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妖精付きの迷宮探索  作者: 青雲あゆむ
第1章 迷宮探索編
30/86

30.馬車とドラゴ

 4層を下見に行った俺達は早速、キラービーの洗礼を受ける。

 しかしそれぞれにレベルアップしている俺達は、それをいとも簡単に退けた。


 そのまま探索を進めると、やがて行き止まり部屋で8匹のケイブクロウラーを見つけた。

 ちょっと数が多いが、なんとかなるだろう。

 まずバルカンの火球を数発お見舞いしてやると、以前より速射性が上がったお陰で4匹を仕留められた。

 当然、クロウラーが押し寄せて来るが、その半分をカインが正面から受け止め、サンドラが魔法剣で攻撃している。


 もう半分は残りのメンバーが足止めし、俺が横から火球を叩き込んで始末する予定だ。

 しかしその中に1匹、妙なクロウラーが居た。

 普通のクロウラーは緑色の地に黒や黄色の斑点を散らした見てくれだが、そいつだけ他より赤みが強い。


 危険を感じたので、そいつの近くにいるリュートに注意を促そうとした矢先、そいつが液体を吐き出した。

 液体がリュートの鎧や服に掛かると、ジューッという音がして服が溶ける。


「ウワーッ」


 溶解液を掛けられ慌てるリュートにクロウラーが突進する。

 しかしとっさにレミリアが彼を突き飛ばして事無きを得た。


「チャッピー、リュートを水で洗って治療してやってくれ」


 俺はそう指示しながら赤っぽいクロウラーに火球をぶち込み、残りの1匹も火球で仕留める

 その頃にはカイン達の方も終わっていた。

 リュートはチャッピーの治療を受けている。


 幸い、竜人族の高い防御力のおかげで、溶解液が掛かった部分も軽い火傷程度で済んでいた。

 しかし彼の服はボロボロになり、鎧も所々溶かされている。

 あの鎧は買い換えた方がいいだろう。


「リュート、大丈夫か?」

「はい、見た目ほど大したことはありません」

「それは良かった。それにしても災難だったな。クロウラーの亜種に当たるとは」

「亜種ですか?」

「ああ、今まで溶解液を吐くクロウラーは居なかった。それによく見ると体の色や斑点模様が違うだろう?」

「言われてみれば確かに……」

「俺も注意が遅れたが、お前ももっと魔物を観察して異変を感じ取るべきだ。こういう亜種も居るって事を肝に銘じろ。とりあえずアシッドクロウラーとでも呼ぶか」


 4層では数が多いばかりでは無く、こういう亜種も出るらしい。

 3層と同じつもりで動いて失敗しないよう、気を付けないといけない。


 俺達はクロウラーの魔石を回収して、地上に戻った。

 リュートの鎧が破損しているので、これ以上は無理だ。


 家に戻り、一息ついた所で俺はある提案をした。


「リュートの鎧を買いに、港湾都市まで行こうか」

「港湾都市と言うと、あのゴトリー武具店ですか?」

「そうだ。3層を攻略して蓄えも増えてるし、カインの槍も買いたい。休養も兼ねて行きたいと思う」


 俺がそう言って見回すと、みんなも異論はなさそうだ。

 これで港湾都市セイス行きが決まった。


「それではまた商隊を探さねばなりませんね、ご主人様」

「いや、今回は馬車を買って行こうと思う」

「ええっ、それはいくら何でも贅沢過ぎませんか?」

「そんな事無いって。俺達の資産は金貨400枚以上あるんだから」


 3層の魔物はオークほど高く売れなかったが、それでもマンティスやビートルではそれなりに稼げた。

 その上、鉱石や宝石も見つけていたから、俺達は資産を大きく増やしている。


「馬車なんて金貨数十枚で買えるだろ。俺達だけの方が早く走れるだろうし、他人に気を使わなくて済む。確か商業ギルドの近くで馬車を扱ってたと思うから、見に行こうぜ」


 そう言ってみんなを連れ出した。

 商業ギルドまで歩くと、すぐ近くに馬車屋が見える。


「おっちゃん、馬車が一台欲しいんだけど、いいの無い?」

「何? お前みたいな小僧が馬車だと? いや、お前、冒険者か。それなら金持ってても不思議じゃ無いな」

「そうだよ、こう見えても迷宮の4層に潜るトップチームなんだから」

「人は見かけに寄らねえな、全く。どんなのが欲しいんだ?」

「うん、ここに居るメンバーが全員乗れるくらいの幌馬車が欲しい。できれば乗り心地が良くて、早く走れるのがいいな」

「さすがトップチームになると言う事が贅沢だな……」


 そんな事をぼやきながら、何台か馬車を見せてくれる。


「これが一番安いが乗り心地はそれなりだ、金貨10枚。こっちはそれよりマシで金貨15枚。こいつは金貨20枚で価格と乗り心地のバランスがいい。そしてこれがウチの最高級品で金貨50枚だ。所々に魔物の素材を使ってるから丈夫で軽い」


 いろいろとおっちゃんが説明してくれたが、俺は最後のが気に入った。

 長さは3m、幅が1.8m、幌も含めた高さは2.2mってとこで、わりと小型の部類に入るだろう。

 しかも車内には人用のシートが付いてるから、あまり荷物は運べなさそうだ。


「これ良さそうだね? 乗り心地はどうなの?」

「乗り心地は最高だぞ。軽い上に衝撃を和らげる部品が付いてるからな。荷馬車っつうより、人を運ぶための馬車だな。旅好きな貴族が作ったんだけどよ、大して荷物が運べないせいか売れねえんだ、これが」

