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妖精付きの迷宮探索  作者: 青雲あゆむ
第1章 迷宮探索編
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6.迷宮への初挑戦

 新たな使役獣”シルヴァ”を手に入れた俺は、彼と一緒に倒したワイルドボアを即席のソリに乗せて町に帰還する。

 肉屋にボアを持ち込むと、肉と毛皮を銀貨20枚で買い取ってくれた。

 さらに討伐証明の牙と魔石をギルドに提出すると、銀貨5枚になる。

 俺の場合、独り占めできるからまあまあの稼ぎだ。


 ちなみに俺の肉体レベルはいつの間にか3に上がっていた。

 今回のボア狩りが効いたかな。


 町に入る際に、使役獣には目印を付けるよう衛兵からアドバイスされた。

 そりゃあ、狼の魔物が何も付けずに町中に居たら怖がられるに決まってる。

 主が居ないとちょっかい出すヤツも居るらしいので、何か買おう。


 細かい事を言うとキョロにも必要なんだが、まだまだ小さいのでこちらは様子見だ。

 とりあえず首輪などが魔物屋に置いてあるらしいので行ってみる。


「おっちゃん、この使役獣に目印付けたいんだけど、いいのある?」

「おお、変わった狼だね。この首輪でどうだい? サービスで持ち主名を刻んでやるよ」


 そう言って魔物屋は黒い革の首輪を出してきた。

 特に問題なかったので、それを銀貨2枚で買う。

 その場で首輪を付けてやり、宿に帰った。


 せっかくだからシルヴァを部屋に連れ込めるよう、宿に交渉してみた。

 ちゃんと身ぎれいにして、使役できる所を見せたらOKである。

 追加で銀貨1枚取られたけどね。


 その後、夕飯を済ませて部屋に戻り、キョロに魔力を供給する。

 気持ちよさそうに魔力を受け入れるキョロを見て、なにやらシルヴァが物欲しそうだ。


「チャッピー、シルヴァにも魔力分けてあげた方がいいのかな?」

「うむ、たぶん役に立つと思うぞ。見た所、シルヴァは魔力不足でまだ成長しきれておらんようじゃ」

「ふーん、エサだけじゃ足りないんだ?」

「シルヴァのように魔法を使う個体の成長には、特に魔力が必要なんじゃ。おそらく充分な魔力を与えてやれば、もっと大きく強くなるじゃろう」

「なるほど。それじゃあ、これからはシルヴァにも分けてやろうっと」


 その後、シルヴァにも魔力を分けてやると、嬉しそうに目を細めて尻尾を振っていた。



 翌日からは、みんなで魔物を狩ってパーティの連携向上を図る。

 シルヴァの加入は想像以上の戦力アップで、ゴブリンなら簡単に倒せるくらい強い上に、風魔法まで使えるのだ。

 この魔法は風の塊を飛ばすもので、今の所大した威力は無いが、少なくとも敵の牽制ぐらいには使える。

 今後、魔力を与えて成長させれば、別の使い道も出て来るだろう。


 狩りもゴブリンばかりでは物足りないので、ダークウルフに挑戦した。

 さすがに同族殺しはシルヴァが嫌がるかとも思ったのだが、すでに同族とは思っていないらしい。


 それでダークウルフの狩猟依頼を受けたのだが、この探索でシルヴァの索敵能力の凄さに驚く。

 森の奥深くに居るダークウルフを見つけるには、それなりの苦労を覚悟していたのだが、シルヴァがあっさり見つけてくれた。

 しかも群れの規模も分かるので、大きな群れは避ける事ができる。

 おかげで比較的安全に討伐数を稼ぐ事ができた。



 こうして1週間程、町の外でお金と経験値を稼いだおかげで、ようやく冒険者ランクがEに上がった。

 このままでもけっこうな暮らしを続けられそうだが、本来の目標は迷宮である。

 俺はいよいよ迷宮へ挑むべく、情報を集めてみた。

 とりあえず分かったのはこんな所だ。


・迷宮への入り口は東門のすぐ外に位置し、国が管理している

・入場するには1人当たり銀貨1枚を払う

・複数の階層で構成され、現在は4層まで到達したパーティが居る

