61.ハイエルフの血統?
翌日、目覚めて朝食を取るとすぐに迷宮に潜った。
リビングに置いてある水晶の前で”戻せ”と唱えると、昨日の探索終了地点に転移した。
そこにある水晶を拾って探索を再開する。
幸い、それ程デュラハンに襲われる事も無く、1刻ちょっとで階段を見つけた。
そして4層の探索を開始して間もなく、奇妙な魔物が現れた。
そいつは獅子の上半身と山羊の下半身を持ち、胴の途中から山羊の頭が生えていると言う異形の怪物だった。
しかもその尻尾は蛇という訳の分からない組み合わせ。
「あれはキマイラじゃ。炎を吐くらしいから気を付けよ」
「あれがキマイラって奴か。たぶん蛇は毒持ってるよね。炎は俺の障壁で防ぐからあまり前に出過ぎるなよ」
俺達が様子を窺っていると、キマイラがこっちに迫って来た。
そして山羊がちょっと首を引いたと思ったら火を吐き出す。
俺が左腕に装備した魔盾で障壁を作り出して炎を防いだが、キマイラはそのまま突っ込んでくる。
カインが前に出て盾で奴を受け止めると、残りのメンバーが散開して攻撃し始めた。
俺とリューナは少し下がって魔法弾を撃つ。
キマイラは確かに強いが、過去に戦ったサーベルタイガー程では無いように感じた。
キョロやシルヴァ達を欠いている俺達だが、すぐにキマイラを圧倒し始める。
何発か魔法弾を食らって弱った所でジードが尻尾を、リュートが山羊の頭を攻撃し、最期に獅子の頭にサンドラが止めを刺すとそいつは息絶えた。
キマイラが霞となって消えた後には魔石と一緒に蛇の頭が残されている。
これは女王から聞いていたのだが、この迷宮の魔物は倒されると稀に体の一部を残すらしい。
物によっては女王が買い取ってくれるらしいので、とりあえず回収した。
その後も探索を続けると、キマイラが1、2匹出て来たが、特に危なげも無く対処できた。
そして2刻ほど後に5層への階段を見つける。
階段を下りて5層を探索し始めると、またまた変なのが出て来た。
今度は不気味な人面の獅子で、背中にコウモリの羽を持ち、尻尾はサソリと言う合成獣だ。
もう変なのばっか。
チャッピー曰く、あれはマンティコアと言うらしいが、今度は羽が生えてる分だけ厄介だった。
そんなのでどうやって飛ぶんだってぐらい小さな羽でひらひらと飛び回るため、的が絞りづらい。
しかも人面が炎を吐き出すので迂闊に近寄れないと来た。
決め手に欠ける戦闘をちまちま続けていたら、とうとうジードが奴の爪に掛かってケガをする。
盾を持たず、リュート程の素早さも持ち合わせないジードはわりとケガをしやすい。
今回もその戦闘スタイルが裏目に出た。
可能であれば逃げたかったのだが、マンティコアが許してくれない。
仕方なくリューナに風の竜人魔法を使わせた。
あまり広くない迷宮の通路に暴風が荒れ狂い、マンティコアが飛ばされまいと床にしがみつく。
俺達自身も動きが制約されるのだが、今回は運良く被害が少なかった。
動きの止まった隙にレミリアが斬り掛かり、その小癪な羽を切り取る。
こうなればもう、こっちのものだ。
飛べなくなったマンティコアを袋叩きにしてようやく仕留める事が出来た。
ジードの傷はそれほどひどいものでも無かったが、今日の攻略はここまでとする。
俺達は水晶を使って女王の館へ戻った。
戻ると、女王が直々にジードの手当をしてくれた。
さすがにチャッピーよりもずっと強力な回復魔法が使えるようで、痛みもすぐに消えたらしい。
俺達は女王に礼を言ってから、反省会をする。
「今日はやられたな。空を飛ばれるだけであんなに厄介になるとは」
「すいません、俺がヘマをしたばっかりに」
「いや、遅かれ早かれ誰かがケガしてたさ、ジードだけのせいじゃない」
「それにしてもマンティコアの羽をどうにかせんと行き詰まってしまうぞ」
「今日みたいにリューナの魔法で動きを止めればいいのではないですか?」
レミリアの指摘に俺とリューナが顔を見合わせた。
「竜人魔法はまだ細かい制御が苦手だから、出たとこ勝負になるのが問題なんだ。今日はうまく行ったから良かったけど、あまり運任せにしたくない。こんな時にシルヴァ達を使えないのが痛いよなあ」
「面目ないのです、兄様」
また話が行き詰まりそうになった時、カインから提案があった。
「デイル様、以前、ドラゴンを倒した時にレミリアの氷の刃をサポートしていましたよね?」
「ああ、あの時はレミリアの魔力だけじゃ足りなさそうだったから、俺が魔力を注ぎ込んだな」
「それをこの魔槍でも出来ないでしょうか? 私も弱い風魔法は撃てるようになっています」
「なるほど……それはありだな。カインの持つ槍に俺が魔力を注ぎ足せば、それなりの魔法になるかも知れない。ちょっと練習してみよう」
俺達は練習できる場所を貸してもらい、新たな風魔法の練習をした。
まずカインが風の魔槍を両手で掴み、その後端を俺が握る。
