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妖精付きの迷宮探索  作者: 青雲あゆむ
第1章 迷宮探索編
44/86

44.オークの壁

 セイスで商売をしてガルドに帰ってくると、新人達が少し進歩していた。

 レーネの散弾魔法がようやく形になり、苦手なケイブバットを撃退できるようになっていたのだ。

 さらにシュウとケンツも探知能力を高め、不意の奇襲にも対応しつつある。

 俺は留守を任せていたカインと相談し、新人達を2層深部へ進ませる決断をした。



 翌日、1、2軍混成の2パーティで2層へ潜る。

 そしてシルヴァの能力に任せて一気に深部へ移動し、オークを探した。


 やがて見つかった3匹のオークに実験台になってもらう。

 まず俺、レミリア、サンドラ、バルカンがサポートする中で、アレス、アイラ、レーネ、ガル、ナムド、ダリルがオーク戦に突入した。

 俺とバルカンがレーネを守り、残りは直接オークに当たる。

 もちろんレミリアとサンドラは防御主体だ。


 新人達がオークに攻撃するが、想像以上の硬さに驚いている。

 彼らも一応、魔法剣を使えるのだが、発動させるのに時間が掛かって思うようにダメージを与えられていない。

 レーネには魔法弾を撃たせるが、これも弾かれている。

 まだ先端に込める魔力が甘いか、弾速が足りないのだろう。


 とりあえず俺がお手本で魔法弾を一発ぶち込んでやった。

 それを胸に食らったオークの動きが鈍ったので、新人達が総攻撃する。

 今の俺なら瞬殺も可能なんだが、訓練のために手加減してある。

 その間、レミリアとサンドラには残りの2匹を押さえてもらっていた。


 かなり抵抗の弱まったオークに対して、ようやく魔法剣を使った新人の剣が食い込み始める。

 レーネの魔法弾も少しは効いているようだ。

 しばらくはオークも粘っていたが、やがて力尽きる。

 しかしこの時点で新人達は疲労困憊で、満足に動けそうにない。

 しょうがないので残りは俺達で片付ける事にした。


「サンドラ、そっちのオークを転ばせるから、サンドラ斬りな」

「了解じゃ、我が君」

「レーネ、よく見ておけよ。これが土捕縛アースバインドだ」


 俺が地面に手を当てて念じると、サンドラが相手をしていたオークの足元が沈み、土が足を巻き込む。

 バランスを崩して倒れたオークの首筋にサンドラが剣を叩き込むと、あっけなく首が飛んだ。


「レミリア、そっちも片付けていいぞ。新人はよく見とけ」


 そう言うと、攻撃を躱し続けていたレミリアが本気を出す。

 新人に手本を示すよう事前に言ってあるので、比較的狙いやすい急所を的確に攻撃している。

 彼女もオークぐらいは瞬殺できる実力があるのだが、新人向けに時間を掛けて丁寧に倒した。

 と言っても、50を数えるくらいで終わってしまったんだが。


 自分達との力の差に唖然とする新人を叱咤し、オークを解体させる。

 待ってる間に俺は残りの新人と話をしていた。


「お前ら、今の見てどう思った?」

「どうもこうも、今の俺達じゃ全く歯が立ちそうにないっすよ」

「まともな冒険者がオークを避ける理由がよく分かりました」


 ケンツとシュウが情けない感想を述べる。

 まあ、すぐにお前らにも戦ってもらうけどな。


 解体終了後に再びオークを探し、今度はカイン、リュート、リューナ、シルヴァ、キョロのサポートでシュウ、ジード、ザムド、ガム、ケンツが戦闘に入る。

 前回同様に新人は全く歯が立たないので、リューナに魔法弾を撃たせた。

 しかし威力が強過ぎて、オークがそのまま死んでしまった。


 仕方ないのでキョロに雷撃させたら、今度はうまく行った。

 弱ったオークにトドメを刺させ、とりあえずオークを倒す大変さを新人達に実感させた。


 2匹目が倒れたので、最後はリュートにお手本を見せてもらう。