・迷宮内は大小の部屋が通路でつながれていて、行き止まりもある

・各層で下に降りる階段の前の部屋には守護者が存在し、それを倒す事で下層へ降りる資格を得る

・下層への階段を降りた所には転移水晶が存在し、1層の入り口に戻る事ができる

・資格を得ていれば、1層入り口の水晶から各層まで転移が可能

・1層にはゴブリン、コボルド、スライム、シャドーウルフが出現し、守護者はビッグシャドーとシャドーウルフ4匹

・2層には1層の魔物の他にホブゴブリン、オーク、ケイブバットが出現

・1層は探索され尽くしているが、2層以降は未探索部分もある

・迷宮内は天井がうっすらと光を放っており、灯り無しでも動き回れる

・迷宮での収入源は魔物から取れる魔石や素材で、まれに鉱石や宝石が見つかり、迷宮内で拾った遺留品も売れる



 おそらく俺たちでも1層なら探索は可能だと思う。

 しかし手に負えない数が出てくるかもしれないし逃げ道も限られるので、当面は臆病な程、慎重に立ち回った方がいいだろう。


 まずは迷宮に潜るための装備や食料を準備した。

 1層だけでもけっこうな広さになるらしく、2日程は野営できるようにする。

 ちなみに俺だけが荷物を持つのもしんどいので、シルヴァ用にカバンを準備した。

 身体の左右に振り分ける形のサイドバッグだ。

 あまり身体の動きを阻害しない程度の大きさに抑えたが、背中に荷物も積めるようになってるので輸送能力は倍増だ。

 特注品なので銀貨50枚も取られてしまった。


 それから1層の地図も購入した。

 すでに探索され尽くしているので銀貨5枚と、比較的安い。

 明日はいよいよ、初めての迷宮探索だ。



 翌朝、朝食を取ってから迷宮入り口へ赴くと、早朝から賑わっていた。

 いくつかのパーティが待ち合わせをしていたり、案内人や野良冒険者などもたむろしている。


 案内人と言うのは迷宮探索をサポートする者で、道案内や荷物運びとして雇う事ができる。

 野良冒険者は一緒に入ってくれるパーティを探している奴らだが、今回は様子見だからどちらも用は無い。

 どの道、信頼関係の無い人と一緒に潜るつもりは無いけれど。


 俺はキョロを左肩に乗せ、シルヴァを連れて入り口前の列に並んだ。

 当然、チャッピーも居るが、周りからは見えていない。

 入り口では迷宮を管理する衛兵が立ち、入場料の徴収とギルドカードの確認をしている。

 すぐに俺の番が来た。


「入場料は1人100ゴルだ。1人で潜るのか?」


 俺は銀貨1枚とギルドカードを渡しながら答える。


「ええ、使役獣が2匹居ますから」

「2匹と言っても、片方はただのペットにしか見えんぞ……まあ、お前の自由だが、くれぐれも無理はするなよ」

「ご忠告ありがとうございます」


 俺はカードを受け取り、衛兵に礼を言って迷宮への第一歩を踏み出した。

 さあ、迷宮探索だ。


 石造りの階段を降りると広い部屋に出た。

 情報通りに天井が光っており、薄暗いが行動に困る事は無さそうだ。

 部屋の中央に1mくらいの高さの石台があり、水晶が埋まっている。

 これが噂の転移水晶だろう。

 今の俺には関係ないので、素通りして奥の通路に入る。


 しばらく進むと通路が左右に分かれた。

 俺は地図を確認しながら左へ進む。

 実は右側の通路が下層への階段に通じる道で、人通りが多くてよく踏みならされている。

 そのため、大通りと呼ばれているが、今回はあえて反対側に進む。


 しばらく進むとシルヴァが俺を見上げた。

 何か魔物が索敵に引っかかったのだろう。

 俺は弓に矢をつがえ、いつでも撃てるようにしながらそろそろと進むと、先の部屋の中にゴブリンらしき影が3体、見えて来た。

 すかさず弓を引き絞り矢を放つと1匹が倒れ、残りの2匹がこちらへ向かって来る。


 素早くシルヴァが駆け寄って、1匹を押し倒した。

 俺も背嚢を地面に落として、もう1匹に駆け寄る。

 左手に乗せているキョロに対し、電撃を撃つよう指示する。


バチッ!


