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妖精付きの迷宮探索  作者: 青雲あゆむ
第1章 迷宮探索編
33/86

33.陰謀の落とし前

 トップパーティ”天空の剣”の罠に嵌まり、全滅寸前に追い込まれた俺達。

 しかし土壇場でシルヴァとキョロの進化に救われ、地上に生還する事ができた。


 その場に残されたソルジャーアントとキラービーから回収した魔石は、なんと250個を超えていた。

 通常、一度に相手するのは4層でもせいぜい50匹なので、魔物の大量発生がいかに危険で異常なものかが分かる。

 魔石だけで金貨8枚以上にもなったし、キョロとシルヴァが進化した事はとても喜ばしい。

 しかし”天空の剣”にはきっちり落とし前を付けさせねば気が済まない。


 俺達はボロボロになりながらも地上に戻り、奴らの居場所を探った。

 少し調べるとすぐに奴らの定宿が知れたので、カインと一緒にそこへ赴く。

 宿屋の酒場を覗いてみると、案の定、奴らが酒を飲んでいた。

 俺達を嵌めた分際で、けっこう盛り上がっていらっしゃる。

 俺はズカズカと奴らのテーブルに近寄り、声を掛けた。


「これはこれは皆さん。先程は随分とお世話になりました」

「デ、デイル君。生きて戻ったのか? そ、それは何よりだったね」


 リーダーのアルベルトが目を泳がせながら答える。


「ええ、文字通り死ぬかと思ったんですが、なんとか生還できました。それで、この落とし前はどう付けてくれるんですか?」

「落とし前ってなんの事だい? 変な言い掛かりはやめて欲しいな」

「ほう、あれだけの事をやっておいてとぼけますか? とてもトップパーティとは思えない見苦しさですね」


 俺達の会話にでかい剣士が割り込んできた。

 あの時、音響弾を投げた奴だ。


「ふざけんじゃねーぞ、ガキ。黙って聞いてりゃ付け上がりやがって。俺達が何をしたってんだ?」

「キラービーと一緒に俺達の戦闘に乱入した上に、音響弾で攻撃して魔物の大量発生を誘発した件ですよ」

「はっ、知らねーな、そんな話。大方おめえら夢でも見てたんだろ? なんか証拠があるんなら見せてみろよ」


 いやー、清々しいほどのゲスっぷりだ。

 素直に謝ってくれれば、金だけで済ましてもいいかと思ってたのに。


「そうですか。あくまでしらを切るんですね。それじゃあ仕方ありません。今ここで決闘を申し込みます」

「ちょ、ちょっと待ってくれ。いきなり決闘なんか挑まれても、こっちには受ける理由が無い」

「明日、ギルドに事情を話して仲介をしてもらいます。詳細な状況を説明すれば、認めてもらえる可能性は高いと思いますよ」

「なっ、ムチャクチャだ。そんな話に応じられるものか」

「仮にもトップパーティがこんなガキ共の挑戦を避けるんですか? やる気がしないと言うんなら、金貨200枚を賞金に付けますよ」


 金貨200枚と言った途端に奴らの目つきが変わった。

 例のクソ剣士が食いついてくる。


「決闘って言ったって、どうやるんだよ?」

「別にどんなのでもいいですよ。パーティ全員で団体戦でもいいし、俺相手の個人戦でもいい」

「ほう、お前が相手するってか? もちろんこっちは誰でもいいんだよな?」

「もちろんですよ。その場合、そちらにも金貨200枚は掛けてもらいますけど」


 奴らにも金貨200枚掛けろと言うと、さすがにひるんだ。

 おそらく奴らにとっては全財産に近い額だと俺は睨んでいる。

 しかしクソ剣士は俺が相手なら勝てると踏んだのだろう。


「いいぜ、その決闘、俺が受けてやるよ」

「オリヴァ、勝手に受けるんじゃない!」

「しょうがねーだろ、アル。こいつらギルドに申し立てるってんだから。受けなきゃ俺達が舐められちまう」

「それはそうだが……」

「俺に任せとけって。おい、小僧、この期に及んだらもう逃げられねえぞ」

「楽しみにしておきますよ。それでは明日、ギルドで4の刻に」


 俺はまんまと策に嵌まったクズ剣士を内心で嘲笑いながら外に出た。

 その足でギルドに直行し、決闘の仲介を申し入れる。

 ギルドは基本的に冒険者のいざこざに介入はしないが、決闘の仲介ぐらいはしてくれる。

 もちろん両者の合意があっての話であり、勝者が正義になる事に変わりはないが、相手を害しても罪には問われなくなる。

 事情を説明し、すでに相手側が了承した事を伝えると、決闘は許可された。


 家に帰って決闘の事を伝えると、みんなに猛反対された。

 レミリア、カイン、サンドラ、リュートが代わりに決闘すると言って聞かない。


「うんうん、みんなありがとうな。でも俺がやるのが一番なんだ。なんてったってリーダーだし、見た目弱そうだから相手を引きずり出しやすい。これがカインなんか出した日には、ビビって話に乗って来ないからな」

「それでしたら私とリュートだって弱そうに見えます。私達にお任せください」

「バーカ、レミリア。お前やリュートは散々、訓練場で強い所見せてるから無理だよ。大体、お前ら大ケガしてるじゃねーか。大人しく寝てろ。それとな、俺自身でやらねえと治まらないんだよ。このグツグツと煮えたぎる怒りがな」


