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妖精付きの迷宮探索  作者: 青雲あゆむ
第1章 迷宮探索編
32/86

32.魔物の進化

 予想外の山賊討伐の後、俺達はケレスと名乗るサキュバスを仲間に加える事になった。

 正直、ちょっと頼りない奴だが、何か役に立つだろう。


 山賊から回収した物品で買い取りを要請される場合があるため、今は港湾都市セイスに足止めされている

 仕方ないので冒険者ギルドの依頼をこなしつつ、衛兵詰所からの連絡を待った。

 そして5日目になってようやく、買い取り希望品のリストが届き、翌日4の刻に希望者と面談する事になる。

 今回は5件の買い取り希望があり、それらは全て回収品の中から見つかった。

 念のため、近くの故買屋でそれぞれの価値は確認してある。


 翌日、指定された場所に赴くと、そこには年配のご婦人と若者が居た。

 彼女達は例の山賊に殺された商家の遺族だった。

 商家の主人は殺されたが、彼の持っていた商売の許可証を買い取りたいとの申し出だ。

 彼女達が生活するためにも、許可証を取り戻して商売を続けたいらしい。

 本来、金貨数枚にも値する許可証だったが、俺達には価値が無いし、平民をいじめる趣味も無いので、大銀貨1枚で売る事にする。

 予想外の安値に驚きつつも、深く感謝して彼女たちは帰って行った。


 その後も山賊に襲われた商家や騎士の家族の人達が、奪われた形見の品を求めて来た。

 宝飾品とか短剣の類だったが、どれも本来の価値の十分の一以下で譲る。

 当然、遺族にはバカみたいに感謝され、逆にケレスには呆れられたが、家族を失った人達にはこれくらいしてやりたい。


 ここまでで終わっていれば気持ち良かったのだが、最後に一悶着あった。

 偉そうな貴族が出て来て、山賊に奪われた魔盾を返せと怒鳴り散らす。

 なんでもその伯爵家が大昔に王家から下賜された宝物らしく、魔力で見えない障壁を作り出す魔道具だそうだ。

 その貴重な魔道具を、禄に扱えもしない息子に持たせて山賊討伐に送り出したら、返り討ちにあって魔盾も取られたそうだ。

 バカだろ、お前ら。


 実際にその魔盾はしかるべき人間が使うと、魔法障壁を作り出せる代物だ。

 これだけの魔道具になると、金貨100枚は絶対に下らないし、貴族側に同情の余地があまり無い。

 本当はもっと吹っ掛けてもいい所を金貨100枚でいいと言ったのに、凄い剣幕で怒り出した。

 この不届き者とか国賊とか、好きな事をほざいている。


 オッケー、あんたにこの盾は売らない。

 貴族? そんなの知らないって。

 ちゃんと衛兵に証人になってもらって、記録を残しておいた。



 こうして不思議な盾を手に入れつつ、おおむね平和に買い取りは終了した。

 残った宝石や宝物類、山賊の装備なども売り払うと、なんと金貨100枚近くにもなる。

 さらに山賊討伐の報酬が金貨30枚になり、合計で金貨130枚を手に入れた。

 この町には新しい装備を買いに来たのに、逆に資産が増えた不思議。


 それで意気揚々と迷宮都市に戻ったんだが、途中で怪しげな集団に襲われた。

 10人くらいのそいつらは山賊を装っているんだが、妙に統率が取れているし装備も良い。

 俺の頭には例の伯爵の顔が浮かんでいた。

 たぶんあいつが盾を取り返すために、襲撃隊を組んだんだろう。

 素直に金払っていれば、せめて盾くらいは取り返せたのにバカな奴らだ。

 俺達は遠慮無く襲撃者をなぎ倒して、迷宮都市に帰還した。



 ようやく自宅に帰った翌日から早速、迷宮へ潜る。

 探索にはケレスも同行させた。

 ケレスは嫌がったが、タダ飯を食わせ続けててやるほど俺達もお人好しでは無い。

 荷物持ち兼、俺とリューナの盾役をやらせている。


