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妖精付きの迷宮探索  作者: 青雲あゆむ
第2章 魔大陸解放編
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57.竜神の御子、里に帰る

 サキュバスクイーンに拉致された翌朝、俺は彼女の転移魔法で拠点に送り届けられた。

 さんざん俺をもてあそんだミレーニアは俺の嫁に睨まれると言ってそのままとんぼ返りしてしまう。

 くっそ、なんて言い訳しようかな?

 そんな事を考えながら拠点のドアを開けると、間の抜けた声が掛かった。


「あれ、ご主人、なんで歩いてるの?」

「俺が歩くとおかしいのか? ケレス」

「おかしいに決まってるじゃん。ウチのオカンに拉致された人間は、精気吸い取られて2、3日は使い物にならないのが普通なんだよ」


 そうなのか?

 確かにさんざん搾り取られたが、動くのに支障は無いぞ。

 待てよ、これは使えるかも。


「いや、別にミレーニアさんとは夜通しお喋りしてただけで、そんな事は無かったからな」

「うっそー。オカンがそんな事するはず無いわー……でも普通に歩いてるって事は本当にそうなの?」


 そんな話をしていたらレミリアが険しい顔で駆け寄って来た。


「大丈夫ですか? ご主人様。あの女に一晩中、もてあそばれたのでは無いですか?」

「いや、そんな事無いって。こうやってピンピンしてるだろ?」

「でもいつもと違う臭いがしますよ」


 そう言いながらレミリアが俺の臭いを嗅ぎ回る。

 鋭い指摘だが、ここはしらばっくれよう。


「ああ、お風呂を使わせてもらったからな。高級な石鹸が置いてあったからそれだろ」


 実はお風呂の中でも搾り取られてたんだけどね。


「そうですか……別人のようにやつれて帰って来るかと心配してたんですが、大丈夫だったんですね」

「ああ、徹夜で喋ってたから疲れたけどな。悪いけど少し寝かせてもらうよ。昼食の時に起こしてくれ」


 良かった~、なんとか誤魔化せたみたいだ。

 未だに”おかしいな~”とか言ってるケレスを尻目に、俺は自分の部屋に引っ込んですぐに寝た。


 昼食前に起こされ、みんなと一緒に飯を食う。

 その後、お茶を飲みながらこれからの話をした。


「これがケレスのお姉さんからもらった”つなぎ石”だ。長距離での念話を補助してくれる」


 俺はそう言いながらミレーニアからもらって来た石をテーブルに置いた。

 親指の先ほどの水色の石が10個ある。


「これがつなぎ石ですか。これを持っていれば遠くに居ても念話が出来るんですよね?」

「そうだ。使役リンクでつながっている俺達なら誰でも使える。とりあえず俺とカイン、ケレスが常備して、残りは外出時にリーダーが持てばいいだろう。石の管理はボビンに頼むな」

「任せときいな、デイルはん」


 このつなぎ石、あくまで念話を補助するだけなので念話の使えない者には何の役にも立たない。

 元々、魔大陸中に分散している魔族が連絡を取りやすくするために見つけ出されたらしい。

 ほとんどの魔族は念話が使えるが、やはり近距離でしか通じない。

 しかしこのつなぎ石を持った者同士ではその距離が無視できる事が発見され、その後改良が重ねられた。

 もらって来た石は同じ塊から削り出され、同調処理を施されているので、かなりクリアーに会話が出来るって話だ。

 これがあればミントがさらわれた時みたいな非常時にもすぐ連絡が取れるだろう。

 ミントだって攫われてすぐに動いていれば助かったかも知れないのに。

 いや、それは今言っても仕方ない。


「それで今後の予定だが、俺は今から鬼人族の村に向かう。今晩は村に泊めてもらって、明日から竜人の里へ向けて出発する予定だ。同行者はレミリア、リュート、リューナ、シルヴァ、バルカンだな」

