表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妖精付きの迷宮探索  作者: 青雲あゆむ
第1章 迷宮探索編
18/86

18.魔法弾

 2層中盤の2日目もあまり変化は無かった。

 ケイブバット、ゴブリン、コボルドの群れが間断的に襲ってくる。

 しいて言えば、コボルドの比率が増えているくらいだろうか。


 行き止まりの部屋にはスライムがたむろっている場合が多かったが、あいにくと装備は残されていない。

 中盤まで来られる冒険者にもなると、わざわざスライムに襲われる危険を犯したりはしないのだろう。


 しかしうちのパーティにはスライム大好きシルヴァ君が居る。

 今は魔力が充分に足りているはずなのに、彼はスライムを見たら攻撃せずには居られない。

 見つけた途端に、尻尾をブンブン振り回して俺を見上げてくる。


 やむを得ず俺達は律儀にスライムを殲滅しつつ、探索を続けていた。

 しかしこれにはいい面もある。

 ごく稀にだが、スライム部屋の奥には宝石とか鉱物の塊が見つかるからだ。

 今の所、価値はそれほど高くなさそうだが、これはこれで収入になる。


 そんな宝探しの要素を加えて俺達は探索を進め、3日目に帰還した。

 今回の成果は魔石が銀貨450枚、宝石と鉱物で100枚近くになる。

 2層の探索にしてはけっこう多い方だ。

 普通の冒険者は避けられる戦闘は避けて進むのが当たり前だから、こんなに魔石を持ち帰らない。

 ましてやスライムの殲滅なんてもっての他だ。

 まあ、俺達はそこそこ安全にやれているんだから、これでいいとは思うのだが。


 迷宮から帰還した次の日を訓練と休養に当て、以後3日の探索と1日休養を2回繰り返した。



 そして4回目の探索では中盤を過ぎ、2層の深部に到達している。

 1日目は比較的穏やかに過ぎたが2日目の朝、とうとうオークが現れた。

 前方の大部屋に3匹のオークが居る事をシルヴァが教えてくれる。


「いきなり3匹か。さすがは2層の深部って事なんだろうな」

「いかに我らの力が上がっていると言っても、3匹の相手は厳しそうじゃな」

「そうだね。だからまずは奴らを分断する。シルヴァとキョロは1匹をおびき寄せろ。無理に攻撃する必要は無い。残りの1匹はカインが押さえてる間に俺が魔法で殺る。最後はレミリアとサンドラで頼む。足を傷つけて転倒を誘え」


 うまく行くかどうかは分からないが、たぶんこれが最善だ。

 最悪、逃げ出せばいいしな。

 俺達は準備を整えてオーク部屋に侵入した。

 1匹を誘い出すため、シルヴァとキョロが先行する。


 オークが俺達に気がついてこちらへ向かって来るが、1匹はシルヴァが周りをウロチョロして足止めしてる。

 残りの2匹をカインとサンドラが迎え撃った。

 カインにオークのこん棒が飛ぶが、うまく盾で受け流している。

 俺とチャッピーは円すい弾を準備し、オークの頭に向けてぶっ放す。


ドンッ


カンッ


 やはり硬い。

 角度が悪いと弾かれるので、頭より面積の広い胸を狙う事にする。

 次弾を胸に向けて撃つと、先端が少しめり込んだが、致命傷には程遠い。

 くっそ、この間の奴より硬いのか?

 そこでふと魔法剣の事を思い出した。


「チャッピー、弾の先端に魔力を貼り付けられないかな?」

「むう、いきなり無茶を言う……これでどうじゃ?」


 チャッピーがぼやきながら、魔力塊を先端に付けた弾を生成してくれる。

 これでどうだ!


