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妖精付きの迷宮探索  作者: 青雲あゆむ
第1章 迷宮探索編
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2.魔物の卵

 濡れ衣の賠償として大銀貨6枚を受け取り、俺は解放された。

 胸糞悪いのでさっさと衛兵詰所を後にし、スラム街の我が家に戻る。

 我が家と言っても、ほとんど違法占拠のボロ部屋だ。

 とりあえず落ち着いた所で、改めてチャッピーと話をした。


「さてチャッピー、今後の予定を立てるためにも話し合おうか。さっき言ったように俺は冒険者だ。弱いの専門だが使役スキルが使える。今はそれを利用した害獣退治とか探しものが主な仕事だな。しかし俺はしばらくこの街から離れようと思ってる」

「何故、この街を離れるんじゃ?」

「だってお前の元契約者が目覚めたらお前が居ない事に気づくだろ。そしたら一緒に牢屋に入ってた俺が真っ先に疑われる。何とか俺の情報を聞き出して、冒険者ギルドに張り込まれたりするかもしれない。そうなると絶対にトラブルになるから、しばらく姿を消したいんだ」

「なるほど、それはそうじゃな」


 一応、納得してくれたみたいだ。


「それで行き先なんだけど、迷宮都市ガルドにしようと思ってる。前から迷宮探索に興味があったからな。チャッピーはそういうの経験あるか?」

「迷宮探索は経験が無いのう。あいにくと儂が役立つとも思えん。まあ空を飛んでの偵察とか、ちょっとしたケガの治療ぐらいはできるがの」

「へー、どんな風に治すんだ?」

「今度、ケガをした時にでも見せてやるわい。それよりおぬし、魔法は使わんのか?」


「うーん、俺は孤児院で育ったから習う機会なんて無かったんだ。才能があるかどうかも分からないし」

「才能があるかは別としておぬし、強い魔力を持っておるぞ。なんだったら儂が手ほどきしてやってもよい」

「え、マジで? チャッピー魔法使えんの?」

「ちんけなモノじゃが、いくらかは使える。儂は魔力を感知できるから、おぬしに教える事もできるじゃろう」


 うほ、俺が魔法を使えるかもしれないなんて、燃えるな。


「ぜひ頼む! 魔法使いなんて数が少ないし、習おうとしてもすっげー金取られるんだ。簡単なのでも魔法が使えれば大きな戦力アップになるから教えて欲しい」


 俺は全力で頭を下げて頼んだ。


「ホッホッ。”頼む”とは久しぶりに聞く言葉じゃ。おぬしは頭ごなしに命令はしないんじゃな?」

「俺は使役スキルって信頼関係が大事だと思うんだ。頭ごなしに命令しても、あまりうまく動かせないんだよね。だからどんな動物にも俺はお願いするんだ」

「なかなか独特なスキル観じゃの。よかろう、儂が魔法を仕込んでやる」

「やったー! これで俺も魔法使いになれるかも」


 妖精の相棒を得ただけじゃ無く、思わぬ能力アップの可能性まで出て来た。

 いよいよ持って、俺にも運が向いて来たな。

 待てよ、魔力が使えるならあれもできるか?


