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妖精付きの迷宮探索  作者: 青雲あゆむ
第1章 迷宮探索編
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14.新戦力加入

 オークとの激戦でへたり込んでいた俺達だったが、いつまでも休んでいる訳にはいかない。


「さて、このままだとまた何か来るかもしれないから、さっさと成果を回収して撤収しようぜ。あんたらの主人を確認するから、カインとサンドラは一緒に来てくれ。レミリアはオークの解体を頼む。オークは肉も売れるからな。他は周囲の警戒」


 俺はカイン達を連れて左側の通路に入った。

 一応、魔物が居ない事はシルヴァに確認済みだ。

 わりと近くに次の部屋があって、4人の冒険者が倒れていた。

 上等そうなプレートメイルを付けた冒険者が2人、それよりは劣る鎧を付けた冒険者が2人だ。

 念のため確認したが、やはり全員死んでいた。


「どの人がご主人?」

「こちらが主だったバスケー男爵の次男様です。そちらがお付きの騎士で、残りは一般の冒険者になります」


 俺の質問に対し、カインがそれぞれ説明してくれる。

 ご主人は貴族様だったか。

 面倒な事にならなきゃいいんだけど。


「よし、武器と防具、ギルドカードは回収するとして、さすがに遺体を持って帰る余裕が無い。貴族の首は持って帰るけど、他は遺髪だけでいいよね」

「私も迷宮に入るのは初めてですが、それで良いと思います」


 迷宮初体験だったのか。

 初日でこれとは可哀想に。

 俺達は売れそうな装備や貴族の首、その他メンバーの遺髪を回収し、元の部屋へ戻った。


 部屋ではレミリアがオークの解体に苦戦していたので、俺も手伝う。

 カインも手伝ってくれたが、サンドラは動かない。

 戦闘で疲れてるのかも知れないけど、命の恩人の前でその態度はどうよ?


 オークの解体とゴブリン達の魔石回収を終え、ようやく俺達は帰路につく。

 荷物は多いが、けっこうな稼ぎになりそうなので気分は悪くない。


 途中、今後のカイン達の処遇について聞いてみたが、彼も奴隷になったばかりで、よく分からないらしい。

 レミリアも知らなかったので、外に出たら聞いてみよう。

 その後、無事に水晶までたどり着き、迷宮の外に出た。

 近くの衛兵に男爵次男の死亡について話すと、細かい処理はギルドに相談しろと言われた。


 ちなみに今日の魔石収入はゴブリン10匹で銀貨10枚、ホブゴブリン2匹で10枚、オーク2匹で30枚なので合計50枚だ。

 さらにギルドでオークの皮を売却すると、2匹分で金貨2枚にもなった。

 魔力を使って加工すると、けっこう凄い防具になるらしい。

 それからあまり持ち帰れなかったがオークの肉は高級品で、10kgで銀貨25枚にもなった。

 もちろん、俺達用にも残してある。


 最後に迷宮内で貴族のパーティが壊滅した件についてギルドに相談すると、回収した装備や奴隷は俺が自由にしていいらしい。

 ただし今回のように身元がはっきりしている場合は、遺族に連絡して遺品の買い取りなどを確認するのでしばらく時間が欲しいと言われる。

 回収品を売らないという選択肢はあるので、カイン達は仲間にする方向で説得しよう。



 いろいろと片付けを終え、ようやく夕暮れ間近に帰宅した。

 もちろんカインとサンドラも一緒だ。

 すでに奴隷商人の所に寄って仮の奴隷契約も済ませてある。


 難しい話は後にして、まずは飯にした。

 早速、オーク肉を焼いて食ったら超うまい。

 柔らかくて、とてもジューシーだ。

 けっこう高く売れるから、もっと強くなったらオークの乱獲を検討してもいいかも知れない。


 夕食後、改めてカイン達と話をしてみた。


「カイン、サンドラ。すでに分かっていると思うが、今の主はこの俺だ。そして俺は今、迷宮を探索するパーティメンバーを探している。2人に加わってもらえると嬉しいんだが、どうだろう?」


 俺がそう尋ねると、カインが不思議そうな顔で答える。


「なぜそのような事を尋ねるのですか? 我々は奴隷ですので、迷宮に潜れと言われればそれに従います」

「うーん、まあそれはそうなんだけど、俺は君たちの意思も尊重したいんだ」


 そう説明すると、サンドラが噛み付いてきた。


「何が尊重だ、笑わせる。人族の、しかも魔物使いの言う事なぞ信用できんわ」

「なんだサンドラ。魔物使いに恨みでもあるのか?」

「魔物使いなど奴隷商人と同じよ。我らのような種族を一方的に蔑み、奴隷にする汚らわしい職業。売るなり魔物のエサにするなり、勝手にすれば良いでは無いか」


 なんで俺、一方的に嫌われてるんだろう?


