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妖精付きの迷宮探索  作者: 青雲あゆむ
第1章 迷宮探索編
40/86

40.2軍メンバーの加入

 俺達は今、港湾都市セイスの奴隷市に来ている。

 目的はリュートのように魔大陸からさらわれて来た奴隷の確保だ。

 魔大陸からの奴隷は力が強い個体ほど、魔素の薄いミッドランド大陸では衰弱する。

 そんな衰弱した個体を引き取って、戦力にするのが狙いだ。


 昨日、話を付けた奴隷商の店に赴く。

 ちなみにこの商人はアベルと言うらしい。

 奴隷商人なんかと仲良くするつもりは無いが、名前ぐらいは覚えておいてやろう。


「ちゃんと来たな。ウチの店で弱ってるのはこっちだ」


 そう言いながらアベルが案内してくれる。

 連れて行かれた先は、そこそこ小綺麗なテントだった。

 価格帯としては金貨10枚以上は行きそうな奴隷達が収められている。


「こいつだ。狼人族でしかも白毛だ。希少種で力が強いって言われてるから、いい値が付くぜ」


 檻の中に居るそいつは、レミリアより少し小さいが引き締まった体の狼人だった。

 耳や髪の毛そして尻尾が真っ白で、顔はなかなかのハンサムだ。

 しかしそいつが弱っているのは一目瞭然。

 なんと言うか、精気が無い。


「ご主人様、確かに白狼は強くなると言われていますが、彼はあまり成長が良くありません。しかもこの大陸へ連れて来られてさらに衰弱しているようです」

「そうなのか? おい、そこの君。年は幾つだ?」


 成長具合が良く分からなかったので、年を聞いてみると弱々しい返事が返って来た。


「……14歳です」

「14歳でこの体格だとやっぱり成長が遅れてるな。しかも慣れない土地でさらに弱ってるとなると?」

「な、なんだその目は? これぐらいだったらちゃんと買い手は付くさ」

「ほー、これぐらいなら売れるか。でも買った方は不満に思うんじゃないかな? 期待ほど強くない上に成長もしなかったら」

「ななな、何言ってんだお前……」

「その顔は図星だな。実は魔大陸の子供を売ったはいいが、けっこう客からクレーム入ってんだろ?」

「そ、そんな事はねえさ」

「この狼人族も白狼とか言って高く売ると、後で後悔するぞ。なまじ高価だとクレームも凄いだろ?」


 図星を指されたアベルの目が泳いでいる。

 相変わらず分かり易い男だ。


「どうしても欲しいってんなら、金貨30枚だ」


 案の定、吹っかけて来やがった。

 この感じだと原価は金貨10枚くらいか?


「俺が奴を買うとしたら金貨20枚だな。これは他の商人の情報込みだ。それで売れないんなら俺は帰る」


 そう言うと、奴は意外そうな顔をした。

 思ったより高く売れそうなんで驚いてるんだろう。

 ま、これは情報料込みだからな。


「し、しょうがないな。他にも死に掛けてる奴隷を救ってくれるんなら、俺が泣くしかないか。全く俺もお人好しだぜ」

「さすがアベル、あんたの侠気おとこぎには感服するよ」


 俺はそう言って白々しく奴と握手を交わした。

 すぐに引き出されて来た狼人族はやはり小柄だった。

 しかし俺とレミリアを睨み付けている。

 さっき、この先こいつは伸びないと話してたから怒っているんだろう。


 さっさと奴隷契約を交わして名前を聞くと、アレスと言うらしい。

 いろいろと話す事はありそうだが、とりあえずローブだけ与えて付いて来るように指示した。


 アベルに魔大陸から奴隷を連れて来ているらしい商人のリストをもらったので、そのリストの商人を中心に衰弱した奴隷を探す。

 結果的にアレスのように衰弱した奴隷が他に2人、リュート達のようにほとんど死に掛けだったのが3人見つかった。

 さすがにアレスほど価格は高くなく、特に死に掛けなどは金貨3枚未満で買えた。

 締めて金貨60枚足らずで済んだのは、安かったのかどうか?