 その時初めて、メンバーは俺の怒りの深さに気がついたのではなかろうか。

 俺は至って平気な素振りで話をしていたからな。


「分かった、デイル。お前の好きにせい。ところで儂の助けは要らんのか?」

「ああ、たぶん俺一人で大丈夫だと思うけど、万が一には備えておいてくれ。実際に助けられたら、相当かっこ悪いけどな」


 俺はそんな冗談を言いながら、今日の功労者であるキョロとシルヴァにブラシを掛け始めた。

 フワフワのキョロとシルヴァに触れていると、少しずつ気持ちが和らいでくる。

 黙々とブラシを掛け続ける俺に、文句を言うメンバーはもう居なかった。



 そして翌日4の刻前にギルドに赴く。

 決闘会場になる訓練場に着くと、すでに”天空の剣”は来ていた。

 ギルドの立会人に賞金の金貨200枚を預けると、奴らも同じようにする。

 そして立会人の口上が始まった。

 正々堂々、一対一で立ち会う事、決闘後は結果の如何により遺恨を引きずらない事、うんぬんだ。


 やがてお待ちかねの決闘が始まる。

 相手のクソ剣士は高そうなプレートメールを装備し、剣と盾を持っている。

 対する俺は弓矢と短剣にオーク革の鎧だ。

 オーク鎧はけっこうなものだが、一流剣士の斬撃の前には大して役に立たないだろう。


 開始の合図と共にクソ剣士が接近して来た。

 俺は弓を2連射するが、盾に弾かれる。

 きっちり矢を弾く辺り、こいつも腕は悪くないんだろう。

 向かって来た剣士の攻撃をギリギリで躱した俺は素早く距離を取る。


 俺が矢を3本取り出して弓を構えると、クソ剣士が警戒して盾を構えた。

 次の瞬間、3連射をお見舞いする。

 ただし今度は魔法を加えた、威力倍増の風弓射ウインドショットだ。

 1本は盾に弾かれたが、2本が奴の鎧の隙間に突き刺さる。

 プレートメールなんて関係無い。


「ガッ」


 矢を2本も食らって、奴の動きが止まる。

 そんな奴の肘や膝、肩の鎧の隙間を狙って矢を放ち続けた。

 じきにハリネズミのようになり、立っていられなくなったクソ剣士が仰向けに倒れる。

 近寄って確認すると、痛みに悶絶して白目を剥いていた。

 だらしないやつだ。


 俺が立会人を見ると、すぐに決闘の終了が宣言された。

 うん、予定通りだ。

 恨みも晴らせたし、金貨200枚も頂いた。

 俺が仲間の所に戻ると、レミリアとリューナが涙目で抱きついて来る。

 心配させて悪かったな。


 しかし予想していたよりもあっけなかった。

 トップパーティのメンバーなんて言っても、あんなもんだろうか。


 ふと、こちらを青ざめた顔で見つめるアルベルト達が目に付いた。

 俺はゆっくりと近寄って声を掛ける。


「ほらね、下手な言い逃れなんてしない方が良かったでしょ。あの剣士は関節を壊したから、もう使い物にならないよ」


 この世界、ポーションや回復魔法で治療できると言っても、傷が塞がるだけだ。

 壊れた関節を治す技なんて、俺の知る限り無い。

 あのクソ剣士はこの先、不自由な体を抱えて生きて行くのだ。