「おいおい、俺の事を知りもしないで勝手に決めつけるなよ」

「ふん、そんな小娘や小さな魔物を迷宮に連れて行く奴が偉そうに。どうせ奴隷や魔物など、使い捨て程度にしか考えておらんのであろう」


ヒュンッ


パサッ


 隣で果物の皮を剥いていたレミリアのナイフが一閃し、サンドラの髪が一房落ちる。


「サンドラ、それ以上ご主人様を侮辱する事は許しません」

「な、何をする、この獣人が。おぬしとて酷使されているのであろう?」


ヒュンッ


「私の事は構いませんが、それ以上ご主人様をおとしめれば、その鼻を落とします」


 そう言ってレミリアがサンドラの鼻にナイフを突きつけ、睨みつける。


「待て待て待て、ケンカはやめよう。話し合えば分かるさ。な、カイン?」

「も、もちろんです、デイル様。サンドラ! お前は黙っていなさい」


 今にも流血騒ぎになりかねないので、慌てて2人を引き剥がした。


「さて、まずはお互いを知り合う事から始めよう。とりあえずカイン達が奴隷になった経緯を教えてくれ」


 それからカインがポツポツと語り始める。

 彼らはつい最近まで、魔大陸の内陸部にある鬼人族の集落に住んでいたそうだ。

 一応、種族の長に連なる由緒正しい家系で、それなりに教育も受けていたらしい。


 ある日、彼らが仲間と共に狩りに出た所、その仲間に毒を盛られて虜囚となり、奴隷商人に売られてしまった。

 それから約1ヶ月間、船に揺られ、このミッドランド大陸に着いたのが1週間ほど前。

 そして例の貴族様に買われたのが昨日だったそうだ。


 あの貴族様は強引に1層の守護者を突破したため奴隷を2人失い、その補充としてカイン達を買ったらしい。

 さらに何を焦っていたのか、最低限の装備を整えただけで迷宮2層に入り、あえなく壊滅したというのが事の顛末だ。

 本来ならカインもサンドラも魔力で肉体を強化できるのでゴブリン如きにひけはとらないのだが、毒と船旅で身体が衰弱していてまともに動けなかったらしい。


 この話を聞いていて、ピンと来た。


「ひょっとしてお前達に毒を盛ったのが魔物使いだったりする?」

「お察しの通りです。信じていた仲間に裏切られ、妹は魔物使いを強く憎むようになりました」


 当のサンドラは相変わらず俺を睨んだままだ。

 確かに同情はするけど、それは魔物使いがどうとかじゃなくて、鬼人族の問題だよね。


 まあ、それは置いといて彼らを治療してやるか。


「チャッピー、毒の治療できないかな?」


 俺がそう言って話を振ると、チャッピーが姿を現した。

 まだカイン達には紹介していなかったため、急に現れた妖精に彼らが驚いている。


「話を聞いた感じでは、毒で魔力の流れを壊されておるようじゃの。どれ、少し診てやろう」


 そう言いながらカインの胸やら腹やらに触れて何か調べ始めた。


「やはりじゃ。体内の魔力経路がズタズタになっておる。魔力を阻害する毒素がまだ残っているな。体はずいぶんと弱っておるが、魔力経路を整えてやればすぐに回復するはずじゃ」