 彼もレミリア同様に的確にオークの急所を攻め、あっさりと倒してみせた。

 まだ10歳児くらいの体格しかないリュートの戦い方は、新人達の良い参考になるだろう。

 まあ、彼は見た目以上に強いんだけどね。


 またオークを解体した後、少し早いが野営の準備に入る。

 適当な行き止まり部屋を確保して腰を落ち着けた。

 採れたてののオーク肉を調理し、夕食を取りながら反省会をする。


「アレス、今日の狩りはどうだった?」

「オークがメチャクチャ硬くて、驚きました」

「そうだろう? 最初は誰でも驚くんだ」

「でも、俺達は魔法剣を習ってるから、もう少しなんとかなると思ってたんですが」

「最初は妾もそんなものだったぞ。威力を高めるには集中しなければいかんからの」

「サンドラさんでもですか?」

「そうだな、俺達の中で最も魔法剣に長けたサンドラですら、集中には時間が掛かっていたからな。まあ、レベルが上がれば一瞬でできるようになるさ」


 ここでシュウが口を挟む。


「と言う事は、他の魔物を地道に狩ってレベルを上げるしか無いんですね。それとも1軍のサポートで2層を攻略させてもらえるんですか?」

「2層でそれをやるつもりは無い。もちろん最低限のサポートはするが、お前達の知恵と工夫で倒せるようになって欲しいんだ」

「そんなの無理ですよ、俺達にはデイルさん程の才能は無いんですから」

「最初から考える事を放棄してどうすんだ。2層攻略時の俺達に比べたら、お前らの方がよっぽど能力高いぞ」

「確か兄貴が初めてオークを倒したのは、レミリアさんとキョロ、シルヴァ、チャッピー、それと弱り切ったカインさんとサンドラさんと一緒でしたよね?」

「そうだ、あの時は貧弱な円すい弾とサンドラ斬りで倒した。それ以上の手段を知っているお前らに倒せないはずが無い。もっと頭を使え」

「……分かりました。シュウ、後でみんなと相談しよう」


 とりあえずケンツがまとめ役になって考えるらしい。

 少なくとも前向きになるのはいい事だ。

 その日は遅くまで新人達が相談したり、訓練をしていた。



 翌日、ケンツ達が提案して来たのは新人8人とベテラン2人でパーティを組み、1匹だけ残したオークを新人に狩らせて欲しい、というものだった。

 まだまだ甘いが、彼らのやる気を評価してOKする。


 やがて3匹のオークが見つかったので、カインとシルヴァに任せた。

 新人はガル、ガム、シュウを除く8人だ。

 とりあえず足の遅いドワーフを外して回避と攻撃に集中するのかな?


 戦闘開始後、すぐにカインとシルヴァがオークを1匹ずつ片付けた。

 残った1匹を新人が囲む。

 予想通り、レーネ以外の獣人がオークを翻弄し、的を絞らせないようにしている。

 そこでレーネが魔法弾を2発撃ったのだが、相変わらず致命傷には程遠い。

 やがてケンツから指示が飛び、アレス、ジード、アイラが距離を置いて準備を始めた。

 ははあ、土捕縛アースバインドからのサンドラ斬りを狙っているな。


 やがてケンツ達がオークを挑発してこん棒の大振りを誘発した。


土捕縛アースバインド!」


 レーネの掛け声と共にオークが足元を取られ、バランスを崩した。

 さすがレーネは土精霊ノームと契約してるだけあって、俺より術の規模がでかい。

 オークがこらえ切れずに転倒すると、アレスが声を上げて斬り掛かった。


ガツン!


 しかし駄目だ、まだ刃が通らない。

 その後もジードとアイラが同様に斬り掛かるが、やはり表面しか切れなかった。

 いや、表面が切れてるなら、まだマシな方か。

 そうしている内にオークが立ち上がってしまい、振り出しに戻る。

 ケンツが俺の方を伺っているが、無視した。

 まだやれるだろう。


 俺の助けが得られないと知ったケンツが、号令を掛け直す。

 またサンドラ斬りを狙っているんだろうが、彼らの表情が硬い。

 ちょっと自信を無くしてるのかな?