「ようやく里に帰れるんだ……」

「ようやくだね、リュート。本当にありがとう、兄様」

「ああ、そうは言ってもまだ道のりは長いけどな。俺はしばらく戻れなくなるから、カインの方は今まで通り、周辺の調査を進めておいてくれ」

「了解しました」


 竜人の里は相当奥地にあるらしく、カイン達の故郷から同族の村を経由してさらに歩かなければならない。

 今回はかなりの長旅を覚悟した方が良さそうだ。


 そう思っていたのだが、鬼人族の村に着いて良い情報が聞けた。

 中継地点になる同族の村までは、普通に歩けば10日も掛かるが、幸いな事に大きな湖のほとりにあるらしい。

 大体の方角は分かっているので、バルカンに乗って飛んでいっても見つけられる可能性が高いそうだ。

 空路を使えば旅程が大幅に短縮できて、ずいぶんと楽になるだろう。



 翌朝、鬼人族の案内人を伴ってバルカンで旅立った。

 俺達は飛行箱の中から下界を見て位置を確認している。

 バルカンにしてはかなりゆっくり飛んでもらったが、それでも2刻足らずで目的の湖を見つけられた。

 やっぱり飛べるって凄い。


 目的の村を見つけ、門に近い所に着陸した。

 いきなり飛竜ワイバーンが飛んできたので、鬼人族がパニックに陥りかけたが、案内人が大急ぎで事情を説明して事無きを得た。


「すみません、ここはイバ村ですよね?」

「ああ、その通りだが、君は?」

「2年ほど前に竜人の里からお邪魔させてもらっていたリュートです」

「2年前って、あの奴隷狩りに攫われたリュートか? しかし彼はもっと小さかったぞ」


 なんとまあ、ここがリュート達が訪問していて、そのまま奴隷狩りにあった村だったとは。

 それだったら竜人の里もそう遠くないかも知れないな。


「そのリュートです。こっちは妹のリューナ。あの後、いろいろとあって背が伸びたんですよ」

「何がどうするとそんなに急に成長するのか分からんが、確かに面影はあるな」


 村人は半信半疑だったが、とりあえず村長に会わせてもらう。

 そして村長に事情を話して竜人の里への案内をお願いすると、二つ返事で了解してくれた。

 どうやらリュート達を預かっておきながら、奴隷狩りに攫われた事に責任を感じていたらしい。

 ついでに大陸西部の集落を巻き込んで奴隷狩りを阻止しようとしている事も話すと大賛成してくれた。

 すでにカインの故郷の協力も取り付けているが、味方は多いに越したことは無い。

 結局、その日はその村に泊めてもらい、いろいろと情報交換をしたり親睦を深める事が出来た。



 そして翌日、イバ村の案内人に先導されて竜人の里に向けて出発する。

 竜人の里は山深い所にあるので、さすがにバルカンで飛ぶのは難しかった。

 まともな地図もめぼしい目印も無いので、案内しようが無いからだ。

 やむを得ず、地道に歩いて行く事になった。



 険しい山道を1週間も歩いて、ようやく竜人の里へ到着する。

 その里は不思議な場所だった。

 通常の村のような防壁が無いからだ。

 こんな山奥でどうやって魔物の襲撃を防いでいるのかリューナに聞くと、この山に眠る古竜が一種の結界を張ってると言う噂らしい。

 そんな事を話しながら歩いていると、里の入り口らしき所に髭面のいかつい男が槍を持って立っているのが見えて来た。

 そしてその男に気が付いたリューナが急に走り出す。


「叔父さん、リューガ叔父さん! 私リューナよ、帰ってきたの」


 そう言いながらリューナに抱きつかれた男が驚いて立ち尽くしている。


「ちょっと待て、俺の知ってるリューナはこんなに色っぽい美人さんじゃないぞ。お前は一体誰だ?」

「叔父さん、リューナですよ。そして俺はリュート。ちょっと事情があって背は伸びましたけどね」

「リュートだと……そんなバカな。しかし本当なのか? 本当にお前達なのか? ウオゥッ、ウオオオオオッ!」


 ようやくリュート達を認めた男がその場に泣き崩れた。

 彼は泣きながら何度も何度もリュート達に謝る。

