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妖精付きの迷宮探索  作者: 青雲あゆむ
第1章 迷宮探索編
25/86

25.サラマンダーとの契約

 2層攻略を成し遂げた俺達は翌日、いつもの原っぱに来ていた。

 皆、シートの上で思い思いにくつろいでいる。

 俺はレミリアに膝枕をしてもらい、そしてリューナは俺の腕を枕にしている。


「ああー、いい仕事をした後の休日は気持ちがいいな~」

「ハイ、兄様。私達がんばったのです」


 俺達は昨日、2層守護者のオークリーダーを倒したばかりだ。

 その後、転移水晶で地上に戻っているので、それほど疲れは無いが、かつてない激戦だったのは間違い無い。


「そう言えばご主人様、昨日の戦闘後、体が軽くなった気がするんですけど」

「ホント? それじゃあレミリアも肉体レベルが上がったんだな。俺もレベルが6になったから」

「あーっ、それ私もです! なんか前より力が強くなったって言うか、力がみなぎる感じがするのです」


 リューナがそう言うと、カインやサンドラ、リュートも頷いている。


「噂では迷宮の守護者戦では、通常より多くの生命力が放出されるため、レベルが上がりやすいと聞く。どうやらあながち間違いでも無さそうじゃな」

「へー、そんな説があったんだ。確かに俺は1層の守護者戦でもレベル上がったから、現実味があるな」

「下層に行くほど魔物は強くなるから、あまり楽にはならんがな」

「そうなんだよな。3層は虫系の魔物が出て来て、けっこう苦労してるって話だし」

「でもセイスで狩ったアントやスパイダーは、それほど苦労しませんでしたよね?」

「それは俺達の有利な状況で戦ったからさ。ギルドの情報によると、虫系は特に数が多いらしい。ソルジャーアントとか、キラービーは下手すると30匹も出るらしいぜ」

「それは確かに厄介ですね」

「おまけに深部にはアサシンマンティスとかソードビートルなんて凶悪な魔物が居るんだって。だから”嵐の戦斧”みたいにハンパなパーティが探索意欲を失うんだよ」


 ”嵐の戦斧”とは3層探索者でありながら攻略に行き詰まり、2層で冒険者を襲っていた犯罪パーティである。

 俺達が返り討ちにしたが、それなりに強いパーティだった。


「数が増えるなら、魔法の強化は必須じゃの」

「そりゃあ、そうだけど、いい手を思いつかないんだよな。虫は皮が硬いから散弾はあまり効かないだろうし」

「あ、兄様、兄様。私のレベルが上がったせいか、精霊さんとお話できるようになったのです」

「凄いな、リューナ。それで精霊さんとお話できると、どうなるんだ?」

「えっとね、今までより少ない魔力で大きな魔法が撃てたり、複数の魔法が一度に使えたりするのです」

「へー、ちょっと試しにやってみてくれないか?」

「うん、やって見せるのです。まずは大きなのから……」


 そう言ってリューナが目を閉じて集中する。


「風の精霊さん、精霊さん、力を貸してくださーいっ!」


バフォッ


ザザザザザーッ


 リューナが腕を振り下ろした瞬間、とんでもない突風が吹き荒れ、少し遠くにあった木が丸裸になった。

 みんなの目が点になる。


「……す、凄いなリューナ。この前みたいにフラフラになったりしないのか?」

「はい、精霊さんが力を貸してくれたから、大丈夫なのです」

「そ、そうか、リューナ凄いぞ。それじゃあ複数の魔法ってのはどんなのだ?」

「うん、それはいつも2人でやってる合成魔法なのです」


 そう言いながら手を突き出したリューナが、1人で円すい弾を発射し、近くの大岩に傷を付けた。


「ななななな、何ーっ! 今のどうやったんだ?」

「えっと、土の精霊さんに弾を作ってもらって、それを私が飛ばしたのです」

「なるほど……精霊がチャッピーと同じ役目をしてるのか。でもリューナが1人で撃てるなら、火力がこれまでの2倍になるな」


「うーむ、これは想像以上の進化じゃ。おそらく儂らとやっていた魔法の修行で、世界の理に触れた上に、レベルアップで精霊との会話が容易になったんじゃろう」

