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妖精付きの迷宮探索  作者: 青雲あゆむ
第2章 魔大陸解放編
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58.ダークエルフの壁

 竜人の里で首尾よく奴隷狩り阻止への協力を取り付けた俺達はリュート、リューナを残して拠点に戻った。

 翌日にはセシルとレーネを連れ、空路で獅子人族の村へ向かう。

 そこからは案内人を付けてもらい、ダークエルフの集落を目指した。

 5日歩いてようやく目的地に到着するが、森が広がるだけで集落らしきものは見えない。

 案内人がその場で狼煙を上げ、しばらく待つと目の前に1人のダークエルフが現れた。


「アンタか、今日は何の用だ?」

「村長に頼まれて客人を連れて来た。彼らの話を聞いてやって欲しい」

「お前達が人族の肩を持つとは珍しいな」

「一応、村の恩人でな。精霊を従えているような人達だから、話を聞くぐらいの価値はあるだろう?」

「分かった、付いて来い」


 男の案内で森に分け入り、しばらく進むと集落が見えてきた。

 聞くと、この森には魔法が掛かっていて、余所者は辿りつけなくなっているそうだ。

 無事、集落に入れてもらい、ある家へ招かれる。

 そして落ち着いた感じのダークエルフの男と机を挟んで対峙した。


「私がこの里の長リガンだ。獅子人族からの紹介だと聞くが、何かな?」

「初めまして、リガンさん。私は冒険者のデイルと申します。今日はここに居るレーネに里帰りさせてやると共に、ひとつお願いがあって参りました」

「レーネ、レーネ……ひょっとして10年前に出て行ったカイルとレイナの娘かな?」

「はい、その通りです。しかし2人共、5年前に流行病で亡くなってしまいました」

「ふむ、一度村を出た者は受け入れない決まりなのだが、子供に罪は無いからな。よかろう、親類に会っていきなさい」

「ありがとうございます」


 とりあえずレーネの里帰りは許された。

 しかし里を出た者にはけっこう厳しいようだ。


「どうもありがとうございます。それでもうひとつのお願いなのですが、この大陸で奴隷狩りを阻止するためにご協力頂けないでしょうか?」

「協力と言うと、具体的にはどんな事かね?」


 そこで人族への抗議文への署名や監視網構築の協力などを話した。

 しかし予想通り、それに対する反応は芳しいものでは無かった。


「確かに我々もたまに奴隷狩りの被害は受けている。しかしそれは人族との交流を断てばいいだけで、わざわざ敵対までするつもりは無いな」

「しかしただ隠れるだけでは一時的な対策にしかならないのでは無いですか? この先、人族が勢いを増せば被害が増えてしまいますよ」

「人族の勢いが少々強まったとしても、これほど山奥の里に影響があるとは思えない」


 ダメだこりゃ、引き籠る気満々だな。

 とりあえずレーネの親類に会って情報を集めるとするか。


「そうですか。ちなみにもし私が妖精女王の援助を受けられるのならば、貴方達の協力を得られるのでしょうか?」

「妖精女王? そのような伝説級の存在の後ろ盾があるのなら興味を持つ者は多いだろう。もし可能なのであれば、だが」

「なるほど、また出直させてもらいます。レーネ、君の親類に会いに行こう」


 俺達は長の家を辞去し、レーネの実家に向かった。

 しばらく歩くと目的の家が見えてくる。

 長の家もそうだったが、ダークエルフの家は森の木をうまく利用して作られている。

 生きた大木に一体化したような作りで、けっこう上の方まで居住区が伸びているようだ。

 その一角のドアを叩くと、レーネのお祖母さんらしき人が出て来た。

 お祖母さんと言っても全然若く見える人だけどね。


「お祖母ちゃん、私レーネです」

「ええっ、レーネだって? カイルとレイナはどうしたんだい?」

「お父さん達、病気で死んじゃって私、私……フエーン!」

「そうかい……辛かったねえ。久しぶりに顔をよく見せておくれ」


 しばし彼女達が再開の喜びに浸った後、家の中で話をさせてもらう。

 レーネの両親は10年前にこの里を出たのだが、同じ様に里を出る人間は多いらしい。

 やはり閉鎖的な里に飽き飽きしての結果だが、人族の進出もそれを助長している。

 主に物質的な分野で技術革新を続ける人族の文化が、ダークエルフの若者達を惹きつけるのだ。


「ところでアイナさん、身近に精霊術師は居ませんかね? 出来ればレーネに手解てほどきをして欲しいんですが」

「うーん、精霊術師はこの里でもほんの数人しか居ないんですよ。精霊と交信できる人間が最近少なくてねえ。レーネに教えてもらうにしても交信できなきゃ無理だし」

「お祖母ちゃん、私、もう土精霊ノームと契約しているのよ」

「ええっ、それは本当かい? もしそうならお祝いしなくちゃ。この里では10年ぶりの快挙になるよ」


 実際にその場でレーネが土を操ってみると、アイナさんはようやく信用してくれた。

 そして彼女と比較的親しい精霊術師のガナフさんを紹介してもらう事になる。


「ガナフさんや、聞いておくれよ。私の孫娘のレーネがノームと契約したってんだよ」

「なんじゃ、騒がしいぞアイナ。お前の子供は里を出て行って久しいと思ったが?」

「ああ、子供達は流行病で死んじまったらしいんだけど、孫のレーネが今日戻ってきたのさ」

「それでその孫がノームと契約してるってのか? どれ嬢ちゃん、こっちに来てみな」


