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妖精付きの迷宮探索  作者: 青雲あゆむ
第2章 魔大陸解放編
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52.銀狼の帰還

 猫人族の集落で奴隷狩り対策について協力を取り付けた後、俺達はガサルに戻った。

 また一晩、ガランさんの家に泊めてもらい、翌日は皆でカガチの拠点に戻る。


 1日半で拠点に戻った俺達は成果を確認し合い、次の日にはシュウ、ケンツ、アレスを連れて孤人族の集落に向け旅立った。

 ガサルまで馬車で1日半、さらに4日歩いて目的の集落に辿り着く。

 そこは猫人族の集落よりは大きいが、やはりこじんまりとした村だった。

 門では厳しくチェックされたが、孤人が2人も居るので問題無い。


 そしてシュウとケンツの実家を訪ねると、どちらも大歓迎された。

 特にケンツの実家は村長を務めており、そのまま奴隷狩り対策の話を聞いてもらう。

 やはり孤人族でも奴隷狩りは問題視されていたため、猫人族と同様に協力の言質を得た。


 そしてシュウとケンツをそこに残したまま、俺とレミリア、アレス、ケレス、シルヴァ、ヴァルカンは狼人族の集落へ向かう。

 孤人族から案内役を出してもらい、険しい道を4日程歩いてようやく目的地に到着した。

 しかしその集落の門では今まで以上に厳しい歓迎を受ける。


「お前達止まれ。妙な真似はするなよ。素性と目的を話せ」

「ゾットさん、俺です、三の郷のアレスです」

「アレスだと? 確かお前は1年以上前に行方知れずになっていたはずだが、今まで何処に居た?」

「ああ、良かった、覚えててくれたんですね。俺は1年前に奴隷狩りに捕まって、人族の大陸に送られてしまったんです。こちらのデイル様に助けて頂いて、ようやく戻れました」

「やはり奴隷狩りに遭ったのか。それにしてもそっちの人族に助けられただと? にわかには信じられん話だな」

「お久しぶりですゾットさん。ご主人様の素性はこのレミリアも保証します」

「レミリア? そんな奴は知らんぞ」

「お忘れですか? レーニアの娘、忌み子のレミリアを」

「なっ、お前、生きていたのか?」


 この男が驚くのも無理は無い。

 レミリアは異常に成長の遅い忌み子としてこの集落では差別されていた。

 そして体の弱い忌み子は早死にするのが相場と決まっている。


 しかしレミリアは生きて戻った。

 それも優しげな美貌と、若さにはち切れんばかりの肢体を輝かせて。

 この件は自分だけで判断出来ないと考えた門番が、村長の家へ使いを出した。

 しばらく待つと、年配の男と屈強な男が現れる。


「おお、お前がレミリアか? まさに、まさにレーニアに生き写しじゃ。レミリア、うおおぅおぅ」


 いきなり年配の狼人がレミリアに駆け寄り、彼女の手を取って泣き始めた。


「お久しぶりです、お祖父様。今こうしてここへ戻ってくる事が出来ました」

「本当にレミリアなのか? 忌み子のお前が一体どうやって生き残った?」

「叔父様、全てはこちらに居られるデイル様のおかげです」

「何? そこの人族のおかげだと言うのか。我らを亜人と言って蔑む人族がそんな事をするとは信じられんな」


 どうやらこの人達はレミリアの祖父と叔父らしい。

 それにしてもレミリアの家系が村長だったとはな。


「初めまして、私は冒険者のデイルと申します。縁あってレミリアとアレスに出会い、一緒に暮らしています。今日は2人の里帰りに合わせてご相談したい事があって参りました」