「うん、チャッピーにいろいろ教えてもらったら、精霊さんへのお願いが簡単になったの。私のお願いは他の人より分かり易いんだって」


 思わぬ妖精魔法の副次効果である。

 おそらくリューナは妖精魔法を学ぶ事で、竜人魔法の修行の数十年分をすっ飛ばした形になるんだろう。


「いずれにしろ、これは3層の攻略に役立ちそうだな。キラービーみたいな魔物には散弾が有効だし、魔法弾も2倍撃てるなら有利になる」

「うむ、実際に攻略をしつつ、やり方を考えればいいじゃろう」


 それにしても、精霊と会話できるってのは羨ましいな。


「ところでリューナ、俺にも精霊さんを紹介してもらえたりしないか?」

「うーん、普通は私みたいに加護を受けないと無理なんだけどー、ちょっと聞いてみるのです」


 リューナがしばらく目を閉じてブツブツ言っていた。


「あのね、精霊さんに相談したら、兄様とお話してもいいって子が居るのです。今からその子達を紹介するね」


 リューナがそう言った途端、俺の視界が変わった。

 以前、チャッピーが魔力を見せてくれた時のように、彼女が感覚を共有してくれているのだろう。

 最初、少し驚いたが、確かに今まで見えなかった存在が見える。


 薄水色に透けた美少女。

 黄土色の服を着たヒゲモジャの小人。

 青い衣をまとった美女。

 真っ赤なトカゲ。


 おそらくそれぞれが風精霊シルフ土精霊ノーム水精霊ウンディーネ火精霊サラマンダーなのだろう。

 周りに豊富に素材のあるシルフとノームが多い。

 て言うか、なんでここにサラマンダーが居るんだろうか?


「リューナ、ありがとう。地水火風の4精霊が見えるよ」

「さすが、兄様なのです。それで、うまく気に入られたら、その中の誰かと契約できるんだって」

「それは、使役スキルが使えるって事かな?」

「よく分かんないけど、契約は出来るのです」


 そうか、いずれにしろリューナが使ってない火属性が欲しいな。

 俺はもっとも近くに居たサラマンダーに使役スキルを行使してみた。

 まず念話をつなぎ、契約を申し出る。

 そのサラマンダーはしばし迷っていたようだが、やがて契約が成立する。


(グルルルゥー、これからよろしく頼む主。我に名前をくれ)


 契約と同時に念話が可能になる。

 しかも名前を要求して来た。

 やはりただの魔物より高次の存在のようだ。


「そうだな、お前の名はバルカン。俺はデイルだ、よろしくな」


 そう俺が命名すると、視界が元に戻った。

 そしてなぜか俺の魔力がごっそりと奪われ、眩暈めまいに襲われる。

 以前、キョロの卵に魔力を吸われた時以上だ。


 眩暈が治まると、俺の右腕に鮮紅色のトカゲが乗っていた。

 全長が20cmくらいの小さなトカゲである。


「もしかしてお前がバルカンなのか?」

「その通りだ。主から命名されて受肉した」


 想像のはるか上を行く事態だ。

 まさか実体化までするとは思わなかった。


「俺の魔力を使って肉体を構成したのね。それでバルカンには何が出来るんだ?」

「今はまだ体がこの世界に定着していないので、何も出来ない。しかし体が馴染んで成長すれば、火を操れるようになる」

「そうか、それじゃあ、準備が整ったら教えてくれ」


 残念ながらまだバルカンの力は見れないらしい。

 何が起きたか理解できていないレミリアが質問して来る。


「ご主人様、そのトカゲは一体、何なのですか?」

「ああ、リューナ以外には分からないか。これが今、俺が契約したばかりのサラマンダーで、バルカンだ。今は無理だが、そのうち一緒に戦ってくれるそうだ」

「サラマンダーって、火の精霊ですよね? ご主人様は精霊術師だったのですか?」


 一般に、精霊と契約できるのはエルフなど精霊術を使う者だけだと言われている。


「いや、そうじゃ無いんだが、たぶんリューナの精霊の加護のおかげだと思う。使役契約を結んで、名前を付けたら実体化した」

「そんな事が普通、可能なんでしょうか?」

「精霊と契約を結ぶ事はたまにあるが、命名して実体化なぞ聞いた事が無いわい。つくづくデイルは非常識じゃな」


 なぜ俺が責められるのだろうか?


