48.魔大陸への旅立ち
今回で第1章終了です。
ガルド迷宮の完全攻略から1ヶ月後、俺達は港湾都市セイスに来ていた。
今後、魔大陸に渡って活動する準備を整えるためだ。
攻略完了から今まで、実に慌ただしかった。
まず7層守護者部屋から地上に戻って、迷宮攻略を衛兵に告げたら大騒ぎになった。
1年前は4層までしか攻略されていなかったのに、7層を攻略してそこが最終階層だと言われれば驚くのも当然か。
さらに守護者がドラゴンだったと言えば、正気を疑われるのも無理は無い。
即座に衛兵詰所に連れて行かれ、いろいろと聞かれた。
衛兵達は最初、あからさまに疑わしそうな顔をしていたが、俺達がドラゴンの魔石やウロコを出してやると、バカみたいに口を開けて驚いていた。
そして7層の状況を聞いた後、渋々ながら俺達を解放してくれた。
7層で最後って話は疑っていたようだが、そう思うなら自分達で確認しに行けばいい。
ちなみに強制的に買い上げられたドラゴンの魔石は、かつてないほどの魔力を内包しており、鑑定で金貨2枚と認められた。
その希少価値からすれば絶対にもっと高いのだが、魔石の価値は魔力量で判断されてしまうためどうしようも無い。
その後、お決まりのギルドへの報告、素材売却も行う。
ドラゴンの素材は一部のみ売却し、残りは自分達の装備用に残した。
その一部だけでも金貨200枚を超えた時点で買い取りを拒否されてしまった程だ。
ちなみに素材から判定された種族名は”ブロンズドラゴン”になるらしく、これでも中位の存在なんだとか。
あれ以上の存在なんて絶対に遭いたくないね。
それからアリスさんとギルマスへの報告はわりと簡単に済んだ。
未だに他のパーティは4層の攻略すら遅々として進んでいないのだから、それも当然か。
7層に出る魔物と守護者の簡単な情報だけを淡々と伝えると、ギルマスが感慨深げに呟いた。
「ガルド迷宮がとうとう攻略されたか……しかしお前達が突出し過ぎていて、実感が沸かんな」
「そうかも知れませんね。従来の武術や魔法体系にこだわっている内は4層辺りが限界なんでしょう」
「なるほど、お前達はそれを乗り越えたと……今後はどうするんだ? 出来れば後継の育成に力を貸して欲しいのだが」
「申し訳ありませんが、じきに魔大陸へ渡るつもりです。やりたい事があるので」
「何をやるんだ?」
「それは内緒です」
「そうか、また機会があれば顔を出してくれ。元気でな」
こうして俺はギルマスと握手をして別れた。
そして自宅に帰り着くと、新人達が総出で出迎えてくれた。
もちろんそのまま宴会に突入だ。
アレスやアイラは最終階層の攻略について行けなかった事をしきりに悔しがっていた。
ジードの有様をみれば、どっちが良かったのか微妙な所だとは思うのだが。
ちなみに俺達が迷宮を攻略した時点で新人達は自力で3層を突破しており、4層を探索中だった。
準1軍のアレス、アイラ込みだけど大したもんだ。
その後、俺達の肉体レベルはこんな感じになっている。
レベル11:俺、カイン、レミリア、サンドラ、
レベル10:リューナ、リュート、ジード
レベル9:アレス、アイラ
レベル6:ケレス、シュウ、ケンツ、レーネ、ザムド、ナムド、ダリル、ガル、ガム
レベル4:セシル、ミント
ちょっと前まで2軍メンバーはレベル5だったのだが、1軍のサポートを付けて無理矢理4層を攻略させた。
おかげでセシルとミント以外は全員、レベル6以上になっている。
ちょっとインチキ臭いが、魔大陸では激しい戦闘が予想されるので、少しでもレベルを上げておいた方が生き残る可能性が高まると考えての処置だ。
ちなみに冒険者ギルドのランクだが、俺も含めて全員Cランクに留めてある。
もうじきこの大陸とはおさらばするつもりなので、余計なしがらみは要らないのだ。
2軍の底上げと並行して、新たな防具を調達した。
ゴトリー武具店にドラゴンのウロコを持ち込み、製作を依頼する。
作ってもらったのは数枚の盾と、いくつかの鎧だ。
盾は魔鉄製のフレームにドラゴンのウロコを貼り付けてもらった。
ドラゴンのウロコは軽いわりに、物理・魔法の防御効果が高い。
この盾をカイン、サンドラ、アレス、アイラ、ガル、ガムに与える。
もちろんカインの盾だけは特大の長盾だ。
鎧の方は俺用にドラゴンのスケイルメイルを仕立てた。
と言っても、ドラゴンのウロコは大きいからほとんどプレイトメイルに近い。
このウロコをふんだんに使って、俺専用の軽鎧を作ってもらった。
これよりは劣るが、オーガ革の鎧にドラゴンのウロコで要所を補強したものをリュート、ジード、アレス、アイラに与える。
カインにもパンツとか心臓を守る胸当てを与えたが、強靭な肉体を持つ彼の露出度は相変わらず高いままだ。