 彼女とは使役契約を結んだ上で、例の魔盾を持たせた。

 この魔盾から生まれる障壁は、ケレスの使う無属性魔法と同じ系統であるらしく、誰よりも相性が良かったからだ。

 障壁の発動速度、強度共に最高の性能を引き出している。

 ただし本人は戦いが嫌いなので、攻撃はしなくてもいいと言ってある。


 それとなぜか、人数制限にも引っかからなかった。

 ウチのパーティは俺、レミリア、カイン、サンドラ、リュート、リューナ、キョロ、シルヴァ、チャッピー、バルカンですでに10人(匹)だ。

 これを超えると水晶による転移が出来ず、迷宮内で戦闘すれば魔物の大量発生を招くはずなのだ。

 しかし普通に転移は出来るし、大量発生も起きなかった。


 もっともこれはあらかじめ予想できていた事で、チャッピーとバルカンが頭数に数えられていない可能性が高い。

 これは全く根拠が無い話ではなく、過去、ペットを連れて入ったパーティが、人数制限に引っ掛からなかったという噂があったからだ。

 真偽の怪しい話だったが、実際に戦闘能力を持たない存在は迷宮に無視されるのでは無いか、と俺達は考えている。



 こうして4層序盤の探索を進めていたある日、俺達は大きな部屋で大量のソルジャーアントに遭遇した。

 軽く40匹以上は居る大群だったが、俺達は淡々と迎撃する。


 すでに狩り慣れた魔物であり、ケレスの守りで後衛も安全になっている。

 しかしもう少しで掃討完了という時に、シルヴァが警告を発した。

 冒険者の集団が急速にこの部屋に迫っているらしい。


 このままだと10人ルールで魔物の大量発生が起きかねないので、撤退準備をしていると、そいつらが現れた。

 エルフのアルベルト率いる”天空の剣”が、キラービーに追われて来たのだ。

 他のパーティが戦ってる所に乱入するとは非常識もいい所だが、この程度なら即座に魔物が大量に湧く事は無い。

 俺はアルベルトにすぐに出て行けと指示し、地上につながる通路を指し示す。


 さすがにアルベルトも悪いと思っていたらしく、大人しく従おうとしている。

 そうして彼らが出口にたどり着いた時、信じられない事が起きた。

 ”天空の剣”のメンバーの1人が、追い掛けて来たキラービーに音響弾を投げたのだ。


 甲高いその音はキラービーが嫌うもので、しばしばキラービーから逃げる時に使われている。

 そしてそれはキラービーへの攻撃と同義だった。


「なっ、なんてことしやがる……」


 俺達がそう呻いても、もう後の祭りだ。

 迷宮がこれを人数制限に引っ掛かる攻撃だと判断し、部屋の中央にドス黒い雲が発生した。

 さして待つまでも無く、その雲からソルジャーアントやキラービーが次々に湧き始める。


「みんな、逃げるぞ。あの通路に駆け込むんだ」


 俺は”天空の剣”が消えた通路を目指して撤退しようとしたが、そうは問屋が卸さない。

 なまじ魔物を殲滅しかけていたためにメンバーが分散しており、すぐに足並みが揃わなかった。

 そうこうしている内に湧き出した魔物に退路が断たれようとしている。

 俺はなんとか回りこむ事で魔物の追撃を躱そうとしたが、逆に部屋の一角に追い込まれてしまった。


 みんな必死で戦っているし、俺も弓で皆を援護していたが、やがて矢も尽きる。

 なんとかケレスの魔法障壁の中に全員が逃げ込んだが、周りは魔物で一杯だ。


「ご主人、あたいの障壁じゃそんなに長く保たないよ」


 今はかろうじて耐えているケレスが悲鳴を上げる。

 障壁が突破されるのも時間の問題だろう。


 ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ!

 くっそ、あの剣士、俺が共闘を断ったのを逆恨みしてこんな事をしたに違いない。

 おそらく偶然だろうが、見事に奴らの罠に嵌まっちまった。

 どうすればいい?

