45.ライノサウルス
オーク狩りから戻った俺達は、自宅で今後の方針を相談した。
そして新人達はしばらく原っぱで訓練をする事になったので、1軍は久しぶりに迷宮探索を進める事にした。
翌日、1軍メンバーが揃って6層に潜る。
ちなみに今の俺達の肉体レベルはこんな感じだ。
レベル9:俺、カイン、レミリア、サンドラ、
レベル7:リューナ、リュート
レベル5:ケレス
レベル3:アレス、ジード、アイラ
レベル2:シュウ、ケンツ、レーネ、ザムド、ナムド、ダリル、ガル、ガム
レベル1:セシル、ミント
これは最近、全員がギルドカードを作ったために把握できるようになっている。
1軍組でケレスが特に低いのは攻撃をあまりしないから、2軍でアレス達が高いのは魔大陸での戦闘経験のためだろう。
ちなみに2軍がそこそこ強くなったら、セシルとミントにもレベルを上げさせるつもりでいる。
戦力は少しでも多い方がいいからね。
それからレベルアップには肉体成長の促進効果もあるらしい。
俺も度重なるレベルアップで背が伸びて170cmくらいになっている。
どうやらこの辺が俺の身長の上限らしく、最近は打ち止めだ。
そして一番変わったのはリュートとリューナだ。
会った時は120cm足らずだった身長が、今では150cmを超えている。
普通の人族なら12歳くらいの外見になって来た。
まだ幼さは残るが、リュートは精悍に、リューナは少し色っぽくなっている。
前々からリューナが抱いてくれとうるさかったのだが、ちょっと断りにくくなって来た。
まあ、迷宮攻略まではお預けって事で誤魔化している。
今日は久しぶりに最強メンバーを揃えたので、商売で外れたはずのケレスも引っ張って来た。
まだ後継が育ってないので仕方ない。
そして6層序盤の攻略は順調だった。
ダークウルフ、ケイブボア、サーベルタイガーが多数、出てきたが、レベルアップした俺達の敵では無い。
その後、ちょくちょく2軍の育成もしつつ、正味5日ほどで序盤の探索は終わった。
続いて中盤を探索すると、今度はレッドヒートエイプが出現する。
この暴れ猿が最大で10匹も出てきたが、”サルのお浸し”で切り抜けた。
中盤も正味7日で探索が終わる。
そしていよいよ6層深部の探索が始まった。
新たな魔物の登場を予想して進んでいると、現れたのはリュウモドキに似た魔物だった。
硬い皮に包まれた4本足の魔物で、鼻先と目の後ろに鋭い角を備えている。
全長は4m、体高は2m強でリュウモドキを大きくした感じだが、その口には鋭い牙が並び、凶暴そうな面構えだ。
「ライノサウルスとは厄介じゃのう」
「チャッピー、知ってるのか、あれ?」
「うむ、魔境では有名な魔物じゃ。頑強な装甲に鋭い角と突進力を備えた強敵じゃよ」
「今までの敵ではソードビートルに近いけど、体重が倍以上ありそうだな。あれをカインが受け止めて、リューナが転ばせるのは無理かな?」
そう言いながらカインを見ると、フルフルと首を振っている。
仕方ないのでみんなで作戦を練った。
とりあえず思いついたのがライノの突進を誘い、リューナの竜人魔法で土壁を作って足止めする事だ。
動きが止まった所で総攻撃すればなんとかなるだろうと、まずは試す事にした。
しかし俺達の甘い期待はあっさりと突き崩される。
リューナの竜人魔法では思った場所へ思った瞬間に土壁を作るのが難しい。
土壁を作っても簡単に避けられるか突き崩されるかで、全く足止めにならなかった。
さんざん追い回されてる内にケガ人が出始めたので、やむなく撤退する。
大したケガを負わされた訳では無いが、守護者でも無い魔物に追い戻されるとは屈辱だ。
かなり悔しかったので、その晩は外へ飲みに出る。
「くっそー、今日は散々だったな」
「兄様、ごめんなさい。私の魔法が未熟なばかりに……」
「いや、それは仕方ない。本来、習得に何十年も掛かる竜人魔法なのに、リューナはよくやってくれてるよ」
「その通りじゃ。前人未到の6層ならこんな事もあるじゃろう。むしろ、今までが順調過ぎただけの事よ」
チャッピーの指摘に皆、黙りこむ。
「確かにそうですよね、”ビートルさん転んだ”とか、常人には夢みたいな魔法だけど使い所が難しいですから。と言うより普通の人は思い付きませんよね」
「そうじゃな。普通には使いにくい魔法を実戦に役立てる柔軟さはデイル独特のものよ。変人と言って良いな」
「こらこらそこ、人を変人呼ばわりするんじゃない!」
そんなやり取りで笑いが発生する。
「けどあのライノサウルスは反則だよ。あたいの障壁もカインさんの防御も簡単に蹴散らされちゃったし」
「あの突進を受け止められる人間など居ないでしょう。例え10人で守っても吹き飛ばされそうです」
うん、10人?
