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妖精付きの迷宮探索  作者: 青雲あゆむ
第1章 迷宮探索編
13/86

13.カインとサンドラ

 俺達はスライムが居るらしき部屋へ慎重に近づいた。

 入り口から覗き込むと、本当にスライムがうじゃうじゃと居る。

 ぱっと見、10匹以上が中央付近でうごめいている。

 シルヴァが今にも飛び出しそうだったが、俺はこの部屋に何か違和感を感じて引き留めた。


「この部屋、なんか変じゃないか?」

「確かにスライムの数が多いの」


 チャッピーがそう答えるがそれだけでは無いような気がする。


「大きな石がたくさん転がっていて、戦いにくそうです」


 本当だ、特に入り口の周りに20cmぐらいの石が転がってる。

 今までにこんな状態は見た事がない。

 俺は何気なく、手近な石ころを拾って、大きな石にぶつけてみた。


コツン


 別に何も起こらない。

 しかし何かが反応したような気がする。

 俺達はそのまましばらく石を観察し続けた。


ドロリ


 固そうだった石が、急に溶けだした。

 そしてそれは黒灰色のゼリー状の物体に変わり、ブヨブヨと蠢きだす。

 スライムだ。


「石がスライムになった!?」

「いや、スライムが石に化けていたんじゃ。ストーンスライムじゃな」

「そんな魔物が居るのかよ。あのまま中央のスライムを攻撃してたら、入り口を塞がれてヤバかったかもしれない」


 もしそんな風に退路を断たれれば、2層に入ったばかりの冒険者では生き残れない可能性が高い。

 1匹が擬態を解くと、周りの石も次々に正体を現し始めた。

 その数、10匹以上だ。

 俺は右手を突き出しながらチャッピーに指示する。


「チャッピー、火炎弾」


 チャッピーが作ってくれた火炎弾を、まずは中央のスライム溜まりに叩き込んだ。

 火炎弾が一部のスライムを燃やし、それ以外は火から逃れようと外周に移動し出す。

 入り口付近のストーンスライムにも2発撃ち込み、しばらく様子を見た。

 やはりストーンスライムも火に弱く、俺達の方にも何匹か逃げてくる。

 この程度であれば大した脅威にはならないので、シルヴァに任せた。


 昔からスライムを重要な魔力源にしてきたシルヴァからすれば、ごちそうの山だ。

 嬉々としてスライムを狩り始める。

 あ、キョロも電撃で倒してる。


 炎が治まった後、散り散りになったスライムの処分を彼らに任せ、俺とレミリアは部屋の中を調べる。

 この部屋には他の出口が無く、そしてラッキーな事に奥の方に数人分の装備が残されていた。

 武器は長剣が2本、小剣が6本、短槍が2本、短剣が10本。

 防具関係はカイトシールドが2枚、バックラーが4枚、鉄の胸当てが2つあった。

 金属製品以外はスライムに食われているので全容は掴めないが、10人近い冒険者が犠牲になったんじゃないだろうか。

 ちなみにギルドカードは7枚見つかった。


 今回は装備売却だけで十分な収入になるので、一旦引き上げる事にする。

 帰還後、装備を売却すると、金貨5枚以上になった。

 さすが、2層に来る冒険者の装備だけはある。

 しかしそんな冒険者でも油断すれば、簡単に死んでしまう事を忘れてはならないだろう。



 その後も慎重に2層序盤の探索を進めた。

 ある程度、探索して分かったのは、1層に比べると部屋数や分岐が多く、それに比例してモンスターの発生頻度も高い事だ。

 ホブゴブリン1匹とゴブリン4、5匹のチームが複数うろついているため、10匹前後の魔物を相手にする可能性がけっこうある。

 何より、ホブゴブリンの知性が高いせいか、部屋から外れた通路で冒険者を待ち伏せする行動が見られるようになった。


