4.妖精魔法
翌朝、快適な目覚めを迎え、まず朝食を取る。
メニューはベーコンエッグに果物とパンだった。
それから部屋に戻って昨日の反省会をする。
「チャッピー、俺、昨日つくづく自分が弱いと感じたよ」
「そんな事は無いじゃろう。ダガーだけで盗賊を討ち取るなど大したものじゃ」
「結果的にはそうだけど。俺、最初に斬りかかられた時にすくんじゃってさ、一瞬、死を覚悟したんだ。そしたらキョロが盗賊の動きを止めてくれて、その隙に倒したんだよ。俺だけだったら大ケガか、下手したら死んでたと思う」
「確かにキョロが電撃で盗賊の動きを止めておったの。まだ産まれたばかりなのに大したもんじゃ」
「あれ、電撃って言うのか? なんかバチバチ言ってたけど」
「うむ、雷を小さくしたものと言えばいいかな。人間や魔物でもめったに使える者がいない高等魔法じゃ」
「そっか、キョロありがとな」
「キュー」
そっと撫でてやると、キョロが気持ちよさそうに頭を擦り寄せてくる。
生後3日で高等魔法を使うなんて、本当に凄いな。
絶対に大事にしよう。
しかし、それに比べて昨日の俺はしょぼかった。
剣で斬り掛かられたくらいで、足がすくむなんて。
初めて人を殺した事もショックではあったけど、この厳しい世界では仕方ない。
それよりも冷静に戦うための度胸と戦闘技能を、俺は身に付けないと。
「まあ、いずれにしろ戦力を増やさないとな。方法としては俺自身を鍛えるのと、新たな仲間を増やそうと思ってる」
「なんじゃ、また卵でも買うか?」
「いや、次は前衛が欲しいから、森の中で依頼をこなしながら探すよ。魔物を狩って肉体レベルも上げたいし」
肉体レベルってのは、俺達の体の強さを示す。
どう言う訳か、魔物を倒していると、これが上昇する。
倒した魔物の生命力を吸収しているんだろうって話だ。
このレベルはギルドの機械にカードを読ませる事で確認できる。
「ふむ、そのダガーとキョロだけでやるのか? 儂はあまり役に立たんぞ」
「そうなんだ。これだけで魔物狩りは難しいと思うんだけど、俺、剣とか槍ってあまりうまく使えないんだよね」
以前、冒険者ギルドで少し習ってみたけど、俺には向いてないと思った。
「なら弓矢はどうじゃ? おぬしにはエルフの血が入っとるようじゃから適正があるかもしれんぞ」
「え、俺ってエルフの血を引いてるの? でも俺の耳は尖ってないよ」
「うむ、なんとなくじゃが、おぬしからはエルフと同じ匂いを感じるんじゃ。それに人間との間に設けた子は、耳が尖っていない場合もある」
衝撃の事実。
俺にはエルフの血が流れているかもしれないそうだ。
そう言えば、チャッピーの最初の相棒はエルフだったらしいから、何か同じようなものを俺に感じているのかもしれない。
一応、エルフみたいに顔立ちが整っていると言われた事はあるな。
金髪碧眼だし。
おかげでギルドの受付嬢にはけっこう人気だったのだ、フハハハハ。
「そうなんだ? 俺はただの人間だと思ってたんだけど。そうすると、強い魔力とも関係あるのかな?」
「その可能性は高いの。魔力操作を1日で覚えた事からしても、エルフの才能を受け継いでおる可能性はあるじゃろう」
「そっか、じゃあ魔法も期待できるな。後で教えてくれよ。それと武器は弓を試してみよう。よし、ギルド行こ」
当面の方針が決まったのでこの町の冒険者ギルドに向かう。
ギルドには冒険者の戦闘能力向上を支援するための訓練場があるのだ。
まず受付けに行って訓練ができるか聞いてみる。
「すみません。昨日、この町に来たばかりなんですが、訓練場を使うにはどうしたらいいですか? 弓を練習したいんですけど」
「はい、こちらでギルドカードを確認させてもらって、後は担当者に相談してください。空いていればすぐできますよ」
「それじゃあ、これでお願いします」
俺はギルドカードを出す。
このカードは冒険者ギルドに登録する時に作成するもので、名前や冒険者ランク、肉体レベル、保有する使役獣などが表示される。
それから魔物の討伐や殺人行為も記録され、ギルドの魔道具で確認できると言う、なかなか便利な不思議アイテムなのだ。
「はい、けっこうですよ。弓の教官はゲドさんです」
受け付けてくれたのはアリスさんと言って、茶色の髪と緑の瞳が綺麗な人だった。
俺は礼を行って訓練場に向かう。
ゲドさんを見つけてお願いすると、すぐ練習させてくれた。
今までは接近戦ばかり考えていたので、弓を扱うのは初めてだ。
一通り基礎を教えてもらって練習していると、確かにしっくりくる。
ゲドさんにも誉められた
よし、もっと練習して弓を主武器にしよう。