「治してやれそう?」

「おぬしの魔力があればできるじゃろう。デイル、いつもレミリアにやっているように魔力を注いでやれ」


 俺はチャッピーに言われ、カインの背中から心臓に向けて魔力を流しこんだ。

 あまり急にやると身体に悪そうなので、少しずつだ。

 チャッピーはカインの胸の辺りに居座り、両手を当てている。


「デイルから供給された魔力をこうやって全身に導いてやると、経路が再生して毒素が排出されるんじゃ。どうじゃ、力が戻って来たのではないか?」

「はい、久しく忘れていた感覚です」


 そう答えたカインの顔はおだやかで、肌のツヤも良くなって来たように見える。

 そんな治療をしばらく続けた後、適当な所で打ち切る。


「じゃあ、次はサンドラか。チャッピーやれるよな?」

「儂は問題ないぞ」

「い、いやじゃ。妾の体に触れるでない」


 こいつは一体、何が気に入らないんだろうか?

 せっかく治療してやるっていうのに。


「レミリア、カイン。左右から押さえろ」


 もう面倒くさいので強制的に治療する事にした。

 治れば少しは素直になるだろう。


 レミリアとカインに腕を押さえさせ、俺がサンドラの背後から魔力を注入し、チャッピーがそれを誘導し始める。


「や、やめろお、私に何をする。大勢で卑怯だぞ。ハウッ、ホォーーーー」


 うるせー女だ。

 声だけ聞いてると、俺達が悪さしてるみたいだな。

 そのくせ顔は恍惚として快感に悶えてる感じなんだ。


 しばらく治療しているとサンドラが気を失ったので、治療を打ち切る。

 カイン達には2階の1室を使わせる事にした。

 ベッドは有るが、寝具が無いので毛布だけ渡す。

 明日にでも寝具は買ってやろう。

 ついでに明日はまたピクニックにでも行くか。



 翌朝、俺とレミリアが1階に降りて行くと、カイン達はすでに起きていた。

 俺に気がついた2人はすかさず駆け寄り、片膝立ちで跪く。


「おはようございます、デイル様」


 予想外の行動にしばし言葉を失う俺。


「……う、うん、おはようカイン、サンドラ。よく眠れたか?」

「はい、かつてないほどに熟睡し、まるで生まれ変わったかのようです」

「そ、そうか、それは良かった」


 よく見ると、2人とも肌のツヤがいいどころか、体が一回り大きくなってるようにすら見える。


「さあさあ、そんな所に突っ立っとらんと朝飯にするでえ」


 固まったままの俺達に家付き妖精のボビンが号令を掛ける。

 俺達の仲間になってからのボビンは料理の面白さに目覚めたらしく、積極的に飯を作ってくれる。

 最近の朝飯はもっぱらボビンの担当だ。


 俺達はテーブルに着いて朝食を取り始める。


「なんか2人とも体が一回り大きくなったみたいだけど、体調はいいのか?」

「はい、まだ最高には程遠いですが、だいぶ回復しました。これもデイル様から分け与えられた魔力のお陰です」


 元々、鬼人族は魔力で肉体が補強されている割合が大きく、魔大陸に居た時は今の2割増しの体格を誇っていたらしい。

 それが毒と長旅でやせ細り、命の危機にさらされていたため、俺の魔力を急速に吸収し、肉体が再補強されつつあるのでは無いか、との見立てだ。


「そうか、それなら今日も寝る前に魔力を分けてあげるよ。再補強が終わるまで様子を見ながら続けよう」

「本当ですか? 命を救っていただいたばかりか、さらに貴重な魔力までも。この礼は命に代えてもお返しします」

「う、うん、そんなに思いつめなくてもいいから。それじゃあ、カインは迷宮探索に加わるとして、サンドラはどうなの?」


 さっきからサンドラはひと言もしゃべらない。

 おとなしくしてるから、昨日よりは落ち着いたんだろう。


「それについては今朝話し合いました。妹もデイル様の偉大さに気が付き、命を捧げる所存です。昨日までは体を損なっており、逆恨みで非礼を働いてしまいましたが、何卒、お許しをいただきたく」

「……申し訳ありませんでした」


 昨日までの勢いはどこへやら、サンドラも素直に謝って来た。

 一晩で変われば変わるものだ。


「よく分かった。昨日の事は忘れるから今後は俺に仕えてもらいたい。一応、君たちは奴隷だが、俺を裏切らない限り家族同様に扱う事を約束する」

「もったいなきお言葉」


 こうして俺は念願の新戦力を手に入れた。

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