 幸い俺たちはシルヴァの探知能力で察知できるため、待ち伏せを食らうことは無い。

 しかし戦力不足故に戦闘を避ける場面が増えてしまい、思うように探索が進んでいなかった。

 遅々として進まない探索に、ストレスが溜まって行く。


 2層を突破するにはもっと戦力が必要だ。

 そんな想いに駆られて魔物屋や奴隷商人を見て回るものの、思うような成果は得られない。

 現状のメンバーが軽量級ばかりのため、できれば前衛を支える盾役が欲しいのだが、そんな都合のいい魔物や奴隷はなかなか居ないのだ。


 一応、ギルドで参加メンバーの募集もしてみた。

 しかし傍目には若い男女2人と使役獣2匹だけの弱小パーティに、わざわざ参加しようという物好きは居ないのが実状だ。

 俺たちの使役リンクによるコミュニケーション能力や、チャッピーの合成魔法と回復魔法を知れば、また話は違うのだろう。

 しかし、信頼関係を築く前にそんな情報は明かせない。



 こうして、戦力不足を抱えたまま探索を続けていたある日、進行方向から魔物と争っているような音が聞こえて来た。

 警戒しながら先に進み、争っている部屋の入り口から中を覗くと、ホブゴブリン2匹と10匹近いゴブリン達と争う一団が目に入る。

 冒険者は4人しか居らず、その内2人はすでに倒れ、残りも崩れかけているようだ。

 どう見ても助けが必要だろうが、念のため呼びかける。


「おーい、通りがかりのものだが、助けは必要か?」

「可能であれば頼む!」


 冒険者の一人が息も絶え絶えに答えて来た。

 目の前で見殺しにするのも寝覚めが悪いので、助けてやろう。


「よし、助けるぞ。散弾2連発だ」


 俺はゴブリン達に近づきながら散弾を準備し、2回ぶっ放した。

 鋭く尖った石くれが奴らの肉をえぐり、動きを鈍らせる。


「レミリア、シルヴァ、キョロ、殲滅しろ」


 俺は仲間に指示しつつ、ホブゴブリン2匹に風弓射ウインドショットを連続で放った。

 その周りでレミリアの双剣が舞い、シルヴァの爪と牙、そしてキョロの電撃で瞬く間にゴブリン達が倒されて行く。

 すぐにその部屋で息をしているのは俺達と、襲われていた2人の冒険者だけになっていた。

 生き残った2人は精根尽き果てたのか、座り込んだままだ。


「2人とも大丈夫か?」


 俺は2人に近づきながら確認した。

 近寄ってみると、2人とも肌の色が青白い。

 片方は男で赤い髪を持ち、もう片方は青い髪の女だ。

 どちらも紅い目と額に突き出た2本の角を持つ事から、鬼人族だと知れる。

 2人とも大柄な体格で、迷宮内だと言うのに男は毛皮のパンツと革サンダルのみ。

 女はそれに加えて毛皮の胸当てと、どちらも異常な軽装だ。


「はあ、はあ……ご助力感謝する。私の名はカイン」

「気にするな。俺はデイル。これを使え」


 男の方が名乗ってきたので、こちらも答えた。

 よく見ると2人とも体中に傷を負っているので、ヒールポーションを渡す。


「重ね重ね、申し訳ない。この礼は必ず」


 そう言って受け取ったポーションを女に使い始める。


「そっちは?」

「はい、こやつは私の妹でサンドラです」


 兄妹か。

 しかし妹の方は愛想が無い、て言うかこっちを睨んでるぞ、あいつ。

 そんなサンドラはちょっとキツそうだが、かなりの美人だ。

 腰まである青い髪も見事だし、スタイルも良さそうなのだが、肉付きが悪く不健康に見えるのが惜しい。


 2人と一緒に戦っていた獣人2人に近寄り、脈を確認してみたが、どちらもすでに事切れていた。

 よく見ると4人とも奴隷の首輪を付けている。

 状況から察するに、彼らは主人と共に迷宮に入り、ゴブリン集団に遭遇して苦戦。

 そして主人を逃がすために時間を稼ごうとしていたのでは無いだろうか。