「ああ、それとあんたらみたいに往生際の悪い奴ら、また見かけたらどうなっちゃうか分かんないな。もう俺の前にツラ出さない方がいいよ」


 アルベルト達の顔が恐怖に引きつる。

 奴らがどう解釈するかによるが、普通はこの町を出て行くだろう。

 一番悪かったのはあのクソ剣士だが、その暴走を押さえられず、あまつさえ責任逃れまでしたパーティに同情の余地は無い。


 俺は生まれて初めて、周囲から畏怖の視線で見られている。

 今まで散々舐められてきた俺達パーティだが、これでそんな事も少しは減るだろう。

 無くなる事はないとしても。


 賞金の金貨200枚を受け取り、俺達は帰宅した。

 しかしまだ5の刻にもなっていないので、定番のピクニックに行く事にする。

 馬車は自宅の庭に置いてあるが、ドラゴは馬車屋の厩舎に預けたままだ。

 俺達が出かける準備をしている間に、リュートにドラゴを連れて来てもらった。

 リュートは殊の他ドラゴがお気に入りなので、喜んで引き受けてくれる。

 ドラゴに馬車をつなぐと、いつもの原っぱに出発した。


 いつもは歩くのに1刻くらい掛かる時間が半分になり、よりのんびりできるようになっている。

 俺達はシートの上で、思い思いにくつろいだ。

 いつものようにレミリアが膝枕をしてくれる。


「さっきは凄く心配でしたが、無事に勝てて安心しました」

「そうじゃぞ、我が君。妾も信じてはおったが、あそこまで圧勝するとは思わなんだ」

「みんなには心配掛けたな。けど一目見りゃ、あんなの大した事無いって分かるだろ?」

「兄様、結果的にはそうですけど、あの剣士は決して弱く無かったのです」

「お前なあ、普段レミリアの相手とかしてたら、あんなのゴミだぞ。レミリアがどんなに厳しいか、お前だって知ってる、モガガガ」


 続きを言おうとした俺の口は今塞がれている。

 誰がやっているのかは、言うまでもない。


(それにしても我が主は意表を突く御仁よ。誰よりも慈悲深いかと思えば、誰よりも容赦がない)

(でも僕はずっと付いて行くよ、ご主人)


 シルヴァとキョロが俺達に念話を送って来る。

 こうして普通に意思を交わす事ができるようになったのも、進化の恩恵だ。

 彼らはもう、ただの使役獣では無い。


 彼らは俺達を守ろうとする強い目的意識をきっかけに、より上位の存在に生まれ変わり、高度な知性を持つに至った。

 魔物が知性を持ったなら魔族になったとも言えるのだが、シルヴァは風、キョロは雷の強い属性を帯びており、上位精霊に近い存在でもある。


 彼らはそれぞれが嵐と雷の魔法を使うのは当然として、2匹が力を合わせるとさらにとんでもない魔法を産み出す。

 シルヴァが雷雲を呼び、それをキョロが操る事で、特大の雷を落とす事ができるのだ。

 これが迷宮内で魔物を殲滅した魔法で、名付けて”轟雷”ギガサンダー

 あまりに強力で迷宮探索には向かないが、今後頼る場面も出て来るだろう。


 それはむしろ迷宮攻略の後にあると、俺は考えているのだが。

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