 動きが止まったゴブリンの心臓にダガーを突き立て、息の根を止めた。

 シルヴァの方もすぐに静かになる。


「迷宮のゴブリンも外のやつと変わらないようだね」

「うむ、特に変わった部分も無いから、問題なくやれるじゃろう」

「キュー」

「ウォン」


 俺はゴブリンの魔石を心臓の近くからほじくり出し、革袋に入れる。

 シルヴァも自分が倒したゴブリンから魔石を取ってきてくれた。

 背嚢を背負い直し再び歩き出したが、しばらくは何事も無く、小部屋を幾つか通過する。

 やがてシルヴァが俺を見上げ、何かの存在を告げる。

 矢をつがえながら進むと、部屋の入り口が見えて来た。


 入口から覗いてみると、大きめの部屋の中にスライムが5匹も居る。

 時々、青い光を放ち、プルプル蠢いている。


「スライムか。ちょっと数が多いな」


 俺は不安になってシルヴァを見ると、彼の目はすでにスライムに釘付けだ。

 そして次の瞬間、スライムに向かって飛び出して行ってしまった。

 シルヴァが手近なスライムに飛びつき、前足で押さえつける。


「ウォン」


 そして一声吠えながらスライムに噛みつき、あっという間に核を食いちぎった。

 核を取られたスライムがグズグズと崩れていく上で、シルヴァがうまそうに核を噛み砕いている。


 あっれ?

 俺は昔、スライムにひどく手間取った覚えがあるんだけど。

 シルヴァが瞬殺しているって事は、迷宮のスライムは弱いんだろうか?


「ほほう、シルヴァは手慣れておるな。おそらく咆哮で風魔法を当てて、噛みつきにも魔力を込めとるんじゃろう。物理攻撃には強いスライムも魔法を使うと案外もろいんじゃ」

「そうなんだ。じゃあ、俺たちはシルヴァが孤立しないようにサポートしよう」


 俺は背嚢を降ろし、キョロを左手に乗せ、右手にダガーを持った。

 シルヴァの側面に迫るスライムに近寄り、キョロに電撃を撃たせる。


バチッ!


 やはり魔法には弱いらしく、スライムの動きが止まる。

 ここで俺はちょっと思い付き、ダガーを収めてから右拳に魔力を集めた。

 そして目の前のスライムの核に向けて右拳を振リ下ろす。


ボコンッ


 スライムに拳がめり込み、いとも簡単に核が破壊できた。

 本当に魔力に弱いんだな。


 残りはシルヴァが全て始末してしまい、静かになった部屋にボリボリと核を噛み砕く音が響く。


「なあ、チャッピー。シルヴァは今までもああやって魔力不足を補って来たんじゃないかな?」

「うむ、妙に手慣れておる所を見ると、その可能性は高いじゃろう。野生のスライムハンターじゃな」

「それなら、スライムはできるだけシルヴァに譲ってやればいいな」


 スライムの魔石を回収し、部屋の中を調べると、壁際に何かが散乱していた。

 近寄ってみると、小剣や盾、ダガーなどが転がっている。


 どうやらここで力尽きて、スライムのエサになった者が居たらしい。

 おそらく魔力による攻撃手段を持たず、力尽きたのだろう。

 遺体はスライムに食いつくされて、欠片も残っていない。


 俺も一歩間違えればこうなる事を、肝に命じるとしよう。

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