 俺たちが来た方向から見て左側の通路を守ろうとしていたようなので、主人はそっちへ逃げたに違いない。


「君達の主人はそっちへ逃げたんだろう? 確認しなくてもいいのか?」


 そう問いかけると、カインが無念そうに俯いて答える。


「いや、すでに主の反応は無い。私の感覚にも、この奴隷証にも……」


 彼らが付けている隷属の首輪には、主人が死ぬとそれが分かる機能があるらしい。


「そうか、それは気の毒に。必要であれば状況説明に協力しよう」

「それは真にありがたいが、この後どうなるか私にも分からぬ」


 彼らのような奴隷が迷宮の中で主を失った場合、どうなるか俺は知らないが、もし必要なら地上で状況説明くらいはしてやっても良い。

 それはそうと、彼らの主人が命を絶たれた理由が気になる。

 そう考えていた時、左側の通路から重い足音が聞こえて来た。


 これは何かやばそうだ。

 本来なら速攻で逃げる所なんだが、カイン達はすぐに動けそうにない。


ブギィィー


 そんな俺達の前に現れたのは2匹の巨大なオークだった。

 2mを超える身長で、200kg以上はありそうな巨体。

 豚そっくりの面で、粗末な腰布を身に付け、ぶっとい棍棒を振り回している。

 2層の序盤で出会うには、危険過ぎる魔物だ。

 しかしせっかく助けたカイン達を見捨てるのは忍びないので、俺達も踏みとどまる事にする。


「火炎弾2連発」


 まず一匹ずつに火炎弾を当て、火ダルマにしてしばし動きを止める。


「レミリア、カイン、左側のヤツを攻撃してくれ。シルヴァ、キョロ、右側を足止めだ。円すい弾装填」


 俺の手の前に直径5cm、長さ15cmほどの円すい弾が形成され始めた。

 同時に魔力で砲身を形成し、オークの頭部までの誘導経路をイメージする。


ドンッ


カンッ


 くっそ、弾かれた。

 今までの魔物とは段違いに硬い。

 やむを得ずもう一発撃ちこむと、奇跡的に弾が目を貫いてオークを仕留める事ができた。


「やったぞ、もう一発、円すい弾だ」


 しかし次の石弾は形成されず、チャッピーがへばっているのに気がついた。

 続けて何発も撃ったため、魔力がほぼ枯渇しているようだ。


「ごめん、チャッピー。少し休め」

「面目ない」


 俺は石弾を諦め、弓を構えて風弓射ウィンドショットを放つ。

 とりあえず顔に向けて2連射したが、矢が弾かれる。

 普通の武器では無理だ。

 レミリア達も攻撃を続けているが、硬い皮に阻まれ、ほとんど有効なダメージを与えられていない。

 このままではカイン達を見捨てるしかなくなる。


 まずは奴の足を止めるか。

 俺は地面に手を当ててチャンスを窺い、オークがこん棒を大振りするのに合わせて土魔法を行使した。


土捕縛アースバインド!」


 オークの右足の地面がめり込んで、土が足を包み込む。

 これには奴もこらえ切れず、バランスを崩して転倒した。


「よし、レミリア、カイン、奴の頭を――」


 レミリア達に攻撃を指示する最中、青い影がオークに向かって突進した。


「ハアアアーッ!!」


 それまで動けないと思っていたサンドラが剣を振り上げ、オークの首に叩き付けた。

 おそらく体力を回復しながらオークの隙を窺っていたのだろう。

 並みの斬撃では表面しか傷付かないオークの首が、サンドラの剣に半ばまで断たれる。

 その傷から赤い血がドクドクと流れ出し、やがて2匹目も動かなくなった。

 剣を打ち込んだサンドラは、そのままの姿勢で激しく息をあえがせている。


 全く、オークってのはとんでもないバケモノだな。

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