で強制的に働かせているだろうが!」
「言葉に気を付けてもらおう、ゴクド殿。中立だからこそ犯罪者を公平に扱えるのだ」
ゴクド商会がいきなり噛み付いたが、ガサルカのおっさんも堂々としたもんだ。
さすが西部一の町を束ねるだけあって肝が据わっている。
ここで帝国の役人とおぼしき人間が喋り出した。
「そんな事よりも問題は、亜人の分際で我ら人族を一方的に取り締まっている事だ!」
「そうだ、我らアッカド帝国と対等にでもなったつもりか。お前らなぞ帝国に比べればゴミのような存在だ。そもそも亜人を奴隷にして何が悪い」
さすが帝国人、ひどい差別主義者だ。
他の商会も亜人を奴隷にして何が悪いとか言ってるし。
「もちろん、帝国と争う事は我々の本意ではありません。しかしここは魔大陸です。他所の大陸までやって来てそこの住人を奴隷にしようと言うのなら、こちらもそれなりの対応をせざるを得ないでしょう」
「なんだ若造が偉そうに。大体、お前は人族のくせになぜ亜人の肩を持つ?」
「人族だろうと、こちらの住人だろうと関係ありません。訳も無く人が人を奴隷にするのが間違っていると思うから私はこちら側に居ます」
「この裏切り者め! 恥を知れ恥を!」
「大方、亜人のメスにたぶらかされておるのであろう!」
全く、下品な奴らだ。
俺がエルフとのハーフかも知れないって事はとりあえず内緒にしとこう。
魔大陸側に人族が居ると思わせるだけでも意味があるからな。
「いいか、お前ら、直ちに我々の従業員を返して、今回の賠償金を払え。そうしたら許してやる」
「そうしなかったらどうなるんですか? ゴクドさん」
「帝国の軍隊がお前らの集落を蹂躙するのさ。そうしたらこの辺りの亜人は全て死ぬか、生き残っても奴隷になるだけだぞ」
「ほほう、トンガの兵士は何人いるんでしたっけ? せいぜい数十人ですよね?」
「そんなもの、帝国本土から幾らでも呼び寄せられるさ。千人も居れば十分だろう」
「アハハハハハ。さすがアッカド帝国ですね。でも本当にそんな余裕あるんですか? お役人さん?」
「も、もちろんだ……千でも二千でも呼んでやるぞ」
なかなか威勢のいい事を言っているが、そんな大部隊を簡単に動かせるはずが無い。
船で1ヶ月以上も掛かる遠隔地に千人も送ったら一体、どれだけの金が掛かるやら。
せいぜい船1隻分、200人も呼べれば御の字だろう。
ただし、人族にも一騎当千の化け物は居るから、そんな奴らが送られてくる可能性はある。
そんなのを相手にすればこちらも損害を免れないので、それは避けたい所だ。
「それは怖いですね。重ねて言いますが、我々も帝国と争いたくはありません。しかし一方的に我らの権利を侵害すると言うのなら、命懸けで戦うまでです」
「生意気な。後で泣きついて来ても遅いからな!」
「この借りは何倍にもして返してやる!」
予想以上にこちらが強硬だったせいか、帝国側の関係者は怒って席を立ち、出て行ってしまった。
そんな彼らの背中に俺も挑発的な言葉で追い打ちを掛ける。
「再犯者を奴隷狩りに出さないでくださいねー。こっちも処刑なんてしたくありませんからー」
まあ、言っても聞きゃあしないだろうけどな。
「デ、デイル殿、帝国の人間を怒らせちゃったけど大丈夫かな?」
「現状で怒らせずに済む手なんて無いですよ、サラムさん。こちらは宣言した事を実行できる力を示すしかありません」
「しかし本当に軍隊を派遣して来たらどうする?」
「こんな僻地に送れる軍隊なんてせいぜい200人ぐらいなので、何とでもなります。むしろ怖いのは化け物級の騎士とか冒険者ですね。そんな動きが無いか、ガサルでも情報を集めてください、町長」
「ふむ、こちらでも情報を探っておこう」
とりあえず奴隷狩り撲滅の初動はこんなものだろう。
しかし帝国を始めとする反対勢力がこのままで居るとも思えない。
西部同盟の戦力強化を急いだ方が良さそうだな。




