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妖精付きの迷宮探索  作者: 青雲あゆむ
第1章 迷宮探索編
23/86

23.守りの要

「私よりよほど強いですよ……」

「そうか、それは今後が楽しみだな。しかしカイン自身は剣を使えない事に不満があるみたいだな?」

「いえ、そんな事は。しっかりと剣を使いこなすリュートは、私よりも有望だと言うだけです」


 リュートの訓練についてカインに尋ねると、リュートは自分よりも強いと言う。

 しかし俺はそこに自身を卑下する響きを感じた。


「そんな事は無いさ、カイン。俺がどれだけお前を頼りにしてるか、分かって欲しい」

「過分なお言葉をありがとうございます。しかし私にはサンドラのような力もありません」

「確かにサンドラの攻撃力は凄い。一撃でオークの首を断つなんて、俺らには出来ないからな。だけど俺はお前の守りこそを頼りにしている」

「私は……ただ耐えるだけで、メイスもまだうまく使いこなせない男です」

「バカ言え。たった一人でオークや犯罪パーティの親玉を押さえるなんて、お前にしか出来ない。お前のその勇気こそが宝なんだ」


 カインが悩んでる事には薄々気が付いてた。

 俺が彼に盾職を押し付けているため、どうしても攻撃力は見劣りがする。

 その横でオークの首を一撃で叩き落とすサンドラの活躍が眩しいんだろう。

 しかしそんなサンドラの活躍も、カインあってのものだ。


「兄者、そんな事を気にしていたのか? 妾の魔法剣なぞ、兄者の守り無くば、何の役にも立たぬのに」

「そうです、カインさん。貴方がご主人様を守ってくれるから、私達は敵に立ち向かえるのですよ」


 サンドラやレミリアがカインの必要性を訴えるが、それでもカインは納得していない。


「カイン、俺がお前から剣を奪ってしまったのは申し訳ないと思う。しかしお前の盾ってそんなもんなのか? お前の忠誠心はそんなもんなのか?」

「それは一体、どう言う意味でしょう? 私の忠誠心はデイル様のみに向いています」

「じゃあ、俺が何を望み、何を期待しているのかを考えろ。俺はその期待にふさわしい装備をお前に与えたつもりだ」

「それは……確かにそうです」

「俺はお前にパーティの前面を守る事を期待している。そしてお前はその期待に応えているんだ。何も恥じる事は無い」


 カインはようやく自分の勘違いに気付き、俺の言葉に感激の涙を浮かべていた。

 これぐらいで涙を流すとは、センチな野郎だ。


「お前は俺達の守りの要だ。今後も頼むぞ。……ところでリュート、そんなカインを助けたいとは思わないか?」


 急に話を振られたリュートが動揺する。


「それは……俺に迷宮に潜れという事ですよね。すでに装備も与えてもらいましたから、迷宮には潜りますよ」

「しかしただ攻略に参加するのと、明確な目的を持っているのとでは大きく違う。お前が本気になれば、カインは楽になるだろうなあ」

「それは……なんか卑怯です。カイン兄をダシに使うなんて」

「別に俺はお前に迷宮探索を強制してるんじゃないんだ。でも目的意識をしっかり持って欲しい。それがお前の生存を左右するかも知れないからな」


「……分かりました、もっと真剣にやります。でもそれはデイル様のためじゃ無い。カイン兄のためです、それでもいいですか?」

「ああ、いずれ俺自身にも忠誠を捧げてもらえるよう、努力するよ」


 とりあえずリュートのモチベーションも高められたと思う。


「私は兄様のために迷宮に潜るのです」


 リューナが脳天気に宣言する。


「リューナはもっと魔法使えるようにしないと無理だ。しばらくは修行な」

「ホッホッホッ、いつまで掛かるかのう?」

「大丈夫、兄様の使役スキルでつながってるからすぐなのです」


 そうやってリューナをいじってたら、リュートが反応した。


「使役スキルって何ですか?」

「ああ、お前には説明してなかったっけ。俺の使役スキルで契約すると、パーティメンバーとリンク出来るんだ。魔法の練習とか、戦闘時の連携とかに役立つ」

「それ、俺にもやって下さい」

「いいのか? 奴隷契約を2重にするようなもんだから、無理にしなくてもいいぞ」

「俺だけ仲間外れは寂しいし、カイン兄ともつながるなら、それでいいです」

「分かった。今から使役契約の念を送るから、受け入れてくれ」


 そう言いながら念を送ると、すぐに契約が成立した。

 これでリュートも正式なメンバーだ。



 翌日はまた訓練を兼ねて虫系魔物の討伐だ。

 今回はメタルアントで、10匹以上の触覚を持ち帰るのがノルマになっている。


 1刻ほど掛けてメタルアントの巣に着くと、居るわ居るわ。

 あまり増えすぎると、街道に被害が出るため、定期的に間引く必要があるらしい。

 メタルアントは名前の通り、金属質の装甲を持つ50cmほどのアリだ。

 関節部はそれほど硬くないので、素早く正確に攻撃できれば、誰でも倒せる。


 皆に攻撃を指示し、俺自身は弓を構えて後ろから観察する。

 とりあえずリューナは俺の横で見学だ。

 見ていると、やはりサンドラやレミリアは苦もなくアントを倒していた。

 カインもメイスでわりと簡単に始末している。


 それに比べて、リュートはまだおっかなびっくりと言った感じだ。

 腰が引けてるので関節部を攻撃できてない。

 まあ、そのうち慣れるだろう。


 それに比べると、キョロとシルヴァはほとんど遊び気分だ。

 電撃と牙でアントを仕留め、嬉しそうに触覚と魔石を持って来てくれる。


 そうやって狩りを続けていると、1mほどの大きなアントが5匹ほど現れた。

 こいつらは戦闘に特化したソルジャーアントだ。

 俺はリュートに下がるよう命じ、残りのメンバーに1匹ずつ対応させた。

 レミリア、サンドラ、カインは危なげなく戦っている。


 キョロとシルヴァは少し手こずっていたので、後ろから円すい弾で援護してやる。

 1発ぶち込んで弱らせてやると、それぞれでトドメを刺していた。


 狩りを始めて1刻ほどで50匹以上を仕留めた。

 内訳はレミリアとサンドラが15匹ずつ、カインが10匹、シルヴァが8匹、キョロが5匹、そしてリュートが3匹だ。

 これとは別にソルジャーアントが5匹である。

 リュートはキョロに負けたのを悔しがっていた。


 狩りの後はまた適当な場所を見つけ、昼食と訓練をする。

 カイン、サンドラ、レミリアにリュートを任せ、俺とチャッピーはリューナの魔法訓練に付き合った。


「兄様、さっきのアリさんに撃っていた魔法は何なのですか?」

「ああ、あれは俺とチャッピーの合成魔法だよ。チャッピーが土魔法で円すい弾を作って、俺が風魔法で飛ばすんだ」

「そんな魔法、初めて聞いたのです。人族はそのような魔法を使うのですか?」

「いや、普通は長ったらしい呪文で定式化された魔法を使うな。俺もチャッピーも1人では大した魔法が撃てないから、協力する事にしたんだよ。おかげで魔法歴4ヶ月の俺でも、魔法で戦えるようになったんだ」

