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妖精付きの迷宮探索  作者: 青雲あゆむ
第1章 迷宮探索編
3/86

3.産まれたのはレア幻獣

 卵への魔力注入の後、気を失うように眠ったが、翌朝は特に後遺症も無く目覚める事ができた。

 俺は迷宮都市に旅立つべく荷物をまとめ、部屋を引き払う。

 そしてパンパンに膨らんだ背嚢をかついで、約束の商隊に合流した。


「おはようございます、サイードさん。今日からご一緒させてもらうデイルです」


 とりあえず商隊を率いる商人に挨拶した。


「ああ、おはよう。君は見張りをやってくれるんだったね。それじゃあ最後尾の馬車に乗ってくれ」

「分かりました」


 指示された馬車に乗り込んでしばらく待っていると、商隊が動き出す。

 目的地の迷宮都市ガルドまでは3日間の旅だ。

 商隊の馬車は5台で、魔物や盗賊への備えとして冒険者が4人護衛についている。

 俺は最後尾の馬車から後方を見張る役目だ。

 ガルドまでの道中はわりと安全だと聞くが、油断は無しで行こう。


 とは言いつつ暇なので、俺はちょくちょく魔物の卵に魔力を注いでいた。

 昨日、ごっそり吸い取られて流れがよくなったのか、今は簡単にできる。

 魔力量も徐々に多く流せるようになってきた。

 おかげでその日の夕方近くには、早くも卵が孵り始める。


 ピシピシッ、ピシピシッ、パキャッ


「キュー」


 なんかリスみたいな魔物が出て来た。

 しかもメチャクチャかわいい。

 大きめのネズミくらいの大きさで体毛は緑色。

 長めの耳とフワッフワの尻尾が生えている。

 つぶらな瞳はルビー色で、同じ色の宝玉が額にくっついている。


「チャッピー、これ何だか分かる?」

「カーバンクルじゃな。かなりレアな幻獣で魔法を使うぞ」


 おぉ、レアな魔物をゲットしたようだ。

 さすがチャッピーのオススメ。


「マジ? それならけっこう強くなるかな」

「うむ、それなりの戦力になると思うぞ。まだまだ魔力を吸って大きくなるから、日に一度くらい魔力を与えると良い」

「なるほど。食い物はどうかな?」

「たぶん雑食じゃから、おぬしの食料を分ければいいじゃろう」


 ふむふむ、それならそんなに手間は掛からないな。

 はたしてどんな風に育ってくれるのかなあ。


「じゃあ早速、使役の契約をしよう……よしできた。後、名前はどうしようかな?」


 産まれたばかりの魔物を目の前に持ってきてよく見る。

 目がキョロキョロしてて、すごくかわいい。


「よし、お前の名前は”キョロ”だ」

「キュー」


 こうして俺は新たな仲間を手に入れた。



 その後、夕暮れ時になったので商隊が停止して野営準備に入る。

 焚き火を起こして食事を取り、めいめいに体を休める。

 もちろん交代で見張りも実施している。


 幸いな事に魔物などは現れず、翌日も快調に馬車の旅を続けた。

 そして旅はとうとう3日目に突入する。

 このまま夕方には迷宮都市入りかと期待していたのだが、あいにくとそうは問屋がおろさなかった。


 キョロを左肩に乗せて見張りをしていると、キョロがそわそわし始める。

 なんだか右手の森の中を窺っているようなので、そちらに注意していると、商隊と並行して森の中を走る人影がチラッと見えた。


 革鎧を付けているようだったから、おそらく武装をしているんだろう。

 そうなると、盗賊の可能性が高そうだ。


「チャッピー、右手に盗賊らしき奴が見えたんだけど、ちょっと先に行って様子を見てきてくれないかな」

「それはまずいのう。分かった、見てくる」


 チャッピーがフワフワと飛びながら商隊を追い越して行く。

 そして俺も商隊の真ん中に居るサイードさんの所まで走った。


「サイードさん、右手の森の中に盗賊らしき人影を見ました。前の方に走っていったから、待ち伏せされてるかも知れません」

「何、本当か? しかしよく気がついたな?」

「俺のこの使役獣が教えてくれました。今、別の使役獣に前方を確認させてます」

「む、そうか使役獣か。魔物の能力はバカにできないからな。待ち伏せの状況が分かったら、それを聞いて引き返すか判断しよう」

「分かりました」


 商隊は一旦停止してチャッピーの報告を待つ。

 しばらくするとチャッピーの念話が俺に届いた。


(デイル、やはり盗賊が待ち伏せしておった。500m程進んだ所で、道の左右に5人ずつ潜んでいるぞ)

(ありがとう、チャッピー。そのまま待機してくれ)