「そうか、1人で駄目なら重ねればいいんだ」
「え、デイル様。全員で盾を持つのですか? それでも到底、耐えられるとは思えませんが」
「違う。盾職3人の力をまとめるんだ。サンドラ、お前に与えた土の魔剣はどれくらい使えるようになってる?」
「む、土の魔剣か? ようやく土の刃が制御できるようになってきた感じかの」
「そうか、なら可能性があるな。以前、この炎の短剣についてバルカンと話した事があるんだけど、この短剣は精霊との交信を容易にする機能があるらしい。もし土の魔剣にも同じ機能があるなら、サンドラは土精霊と契約できるようになっていると思うんだ」
「仮にそうだとして、ライノサウルスとどんな関係があるのじゃ? 我が君」
「ある程度、土魔法が使えるようになれば土壁も作れるだろう。そこにカインの盾とケレスの魔法障壁を組み合わせれば、ライノの突進を受け止める壁が作れないか?」
「なるほど、重ねるとはそう言う意味ですか。サンドラの魔法次第ですが、少し希望が見えて来ましたね」
「ああ、早速明日試してみよう。リューナもノームの説得を頼む」
「はいです、兄様」
こうして希望が見えてきた俺達は、適当に食事を切り上げて翌日の訓練に備えた。
翌日、いつもの原っぱに来て実験を開始する。
「よし、リューナ、サンドラにノームを紹介してやってくれ」
「はいです、兄様……兄様の推測通り、契約してもいいって言ってるのです。サンドラ姉様と感覚を共有します」
「うむ、頼む」
しばらくすると無事にノームとの契約が終了したようだ。
一見、簡単に契約できたように見えるが、これは精霊と交信する資質を持った者にしか出来ない。
この資質を持つ者は今まで俺とリューナ、レーネ、セシルくらいだったのだが、土の魔剣に慣れ親しんだサンドラもノームと交信できるようになったと言う訳だ。
「よし、サンドラ、土の刃を出してみろ」
「了解じゃ、我が君」
サンドラが土の魔剣を地面に突き刺して念じた瞬間、鋭い刃が地面から突き出した。
「おお、今までとは比べ物にならない程簡単にできるのじゃ。精霊の加護とは素晴らしいのう」
「よし、それじゃあカインと組んで頑丈な障壁を作る研究をしてくれ。ある程度、形になったらケレスも参加するようにな」
「了解じゃ、我が君」
その後、俺達はてんでに自分の訓練をしたり、新人達を指導したりしていた。
新人たちに初めてオーク狩りを体験させてから3週間以上経つが、彼らもだいぶ成長している。
まず2層で魔物を倒し続けたおかげで、肉体レベルがひとつずつアップした。
そのおかげもあってオークへの攻撃もだいぶ通るようになり、オーク2匹なら新人だけで倒せるようになっている。
3匹を倒せるようになれば、彼らにも魔鉄製の武器を与えて守護者に挑戦させようかと思っている所だ。
カイン達の障壁は2日間の試行錯誤によってまずまずの成果を得た。
まずカインが大盾を地面に突き刺して耐衝撃姿勢を取ってから、その盾の周りに土壁をサンドラが構築して補強する。
さらにケレスが魔法障壁を重ね掛けする事で、かつてない強度の壁が完成した。
試しに3層でソードビートルの突進を受け止めてみたがビクともしない。
今までカイン1人で受け止めていたのだから当然だが、ソードビートルが雑魚に思えてしまうほどの壁に仕上がったのは間違い無い。
こうして俺達は、ライノサウルスに再挑戦するべく6層深部に潜った。
ライノの居る部屋を探し当て、準備を整える。
「それじゃあ、今から突入するので作戦通りにな。例えダメでも次があるから、あまり無理はしないように」
メンバーの返事を受けて、ライノ部屋に侵入した。
俺達が適当な所で陣形を組むと、ライノが早速突進して来る。
まず防御姿勢に入ったカインを中心に、土壁と見えない障壁を構築する。
ライノはそれを吹き飛ばす勢いで突き進み、角でぶち当たって来た。
ガツンッ!
ケレスの障壁とサンドラの土壁を貫いたライノの角を、カインの大盾がかろうじて受け止めた。
「リューナ、やれ」
「はい、兄様、ライノさん生き埋めになるのです」
次の瞬間、ライノの足元が大きく窪み、左右に土塊が盛り上がった。
そしてライノが脱出する暇も無く、土塊が奴を包み込む。
あっと言う間にライノは頭だけ出した生き埋め状態となる。
俺はすかさず奴の頭に駆け寄り、その片目に炎の短剣を突き刺した。
さらに刀身から炎を発生させて頭蓋の中身を焼き尽くすと、あっけなくライノは息絶えた。
作戦成功である。
実はライノを倒すにはただ突進を受け止めるだけでなく、どうやってダメージを与えるかが大きな問題だった。
ソードビートルと同じように土魔法で突き上げて転倒させるのも手だが、ビートルと違ってライノはすぐ起き上がって来る。
そうすると地道に攻撃してダメージを重ねるしか無いのだが、ライノの装甲はビートル並みに硬く、かなりの手間が予想された。
それならそのまま足止めして炎の短剣で焼こう、と言う話になったのだ。
問題はどうやって身動きを取れなくするかだが、ここでリューナの竜人魔法に目を付けた。
元来、おおざっぱな指示しか聞いてくれない精霊だが、ライノを拘束しろという指示は有効なのだ。
おかげでカイン達が足止めしてしばらく耐えてくれさえすれば、竜人魔法でライノを生き埋めに出来る。
さらに都合の良い事にライノの角がサンドラの土壁に刺さっているので、奴は頭を動かせない。
後は炎の短剣を目に突き刺して焼くだけの簡単なお仕事ですって訳だ。
これでようやく6層を攻略できそうな気がしてきたな。