 そう言ってレーネを招くと、彼女の額に手を乗せて何かを調べていた。


「ほほう、本当に精霊と交信できるようになっとるな。どうやって契約したんじゃ?」

「え、それは……」


 レーネが俺に遠慮して口篭ったので、話を引き継ぐ。


「私の仲間に精霊の加護を受けた者が居まして、その者からレーネに紹介してもらったんですよ。あ、私はデイルと言ってレーネの雇い主です」

「何じゃと? 精霊の紹介など聞いた事も無いぞ。もしそれが可能ならこの里の術師が増やせるかもしれん」

「やっぱりもっと増やしたいんですか?」

「当たり前じゃ。肉体的に貧弱な我らがこの森で生き残るには精霊術が必要なんじゃ。しかし最近では森の結界の維持にすら苦労する程に、って何を言わすんじゃ!」


 勝手に結界の秘密を喋って怒ってるよ。

 でもそれって引き籠ってれば済む話じゃ無いよね。

 それなら交渉の材料に使わせてもらいましょう。


「あのー、それだったら我々がお役に立てるかも知れませんね。もちろんこちらにもお願いがあるんですが」

「ふむ、やはりタダと言う訳にはいかんじゃろうな。何が望みじゃ?」

「まずはここに居るレーネに正統な精霊術を教えて欲しいんです。彼女は独自に契約して我流で魔法を使ってますから、やれる事が限られてるんですよ」

「同族の者を鍛え上げるのなら何の問題も無いぞ。しばらく儂に預けて行け」

「ありがとうございます。それともう一点、奴隷狩りについてなんですが――」


 俺は先程の長との会談内容についてガナフさんに話した。


「あえて人族に敵対するという事について皆さんの拒否感が強いのも分かるのです。しかし結界の維持にすら苦労している状態で引き籠もっても、先行きは暗いですよね」

「ふうむ、下手に取り残されでもしたら我らだけ被害に遭う可能性もあるな」

「そこでもし妖精女王の協力が取り付けられたなら、長達に協力するよう説得して欲しいんです。人族に対抗するため、この里の精霊術師の育成にも協力します」


 彼はしばらく目を瞑って考える。


「そこまでお膳立てされておれば説き伏せるのは容易いじゃろう。しかし妖精女王の説得など本当に出来るのか?」

「それこそ会ってもいないので分かりません。しかし奴隷狩りの監視網を作るためにも女王とは話をしようと思ってます。その上でまた相談させて下さい」

「とんでもない事をさも簡単なように言う奴じゃな。しかしそれぐらいはせんと、我らダークエルフは動かせんのかも知れん。協力できる事があれば何でも言ってくれ」

「助かります。とりあえず正統な精霊術ってのを私にも見せてくれませんかね」


 その後、少し開けた場所に移動して精霊術を見せてもらった。

 彼自身もノームと契約しているのでレーネには都合がいい。

 ガルフさんはその場で土柱や土壁を作ってみせるが、やはりそれなりに長い呪文を唱えていた。

 どうやら古代エルフ語を使ってるらしく、俺達にはさっぱりだ。


 ちなみに俺達が普段喋ってるのは共通語と呼ばれ、古の神に授けられた言葉だと言われている。

 ミッドランド大陸でも魔大陸でも通じる所を見ると、神が絡んでるってのも満更ホラでは無さそうだ。


 次にレーネが呪文抜きで石弾を撃って見せたら腰を抜かす程驚かれた。


「な、なんじゃ? おぬし今、何をしたんじゃ!」

「えっ、別にただ石を撃ち出しただけですけど」

「石を撃ち出すのは儂も出来るが、こうなるんじゃ」


 またガナフさんが呪文を唱えて石弾を撃ち出したが、ぶっちゃけしょぼい。

 威力的にはレーネの半分も出ていないだろう。


 その後は日が暮れるまでガナフさんと魔法談義をする事になった。

 それどころか夕食を挟んで夜まで付き合わされる。

 どうやら彼のスイッチを入れてしまったらしい。


 しかしじっくりと話し合った甲斐はあった。

 結局の所、魔法に対する概念と精霊との付き合い方が俺達とは違うらしい。

 そもそも精霊術ってのは古代エルフ族が編み出してからほとんど進化していない技だ。

 大昔の偉大な術師が作り出し、それを古代エルフ語で残した。

 その後、種族的には世俗化が進み、エルフとダークエルフに分かれつつも忠実に先祖の教えを守ってきたのだ。

 そして残念ながら精霊との交信能力は徐々に薄まり、呪文や術式の意味も形骸化しつつある。


 その点、俺達は多少は自然の理や魔法の原理を理解している。

 その上で精霊と契約しているから、複雑な呪文を使わずに簡単な念話で魔法が行使できるのだ。

 では従来の精霊術に学ぶべき点が無いかと言うと、さにあらず。

 実は魔法を行使する時の手順とかお願いの仕方にコツがあって、その点では精霊術にも見るべき所はあるようだ。

 確かに普通の精霊は自我が薄いから、そう言う細かいコツまでは教えてくれないからな。


 いずれにしろこれは結構な可能性を秘めている。

 従来のやり方に凝り固まった老人には難しいかも知れないが、未熟な術師ほど大きく魔法力を向上できるだろう。

 それがひいてはダークエルフ族の戦力向上につながり、彼らの地位向上にも役立つ。

 そこまでやれば彼らを仲間に引き込むのもそう難しくないはずだ。


 翌日、俺はレーネに呪文の解読と同志を集める事を指示して村を後にした。

 もちろんガナフさんにも協力をお願いしてある。

 ダークエルフは想像通りに頑なではあったが、目指す所にそう違いが無い事は分かった。

 この調子でエルフも巻き込めないか、試してみよう。

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