「貴方がレミリアを助けてくれたのですか。しかも行方不明になっていたアレスまで。こうしては居れん、まずは我が家へお越しください」


 こうして俺達は村長じきじきに彼の家まで案内される。

 予想以上に順調な流れだ。


 長の家に着くとお茶を出され、皆が落ち着いた所でレミリアが今までの経緯を語り始める。

 レミリアとその両親がミッドランド大陸に渡り、しばらくは迷宮で稼いで暮らしていた事。

 しかしある日、両親が大ケガを負い、そのまま他界して残されたレミリアが奴隷に落ちた事。

 そして俺が彼女を買い取り、魔力を注いだら急成長した事も話した。


「なんと、レミリアは魔素不足で成長が遅れていたと言うのですか? しかしこの村はそれなりに魔素が濃い位置にあると思うのですが……」

「普通の狼人族には十分な魔素濃度だと思いますよ。しかしレミリアは特に高い潜在能力を持つ者だったのでしょう。銀狼の伝説はご存知ですよね?」

「それはもちろん。遥か昔、最強の力を持って狼人族を率いた銀色の狼人が居たと言われております。しかしその血は途絶えて久しいとも」

「おそらくレミリアは一種の先祖返りなんでしょう。狼人族の血脈に潜んでいた銀狼の因子が、たまたま彼女に結実したのではないでしょうか」

「確かにそう考えると納得が行きますな。そんな奇跡の子供を我々は忌み子扱いし、あまつさえ追い出していたとは……済まないレミリア、儂があの時それに気がついて居れば。くうぅっ」


 また爺さんが泣き出した。

 爺さんは愛娘のレーニアとその娘であるレミリアを目の中に入れても痛くないほど可愛がっていたのだが、忌み子は不吉だと嫌う人達から圧力を受けていたらしい。

 その圧力を気にして、レミリアの両親は村を出る決心をした。

 そして爺さんはそれを止められなかった事を、今までずっと悔いていたのだろう。


「確かにレミリアは生き残る事が出来たが、だからと言って伝説の銀狼だとは言えない。むしろそこの人族にかしずく様はまるで奴隷では無いか」


 ここに来て叔父さんが騒ぎ出した。


「ドベル、お前が先頭に立ってレーニア達を追い出しておきながら何を言う。レミリアの強さなど一目見れば分かるではないか」

「いいや、そんなハレンチな格好で歩き回る娘なぞ、どれ程のものか。どうせそこの人族に調教された淫らな性奴隷に過ぎんわ」


 このオッサン、ビキニアーマーを身に纏うレミリアを性奴隷呼ばわりしやがった。

 俺の中で何かがブチ切れ掛けたが、その前に背後から強烈な殺気が放たれる。

 入り口近くで話を聞いていたシルヴァが暴風狼テンペストウルフに変化し、怒りを剥き出しにしたのだ。


(真に救いがたき愚物よ。己の保身を図るためにレミリアと我が主を愚弄するとは。そこへ直れ、下郎。今すぐ、息の根を止めてくれるわ)


「し、神狼様!? まさかデイル殿は神狼様まで従えておられるので? ご無礼の段、平にご容赦を」


 シルヴァの怒気に当てられ、狼人族が皆平伏してしまう。

 直接、殺気を向けられたドベルなど真っ青になって震えている程だ。

 どうやらシルヴァは狼人族にとって神にも等しい存在のようだ。

 確かに上位精霊レベルの彼は信仰に値する物を持っているかも知れない。


「シルヴァ、俺の替わりに怒ってくれてありがとう。とりあえず殺気を治めろ」


 シルヴァが不承不承、殺気を治めると、ようやく狼人族が頭を上げる。


「ドベルさん、先程の発言は俺にとっても許しがたい事ですが、レミリアの服装が少々軽薄に見えるのも事実です。今回は許しますが、次はありませんよ」

「愚息の発言、誠に申し訳ありません。過去の経緯もあって少々意固地になっておるのでしょう。後できつく言って聞かせます」

「いや、それよりも後でレミリアと立ち合ってみればいい。おそらく一太刀も当てられないでしょうから」

「なんだと、それなら今やってやる。表へ出ろ!」


 ドベルはそう言って立ち上がった。

 もうー、何なの、この人?