一通り練習をしてから、ギルドを出て近くの武具屋に向かう。
店には店長らしきドワーフが居た。
「おっちゃん、俺まだ初心者なんだけど、弓と防具を見繕ってもらえない?」
「うん? 弓の他には何か使うのか?」
「今の所はダガーだね。基本、斥候スタイルなもんで」
「スカウトか。なら動きを阻害しない物がいいな」
そう言って初心者用の弓に革の胸当て、腰当て、籠手と帽子を揃えてくれた。
しめて金貨1枚なり。
「弓は物足りなくなったらまた買いに来な。まずはそれで経験を積むといい」
「分かった。おっちゃん、ありがとう」
装備が揃ったので、町の外に行って弓と魔法の練習をしよう。
ついでにギルドで簡単な依頼を受けて行くか。
俺はギルドに戻って薬草採取の依頼を取ってきた。
町を出て比較的近い薬草の群生地まで行き、依頼分の薬草を集めた。
王都に居る時もたまにやってたからわりと簡単だ。
薬草が集まったら次は魔法の練習である。
人目につかない所を探して腰を落ち着ける。
「それではチャッピー先生、魔法の講義をお願いします」
「うむ。まず儂が扱えるのは火、水、風、土の4種類じゃ。威力的にはチンケなモノじゃが、4種類全て使えるのはめったに居らん」
「確かに、普通使えるのは1種類くらいで、3種類も使えれば大魔法師だって聞いた事があるな」
「その通り。じゃからひとつずつ試してみて、適正を確認するが良い。まずは火じゃ」
そう言ってチャッピーが右手のひらを上にして構えながら唱える。
「火よ」
するとチャッピーの手の上に火が灯った。
ちょっと手のひらから浮いていて不思議な光景だ。
「魔力を油のような燃料に変換し、それを燃やすイメージじゃな。ほれ、やってみい」
チャッピーに促されて俺も試してみる。
まず魔力を手のひらに集めて、それを油に換えるイメージ。
そして着火。
「火よ」
正直、油に換わったのかどうかよく分からんが、火が灯った。
「うむ、使えない事は無いようじゃの。それでは他のもやってみるか」
その後、水、風、土と試してみると、一通りは使える事が分かった。
特に風と土は身の回りに素材があるから、それに魔力を通して操作するというイメージがしやすかった。
水も目には見えないが素材は身の回りにあるんだそうで、それを魔力で補う事で創りだす事ができる。
火に関しても同じようなもので、それを感じ取る事ができれば、より大きな魔法が使えるようになるらしい。
とりあえずはイメージしやすい風と土を伸ばして、火と水はおいおいやって行きますかね。
「でも俺が4属性全て使えるのって、凄い事なんだよね」
「うむ、さすがエルフの血筋、と言いたい所じゃが、半分以上は儂の教え方のおかげじゃ。そもそも人間の使う一般的な魔法は、先人が発明した魔法を呪文で定式化しているに過ぎないんじゃ。しかし儂の場合は世界の理を体で感じつつ、ある程度、作動原理を理解して魔法を使っておる。じゃから複雑な呪文は要らんし、イメージ次第ではより強く複雑な事もできる。ま、儂のは妖精魔法と呼んだ方がいいかもしれんな。そしてそれをおぬしが使えるのは使役契約によるリンクがあるからじゃ」
そう言えば、普通は長ったらしい呪文を使うんだったっけ。
あんまりにもあっさりできるから、チャッピーのやり方が普通だと思ってた。
そしてそれを俺が使えるのは、使役スキルでコミュニケーションしているからなのか。
確かにそれほど細かく説明されてもないのにイメージが浮かんで来る。
それって想像以上に凄い事だよな。
「って言う事は、あまり人前では使わない方がいいのかな?」
「そうじゃな。あまり目立つと魔術師ギルドに目をつけられるかも知れん。バレた場合に備えて、精霊の助けを借りてるとか言い訳を考えておいた方が良いぞ」
「分かった。人前では遠慮しとこう。バレた場合の言い訳も考えとくか。何にしてもチャッピーに教えてもらえてよかった。本当にありがとうな」
「これぐらい、お安い御用じゃ」
こうして俺は魔法を覚えた。(まだ超初心者だけど)
次は使役獣を増やしたいんだが……
その後も魔法の練習を続けて夕暮れ前に町へ戻る。
宿に帰る前に、ギルドで魔物の情報を確認してみた。
使役獣にしたくなるような魔物が居ないか、依頼掲示板を見る。
討伐依頼が出てるのは、ゴブリン、ダークウルフ、ビッグボア、コボルド。
ちなみに冒険者にはGからSまでのランクがあって、それに応じた依頼しか受けられない。
俺のランクはまだFなので、一個上のEランク指定までだ。
この中ではゴブリンとダークウルフしか無い。
とりあえず明日はゴブリンを狩る事にした。
数が多くて常時依頼だから、事前に受け付ける必要が無くて楽だからね。