こうするとカインの意思が伝わって来ると同時に、彼が契約している風精霊の気配も感じられた。
「それではまず風の塊を出します。風弾!」
カインの掛け声と共に槍の先端から風の塊が放出されるが、やはり勢いが弱い。
彼の魔力が弱過ぎるため、シルフもそれに応じた魔法しか使っていないようだ。
そこへ俺の魔力を注ぎ込んでやると、シルフが俄然やる気になった。
ヒュルッと言った感じの魔法が、バフォッと言う勢いになり、標的の岩にぶち当たる。
「ふむ、行けそうだな。やっぱり精霊の力を借りるにしても、それなりの魔力を渡してやらないと威力が出ないんだな」
「力不足で申し訳ありません」
「なに、カイン達は戦闘職だから仕方ない。でももっと効率的なやり方はあるから、おいおい教えて行くよ」
その後も風の刃を撃ち出すなど、何通りかの風魔法を練習していたら夕食になった。
「練習の成果は出ましたか?」
「ええ、カインの風魔法に俺が魔力を注ぎ足してやったら威力が上がりました」
「まあ、相変わらず非常識な事やってますのね、デイル様」
ちゃっかり女王の館に居座っているミレーニアがツッコミを入れてきた。
「そんなに非常識ですか?」
「もちろん。他人の魔法に横から干渉して威力を上げるなんて普通は出来ませんのよ」
「でも、この場合は風の魔槍とシルフが媒介になってるから俺が干渉できるのでは?」
「普通は2人から指示を受けたシルフが混乱しちゃって魔法どころじゃ無くなりますの」
「なるほど、まあ俺とカインは使役スキルでつながってるから、リンクしやすいってのもあるでしょう」
俺が適当に結論を出すと、今度は女王が絡んできた。
「そうそう、デイルさんの使役スキルはとても変わってるのね」
「そのようですね、私自身は自然に使ってるだけなんですが」
「普通は1,2匹の魔物を従わせるくらいなのに、たくさんの人間と魔物を使役しているものね。しかも魔物は3匹とも上位精霊クラスなんて冗談みたい」
「ああ、俺のは使役と言っても強制性の緩いやつですから。むしろ連絡とか連携スキルと言ってもいいぐらいなんです」
「それは誰かに教えてもらったの?」
「いえ、10歳くらいの頃、自然に覚えました。最初は身近に居る動物と遊んでて、なんとなくつながるような気がしたんですよ」
女王が興味深そうに俺を見つめて来る。
「デイルさんは孤児だったそうだけど、何かご両親の手掛かりは?」
「全くありません。チャッピーにはエルフと同じような感じがすると言われてますけど」
「やっぱり……私もデイルさんにはエルフの血が流れている可能性が高いと思うわ。それも今は絶滅したと言われるハイエルフの血が」
「ハイエルフって何ですか?」
「太古の精霊が受肉した妖精の一種で、彼らが人族と交わって出来たのがエルフなの。そしてハイエルフはデイルさんのように多くの存在を使役できたと言われてるわ」
「はあ、しかしハイエルフはもう居ないんですよね?」
「エルフの血脈にその因子が潜んでいたのでしょうね。その因子を持つ者が人族と子を成した、そう考えるのが自然ね」
「なるほど、しかしいずれにしろそれを確かめる術は無いんですよね」
「それはそうだけど、ハイエルフの資質を持つ事を自覚していれば、新たに開ける道もあるのではないかしら?」
「なるほど。貴重なご助言、ありがとうございます」
その後はミレーニアがはしゃいでうるさかった。
ハイエルフとサキュバスの血を混ぜたらどうなるか見たいから種を寄越せとか言いやがって。
お前、今までもさんざん絞り取ってるじゃねーかよ。
翌日、5層から迷宮の攻略を再開する。
すぐにマンティコアが出て来たので早速、カインの強化風魔法を試してみた。
結論から言うと大成功。
ヒラヒラ飛んでいるマンティコアも威力の上がった風弾に掛かれば、撃ち落とすのは難しく無かった。
地上に落とせば、ストレスを溜めた前衛達のいい獲物だ。
俺とリューナの援護もあって、比較的短時間で倒せるようになってしまった。
昨日の苦労が嘘のように探索は順調に進み、2刻ほどで6層への階段を見つける。
そして6層で現れたのも奇妙な魔物だった。
トカゲを人型にしてコウモリの翼を取り付けたモノと言っていいだろうか。
頭に2本の角を生やし、鋭い牙と爪を持つ手強そうな敵だ。
こいつはガーゴイルと言うらしい。
実際、相当に手強く、風弾で叩き落としてもすぐに立ち直るし、肉体も異常に硬かった。
しばらく苦戦したが、風の刃で翼をズタズタにしてやったら大分楽になった。
動きが鈍ったので魔法弾や魔法剣でダメージを入れやすくなり、激戦の末に奴を倒す。
その後も何匹ものガーゴイルを倒しながら探索を続け、4刻程で7層への階段に到達した。
さすがに皆、疲れていたので攻略はそこまでにする。
あと4層も残ってるけど、完全攻略までどれだけ掛かるのか心配になって来た。