 いずれにしろ俺は6人の奴隷を獲得し、セイスを後にした。



 その後は直接ガルドには帰らず、懐かしの王都へ向かった。

 そして古巣の孤児院を訪ねる。

 たくさんの食材を買って孤児院に持ち込んでやったら、子供達が大喜びしていた。

 孤児院なんて、普段はあまりいいもん食ってないからな。


 一通り子供達の相手をした後、そこの院長と副院長に面会した。


「まあ、デイル君、立派になって」

「お久しぶりです、院長先生」


 小太りの院長先生は俺を優しく抱きしめてくれた。

 懐かしい感覚だ。

 この院長先生に俺達がどれだけ救われた事か。


 彼女はこの国の国教である光輪教の司祭だ。

 その実力も信望もかなりのものらしいが、人助けを優先して来たおかげであまり出世できていない。

 しかし、彼女のおかげで俺は生き延びられた。

 この世で俺が最も尊敬する人物の1人だ。


「元気にしていましたか?」

「はい、幸運に恵まれ冒険者として独り立ち出来ました。今はガルドの迷宮に潜って稼いでいます」

「まあまあ、それで今日は沢山の食材を持って来てくれたのですね。一緒に育った仲間達を思いやるその心映えは尊いものですよ」

「いえ、俺自身が先生や院の先輩達のおかげで生き延びて来れたんですから、恩返しするのは当然です」


 その後、院の状況を聞くとあまり経営状況は良くないようだ。

 今まで国や光輪教から補助金を引き出してなんとかやり繰りして来たが、最近はそれも減っているらしい。

 世知辛い世の中だ。


「実は迷宮でひと山当てる事が出来たので、これを役立ててもらおうと思いまして」

「まあ、こんな大金を一体どうやって?」

「フフフ、命懸けで迷宮に挑んだ結果ですよ」

「そうですか、苦労したんですね。このお金は大事に使わせてもらいます。デイル君も命を大切にしてくださいね」

「ええ、先生もお元気で」


 こうして俺は院長先生に金貨100枚を託し、孤児院を後にしようとした。


「待ってよ、デイルの兄貴」


 そう言って俺を呼び止めたのは狐人族の少年だった。


「よう、ケンツ、元気か?」


 その少年ケンツは俺よりひとつ下の後輩だ。


「うん、元気だよ。だけどさ、俺もうじき成人だから院を出て行かなくちゃならないんだ」

「そうか、お前もそんな時期か。それで、どうするつもりなんだ?」

「ああ、俺も兄貴と同じように冒険者になろうと思ってる。だけど俺、何も知らないし、兄貴みたいに使役スキルとか持ってないから凄く不安なんだ。それで……もし良ければ、兄貴の下で修行させてもらえないかな? 下働きでもなんでもするから」


