5.3匹目の仲間
翌日は朝からゴブリン狩りに行く。
あいつらは町の周辺の畑を荒らしているらしいので、門を出て適当にぶらついてみた。
やがて3匹のゴブリンが現れる。
奴らは身長140cmくらいで、緑色の肌をした醜悪な魔物だ。
粗末な腰布を身に付け、こん棒で武装している。
1匹だけならそれほど強くは無いが、集団だとそれなりに危険な存在になる。
今回のメンバーは俺とチャッピー、そしてキョロだ。
役割分担は、チャッピーとキョロがゴブリンの足を止め、俺が弓かダガーで仕留める事になっている。
ゴブリンと目が合うと、こん棒を振り回して迫って来た。
俺が1人だと思って舐めてやがるな。
真っ先に殴りかかってきたゴブリンにキョロが電撃を加える。
狙い通りに動きが止まったのでダガーで首を掻っ切った。
次に迫って来たヤツにはチャッピーが目眩ましを食らわせている。
チャッピーお得意の魔法で、強烈な閃光を相手に放つ技だ。
目が眩んだゴブリンの胸にダガーを突き入れると、あっけなく死んだ。
あっという間に2匹を片付けたため、
3匹目は少し距離を置いてこちらの様子を伺っている。
ちょうどいいので捕縛用の魔法を試そう。
俺は地面に右手を当てて魔法を発動する。
「土捕縛!」
ゴブリンの足元が少しへこんで、土や草が足を絡めとった。
土魔法の応用で、足元の草や土を操って相手の動きを阻害する技だ。
大した強度ではないが、ゴブリンの足を止めるくらいなら問題無い。
俺は足を取られたヤツの後ろに回り込み、ダガーを首筋に押し当てた。
ここで俺の使役スキルでゴブリンに念を送るも、抵抗があって契約できない。
そこでダガーを少し首に食い込ませて脅しをかけたら、渋々だが支配を受け入れる気配がして、契約が成立した。
初めて会った魔物にしてはうまく行ったと思う。
チャッピーやキョロのように初めから好意を持っていない限り、かなり抵抗されるのが普通だからだ。
短時間で仲間を殺られて、力の差を思い知ったってのもあるかも知れないな。
倒したゴブリンから討伐証明の右耳と魔石を回収し、その後は使役ゴブリンを加えて狩りを続ける。
しばらく歩いていると、4匹の群れが森から出て来た。
今度はちょっと距離があるので弓を使おう。
実は弓で試したい魔法があるのだ。
俺は矢をつがえながら、矢の先端に魔力を込める。
「風弓射!」
初心者用の弓とは思えない勢いで矢が飛んでいき、1匹のゴブリンを仕留めた。
この技は風魔法の応用で、弓矢を補助するものだ。
チャッピー曰く、俺たちの周りには空気という目に見えないモノがあって、それが風になっているらしい。
そしてこの空気は矢の抵抗になるので、矢の前方の空気を減らす事でより強く、より遠くへ放つ事ができるのだ。
俺達に気がついて向かってきたゴブリンの内2匹をダガーで仕留め、最後の1匹をまた使役獣とする。
所詮、ゴブリンだが前衛が2枚あると安心感が増す。
その後もゴブリンを余裕で狩り続け、13匹目を仕留めた所で身体が軽くなるような感覚を得た。
待望の肉体レベルアップだ。
魔物ってのは死ぬ時に生命力を放出するらしく、俺達がそれを取り込む事で肉体が強化されるって話だ。
レベルが高い程、力が強くなり、体も頑丈になる。
ちなみにそのレベルはギルドカードをギルドの魔道具に通すと確認できる。
いや、魔力が使えるなら自分だけで見れるんだったな。
後で見ておこう。
さらに森をぶらついていると、少し先に一匹の白っぽい魔物が現れた。
ダークウルフみたいだけど、それにしてはおかしい。
普通は黒に近い暗灰色なのに、目の前の奴は白に近い灰色だ。
「チャッピー、あれってダークウルフかな?色が変だけど」
「確かに色が薄いの。ひょっとして変異個体かも知れんな? もしそうなら特殊な能力を持っとる可能性もあるぞ」
特殊能力持ちならぜひ仲間にしたい所だ。
その白っぽい狼は俺を恐れる風も無くこちらを伺っていたが、ふいに視線をそらすと森の中に消えていった。
一気に緊張が解ける。
「一体、アイツはなんだったんだろう? 確かダークウルフは群れで行動するはずだし、こんな人里近くに居るのもおかしいよね」
「おぬしの言う通りじゃ。やはり変異個体で、群れからはじき出されておるのかもしれん」
またヤツに会う事があるのだろうか?