「ちょっと試し乗りしたい」

「分かった。馬を選ぶから付いて来い」


 そう言って馬車屋は俺達を裏の厩舎に連れて行く。

 何頭もの馬が並ぶ中に、なぜかトカゲみたいな生き物が居た。


「あのトカゲみたいな生き物は?」

「ああ、あれはリュウモドキって言って、魔物の一種だ。持久力があって世話の掛からねえ馬車向きの魔物なんだが、言う事を聞かせるのが難しくてな」


 その魔物は全長3m、体高1.7mほどで、太くて短い4本の足を持っている。

 長く伸びた鼻面には10cmくらいの角が付いていて、ちょっと強そうだ。

 しかしその目は優しげで、凶暴な魔物には見えない。


「俺は使役スキル使えるんだけど、試してみていいかな? ダメならすぐに解除するし」

「できるんなら、やってみな」


 俺はそのリュウモドキに念話をつなぎ、契約の念を送ってみた。

 最初、反応が無かったが、しばらく粘ると契約が成立する。


「うん、契約できたから、これで試乗してみるよ」

「おいおい、ずいぶんと簡単にやりやがったな」


 俺がリュウモドキを思うように動かしてみせると、馬車屋が驚きながらさっきの馬車につないでくれた。

 馬車屋と並んで御者台に座って、周辺を走らせてみる。

 確かに軽快に走るし、普通の馬車のようなガタゴト感が少ない。


「おっちゃん、これ気に入ったよ。リュウモドキも一緒に買いたいけど幾ら? それとモドキの世話はどうしよう? さすがにこんなの飼う場所ないんだけど」

「リュウモドキは金貨3枚だ。飼えないなら、月に大銀貨3枚で預かってやる」

「それは助かるな。よし、買った」


 こうして俺は金貨53枚で馬車とリュウモドキを手に入れた。

 だいぶ金銭感覚がおかしくなってるが、今の俺なら数日で稼げる金額だから大丈夫。


 ちなみにリュウモドキにはドラゴと言う名前を付けた。

 元々、地竜の幼体に似ている事から、フェイクドラゴンと言う種族名を持っているのだが、一般にはリュウモドキと呼ばれている。

 あえて竜っぽくドラゴと呼んでやったら、けっこう喜んでいた。

 そりゃあ、偽物と呼ばれるよりは気持ちいいだろう。


 その日は旅に必要なものを買いながら家に帰る。

 野営道具はあるので、馬車内で使うクッションとか食料を買った。



 翌日は朝から港湾都市セイスに向けて出発する。

 改めて町の外でドラゴに馬車(竜車?)を牽かせると、その速さに驚いた。

 普通の馬車の倍は速度が出ている。

 路面のデコボコがあまり気にならないので速度が出せるし、ドラゴは持久力がハンパじゃないからだ。

 平気で数時間も同じペースで走ってくれる。


 そのくせ馬ほど手間が掛からないのが凄い。

 普通の馬はデリケートなので、食事や水やりにもけっこう気を遣うものなのだ。

 他にも汗を拭いたり、マッサージをしてやったりと、馬の世話はけっこう面倒臭い。


 しかしリュウモドキは粗食に耐え、ほったらかしでも生きられる。

 なんでこんなに便利な魔物があまり使われていないかと言うと、使える人間が少ないからだ。

 俺のような使役スキル持ち以外は、よほど魔物の扱いに長けていないと馬車馬の代わりには使えない。

 一応、魔物なので、コントロールできないと怖がられるってのもある。


 そんな訳で、リュウモドキは馬より安く買えちゃったりする。