「凄いのです。ぜひ私にも教えて欲しいのです」


 リューナが興奮して迫ってくる。

 魔法の使い手は多いに越したことは無いので、もちろんOKだ。


「もちろんいいよ。今はどれくらい妖精魔法が使えるようになってる?」

「石や水の塊は作れるのです。それと風もけっこう扱えるようになったです」

「そっか。けっこう風魔法が得意みたいだから、チャッピーに弾を作ってもらって、飛ばす練習から始めよう」


 その後、リューナに合成魔法を教えた。

 まずはチャッピーが作った弾を風魔法で飛ばさせる。

 すでに風魔法の基礎は身に付けているので、俺達が蓄積してきたノウハウを教えると、メキメキと上達した。

 まだ俺には及ばないが、そこそこの弾が撃てるようになっている。


 試しに弾を作らせる方もやらせてみたが、こっちはイマイチ。

 まだチャッピーほど大きく複雑な弾は作り出せない。

 いずれにしろ修行、修行。


 リュートの方も3人に厳しく鍛えられていた。

 一見、幼児虐待に見えなくもないが、リュートは18歳だ。

 耐えぬいてくれるだろう。



 そんな、虫系魔物の討伐と訓練を1週間ほど続けてみた。

 おかげでリューナは俺の8割くらいの威力で弾が撃てるようになった。

 弾作りもチャッピーの7割くらいはいける。

 あいにくと火炎弾だけは作れないが、これは仕方ないだろう。


 そして面白い事に、彼女は精霊が見えるようになって来たらしい。

 元々、精霊の加護を持っていた所に、魔法の熟練度が上がったので、精霊を認識できるようになったのではないか、と言うのがチャッピーの分析だ。

 まだ大した影響は無いが、このまま経験を積めばさらなる魔法の上達と、竜人魔法の開花も期待できるだろう。

 今後、強力な戦力となる事を期待しよう。


 リュートの方も毎日ボコボコにされ、だいぶ逞しくなって来た。

 今ならホブゴブリンくらいは一人で殺れるだろう。

 ついでにメタルアントの皮をゴトリー武具店に持ち込み、リュートの防具を補強してもらった。

 これで適当な革だけの鎧より、だいぶ防御力が向上している。

 金貨1枚もしたが、必要な投資だろう。

 眼鏡っこも喜んでるしな。



 こうして新たなメンバーと強力な武具を手に入れた俺達は、迷宮都市へ戻ることにした。

 来た時と同じように商隊を見つけ、護衛として参加する。


 たまの魔物襲来以外は大きなトラブルも無く、俺達は3週間ぶりに帰宅した。

 俺達の家を初めて見たリューナが興奮してはしゃいでいる。


「一軒家に住んでるなんて兄様は凄いのです。私達のお家なのです」

「まあただの貸家だけどな。それとこいつが家付き妖精ブラウニーのボビンだ。いろいろと家事をやってくれるから、失礼のないようにな」

「よろしくやで、お嬢ちゃん」


 リューナ達にボビンを紹介しておく。

 ボビンは優秀な家政夫兼守衛なのだ。

 その晩は久しぶりにボビンの料理を食べながら、土産話で盛り上がった。


「ま、こんな感じでリュートとリューナが仲間になったんだ。……明日はどうしようかな? 迷宮の2層はまだ早いよな?」

「いや、今のリュート達なら、少なくとも足手まといにはならんじゃろ。だったら実地で経験を積ませれば良い」

「そうか。よーし、それじゃ明日は早速、2層に潜ってみるか」

「はい、私達もがんばるのです」


 その後、適当に歓談して寝室に引き上げる時に少し揉めた。

 リューナが俺と寝たいと言ってゴネたのだ。

 今まで一緒に寝てたから、当然かも知れない。

 でも俺だって久しぶりにレミリア達とエッチするつもりだったから、ここは譲りたくない。