もし、また会えたら仲間にできないか、試してみよう。
その後はゴブリンが見つからなかったので、町に戻る事にした。
ちなみに今日、契約したゴブリンズは解放して、その場で始末している。
一緒に戦ってくれたのにスマン。
ゴブリンの魔石は1個で銀貨1枚。
さらに討伐料で銀貨1枚なので、今日の収入は銀貨30枚になった。
1日で宿代を10泊分稼いだと考えるとなかなかのものだ。
まあ、これもチャッピーとキョロあってのものなんだけどね。
宿に帰ってギルドカードでレベルを確認してみる。
魔力を通すと情報が浮き上がってきて、レベルが2になっていた。
今まで討伐系の仕事をほとんどしてなくて1のままだったのが、ようやく上がった。
なんか俺も冒険者らしくなって来たな。
寝る前にキョロに魔力を与える。
嬉しそうに耳や尻尾を動かしているのが凄く可愛い。
一応、毎晩やっているので気持ち体が大きくなって来た。
もっと成長して強くなるんだぞ。
それからしばらくはゴブリンを狩ってお金を稼ぐ生活を続けていた。
そしてある日、ギルドの掲示板を確認していると、ワイルドボアの討伐依頼が目に付く。
猪の魔物で凶暴だが、ギリギリFランクでも受けられる依頼だ。
ボアは肉がけっこう高く売れるので、稼ぐにはいい依頼だ。
この依頼の受付けを済ませ、町の外へ向かった。
昼間は森の中に潜んでいるだろうから、森を探索する。
「チャッピー、こういう獲物を探す魔法って無いかな?」
「そんな都合のいい魔法は無い、と言いたい所じゃが、手が無い事も無い。儂は魔物の放つ魔力が見えるから、それらしい魔力が見えたら教えてやる」
「さすがチャッピー、頼りになるね」
俺は森の中を歩きまわり、所々でチャッピーに魔力を確認してもらう。
やがてチャッピーが、それらしい魔力を見つけた。
俺は足音を忍ばせ、指示された方向に歩み寄る。
ある程度近づくと、ワイルドボアが餌を漁っているのが見えて来た。
ターゲット発見だ。
俺はそっと弓を構え、矢に魔力を込める。
(風弓射)
矢が狙い通りにボアの頭に突き刺さった。
ブギー!!
しかし一発では倒せず、驚いたボアが反対側に走り出してしまう。
あちゃ、追いつけるかな?
すぐに追い始めると、何かがボアの側面から襲いかかるのが目に入った。
昨日の白っぽい狼だ。
どうやらあいつもボアを狙っていたらしい。
狼がボアの首に食いつき、押し倒そうとするのに対し、ボアはそれを振るい落とそうと大暴れしている。
俺はしばらく手を出せずに見守っていたが、なかなかおとなしくならない。
やむを得ず俺はキョロを左手に乗せ、大暴れしているボアに近づく。
そしてボアの頭が近づいた時、キョロに電撃を指示する。
バチバチバチッ
電撃で動きの止まったボアに近寄り、ダガーを首筋に突き入れた。
なお暴れようとするボアの頭を抱え込み、俺はダガーをねじ込む。
狼と一緒にしばらくボアを押さえ込んでいると、やがて動かなくなった。
俺が安心してへたり込んだ途端、白い狼と目が合った。
狼は低く唸りながら、俺から距離を取ろとする。
しかしボアと争っている間に左足を痛めたようで、少し離れてうずくまり、痛めた部分を舐め始めた。
この状態ならこの狼を従わせられるのではないかと思い、試しに使役スキルで念を送ってみる。
しかしそう上手く行く訳も無く、あっさりと拒否されてしまった。
「チャッピー、あの狼のケガって治せないかな?」
「やってみよう」
そう言ってチャッピーは狼の所へ飛び、左足に両手を当てる。
やがてチャッピーの体がポウッと光り、狼の足も光に包まれた。
徐々に狼の表情が和らいでいるように見える。
そこで俺はゆっくりと狼に近寄り、額に右手を当てて、再び契約の念を送ってみた。
狼は少し迷った後、了承の意思を返して来た。
契約成立だ。
契約してみると、この狼はやはりダークウルフの変異種だった。
しかも風魔法を使う事ができる個体で、種族的にはウインドウルフという魔物になるらしい。
元々、群れにいたのだが、追い出されて町の近くまで来ていたようだ。
よく見るとダークウルフにしては体が小さいし、肉付きも悪い。
こいつもけっこう苦労していたんだろう。
俺は倒したばかりのボアをその場で解体し、内蔵を白い狼に与えた。
狼はガツガツと、それをむさぼり食う。
ボアの肉と毛皮は売れるので、木の枝を組み合わせてソリを作り、丸ごと持ち帰る事にした。
帰り道の途中でチャッピーが聞いてくる。
「そう言えばこやつの名前はどうするんじゃ?」
「うん、ちょっと安易だけど、”シルヴァ”にしようと思う。見ようによっては銀色に見えるだろ?」
「シルヴァか。まあ悪くは無いの」
「キュー」
「ウオン」
こうして俺は3匹目の仲間を手に入れた。
そろそろ迷宮へのチャレンジを考えてもいいだろうか。