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妖精付きの迷宮探索  作者: 青雲あゆむ
第2章 魔大陸解放編
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53.鬼人族の宴

 なんとか狼人族の協力を得る事に成功した俺達はその晩、村長の家で歓待を受けた。

 狼人族なりに最高級の料理や酒が振る舞われる。

 ちなみに今回もシルヴァに捕まえてもらった獲物を提供してある。


 その席には傷だらけのドベルさんも来ていた。

 てっきりまだ敵対するのかと思っていたのだが、嘘のように腰が低くなっている。

 レミリアに叩きのめされて、すっかり目が覚めたらしい。

 強さが全ての基準ってのもどうかと思うのだが、仲良くやっていけるならそれに越した事は無い。


 宴の最中に”レミリアはすでに俺の嫁です。報告が遅れてすみません”と言ったらまた大騒ぎになった。

 村長のジジイに怒られるかと思ったんだが、逆に”婿殿~”と言って抱き付かれた。

 それから延々と酒を飲まされたよ。



 当然、翌日は盛大な二日酔いだったが、不思議と気分は悪く無かった。

 朝イチで狼人族の村に別れを告げ、帰路につく。

 今度は獅子人族と虎人族の村を訪問するためだ。

 その後はまたこの村に来て、鬼人族の村へ案内してもらう予定になっている。


 帰りは時間を惜しんでバルカンに運んでもらう。

 場所さえ分かっていれば、バルカンに乗って飛んだ方が圧倒的に早いからだ。

 ちなみに村の前でバルカンに真の姿を現してもらったら、パニックになりかけた。

 飛竜ワイバーンなんて災害級の魔物だから、事前に説明しておいても信じられないのだ。

 おかげで俺の株はまた上がったようだ。

 銀狼、神狼、ワイバーンを従える人間としてほとんど神格化されつつあるんじゃなかろうか。

 あまり期待ばかりされても困るが、この大陸でネットワークを作り上げるにはそれを利用するのも手かな。


 バルカンに乗って半刻足らずでドワーフの町ガルサに着いた。

 少し町から離れた所で降りた後は預けてあった馬車でカガチへ帰る。

 1日半でカガチに到着し、残りのメンバーに成果を報告した。

 今のところ計画は順調なので皆も喜んでくれている。



 そしてカガチで一泊した後、今度はジード、ダリル、ザムド、ナムドを連れて旅立つ。

 今回は猫人族の村までバルカンでひとっ飛びだ。

 しかも今回は空中移動用の箱に乗ってだ。

 これは縦横2m、高さ1.5mくらいの木製の箱で、バルカンが後ろ足で抱えられるような持ち手がついている。

 この箱に乗っていれば風を受ける事も無く、比較的快適に移動できるのでガル達に作ってもらったのだ。


 最初はこんな物を持ってバルカンが飛べるのかと心配もしたが、不思議と問題無い。

 バルカンはその翼を羽ばたくだけでは無く、自身が作り出した上昇気流も利用できるので、かなり余裕があるんだそうだ。

 これは彼が火精霊サラマンダーから進化した特異なワイバーンであるが故の有り難い話である。


 こうして1刻程で猫人族の村に着き、そこから先は案内人に従って地面を歩いた。

 一度訪問して場所を確認してからで無いと、さすがのバルカンにも飛んでいけないからだ。

 元々、相当に楽をしているので、これも必要な事と割り切るしかない。



 そして虎人族の村には4日で着いた。

 門ではそれなりにチェックされたが、ザムドとナムドが交渉して入場を認めてもらう。

 その後、彼らの家族に会って大歓迎され、村長にも会う事が出来た。

 奴隷狩りについて話すと前向きな感触は得られたのだが、その場では言質が得られなかった。

 具体的な話がまとまるまでは様子見したいと言われる。

 虎人族はザムド達が居なくなってから警戒を強めたため、最近はあまり目立った被害が出ていないらしい。

 俺自身、この先どうなるか良く分からないので、それ以上は強く出られなかった。



 とりあえずザムド達を残して今度は獅子人族の村へ向かう。

 2日後に着いたその村ではジードが積極的に動いてくれたので、トントン拍子に話が進んだ。

 その日の内に村長と会う事が出来て、奴隷狩りについて話をした。

 しかし獅子人族もそれ程被害が出ていないため、危機感が薄い。

 虎人族のようにあいまいな結論になりかけた時、ジードが村長に噛み付いた。


「村長、そんな事を言っててまた被害が出た時はどうするんだ? 奴隷に落とされるのがどんなに悲惨な事か考えてもみてくれ」

「むう、確かに奴隷狩りに遭ったぬしには申し訳なく思う。しかしいたずらに人族と敵対するのは避けたいのだ」

「甘いっ! すでに俺達はケンカを売られてるんだ。このまま手をこまねいていれば、人族はさらに付け上がるぞ」

「それでは一体どうしろと言うんじゃ!」


 ジードの言う事ももっともだが、村長にも簡単に判断できない立場がある。


「まあまあ、村長、ジード、内輪で争っても仕方ありません。村長もこのままではいけない事はご理解頂けますよね」