「なあ、俺が強い魔力を持ってるんなら魔物の卵をかえせないか? 何が出てくるか分からないけど、強い使役獣を手に入れられるかもしれない」

「ああ、魔物屋で売っているあの卵か。魔力の流し方を覚えれば孵化させられるぞ。確かに安価に魔物を手に入れるにはいい手かもしれん」

「よし、じゃあ早速見に行こう。それと旅の準備もしなきゃな」


 俺はチャッピーを連れて魔物屋に向かった。

 魔物屋ってのは文字通り魔物を取り扱っている店で、使役獣とかペット、それから素材取り用の魔物が置いてある。

 そこでは成獣だけで無く、魔物の卵も商品になっている。

 何が産まれるか分からないし、孵化させるには魔力を注ぎ込む必要もあるが、安いのがメリットだ。


 俺たちは魔物屋に着いて、卵を物色し始めた。

 大きさは小石ぐらいの物から両手大のものまで様々だ。

 以前から興味があったのだが、さすがに買う勇気も金も無かった。

 今は先日の金貨の残りもあるし濡れ衣の賠償金も得たので、かつて無い程に懐が暖かい。


「なあチャッピー、卵の中身って分かったりしないか?」

「さすがにはっきりと特定はできんが、強そうな卵なら分かるぞ」

「本当か? お前ってすごい優秀じゃね? それじゃあチャッピー先生、オススメを教えて下さい」

「調子のいいヤツじゃ。ほれ、これが良かろう」


 そう言いながらチャッピーはリンゴくらいの大きさで緑色の卵を示す。

 これぐらいだと成獣でも猫くらいにしかならないかな。

 あまり大きいのも困るので、ちょうどいいだろう。

 俺はそれを持って支払いに行く。


「これ、いくらになる?」

「いらっしゃい。この大きさだと大銀貨1枚だよ」


 一般的な宿が一泊で銀貨3枚ぐらいなので、その3日分だ。

 決して安くは無いが、成獣ならこの10倍はする。

 チャッピーのオススメだから、買って損は無いだろう。


「はい、それじゃあこれで」

「毎度あり。兄ちゃん、孵化はどうする? 一応、ウチで魔力注入サービスも扱ってるけど」

「ああ、それは当てがあるからいいよ」

「そうかい、何か面白いのが孵ったら、買い取りもするから覚えといてくれ」


 まず売ることは無いが、適当に相槌を打って店を後にする。

 次は旅の準備だ。

 まずは旅の足を確保する。

 商業ギルドに行って、ガルド行きの商隊を探してみた。

 ちょうど明日に出発の商隊があったので、馬車に乗せてもらう交渉をする。

 警戒を手伝う事を条件に、銀貨2枚で話がついた。


 次は道具集め。

 いくつか店を回って野営道具や食料を買い込んだ。


 最後は孤児院に行って、しばらく王都を離れる事を伝えた。

 唯一の身内みたいなもんだから、一応心配させないようにね。

 もちろん行き先は適当に誤魔化したけど。


 一通り準備を済ませ、ボロ部屋に戻って来る。

 まだ寝るには早いので魔力の使い方をチャッピーに教えてもらおう。


「チャッピー、卵を孵すために魔力の使い方を覚えたいんだけど」

「そうじゃな、魔法の練習も兼ねてやってみるか」


 元々、魔物の卵は人里離れた魔境から取ってきたものだ。

 魔境とは強力な魔物がうろついている地域で、魔素がかなり濃い場所でもある。

 魔素ってのは俺達の周りにも存在しているモノで、それが人間や魔物の体内に入ると魔力になるそうだ。

 そして魔境なら卵は勝手に魔素を吸って孵るんだが、外に出しちまうといつまで経っても孵化しない。

 ただし一度でも魔力を流し込んでやれば孵化の準備が始まり、流し込む魔力が多ければ多いほど早く孵化するんだそうだ。


「まずは自分の体内に意識を向けて、魔力を感じ取れるかどうか試してみい」


 チャッピーに促されて、意識を体内に向ける。

 ……(しばし瞑想)


「ダメだ、チャッピー。全然分かんないよ」

「ホッホッ、やはりいきなりは無理か? まあ、これで出来たらよほどの天才じゃて」

「えー、それじゃあどうすんだよ?」

「儂がおぬしの体に魔力を注いでやるから、それで感覚を覚えろ。ほれ、目をつぶれ」


 そう言うとチャッピーは俺の心臓辺りに手を当てる。

 俺が目をつぶってチャッピーの手に意識を集中すると、じんわりと温かくなって、何かが入ってきた?


「んー、なんかねっとりしたものが俺の胸に入ってきたような気がする。これが魔力?」

「そうじゃ、おなじモノがすでにおぬしの体内には存在するんじゃが、全身に分散しておるから分かりにくいかも知れんな。手先に魔力を集めるようなイメージを描いてみい。両手を合わせて右から左に魔力を流すのも良いかもしれん」


 アドバイスに従い、胸の前で両手を合わせてみる。

 チャッピーが注いだ何かをイメージして右手に魔力を集める。

 集める……。

 集める……。


 ずいぶんと長い間、そうしていると、ふいに右腕がじんわりと温かくなって来た。

 そしてねっとりした何かが手のひらに向かって行くようだ。

 右手のひらに集まったそれを、今度は左手に注ぐイメージをすると何かが右から左に移動した。


「今、何かが右手から左手に流れたような気がする」

「やっと出来たか。うむ、儂の目にも魔力の流れが見えたぞ。まだわずかなものじゃが、これほど早くできるとは。やはりおぬし、見どころがあるの」


 なんかチャッピーに誉められちゃった。

 俺的にはかなり時間が掛かったんだけど、これでも早いんだな。


「ありがとう、チャッピー。すっげー嬉しいよ。これと同じ事を卵にやればいいのかな?」

「そうじゃ、一度魔力を流してやれば孵化の準備が始まる。その後も暇を見て流し込んでやれば数日で孵るじゃろう」


 早速、買ったばかりの卵を右手に取る。

 さっきと同じように魔力を流すイメージをする。

 右手が温かくなったな、と思った瞬間、卵が脈動した。


シュポンッ


 実際に音はしてないんだけど、そんな勢いで魔力が吸い取られた気がする。

 それもごっそり。

 なんか急に体がだるくなったぞ。

 けっこうヤバくないか、これ?


「今、ごっそり魔力を持ってかれたみたいなんだけど……。普通、こういうものなのかな?」

「いや、普通はもっと緩やかなんじゃがな。力の強い魔物ほどたくさんの魔力を吸い取るとも言われとるから、これは期待できるじゃろう」


 とりあえず異常では無いらしいし、期待も出来るらしい。

 あ、でも急に眠くなってきた。

 もう起きてられないから、このまま寝ちゃおう。

 はたして、どんな魔物が誕生するか、楽しみだな……。

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