 ちょっと怒りの沸点低すぎだろう。


「分かりました。ご主人様、すぐに済ませるのでよろしいでしょうか?」

「仕方ない、あくまで程々にな」


 結局、家の前で立ち合いをする事になった。

 ドベルも片刃の剣を使うので、峰打ちでいいのを入れた方が勝ちと言う話になった。

 あーあ、死ぬぞ、あのオッサン。


 合図と共に始まった立ち合いは、予想通り一方的なものだった。

 レミリアは相手に掠らせもせずに、双剣の峰でドベルを打ち据える。

 しかしオッサンが見苦しくも負けを認めないので、どんどん傷が増える。

 とうとう最後は悶絶して地面に崩れ落ちた。

 レミリアはほとんど息を乱してもいない。


 あっけに取られる狼人族を促して家の中に戻る。


「ま、レミリアの強さはご覧の通りです。迷宮で鍛えたのもありますが、銀狼の名に恥じない戦士なのは間違いありません」

「まさにその通り。ドベルもあれでこの村ではトップクラスの強さなのですが、それを赤子のように扱われては、誰もが認めざるを得ません」

「それは良かった。そこでお願いが2つあります。まずはレミリアのように成長の遅い子を忌み子として差別しないで下さい」

「それは、そうしたいのはやまやまなのですが、どうしても成長が遅いと周りから蔑まれてしまいます。レミリアほど極端な例は最近無いのですが」

「そこは貴方が村人に真実を伝えて下さい。それから成長の遅い子供への対処方法も教えます。この村に魔術師は居らっしゃいますか?」

「魔術師は2人程居ますが、そのような秘術を本当に教えて頂けるので? あいにくと大したお礼は出来ないと思うのですが」

「それ程大した秘密ではありませんよ。それにお礼でしたら、私の計画に協力してもらえれば結構です」


 そして俺はようやく奴隷狩り対策について狼人族に打ち明けた。

 現状、横行している人族の奴隷狩りを止めさせるため、各種族が協力して監視と取り締まりをするべき事。

 すでに猫人族、孤人族の一部からは協力の言質を得ている事などを話す。


「なんと、そこまで考える方が人族に居られたとは。失礼ですが、貴方にとって何の益があるのでしょうか?」

「別に物理的な利益はありませんよ。ただ私がそうしたいからです。実は私には半分、エルフの血が流れているらしいんです。だから片親の故郷を良くしたいと言うのではダメでしょうか」

「クフッ、クフフフフフ……並みの人間が言えば嘘としか思えませんな。しかし神狼様を従える貴方の言う事ならば信頼出来る。ぜひ協力させて頂きたい」

「村長、そんな軽はずみな事をしていいのですか? 下手をすると人族と争いになるかも知れませんよ」


 ここで村の重鎮の1人から冷静な指摘があった。


「当然じゃ。そもそも我らを奴隷狩りの対象にしている時点で、人族に争いを挑まれておるのだ。今までは為す術も無くやられて来たが、このデイル殿が居れば大陸中が動くやも知れん。この話に乗らん理由など無いわ」

「村長の仰る通り、ある意味、我々はすでに戦争を仕掛けられているのです。これに対して我々は結束して人族に抗議する必要があります。具体的にはドワーフを窓口にして帝国に奴隷狩りの停止を申し入れます」

「そんな事をしたら本当の戦争になるかも知れませんぞ!」

「もちろんその危険はあります。しかしそうしないためにも魔大陸の住人が結束する必要があるのです」

「その通りじゃ。デイル殿こそ永く停滞しておったこの村、いやこの大陸に吹く風よ。この老骨、全力をもって支援させて頂く」


 村長がそう言って頭を垂れると、次第に周りの狼人族も従っていく。

 とうとうそこに集まる者全ての賛同を得るに至った。


 これでようやく3種族の同意を取り付けた。

 しかも今回の訪問ではかつて無い程の手応えを得ている。

 この調子で他の種族もまとめられるといいんだがな。

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