 どうすればこの事態を打開できる?


 そんな風に考えを巡らせるが、一向に妙案が浮かばない。

 愚にもつかない想いが次から次へと浮かんでくる。


 俺達はこのまま魔物に食われて死ぬのだろうか?

 俺は何を間違えたのだろうか?

 迷宮は危険な所だと分かっていたはずなのに、俺はどこか慢心していたのだろうか?


 そんな後悔と絶望感に包まれた俺の頬を涙が伝う。

 いや、まだだ、せめて仲間だけでも助けよう。


 そう考えた矢先、シルヴァとキョロが俺を振り返ってから、障壁の外に飛び出して行った。

 どう言う訳か、簡単に障壁をすり抜けてしまった。

 少しでも俺達を逃がす隙を作ろうとしてくれたのだろうか?

 しかしすぐに周囲の魔物が群がり、彼らの姿は見えなくなった。


 済まない、キョロ、シルヴァ。

 俺が改めて絶望しかけた時、ふいに狼の遠吠えが聞こえて来た。

 切なげな遠吠えが細く長く続き、とうとう消え入ろうかと思えた瞬間、シルヴァ達が消えた辺りに強い光が発生する。


 次の瞬間、とんでもない風と雷が周囲に吹き荒れた。

 雷の閃光と轟音で耳目がマヒし、しばらくは何が起こったのか分からない。


 ようやく視力が回復し、周囲の土埃が収まって来た時、そこに残っていたのは大量の魔物の死骸だった。

 そして白銀に輝く大狼と、緑色にきらめく獣が誇らしげに立っている。


 狼の方は牛並みの巨体を誇り、その毛皮は銀色に輝いている。

 緑の獣はスマートな狐のようで、長い耳と額の紅玉が特徴的だ。

 それらはシルヴァとキョロによく似ているが、全く別の生き物にしか見えない。


 あっけに取られて固まったままの俺達の頭の中に、2つの声が響いた。


(グルルー。暴風狼テンペストウルフ シルヴァ、ここに見参)

(キュー。雷幻獣サンダーカーバンクル キョロ、僕達進化したよ、ご主人)


 やっぱりか。

 何が起きたのかは分からないが、キョロとシルヴァが生まれ変わり、俺達を絶体絶命のピンチから救ってくれたんだ。

 俺はヨロヨロと歩み寄り、キョロとシルヴァをこの手に抱いた。

 彼らの温もりと鼓動が、改めて生き残った事を感じさせてくれる。



 一通り喜びに浸った後、メンバーの様子を確認すると前衛は傷だらけだった。

 カインとサンドラは無数のかすり傷を全身に負い、レミリアやリュートはいくつもの傷から血を流している。

 まずはレミリアとリュートをチャッピーに治療してもらいつつ、俺達はキョロとシルヴァに何が起きたのかを話し合った。


 それは単純に言えば魔物の進化だ。

 俺から週一で供給される魔力と戦闘経験を蓄積させていたキョロ達は、ほぼ進化の要件を満たしていたと思われる。

 しかしそれだけで進化は起こらない。

 何かを成し遂げようとする強固な意思と決意が魔物の中に芽生えた時、それは爆発的に進行するらしいのだ。


 あの惨事の中で、シルヴァとキョロは俺達パーティを守ろうと決意した。

 そしてそれがきっかけとなって彼らは上位の存在へ進化する。

 その結果、シルヴァは暴風狼テンペストウルフに、キョロは雷幻獣サンダーカーバンクルに生まれ変わったのだ。


 2匹とも大きくなったが、より精霊に近い存在となったため、バルカンのように体のサイズを変えられるそうだ。

 あまり大きいと連れ歩くのが面倒なので、外では2匹とも今まで通りのサイズで居てもらう事にした。


 今回はなんとか生き残れただけでも儲けものだったが、彼らの進化という思わぬ成果を得ることが出来た。

 今後の迷宮攻略に大きく役立つだろう。


 後は”天空の剣”にどう落とし前を付けさせるか、それが最大の問題だ。

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