 俺にとってはラッキーな話だ。


 おかげで通常4日のセイスまでの道のりも2日で済んでしまった。

 道中もザコ魔物が出たくらいで、気楽に過ごせたし。

 道を塞ごうとしたゴブリンを、ドラゴが跳ね飛ばしたのには驚いたけどね。


 セイスに着いた翌日、お目当てのゴトリー武具店を訪れた。


「いらっしゃいませ~。あ、お久しぶりですぅ、デイルさん」

「お久しぶりです。今日も相談があって来ました」

「いつもありがとうございますぅ。お父さん呼びますね」


 そう言って眼鏡っこが奥に消えると、すぐにゴツいドワーフ親父が現れた。


「久しぶりだな。今日はどんな用だ?」

「この子に新しい鎧と、彼に魔鉄製の槍を買いたくて」


 俺はリュートとカインを示しながら答える。


「ふーん、そっちの子供は背が伸びてるな。やっぱ成長期か」

「ええ、正確に言うと肉体レベルが上がって成長が促進されたらしいんですけどね」


 今のリュートは以前、ここに来た時より10cmほど伸びている。

 たぶん数日中にもうちょっと伸びるだろう。


 親父はそんなリュートとカインのために鎧と槍を持ってくる。


「なんとなくお前らがまた来るような気がしたから、オーク革の鎧を作っておいた。大きめに作ってるからちょうどいいだろう。それと槍はこれだな」


 オーク鎧は俺のによく似た薄茶色のもので、今のリュートに合ったサイズだ。

 槍は鋭い魔鉄の切っ先と、黒光りする柄で構成されている。

 木の柄に魔鉄を被せてあるため、軽いわりに魔力伝達もバッチリらしい。

 カインに試させてみると、なかなか良さそうだ。


 俺が鎧と槍を購入する旨を伝えると、さらに親父が提案して来た。


「さっきも言ったようにまた来るような気がしてたからな、こんなのも準備してあるんだ」


 そう言って親父が出してきたのは刀身の長い両手剣と、リューナに合いそうな紺色のローブだった。


「この剣はもちろん魔鉄製だ。ローブはビッグスパイダーの糸を編んで魔法処理を施したもので、魔力活性が高まるそうだ。所々、オーク革で強化してるから防御力も高いぞ」

「これは驚いた。まるで私達の成長を見越していたようですね。サンドラ、リューナ、それを見せてもらえ」

「フン、ここ数年で一番見込みのありそうな客だからな」


 サンドラは”嵐の戦斧”から奪い取った剣を使い続けていたが、その後のレベルアップで力が上がっているので、より重い剣は攻撃力アップに有効だ。

 リューナも今までのローブより格段に防御力が高まるだろう。


 親父の提案は期待に沿うものだったので全部買う事にする。

 鎧が金貨8枚、槍が金貨10枚、剣が金貨15枚、ローブが金貨3枚で、合計金貨36枚だった。


 またもやの大盤振る舞いで眼鏡っこが大喜びだったが、ついでにサービスで俺の鎧の修理もしてもらう事になった。


 俺の鎧は3層でマンティスに左肩を斬られ、応急処置で済ませていたのだが、ガンコ親父に見せたら怒って引ったくられたのだ。

 全く近頃の若いもんは、などとブツブツ言いながら、修理してくれる事になる。


 相変わらず無愛想な親父だが、頼りになる存在だ。

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