19.犯罪パーティの襲撃
魔法弾を編み出した翌日からまた2層深部に潜った。
探索をしつつもオークを優先的に探し、狩りの練習をする。
まず新型の魔法弾は期待通りの効果が得られた。
いくつか試した中で最適な組み合わせは、当たり所が良ければ通常の2割増しの魔力でオークを倒せる威力だ。
これなら8発は撃てるので、だいぶ余裕が持てる。
それから土捕縛とサンドラの魔法剣のコンボも練習し、成功率上昇と時間短縮に成功している。
ちなみにこの技は”サンドラ斬り”と呼ばれるようになった。
オークとの遭遇頻度は2、3匹の群れが1日1回程度だったので、2日潜ると素材が持ちきれなくなる。
なので2日潜って1日休息のサイクルを何回か繰り返した。
けっこうハイペースで魔物を狩ったため、俺のレベルが5に上がった。
他のメンバーもそれなりに手応えを感じているようだ。
しかし、まだまだ守護者戦には早いだろう。
そんなオーク狩りも5回目の探索で、チャッピーが異常を知らせてくれた。
「デイル、誰かの使い魔が後ろから尾行して来とるようじゃ」
「何だって? でもシルヴァが気付いてないって事は……その使い魔は妖精とかゴーストの類って事か?」
「少なくとも妖精では無さそうじゃから、ゴーストかのう」
これは不吉な知らせだ。
俺達は最近、オーク素材を大量に供給している関係でかなり目立っている。
そのくせメンバーは人族と獣人のガキに鬼人が2人、そして使役獣2匹なのだから、弱そうに見えても仕方ない。
こっそり俺達をつけているからには、獲物の横取りどころか、全殺しも考えていると見るべきだ。
「最悪を想定すると、俺達が魔物と戦っている時に後ろから攻撃を受けるな。何か対策はないか?」
「まずは儂が後ろの奴らを確認して来よう。どんなメンバーで、どれくらい離れているか分かれば対策も立てやすい」
「それもそうだな。チャッピー頼む」
俺が頼むと、チャッピーがふよふよと飛びながら偵察に向かう。
その後は若干ペースを落として進み続けた。
やがてチャッピーが偵察から戻る。
「やはり後ろから10人組のパーティがつけて来ておる。戦斧を持った大男に剣士、斥候、それと魔術師が二人。そして剣やメイスで武装した獣人の奴隷が5人じゃ」
「想像以上にやっかいだな。もっとも、それくらいじゃ無きゃオークを狩り続けてる俺達を襲おうとは思わないか。まず、3層に潜る実力があると見るべきだな」
「持っている装備からしても、それぐらいの実力はありそうじゃったぞ」
さて、困った。
奴らを撒いて逃げるか、それとも迎撃するか?
俺は歩きながらしばし悩んだ末、皆に念話で相談した。
「相手の実力が分からない状況で危険だとは思うけど、俺は奴らと戦いたい。なぜなら俺達は奴らを先に見つけ、その陣容も知っている。もし奴らを撒いて逃げても、また狙われるかも知れないし、その時は奴らに警戒させてしまう。だからここで決着を付けるんだ」
メンバーからは了承の意思が伝わってくる。
「チャッピー、敵はどれくらい離れてる?」
「そうじゃな、歩いて1刻の10分の1くらいか」
「そうか。それくらい離れていれば、奴らがたどり着く前にオークだって倒せるな。シルヴァ、オークを見つけて誘導してくれ」
しばらく進むと3匹のオークが見つかったので、そちらに向かう。
「いいか、魔法はなるべく隠すから、サンドラ斬りで2匹を先行して倒す。もう1匹は少し手こずってるふりをして、奴らが到着次第殺す。その後、攻撃されたら魔術師を真っ先に潰して残りも殲滅するんだ」
俺はそう指示してオーク部屋に突入した。
以前のパターン通りカインとサンドラ、レミリアが2匹を押さえ、残りはシルヴァとキョロが連れ回す。
まずはサンドラに魔力を溜めさせ、適当な所でオークを転ばせた。
すかさずサンドラがオークの首に魔法剣を叩き込み、1匹を仕留める。
次はカインが押さえているやつだ。
こっちも少し手こずるフリをしながらサンドラ斬りで片付けた。
とりあえずここで疲労困憊な真似でもしとくか。
少し休んだ後、キョロとシルヴァを下がらせて最後のオークを皆で囲んだ。