 しばらく泣き続けてようやく落ち着いてきた叔父さんに話を聞く。


 リュート達が攫われた事が分かった時、叔父さんは必死に2人を探し回ったそうだ。

 しかし広大な密林の中で2人を見つけるには至らず、止む無く彼は里に戻ってそれを報告した。

 彼が責任を持つからと言う事で外に出したのに、2人を守れなかった叔父さんは相当責められたらしい。

 しかもリューナは何十年に1人しか選出されない竜神の御子である。

 強い自責の念にかられた彼はそれから毎日、里の入り口に立ってよそ者が来ないよう見張り続けていた、という話だ。

 確かに彼に責任の一端があるとは言え、それは辛く過酷な日々だっただろう。


 その後、竜人族の長の家に場所を移して話を続けた。

 リュート達が奴隷狩りに遭い、ミッドランド大陸に送られて死に掛けていた事。

 それをたまたま俺が見つけ出して治療し、さらに迷宮を攻略する事で2人が大きく成長、今ここに戻って来た事までを里長に話した。


「なんと、成長の遅い我らが魔物を狩る事で成長が促進されるとは。確かに2人からは何十年も生きた歴戦の勇士のような力を感じますな」

「長、それだけでは無いのです。私はデイル兄様に妖精魔法を教えてもらった事で、竜人魔法の腕前も大きく成長したんです。ひょっとしたら私、オババ様より強いかも知れないよ。てへっ」

「私より強いとは吹きよるのう。しかし現実に多くの精霊を従えておるようじゃ。満更、誇張でも無いのか?」


 長と一緒に話を聞いていた老婆がリューナの力を測っている。


「まだ細かい制御は苦手ですけど、彼女は大きな魔法をバンバン使えますよ。迷宮攻略ではいろいろと助けてもらいました」

「なんと、もしそれが本当なら後進の育成に役立つやも知れんな。いずれにしろリュート達を助けて頂いた事、深く感謝申し上げる」


 そう行って長が頭を下げた。


「いえ、私もいろいろと助かったので、それ程かしこまらずに。もし多少なりと恩に感じて頂けるのなら、奴隷狩りを阻止する事に協力してもらえませんか?」

「貴方が奴隷狩りを止めさせると? しかしそれで何の得が?」

「兄様は利益なんか求めて無いのです。ただ不幸な子供を少しでも減らしたいだけ。もし協力してくれないのなら、私はこの村に二度と戻らないから」

「リューナ、竜神の御子の務めを何と心得るか。そんなわがままは許されんぞ!」


 リューナの挑発でオババ様も興奮してしまった。


「まあまあ、オババ。協力の中身にもよるが、長老会議で話し合うぐらいはしようでは無いか。実際に我らも奴隷狩りの被害に遭ったのじゃ。のう、リューガ」

「その通りです、長。仮に皆が拒んでも俺はやりますよ。奴隷狩りやってる奴らは絶対に許せない」

「ホッホッ、竜神の御子だけで無く、里で最強の戦士まで手放す訳にはいかんのう」


 それから人族の奴隷狩りへの抗議文に署名する事や、奴隷狩りの監視網構築への協力をお願いしたいと話す。

 あえて人族と対立する事に抵抗はあるものの、前向きに検討する、と長は言ってくれた。


 そしてその晩は里を挙げての宴になった。

 最初はささやかな宴のはずだったが、噂を聞きつけた住人がどんどん集まって来る。

 成長したリュート達に驚きつつも、皆が帰還を喜んでくれた。

 そして2年間、自分を責め続けたリューガさんが誰よりも嬉しそうだ。

 聞くと彼はミッドランド大陸にも渡った事があるAクラスの冒険者だそうだ。

 Aクラスと言えば1国に30人も居ないくらいの実力者だから、彼の協力が得られれば心強いだろう。


 さんざん飲み明かした翌日、里の長老会議が開かれた。

 案の定、人族と敵対する事への忌避感は強かったものの、リューナとリューガさんの脅しが効いたのか、協力を得られる事になった。


 これでまた一歩、大陸内の団結に近付いた。

 残るはエルフとダークエルフだけだが、なんとしても説得してやる。

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