「確かに。しかし進んで争い事に加わろうとはやはり思えん」

「それでは私がこの先、鬼人族、エルフ族、竜人族の協力まで取り付けたら、人族への抗議文に署名をしてもらうと言うのはどうでしょうか?」

「ふーむ……」


 村長は真っ白な髭をいじりながら、しばらく考えていた。


「その3種族に加えてダークエルフも説き伏せられれば協力しよう」

「ダークエルフ? 集落の場所をご存知なのですか?」

「うむ、ここから5日程歩いた所じゃ。必要なら案内も付けてやろう」

「分かりました。後日、また伺いますのでよろしくお願いします。しかし、あえて条件を追加すると言う事は、説得が難しいのでしょうね」

「いかにも。かなり排他的な種族じゃ。しかしそれくらい説得できんようでは、大陸中の力を結集するなど無理であろう」

「肝に銘じておきます。いずれにしろ声は掛けるつもりでしたから、挑戦してみますよ」


 その後は歓迎の宴となった。

 とうに諦められていたジードとダリルが戻ったのだ。

 村を挙げての大宴会になった。

 今日は良い返事がもらえなかったが、気の良い人達は沢山いる。

 もう少し時間を掛けて説得すればいいだろう。



 そう考えていたら翌日、ジードが残って周りを説得すると言って来た。

 まだ家族とも十分に話し合えていないだろうから、俺はそれを許す。

 ジードとダリルを残したまま、獅子人族の村を後にした。


 その後はバルカンに乗って虎人族の村に舞い戻り、もう一度村長に会わせてもらった。

 獅子人族の村での会談内容を話し、同じ条件で協力してもらえるよう申し入れる。

 村長は迷っていたが、獅子人族も協力するのならと言う事で了解の言質を得た。

 一応、ザムド達も村に残し、村人の説得をしてもらう事にした。

 まだ12歳以下の彼らは少し頼りないが、何もしないよりはましであろう。


 その後、残りのメンバーをバルカンに乗せて、帰路についた。

 巨大なワイバーンが急に現れた時、どちらの村でも大騒ぎになり掛けたが、それはまた別の話だ。



 6日ぶりにカガチの拠点に戻り、一晩だけ休息を取る。

 そして翌日、カインとサンドラ、アイラを連れて狼人族の村へ旅立った。

 1刻程で村に着き、そこからは徒歩で鬼人族の村へ向かう。

 5日間歩いてようやく目的地に着いた。



 2年近く前に行方不明になったカインとサンドラ、そしてアイラの帰還で鬼人族の村は大騒ぎになった。

 カイン達と一緒に出たジャミルも居なくなったので、強力な魔物に出会って死んだと思われていたようだ。

 村長の家、つまりカイン達の実家に招かれ、事情を話すと大きな驚きをもって受け入れられる。

 ジャミルの裏切りもかなりの衝撃を与えたようだ。


 そして奴隷狩り対策の話に移行すると議論が紛糾した。

 当然、人族と関わりを持つ事に反対する声も大きかったが、カイン達を謀略で奴隷に落とした事が大きく怒りを掻き立てたようだ。

 カインが熱弁を振るった事もあり、奴隷狩り許すまじの声が大多数となり、全面的に協力してくれる事になった。

 これは非常に心強い。


 その後の宴では、これまた熱烈な歓迎を受けた。

 カイン達を救ったばかりか、一緒に迷宮を攻略して来たと言う話が鬼人族のスイッチを入れたらしい。

 さらにサンドラを嫁にしたと告白した後は、さらに絡まれて揉みくちゃだ。

 鬼人族ってのは非常に熱い種族らしい。



 翌朝、少し遅い時間に目覚めると、村長の家の中は死屍累々の状態だった。

 村の重鎮を始めとする鬼人族の面々がそこら中に倒れている。

 こいつら、こんなんで大丈夫なんだろうか?


 しばらくウロウロしてたら朝食に呼ばれた。

 サンドラとレミリアで作ってくれたらしい。

 鬼人族の汁物をすすっていると、少し二日酔いが楽になってくる。


「なかなか美味いな、これ。サンドラが作ったのか?」

「そうじゃ、久しぶりで自信が無かったが、口に合ったか?」

「ああ、少し変わってるけど、俺は嫌いじゃ無いな。それにしても鬼人族の宴会は凄いな」


 俺がそう言うと、サンドラが顔をしかめる。


「基本的に鬼人族はお酒が大好きで、常に宴会のタネを探していると言っても良い。我らの帰還と結婚報告なぞ格好の理由じゃ。我が君を巻き込んでしまい、申し訳ないくらいじゃ」

「まあ、お互いの距離を縮めるにはいい機会だったとは思うよ。ウプッ」

「大丈夫ですか? ご主人様」

「ああ、大丈夫だって」


 まだ頭が痛いが、それ程気分は悪く無い。

 むしろ今後は鬼人族の強力なバックアップを得られる事になったので気分がいいくらいだ。

 この調子ならエルフや竜人族との交渉もなんとかなるかも知れない。


 そんな風に楽観的に考えていた時、トンガで身内の悲劇が進行していた事を俺は知らなかった。

 俺は少し慢心していたのだろうか。


 そしてその時が来た。


「グハッ!」


 唐突に頭の中に何かが流れ込んで来て、その場で俺はひっくり返った。

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