適当にオークの相手をしつつ、シルヴァに後ろの敵を探らせる。
やがて敵接近の報告が入ったので、茶番は終わりにする。
「サンドラ、やれ! 土捕縛!」
最後のオークがサンドラに倒されて間もなく、部屋の入り口に敵パーティが現れた。
「あれ、もう終わってるじゃねーか。思ってたよりもやるなあ」
後方中央に居る大男がそんな舐めたセリフを吐いている。
そして奴らはニヤニヤしながら近づいてきた。
「いやー、てっきりオークに苦戦してると思って駆けつけたんだけど、君ら強いねー」
「それはどうも。これでもけっこう苦労してるんで」
俺はとりあえず軽口に応えてやる。
やがて敵パーティは10mほど先で俺達と対峙した。
「なあ、お前ら、オーク狩りで有名な”妖精の盾”だろ?」
「ええ、そうです。そう言うそちらは?」
「俺達は”嵐の戦斧”ってんだ。これでも3層探索者だぜ」
「それは凄い。で、そんな方々が2層で何を?」
やっぱり3層探索者か。
どうせ碌な事考えてないんだろうな。
「それがさ、3層に行ったはいいけど、あそこの魔物強いわりに儲からないんだわ。それで2層で稼ごうと思ってさ。例えば新人を教育して素材もらったりとかね」
「なるほど、私達は間に合ってるので、他を当たってはどうですか」
「バーカ! こんなに美味しい獲物を見逃すわきゃねーだろ。いい女も連れてるしな、グヒヒ」
はい、略奪者に決定。
しかもレミリアとサンドラも奪うとか言ってるし。
気持ちは分からんでも無いが、お前らにはもったいないっての。
敵の親玉の宣言で、魔術師が魔法の詠唱に入った。
同時にスカウトも弓を出して射撃態勢に入る。
やらせるか!
俺は魔術師に向けて散弾をぶっ放した。
魔術師の長ったらしい詠唱と違って、こっちは一呼吸の間に撃てるんだ。
軽装の魔術師に複数の散弾がめり込み、奴らの詠唱が止まった。
キャインッ
逆に敵のスカウトがシルヴァの右足を撃ちやがった。
俺はお返しにスカウトにも散弾を放ち、さらに2発を奴ら全体にお見舞いする。
「この野郎、いてーじゃねーか。野郎ども、女以外は殺せ!」
さすがに戦士タイプには散弾の効果も薄く、奴らが襲いかかってきた。
「カインは親玉を、サンドラはその横の剣士を押さえろ。残りは奴隷の相手だ」
俺はそう言いながら弓を構え、まだ動いている魔術師とスカウトに矢を撃ち込んでいった。
ここまでやれば生きてても、動けんだろう。
次は向こうの奴隷だ。
レミリア、キョロ、シルヴァで5人を迎え撃ったため、苦戦している。
奴隷とは言え、3層探索者だけあって強い。
しかし俺は奴らの隙を狙って、一人ずつ倒していった。
3人倒した時点で残りをレミリアに任せ、次は剣士に矢を放つ。
げっ、飛んでる矢を叩き落としやがった。
すげー達人じゃねーかよ。
しかし俺の風弓射を舐めてはいけない。
俺は弓矢を3連射、しかも軌道をカーブさせながら放った。
達人だけあって2発も落とされたが、1発が奴の胸に食い込む。
動きの鈍った剣士をサンドラが斬り捨てた。
次々に倒れていく仲間の姿に動揺したのか、親玉の動きが怪しくなった。
その隙を逃さず、奴に風弓射3連射を叩き込む。
さすが親玉、1発は落としたが、胸と腕に1発ずつ突き刺さる。
動きが止まった親玉を、カインがメイスでぶん殴って黙らせた。
レミリアの方を確認すると、こちらも決着していたが、彼女が右脚から血を流している。
くっそう、俺のレミリアに。
「レミリア、大丈夫か? サンドラ、レミリアとシルヴァを診てやってくれ」
俺もすぐに駆け付けたい所だが、安全の確保が先だ。
チャッピーにも念話で治療をお願いしつつ、状況を確認する。
敵で息のある奴を確認すると、魔術師が1人、奴隷が2人、そして憎たらしい親玉が生き残っていた。
4人とも重傷だったが、ポーションを与えれば歩く事はできるだろう。
とりあえず親玉以外は治療して事情を聞いてみた。
奴らは親玉が言っていたように、3層に進んだはいいが、思うように儲けられない事に苛立っていたそうだ。
そこである日、2層に潜ってみた所、オークと戦闘中のパーティに出くわした。