 妥協案として迷宮から帰ってきたら、リューナと一緒に寝ることにした。

 もちろんリューナとエッチはしないが、たまに一緒に寝てやる事で納得させる。

 早く成長してくれれば、こんな事で悩まずに済むんだけどなあ……


 ちなみにリューナとリュートの体だが、1週間ほど魔力を注入しても見た目は変わらなかった。

 しかし体重は当初の2倍ほどになり、身体能力や魔力もそれなりに強くなったようだ。

 もうこれ以上は重くなりそうに無いので、他のメンバー同様に週1ペースで魔力を注ぐ予定である。



 いろいろな意味でリフレッシュした俺達は翌日、久しぶりに迷宮へ潜った。

 まず2層に降りて、手始めにゴブリンの群れを探す。


 やがてホブゴブリンに率いられた群れを2つ見つけ、リュート達の迷宮初戦闘になだれ込んだ。

 ホブゴブリン2匹をカインとサンドラが押さえ、残りがてんでにゴブリンを倒して行く。

 リューナとチャッピーにも円すい弾を撃たせ、俺は弓でサポートだ。

 もっともゴブリン程度では誰も苦戦しないので、俺の出番は無かった。


「リュート、リューナ、初めての迷宮戦闘はどうだ?」

「これぐらいだったら全然問題ありません」

「私も2匹倒したのです、兄様」

「よしよし、良くやった。でも異常を感じたら言うんだぞ」


 思った通り、リュート達は戦えるようなので、2層の深部に向かいながらコボルドやケイブバットとの戦闘も経験させる。

 そして深部に入ってすぐ、久しぶりにオークを発見した。


「いいか、今からオークの居る部屋に入る。奴らはメタルアント以上に硬いから、リュートの攻撃は通じないだろう。まずはカインと協力して足止めをしろ。サンドラとレミリアは武器を換えてるから、殺れるようなら殺っていいぞ」


 そして俺達は3匹のオークが待ち受ける部屋に侵入する。

 1匹はカインとリュート、2匹目はサンドラとレミリアが受け持ち、3匹目はシルヴァとキョロが俺の前に誘導するよう指示した。


 カインは盾の取り回しがしやすくなった上に、リュートの援護を受けて、ガシガシと魔鉄製のメイスを叩き込んでいる。

 リュートの攻撃はやはり通じていないが、体はよく動いているようだ。


 そしてサンドラとレミリアは見違えるほど攻撃が通じるようになっている。

 サンドラが盾と剣で牽制する横で、レミリアがオークの左足を切り刻む。

 やがて耐え切れずに片膝を付いたオークの首にサンドラが剣を叩き付け、あっさりと決着が付いてしまった。

 やはり魔鉄製の武器は強力だ。


 こちらも3匹目のオークにリューナが円すい弾を命中させた。

 弾はチャッピー謹製の魔法弾なので、やすやすとオークの防御を食い破り、息の根を止める。

 最後に残ったオークもカインが弱らせた上で、盾ごとぶつかって転倒させ、サンドラがトドメを刺して終わった。


「カイン、盾でオークを転ばせるなんて凄いじゃないか」

「はい、私なりに出来る事を考えてみました。リュートも手伝ってくれましたし」

「ああ、リュートも良くやったぞ。怖くなかったか?」

「いえ、カイン兄が一緒だったから。でもやっぱり俺の攻撃は通じませんでした」

「すぐに通じるようになるさ。それとリューナもよくやった」

「えへへー、リューナも兄様の役に立てたのです」


 ちょっと前まで、あれほど苦労していたオークも余裕で倒せるようになっている。

 わざわざ港湾都市まで出向いた甲斐は、十分にあったと言えるだろう。

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