また露出度が高いと言えばレミリアとサンドラだが、彼女たちは相変わらずビキニアーマーを使っている。
サンドラは元が頑丈なので当然だが、レミリアは本当に攻撃を当てさせない戦闘が出来るようになっているので文句が言えない。
それ以外のメンバーも、もれなくオーガ革の鎧に更新した。
これだけでも相当な出費だったが、魔大陸での仕事には必要だと割り切っている。
魔大陸に渡る準備も着々と進めている。
まず足が早くて、そこそこ荷物を積める船を探した。
俺達が今使っている馬車はぜひ持って行きたいし、ドラゴも連れて行けたら最高だ。
そんな船を探していたら、おあつらえ向きのがあった。
サベッジと言う船長の船で、魔大陸までは20日で行けるらしい。
馬車やドラゴを積むスペースもあったので、契約を決める。
1ヶ月ほど後に魔大陸へ行く予定があったので、それに便乗する事になった。
そしてあっと言う間に1ヶ月が経ち、いよいよ魔大陸へ出発する日が来た。
馬車を始めとして様々な荷物を運び込み、いよいよ船上の人となる。
「ようやく魔大陸へ渡るのですね、デイル様」
「ああ、向こうに着いて少し落ち着いたら、お前達の故郷を回ろう。そして家族に無事な姿を見せてやるといい」
「本当に、本当にありがとうございます」
カインがそう言って涙ぐむ。
みんなの故郷を回る事はすでに決まっている話だ。
俺は向こうで奴隷狩りを阻止する仕組みを作るつもりだが、そのためには向こうの住人の協力が欠かせない。
そこで俺達に縁のある集落を回って協力を打診するのだ。
もちろん、彼らに里帰りさせてやりたいと思うのも正直な気持ちだ。
「兄者、何を涙ぐんでおる。あの裏切り者を始末するまで、涙を流す暇など無いぞ。我が君も力を貸してくれると言うておるし、腕が鳴るわ」
「サンドラ、手を貸すのにやぶさかでは無いが、素直に帰郷を喜んでもいいんじゃないか?」
「いいや、あ奴の首を掻き切るまでゆっくりとは眠れんわ。フハハハハハハ、待っておれよ、ジャミル!」
サンドラは早くも、自分達を奴隷商人に売り渡した裏切り者に復讐する事で頭がいっぱいらしい。
まあ、遅かれ早かれ、けじめを付ける予定ではあるのだが。
レミリアとリューナが俺に寄り添って来た。
「また故郷の土を踏めるなんて夢のようです、ご主人様」
「私もです、兄様。2年前までは故郷に帰るどころか死に掛けていた私が、まるで夢みたい」
「ああ、それもみんなが頑張ったおかげだ」
俺はそう言って2人を抱きしめる。
リューナはもう見た目も子供では無い。
度重なるレベルアップに伴って成長が促進され、今では15歳ほどの見た目になっている。
もうすっかり大人と言ってもよく、とても美しい娘になった。
迷宮攻略まではお預けと断っていた”嫁にしろ攻撃”もとうとう躱せなくなり、今は文字通り閨を共にする仲になっている。
幸い、レミリアやサンドラとは仲良くしているのが大きな救いだ。
「ご主人、荷物の積み込みは終わったよ」
「ああ、ケレス、ご苦労さん」
魔大陸ではとりあえず商人と言う立場を築こうと思っている。
その方が動きやすいし、奴隷商人から情報も取りやすいだろうとの判断だ。
そのため、魔大陸で不足していそうな商品をケレスに揃えてもらった。
その積み込みがようやく終わったらしい。
そして船長のサベッジがやって来る。
「デイルさん、そろそろ出発しますが、準備はいいですか?」
「はい、船長。仲間は全員、乗り込んでいるのでいつでも出発してください」
この船は現在、俺がほぼ借りきっているようなものなので船長の腰も低い。
そして俺は使役リンクにより仲間が揃っている事を確認できている。
ちなみに今この時点で、メンバー全員の首に隷従を強制する首輪は付いていない。
奴隷組は迷宮を攻略した時点で全て解放したからだ。
もちろん使役契約はそのままだが、表向き俺の仲間に奴隷は居ない。
しかし皆、俺の理想実現のため喜んで付いて来てくれる。
やがて船が埠頭を離れた。
船の帆がいっぱいに風をはらみ、水上を滑りだす。
こんな風に船の上から陸を眺めるのは初めてだ。
セイスの町並みと、遠くに見える山々が美しい。
ひょっとしたらこれが、この大陸の見納めかもしれない。
しかしそうだとしても、俺は魔大陸の奴隷狩りを止めさせたい。
例えそれが自己満足に過ぎないとしても、成し遂げてみせる。
ここからが俺の新たな挑戦だ。
(第1章完)
ようやく第1章終了しました。
次章では魔大陸に舞台を移して新たな冒険が始まります。
キャラクター紹介を明日アップしてから1、2週間ほど投稿を止める予定です。
ある程度、まとめて書いた方が話の整合性が取りやすいんですよね、やっぱり。
感想を頂けると嬉しいのでよろしくお願いします。