「いや、これも全てリューナのおかげだよ。ありがとうな、リューナ」

「お役に立てて光栄なのです、兄様」


 リューナはいい子だ。

 たぶんバルカンは戦力になるから、これでいいんだ。


 その後は多少、剣の訓練などをしつつ、ピクニックを楽しんだ。

 そして帰宅して夕食を済ませた後、バルカンに魔力をせがまれた。

 なんでも魔力を多くもらう程、早く成長するらしい。

 断る理由も無いので、俺はバルカンに手を当てて魔力を注入する。

 そうしていると、バルカンの前足の後ろに皮膜がある事に気がついた。


「バルカン、この前足の後ろにあるのって、翼?」

「その通りだ、主。今はただの飾りだが、成長すれば空も飛べるようになる」

「へー、凄いな。ついでに火を吐いたりもするのか?」

「もちろんだ、主。いずれ戦力として期待してくれていい」

「戦力って言っても、どれくらい大きくなるんだ?」

「今の状態では、犬程度の大きさまでだ。進化すれば飛竜ワイバーンクラスまで大きくなるとも聞く」

「ふーん、どうすれば進化できるんだ?」

「分からぬ。戦闘を重ねた上で、さらに何かが必要らしい」


 バルカンが飛竜クラスに進化する可能性があると言う。

 飛竜と言えば魔境にしか居ないAクラスのバケモノだ。


「チャッピー、精霊の進化って知ってる?」

「精霊については知らんが、魔物は何らかの条件を満たすと、進化すると言う話は聞いた事がある」

「魔物は、って言う事は、キョロやシルヴァにも進化の可能性があるのか?」

「そのようじゃ。条件については見当も付かんがな」


 進化するための何かか。

 これは今考えても仕方が無い。

 しかしその可能性があるなら、いろいろ試してみるのも良さそうだ。



 翌日から3日間は訓練に明け暮れた。

 バルカンの体が定着するまで、魔物との戦闘は控えたからだ。

 午前中はギルドで教官に教えてもらい、午後は野外で魔法の練習や組手をする。

 そんな訓練の3日目、俺とチャッピーが火炎弾の練習をしていると、バルカンが口を挟んできた。


「主、我であればもっと強い火球が作れるぞ」

「へー、確かにサラマンダーなら火はお手の物だよな。それじゃあひとつ作ってみてくれ」

「了解だ。右手を前に出せ、主」


 そう言われてかざした俺の右腕の前腕部に、バルカンが移動しする。

 そして俺の手のひらの前に、鶏の卵大の火の玉が発生した。

 その火の玉は小さいが、もの凄く熱かった。

 俺はとっさに火の玉を自分の魔力でくるみ、熱を遮断する。

 そしてその火の玉を10m程先の岩に撃ち出した。


ポンッ


ボジュンッ


 驚いた事に、火の玉が岩を溶かし、直径5cmほどの穴を開けてしまった。

 今までの火炎弾は岩を火だるまにして表面を焼く程度だったので、バルカンの火球は明らかに質が違うものだ。


「凄いな、あの火球は。火と言うよりも、熱そのもののような感じがした」

「その通りだ、主。チャッピーは魔力で燃料を作り、それを燃やしているが、我は火そのものを作り出すために熱の密度が高いのだ」

「なるほど、さすがサラマンダーだな。その火球はもっと密度を低くして、広範囲を焼く事もできるのかな?」

「やればできる。これでどうだ?」


 そう言ってバルカンは、さっきよりも大きな火球を作る。

 同じように岩に向かって撃つと、今度は火球が弾けて周囲に散らばった。

 しかしチャッピーの火球より温度が高いため、そのまま火事になってしまう。

 慌ててリューナを呼び、水を出してもらって火を消し止めた。

 レミリアやリューナに怒られてしまった。

 仕方ないだろう、俺も初めてだったんだから。


 一方、カインやサンドラはバルカンの火球の威力に大騒ぎだ。

 これなら迷宮攻略も進むだろうと、しきりに感心している。


 でも、そんな簡単には行かないんじゃないかなあ。

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