 実を言えば、俺はこの展開を期待していた。

 しかしどうしてもと言う程でもないので、こいつらが言い出すのを待っていたのだ。


「ふーん、そうか。でも俺はしがない冒険者だぞ。俺に付いて来たって危険で辛いことばかりだ。お前、命を掛ける覚悟があるのか?」

「もちろんだよ。どうせこの街に居たって、俺みたいな獣人にまともな仕事なんか無い。それぐらいだったら命懸けでも冒険者として自立したいんだ。頼むよ兄貴」


 ケンツが言う通り、この国で亜人の肩身は狭い。

 何の技能も無いケンツにとって、冒険者は数少ない選択肢なのだ。


「まあ、一緒に育ったよしみだ。最低限の面倒は見てやるが、甘えるんじゃないぞ。それと俺の命令には絶対服従だからな」

「分かった。兄貴の言う事に従うよ」


 こうしてケンツを引き取ると決めた途端、もう一人が割り込んできた。


「デイル兄、私も、私も連れて行って」

「レーネ。そうか、お前も成人か」


 割り込んできたのはレーネと言って、やはりひとつ下のダークエルフの女の子だった。

 褐色の肌と真っ白な髪、そしてピンと尖った耳が目立つが、その容姿は優れて美しい。

 しかしダークエルフへの風当たりはエルフ以上に厳しく、しばしば迫害の対象になっている種族だ。


「私もケンツと一緒で、行く所なんか無いから……なんでもするからお願い、連れてって!」

「分かった。1人も2人も一緒だ。だけど甘えは許さないからな」

「ありがとう、デイル兄」


 結局、俺はケンツとレーネを引き取る事になり、それを院長先生に申し入れた。

 先生は危険な冒険者になる事を心配しつつ、俺の元でならと引き取りを認めてくれた。



 こうして8人の仲間を増やした俺達は2週間ぶりに迷宮都市へ戻った。

 そして次の日、俺とレミリアは再びスラム街を訪れる。

 シュウ達と話をするためだ。


「考えは決まったか?」

「ああ、ほぼ決まってるけど、最後に確認させてくれ。あんたは一体、俺達に何をやらそうってんだ? 犯罪に使うつもりなら絶対に断る」

「犯罪なんてとんでも無い。むしろ悪党をやっつける方だ」

「悪党って、どこの?」

「魔大陸で奴隷狩りをしてる奴らさ」

「ハア? なんであんたがそんな事するんだよ?」

「俺のパーティメンバーには4人、魔大陸から攫われて来た奴隷が居る。俺はそんな風に他人の人生を踏みにじる奴らが許せないんだ」


 そんな俺の話を聞いて、シュウとセシルが胡散臭そうな顔をする。


「あんた正気で言ってんのか? 赤の他人のために命を懸けるなんてバカだよ。大体、奴隷狩りをする奴らなんてムチャクチャ強いに決まってる。そんな奴ら、どうやってやっつけるんだよ?」

「そのために人材を集めてる。迷宮で鍛えれば強くなるのも早いからな」

「鍛えるって、どうやって?」

「俺達ベテランと混ざってバンバン魔物を狩らせるんだよ。そうすれば肉体レベルも上がるし、軍資金も稼げる」

「魔物を狩るなんて危ねえじゃねーか。死んじまうかもしれないんだぞ」

「もちろん、危険はある。だが5層を突破した俺達が付いていればそれほどでも無いさ。それに命を懸けるぐらいの気概も無いやつは要らないからな」


 シュウとセシルが互いに目配せをしている。

 どうするか考えているのだろう。


「分かった。実は俺達、みんな魔大陸の出身だから帰れるんならありがたい。それ以上に3人のチビを抱えたまま生き残るにはこれしか無いと思ってる。頼む、俺達をあんたの所で働かせてくれ」


 そう言ってシュウは頭を下げた。


「いいだろう、雇ってやる。ただし俺の命令には絶対服従だぞ」

「分かった。でもセシルとミントを戦わせるのは勘弁して欲しい。その分は俺とガル、ガムで稼ぐから」


 ドワーフの男の子がガル、ガムで、猫人族の女の子がミントなのだろう。


「ああ、セシルには他の事をしてもらいたいと思ってる。読み書きは出来るか?」

「はい、父が商人でしたから読み書きや計算は出来ます」

「それは好都合だ。じきに商売を始めるつもりだから、その手伝いを頼む。ミントはその手伝いか? 猫人族だから戦えるかもしれないけど」

「ミントはね~、セシルねえちゃんをてつだうの」

「そっか。それならそれでいい。よし、俺が雇うと決まったからには引っ越しだ。お前らを住ませる家はすでに借りてある。外に馬車を待たせてあるから、それに荷物を積み込め」


 俺達はそのまま慌ただしく引っ越しの準備に入った。

 しばらくは忙しくなりそうだ。

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