表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妖精付きの迷宮探索  作者: 青雲あゆむ
第1章 迷宮探索編
28/86

28.ソードビートル

 迷宮の暗殺者アサシンマンティスの奇襲を辛くも退けた俺達は、素材を剥ぎ取りつつ部屋の中を調べた。

 アサシンマンティスからは魔石と、両手のカマを回収する。

 このカマは武器の素材になるため、2本で金貨3枚にもなる。

 さらに部屋の中を探しまわると、数人分の装備が見つかった。

 過去、何人かの冒険者がこの部屋で奇襲を受け、命を散らしたのだろう。


 すでに夕刻に近かったので、俺達は野営の準備に入る。

 近くの行き止まり部屋を確保し、結界を張った。

 ようやく一息付いた俺達は夕飯を食いながら、さっきの奇襲について話し合う。


「あのマンティスの奇襲はヤバかった。逃げるのが一瞬でも遅れていれば、俺かリューナのどちらかが大ケガをしてただろうな」

「私も本当にびっくりしました。おケガの方は大丈夫ですか?」

「ああ、チャッピーに治してもらったから、とりあえずは動ける」

「あまり無理はなさらないで下さいね」


 左腕はまだ動かすと痛むが、これ以上はどうしようも無い。

 チャッピーの魔法も万能では無いのだ。


「それにしても、なぜあのマンティスを事前に察知できなかったんでしょうか? いつもはシルヴァが警告してくれるのに」

「うーん、これは推測だが、あの魔物は魔法で気配や臭いを消せるんじゃないかな? シルヴァの探知能力も完璧じゃ無いのさ」

「クゥーン……」


 カインの指摘にシルヴァが申し訳なさそうにうなだれているので、頭を撫でてやった。


「おそらくデイルの推測通りじゃろう。アサシンマンティスと言われるだけあって、奇襲に特化していると見える」

「だろうな。あいつは部屋の入り口上に身を潜めて、冒険者が来ると、後ろから襲うんだ。しかも俺達みたいな後衛職を先に片付けて、パーティの力を削ぐんだろうな」

「そう考えると、実に恐ろしい敵です。何か対策を取らないと」


 カインが悩み出したので、俺がアイデアを出す。


「それについては考えがある。あいつが臭いも消してるなら、たぶん魔法を使ってるはずだ」

「なるほど、それを儂が確認すれば、少なくとも奇襲は避けられるな」

「その通り。チャッピーは魔力が見えるし、姿も隠せるからな。これからマンティスが潜んでいそうな部屋はチャッピーに偵察してもらう。頼むぞ」

「任せておけ」


 これで奇襲は防げるだろう。


「それで、もし奴が潜んでいる事が分かったら、とりあえず魔法で引きずり下ろす。俺とチャッピーで散弾でも撃ち込んでやればいいだろう。それから倒す訳だが、カインは今日、奴と立ち会ってみてどう思った?」

「そうですね、最初は奇襲に動揺して、とても恐ろしく見えたんですが、実際はそれほど力も強くないし、動きも早くないと感じました。だからみんなで囲んで攻撃する分には、それほど難しく無かったですね」

「その通りだ。アイツは奇襲に特化してるから、見た目ほど強くない。だから動きに慣れたら、サンドラやレミリアでも一人で対応できると思う」


 そう、最初こそ奇襲されてビビっていたが、冷静に見るとマンティスはそれほど強くない。

 奇襲さえ潰せば、むしろ楽な部類に入るだろう。


 その後もいろいろと話し合っていて、俺はひとつ忘れていた事に気がついた。


「そうだ、カイン。今日拾った装備の中に、槍があったよな。あれ、お前が使ってみないか?」

「槍ですか? 使えと言われれば使いますが……」


 実は今日拾った装備の中に、1.5mくらいの短槍があったのだ。

 魔鉄製でこそ無いが、それはなかなかの業物に見えた。


「今までカインには、早く盾の扱いに慣れてもらうために、あえて簡単なメイスを使わせていたんだ。だけど今日のマンティスとの戦いでも立派に盾を使いこなしていた。そろそろ別の武器を使ってもいいだろう。槍だったら、今までより遠くから攻撃できるしな」