ドンッ


ドシュッ


 狙い通りに魔力塊がオークの表面防御を壊して、弾が胸に突き立った。

 動きが止まったのでもう一発ぶち込むと、ようやく1匹目が倒れる。


「カインはサンドラと替われ。サンドラは剣に魔力を込めて待機!」


 サンドラ達が押さえてる奴はまだまだ元気だった。

 レミリアもサンドラも魔法剣を使っているはずなのに、表面しか切れてない。


 しかし円すい弾は4発も撃ったから温存したい。

 そうなるとこの間のように転倒させて、サンドラの一撃で決めるべきだ。

 俺はオークの隙を伺いながら、サンドラに確認した。


「サンドラ、奴を倒したら行けるか?」

「いつでも行けるぞ、我が君」

「それならやるぞ、土捕縛アースバインド!」


 オークの片足を土魔法で絡めとると、奴がバランスを崩して転倒した。

 すかさずサンドラが駆け寄り、オークの首筋に剣を叩きつける。


バヅンッ


 十分に魔力を込めた一撃はさすがに有効で、オークの首が胴体から切り離された。

 残るは後1匹。

 最後の1匹はシルヴァとキョロに翻弄されて走り回っている。

 そのままこちらに誘導してもらい、転倒させてサンドラの一撃で片付けた。


 なんとか被害無しで倒せたが、まだまだ余裕が無い感じだ。

 その後はオークを解体し、魔石と素材を回収する。

 今回は輸送能力が増してるので、肉を持てるだけ切り取った。

 さすがに大量の肉を抱えて探索はしたくないので、そのまま帰還する。


 シルヴァに先導してもらい、2刻ほどで地上に出られた。

 早速、オークの素材を売却すると、魔石が銀貨45枚、皮が銀貨300枚、肉が140kgで銀貨350枚だった。

 しめて銀貨695枚なり。

 1日目が200枚弱だったから、やはりオークの儲けは破格だ。

 その分、危険度の高さも相当なものだが。


 もちろん、その晩は持ち帰ったオーク肉で祝宴をする。

 やはりオーク肉はうまい。

 なんか贅沢し過ぎて怖いくらいだ。


 夕食の後は定番の反省会をした。


「えー、今日は皆ご苦労だった。幸い被害は無かったけど、オークの硬さを改めて思い知ったと思う。何か気づいた事はないか?」


 するとレミリアが悔しそうに手を挙げる。


「魔法剣を使えばオークにも対抗できると思ったのですが、甘かったです」

「そうじゃ、妾も体調が回復した今ならばと思っておったが、かなり魔力を込めないとオークには通用せん」

「私のメイスも、もう少しやれると思っていたのですが……」


 やはり皆一様に攻撃力不足を痛感しているようだ。


「それは俺も同じだな。俺とチャッピーの円すい弾も弾かれた」

「しかし3発目からは通じていたようですが?」

「ああ、あれはチャッピーに魔力の塊を弾の先端に付けてもらったんだ。やはり魔力が表面の防御を壊すみたいだな」

「とっさにそんな事を思いつくなんて、さすがご主人様です」


 レミリアがしきりに感心してくれるけど、まだまだ問題は多い。


「チャッピー、あの魔力付き円すい弾って何発撃てる?」

「今の儂じゃと、せいぜい5発と言った所か」

「そんなもんか。今日くらいの数ならいいけど、もっと増えるとキツイよな。確か2層の守護者はオークリーダー1匹とオーク4匹だったはずだ。守護者部屋以外だって4、5匹出て来てもおかしくない」


 今の俺達が比較的安全に倒せるのは3匹までだろう。

 この先を考えると、戦力アップが必要だ。


「いざと言うときのために新しいメンバーが欲しいけど、すぐには無理だ。だからもっと戦力を底上げする必要がある。とりあえず俺とチャッピーは効率のいい魔法弾を研究するけど、他に何か無いか?」


 少し考えてレミリアが切り出す。


「私とサンドラが1匹ずつ対応できれば4匹までは相手ができます。後は魔法剣の威力を上げれば」

「それしか無いか。しかしそう簡単に威力は上がらないだろ?」

「そこはオーク戦で経験を積めばいいでしょう。幸いシルヴァの探知能力があれば手に負えない敵は避けられますし、レベルアップによる能力向上も見込めます」


 その後も話し合ったが、それ以上の案は出ず、もっとオーク戦を重ねる事になった。

 レミリアが言うように、レベルアップによる能力向上も見込めるし、オークの癖を覚えれば、狩りの効率も上がるだろう。



 次の日は訓練のため、いつもの原っぱに来ていた。

 俺はチャッピーと魔法の練習。

 他のメンバーはそれぞれ型の練習や組手をしてもらう。


 最初に魔力付きの円すい弾を岩に撃ち込んでみたが、破壊力はイマイチだ。


「うーん、やっぱり効率が悪いなあ、この弾」

「贅沢を抜かすな。オークを倒せる時点で十分驚異的なんじゃぞ」

「いや、まあそうなんだけど。魔力の無駄が多い感じだよね」


 この魔力付きは通常の円すい弾の倍は魔力を食う。

 チャッピーの能力では5発しか作れないので、オーク1匹に2発使うと2匹しか倒せない。

 俺は昨日から考えていた案を相談してみる。


「こうやって手をすぼめて叩きつけると、空気がそこに集中してはじけるよね。弾の先端にくぼみを作ってそこに魔力をくっつけると、威力が増さないかな?」

「ふむ、面白い考えじゃ。こんな感じか?」


 俺が頭に描いた構造をチャッピーと共有すると、それらしい弾を作ってくれた。


「そうそう、そんな感じ。ちょっと撃ってみるね」


ドンッ


ガスッ


 今までは岩に当たると魔力が周囲に飛び散るだけだったが、今回は先端に集中しているのが明らかだった。

 これはチャッピーと魔力視を共有して観察した結果だ。


「うん、いい感じじゃないかな? 魔力の消費はどれくらい?」

「最初よりはだいぶ減っておる。最低限の魔力しか込めてないからな。作り出す弾のイメージが鮮明じゃと、魔力も少なくて済む」

「そっか、それじゃくぼみの大きさとか変えて、いろいろ試してみよう」


 その後、弾の大きさ、くぼみの形や大きさ、込める魔力量などを変えて実験を繰り返した。

 チャッピーの魔力が切れても、俺が補充して継続する。

 そんな試行錯誤から効率的な組み合わせがいくつか得られたので、後は実際にオークにぶつけて試す事になる。

 ちなみにこの弾は魔法防御を壊すのが目的なので、簡単に”魔法弾”と名付けた。


 その後、昼飯を食いながら、皆の進捗を聞いてみたが、あまり芳しい返事は無い。

 まあ、半日の訓練で大きな進歩があれば苦労はしない。

 せっかくなので、午後は俺も加わり、対オーク戦の練習をした。

 カインをオークに見立てて、どう立ち回るかとか、どうやると転ばせやすいか、などを皆で考える。


 地味だけど、自分達の安全性を高めるためには、こういう努力が後でモノを言うと信じたい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