そのパーティは助けを断ったそうだが、奴らは強引に助けに入った上で分け前を要求する。
当然、揉めたが、親玉が逆ギレして相手をぶっ殺してしまったそうだ。
迷宮内に限らず、冒険者が殺人をするとギルドカードに記録が残るが、ギルドに提出しなければバレない。
奴らはそのままオークの素材と相手の装備を奪って売りさばき、味を占めた。
頻繁にやるとバレるので、1ヶ月に一度程度、オークを狩れるわりに人数の少ないパーティの後をつけ、戦闘中に乱入して全殺しにしていたらしい。
とりあえず白状しただけでも5件はやってるそうだ。
また例の使い魔はスカウトのモノで、奴らの尾行を容易にしていた。
やっぱりゴースト系だったらしい。
基本的に全員共犯だが、奴隷の2人は最近買われたばかりで初犯だと言う。
魔術師は犯罪奴隷落ちが確定だが、奴隷の方は微妙かな。
親玉の命令に従っていただけなら、見逃してもらえる可能性もある。
もっとも、明らかに犯罪だと分かる命令には逆らえるはずなので、それも無さそうだ。
最後に親玉に話を聞いてみたが、見苦しく命乞いをするだけだったので、あっさり殺して装備を剥ぎとった。
どの道、こいつだけは最初から許すつもりが無かったのだ。
もちろんギルドカードも忘れない。
このカードには奴らの犯罪履歴が残され、俺達の正当性を証明してくれる。
他の死体からも装備とカードを剥ぎ取り、犯罪者達に担がせる。
レミリアとシルヴァの治療を終えてから、オークの素材を回収して帰路に付いた。
あいにくとケガ人が居るのでいつもよりペースは遅かったが、それでも3刻近く後には地上へ出られた。
オークの素材を売却してからギルドに向かう。
犯罪者達を引きずってギルドに入り、受付でアリスさんに話しかけた。
「アリスさん、迷宮内でよそのパーティに襲撃されたので、話を聞いてください」
途端にアリスさんの顔が厳しいものに変わる。
「分かりました。ギルドマスターを呼びますので、あちらの部屋でお待ち下さい」
俺達は指示された部屋に入り、しばらく待っていると、ハゲ頭のマッチョがアリスさんと共に現れた。
「俺がギルドマスターのコルドバだ。”嵐の戦斧”に襲われたと言うのは本当か?」
「もちろん、こんな事で嘘は付きません」
それから襲撃の経緯を説明した。
証拠としてギルドカードを提出し、連れ帰った魔術師と奴隷も突き出す。
「奴らは最低でも5回は同じような事をしていたそうです。カードを調べてもらえれば、俺達の正当性が証明されるでしょう」
「うむ、それはすぐにやらせよう。しかし”嵐の戦斧”は3層探索者だぞ。しかもフルメンバーをどうやって……」
「事前に奴らの意図を察知し、油断を突いたに過ぎません。それでも無傷とは行きませんでした」
「そうか。さすがは大量にオークを狩る新人パーティだけあるな。いずれにしろ今回の事はギルドを代表して礼を言う。討伐報酬も出すから、後で受け取ってくれ」
「ありがとうございます」
それ以上、話すことも無かったので俺達は帰らせてもらう。
後日、受け取った討伐報酬は金貨5枚だった。
この他に連れ帰った犯罪者達が奴隷として売れている。
今回のような凶悪犯罪を犯したものは犯罪奴隷に落とされ、その代金は逮捕者に払われるのだ。
結局、初犯の奴らも犯罪奴隷入りだった。
俺達にはこいつらを仲間にする手もあったが、全く信用できないので却下。
魔術師は貴重なので金貨8枚、獣人2人は金貨1枚ずつになった。
さらに奴らの装備が金貨40枚にもなった上に、魔鉄製のバスタードソードが手に入る。
これは例の剣士が使っていたものだが、鋼鉄よりも硬く粘りがあり、魔力の流れもいい高級品だ。
普通に買えば金貨10枚は下らないだろう。
有り難くサンドラ用に使わせてもらう。
これにオークなどの素材代金を加えると、金貨60枚の大収穫である。
しかしレミリアとシルヴァがケガをしており、喜んでばかりも居られない。
チャッピーの回復魔法でほぼ治っているものの、レミリアに傷は残る。
今後はこんな事にならないよう、真剣に戦力増強を考えなきゃいけない。