「それは確かに合理的な考えですね。私も攻撃に貢献しやすくなりそうです」

「うん、相手によっては魔鉄のメイスが有効な場合もあるだろうから、そこは使い分けて欲しい。いずれ魔鉄製の槍も手に入れよう」

「分かりました。明日からは槍とメイスを使います。地上に戻ったらまた訓練も必要ですね」


 これでまた俺達の攻撃の幅が広がるだろう。

 何よりカインが嬉しそうだ。

 剣や槍を拾うたびに、カインが寂しそうにしていたのを俺は知っている。



 翌日も探索する中で、1回だけアサシンマンティスが潜んでいたが、期待通りにチャッピーが見つけてくれた。

 その後は引きずり下ろして袋叩きだ。

 そう何度も奇襲されてたまるか。


 今回は俺のケガもあったので早めに地上へ戻った。

 マンティスの魔石は銀貨10枚だったが、その危険度に比べると安い。

 まあ、カマが高く売れる分、マシな方だろうか。



 地上へ戻った翌日、カインに槍を習わせるため、ギルドへ出掛けた。

 教官は盾と同じトッドさんだ。


 俺は腕のケガがあるので、ギルド内で3層以降の情報を集めてみたのだが、めほしい情報は少なかった。

 そもそも3層以下に潜っている冒険者は全体の2割にも満たず、大した情報は共有されていないからだ。

 そりゃあ、命がけで潜ってる迷宮内の情報を簡単に教える訳が無い。

 ギルドへの報告義務も無いので、分かるのはどんな魔物が出るかぐらいだ。


 かろうじて聞けたのは、4層は3層と同じ虫系の魔物が出ること。

 しかも序盤でキラービーが大量に出て来るので、あまり探索が進んでいないという事ぐらいだった。


 ちなみに現在、4層に潜る資格を持つパーティは3つだけだ。

 エルフがリーダーを務めるトップパーティ”天空の剣”。

 魔術師がパーティの半分を占めるインテリ系の”魔導連合”。

 そして屈強な盾使いがリーダーをやってる肉体派の”青雲党”だ。


 どれもA級冒険者を多く抱える一流パーティである。

 それが4層序盤で苦戦しているとは難儀な話だ。

 もっとも、キラービーへの対抗手段を持つ俺達にはむしろ有利かもしれない。



 それから2日間、俺は魔法の練習をしつつ傷を癒やした。

 傷が癒えると、また2層中盤の探索を再開する。


 すでにアサシンマンティスの対処法も分かっているので、探索は順調に進む。

 途中、30匹のソルジャーアントにも遭遇したが、竜巻弾でかき回したらなんとかなった。



 そんな探索を3回も続けると、ようやく3層の深部に差し掛かる。

 深部には3層最強のソードビートルが出るので、慎重に歩を進めた。


 そしてとうとう新たな敵の出現をシルヴァが告げる。

 新たな敵の待つ部屋の入り口から覗くと、確かにそいつは居た。


 わりと大きな部屋の真ん中に、巨大なカブトムシが鎮座している。

 体長は4m程で、その名に恥じない剣のような角が鼻先にくっついている。

 体高も1.5m以上あり、体重は優に1トンを超えるのではなかろうか。

 その巨体は黒光りする装甲に覆われ、俺達の攻撃なぞ軽く跳ね返しそうだ。


 しかし俺達は事前の打ち合わせに従って部屋の中に展開する。

 カインがビートルの正面に立ち、残りは奴を囲むように位置取った。

 俺とリューナはカインの真後ろから少しずれた所で待機だ。


 カインが挑発すると、ビートルが突進して来る。

 カインは鋭い角を躱しつつ、盾でビートルの巨体を押し留めた。

 それと同時に動きの止まったビートルの足を残りのメンバーが攻撃するが、やはり硬くて刃が通らない。