「確認できました。500m程先で道の両側に5人ずつ潜んでいるようです」

「10人か、多いな。引き返すべきか?」


 護衛のリーダーをやっているクインさんが、そこで口を挟んだ。


「10人ぐらいなら、俺たちが先頭の馬車に潜んで迎え撃てば殺れるさ。もちろん、あんた達も武器を取って自衛してもらわないといけねえが」

「うむ、一応、ウチの人間も武器は使えるが。どうしたものか……」

「大丈夫だって、盗賊10人ぐらいなら相手をした事がある」

「……分かった、君達を信じよう。しっかりと働いてくれればボーナスを出すぞ」


 その後、護衛4人を先頭の馬車に潜ませて商隊は進み始めた。

 俺は怖いからまた最後尾に戻る。

 戦闘は契約に入ってないからね。


 そして盗賊が潜んでいると思われる場所に差し掛かろうとした時、盗賊が大声を上げながら立ち上がった。

 情報通り、左右5人ずつだ。

 すかさず4人の護衛が馬車から飛び出し、右手の盗賊に切りかかった。

 入れ替わりに馬車を動かしていた商人は後方へ逃げ出す。


 俺も身動きが取れるように馬車を飛び出した。

 護衛の援護をする気は無いけど、自分の身は守らなきゃ。


 と思ってたら、左手の盗賊3人がこっちに向かってくる。

 お前ら、バカか?

 先に護衛を倒さなくてどうすんだよ。


「商隊の皆さんはこちらへ!」


 人数が集まれば盗賊もひるむだろうと思って、商人達をこちらへ誘導する。

 ありゃ、大声を出したせいで逆に注意を引いてしまったようだ。

 先頭の盗賊が剣を振りかざして俺に斬りかかって来た。


ブンッ


 攻撃をかわした俺の目の前を、剣がかすめて行く。

 その凶器を間近に見た瞬間、体がすくんでしまった。

 盗賊が剣を切り返す動きが見えるのに、体が動かない。

 あっ、ヤバい、俺このまま死んじゃうんだろうか?


「キュピー!!」


 その時、俺の左肩に乗っていたキョロが、鳴き声と共に何かを盗賊へ放った。

 良く見えないが、バチバチという音が聞こえる。

 その何かをくらった盗賊が、ビクンと体を震わせて硬直した。

 一瞬、呆けていた俺だが、すかさずダガーを引っ掴み、盗賊の喉へ突き込んだ。

 大量の血が吹き出して、俺の体に降りかかる。


 盗賊を1人屠ったばかりの俺の周りに、商隊の5人が集まってきた。

 それぞれ小剣やダガーを構え、盗賊と対峙する。

 そんな彼らと共に、血まみれでダガーを構える俺が強敵に見えたのだろうか?

 残り2人の盗賊が明らかにひるんでいる。

 しばし睨み合っていると、前方で悲鳴が上がった。


「ダメだ! お頭がやられた。撤退するぞ」


 どうやら前方では護衛がいい仕事をしているらしい。

 親玉がやられて撤収の声が上がった。

 それを聞いた目の前の2人もあっさりと逃げ出す。

 盗賊が消えて安心した俺は地面にへたり込んだ。

 助かった、なんとか生き延びられたな。


 結局、護衛は想像以上にいい仕事をしていた。

 彼らが相手にしていた7人は全て切り伏せられ、逃亡できたのは俺と向かい合っていた2人だけだった。

 倍近い敵をあの短時間で倒すなんて凄いな。


 その後、盗賊の首を切り取って、再び迷宮都市に向かう。

 賞金首が含まれていた場合は報奨金がもらえるそうだ。

 俺も1人倒したけど、あれは雑魚だろうから期待していない。

 そうして、日没寸前に俺たちは迷宮都市ガルドに到着した。


 本来、乗車賃で銀貨2枚払う約束だったが、盗賊撃退に協力したって事で、逆に大銀貨2枚を頂いた。

 まあ、俺が盗賊の奇襲を防いだんだから、これぐらいもらってもいいだろう。

 礼を言って離れようとすると護衛隊長のクインさんに呼び止められた。


「今日はお手柄だったな。盗賊の奇襲を防いだ上に、1人倒すとは大したもんだ」

「ありがとうございます。俺も一応、冒険者なので役に立てて良かったですよ」

「俺達はしばらくここに留まるつもりだが、君はどうするんだ?」

「俺もしばらくここを拠点にします。できれば迷宮にも潜るつもりです」

「そうか、あまり無茶な事はするなよ。機会があれば稽古でもつけてやろう」

「ぜひお願いします、俺はまだまだ駆け出しですから」

「ああ、それじゃあな」


 クインさん、いい人や。イケメンだし。

 その後、俺は適当に宿を見つけて部屋を取る。

 朝飯付きで一泊銀貨3枚だ。


 それにしても今日は疲れた。

 そして俺の戦闘力の無さを改めて痛感している。

 明日から鍛え直さなきゃな。

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