 しょうがない、少し手を貸してやろう。


「ジード、こっちに来い。リュート、お前の剣を貸してやれ」


 獅子人族の少年ジードがこちらに走ってくる。

 迷宮の10人ルールで俺達は部屋に入れないので、リュートが彼に向けて剣を放った。

 リュートの剣は魔鉄製なので斬れ味が良く、魔力の通りもいい。

 新人の中で最も力が強いジードなら、たぶんオークを斬れるだろう。


 リュートの剣を受け取ったジードが配置に付き、準備が完了する。


土捕縛アースバインド!」


 レーネの掛け声と共にオークが再び転倒した。

 それまで魔力を剣に溜めていたジードが駆け寄って、剣を振り下ろす。


ザクッ!


 ようやく剣がオークの首の半ばまで食い込み、血が噴き出した。

 そのままオークはしばらく動いていたが、やがて動きが止まり、新人達から歓声が上がった。

 やれやれ、ようやくか。

 まだまだ先は長そうだ。


 その後、オークを解体して休憩を取りながら話をする。


「みんなご苦労。しかしまだまだ及第点には程遠いな。ケンツはどうすればいいと思う?」

「はい、まずはレーネの魔法弾の威力を練習で高めます。前衛はオークの動きに慣れて、魔法剣を繰り出す隙を作れるよう訓練します。後、できればオーク戦の時だけでも魔鉄製の武器を貸してもらえませんか?」

「うーん、訓練方針は良いけど、魔鉄武器はなあ。あまり武器の性能に頼って欲しく無いんだ……」

「でも1軍の武器は全部魔鉄製だし、サンドラさんのなんか魔剣じゃないですか」


 ここでシュウが噛み付いてきた。


「シュウ、それは違うぞ。我々が魔鉄製の武器を手に入れたのは、オークを安定的に狩れるようになってからだ」

「そうそう、”嵐の戦斧”を返り討ちにした時の戦利品だったよな」

「でもサンドラさんは大人で力が強いし」

「最初にオークを斬った時、妾は死に掛けで今のシュウより弱かったぞ。ちょうど今、ジードに持たせているバスタードソードを使っていたのじゃ」

「くっ……」

「ま、そういう事で、しばらくは普通の武器で苦労してみろ。ちゃんと技術が身についたら魔鉄製の武器も買ってやる」


 休憩を終えた後、またオークを探した。

 1刻ほどで見つかったオークに、また新人メインで挑む。

 今度はケンツ、ザムド、ナムドが見学だ。


 子守役のサンドラとキョロが2匹のオークを仕留め、残りの1匹を新人が攻撃し始めた。

 相変わらずレーネの魔法弾は致命傷を与えられないので、サンドラ斬りに切り替える。

 土捕縛アースバインドで転倒したオークにアレス、ジード、アイラが斬り掛かった。

 多少は慣れてきたのか、前回よりは刃が通っている。


 それでも致命傷には至らず、オークが起き上がった。

 再び新人とオークのダンスが始まる。

 一応、新人達もオークの動きに慣れてきたのか、いくらか余裕が見える。

 そして再び転倒させて首筋に攻撃を入れる。

 これを合計で4回繰り返した後、ようやくオークが息絶えた。

 新人達はヘトヘトである。


「みんな、よくやったぞ。今日はこれぐらいにして地上へ帰ろう。見学組はオークを解体してくれ」


 解体を終えて、俺達は帰路についた。

 今回は合計で12匹もオークを狩ったため、戦利品も多い。

 地上に出て精算すると、魔石だけで金貨2枚以上。

 オークの皮で金貨12枚、肉が400kg分で金貨10枚にもなった。


 やっぱりオーク狩りは実入りがいい。

 新人達の訓練にもちょうどいいし、俺達にとっては良い魔物だと言ったらオークに怒られるかな?

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