 俺とリューナも魔法弾を撃ったが、やはりダメだ。


 ここまでは想定通りだったので、俺はリューナに目線で合図した。


土精霊ノームさん、お願い!」


 リューナが土の竜人魔法を行使すると、数瞬後にビートルの左脇から直径20cm程の柱が3本、勢い良く飛び出した。

 その土柱の1本がビートルの脇腹を突き上げ、あっという間に奴をひっくり返す。

 これこそが対ビートル用に編み出した竜人魔法”ビートルさん転んだ”である。

 ノーム頼みで位置精度が甘いため、3本の土柱を出す事で補っている。


 ひっくり返されたビートルはすぐに起き直れず、足をジタバタさせている。

 ここぞとばかりに俺とリューナがビートルの腹に魔法弾を撃ちまくった。

 ちょっと角度が悪くて弾かれやすいが、さすがに装甲の弱い腹には有効で、徐々に傷が増えている。

 ついでにバルカンの火球もお見舞いしてやったら、これが良く効いた。


 腹は魔力防御が薄いらしく、超高温の火球が奴の腹を焼きえぐる。

 バルカンの限界の6発を撃ち終えると、ビートルはすでに断末魔の状態。

 最後にサンドラが剣を首の関節部に突きこむと、ようやく奴は息絶えた。


 メンバーから歓声が上がる。

 俺もリューナと抱き合って喜んだ。


「よくやったな、リューナ。大成功だ」

「はい、うまくいって良かったのです、兄様。グスッ」


 リューナが感激して泣いている。

 このためにけっこう練習したから、こみ上げるモノがあるのだろう。

 残りのメンバーも周りに集まって来た。


「カインもよくやってくれた。お前が居なきゃ成功しなかったよ」

「いえ、私はただ止めただけですから」

「バカ、あんな巨体を正面から受け止められる人間なんて、そう居ないよ。本当に良くやった」


 俺がそう言ってカインの肩を叩くと、満更でも無さそうだ。

 ”ビートルさん転んだ”はその位置精度の悪さもさることながら、発動に若干の時間が掛かる。

 そのため誰かがビートルを止めなければいけない。

 あの巨体を見た時はさすがのカインでも無理かと思ったが、彼は見事にやってのけた。

 ただ鬼人族の肉体が頑強であっただけでは無く、カインが恐れずに正面から立ち向かったからこその殊勲だろう。

 彼は想像以上に強くなっている。


 ひとしきり喜びを分かちあった後は、素材回収の時間だ。

 魔石と一緒にビートルの角と、背中の上翅装甲を剥ぎとった。

 角は剣の素材になり、上翅も鎧の素材になるそうだ。

 上翅の大きさは2mもあるが、持ち帰る価値は十分あるだろう。


 時間的にちょうど良かったので、地上に帰還する。

 2刻ちょっとで地上に出ると、すでに日暮れ後だった。


 ビートルの素材をギルドに持ち込むと、担当が驚いていた。

 ビートルを狩れるパーティは4層探索者以外にはわずかしか居らず、めったに持ち込まれないからだ。

 角が金貨3枚、上翅2枚を金貨4枚で買い取ってくれた。

 ちなみに魔石は銀貨15枚でやはり安い。


 絶対にオークよりソードビートルの方が強いと思うんだが。

 そんな愚痴を買い取り担当にこぼしたら、”魔石はそれが持つ魔力量だけで価値が決まるから”と笑っていた。

 強さと魔力量は比例しても良さそうなものだが、そう単純では無いのだろう。


 いずれにしろソードビートルを倒したからには、3層の守護者を視野に入れて行動する時が来たようだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