自称神とか草生える
旧版のオリジナリティのなさや、登場人物の多さをできるだけ改善したものになっております。
旧版とは設定やストーリーが少しずつ変わってくると思うので、お手数ですがもう一度新編集版の一話から読み進めることをお勧めいたします。
久々の登校。
夏休みも早終わり、忌まわしき登校日がやってきてしまった。夏休みが終わろうとも夏自体は終わってくれないようで、眩しくも暑い日差しが顔に射す。
名前順の席は嫌いだ。いつも窓際の席になるからだ。冬は隙間風が寒く、夏は日差しが暑い。
八重樫の名字を呪うばかりだ。
そんな俺こと八重樫廉太郎の昨日までの夏休みは、高校生活で忙しく貯まりに貯まったアニメを消化するために使い潰した。
その所為で出された宿題も何教科かは手を付けてすらいない。
憂鬱だ。
そんなことを考えながらも何人かと挨拶を交わす。
窓の外を眺めると雲が程よくあって綺麗な空が広がっていた。
この空は幾つかの雲と言う無数の汚点を許しているというのに、この学校ときたら、ただ一つの宿題忘れすらも許してはくれない。
この空のように寛大な心を持ってほしいものだ、そんなくだらないことを考える日々。
「起立」
そんな思考は日直の声に遮られた。
立ち上がりながらも、目線を窓から教卓に移すと若い女性教員が立っていた。
担任の柴村先生だ。
着席の言葉を待つだけだ。
だが、そこで時間は止まった。
「着席はしなくていいぞ」
その言葉をかけられた時には指一本たりとも動かすことができなくなっていたのだった。
「おめでとう諸君、君達は選ばれた。数ある生命体から、数ある集団の中から、全ては運命のままに、選ばれるべくして選ばれた。言わばエリートだ。どうだ、光栄だろう?」
何やら柴村先生が狂ってしまったようなので、他の先生でも呼びに行こうかと思ったが、金縛りにでもかかってしまったかのように体が言うことを聞かない。
それは周りも同じようで柴村先生の声以外の音が一つとしてしない。
集団催眠? 選ばれた? 狂ったマッドサイエンティストが人体実験でも始めようというのか。
……なんと恐ろしい。
大きな事件になったら宿題の提出期限が延長になったりしないかな?
有耶無耶になってくれるのが一番だけど、高望みはしない。
「おっと、自己紹介がまだだったか。私は神だ。この体を借りて話させてもらっている」
神? 新手の宗教団体か何かか?
確かにいつもの口調と声のトーンとはかなり違うが、証拠とすればかなり薄い。
神と名乗るには証拠不十分だった。
「さて、選ばれし諸君には選ばれし者の責務を全うしてもらいたい」
俺の考えを他所に自称神は話を戻す。
「世界を救ってくれ」
頭の中がクエスチョンマークで埋め尽くされた。
世界とはまた大きく出たものだ。
神を名乗っておいて今更か。
仮に本気であるとしても、一介の高校生である俺たちに何ができるというのだか。
「ああ、何人かは実践しているようだけど、ステータスと頭の中で唱えるとRPGゲームでお馴染みのステータス画面が出てくる」
こいつは何を言っている?
待て待て、コンテクストがおかしい。前後関係が成り立っていない。
今の話の流れで、どうやればゲームの話が出てくるというのか。
だが、唱えてみるだけなら、ただと思った俺は冗談半分で唱えてみた。
ステータス。
◇
八重樫 廉太郎
HUMAN male
HP:30
MP:7/16
skill
「鑑定 LV1」
「暗視 LV3」
「インスタント魔術 LV1」
◆
本当に出てくるとは驚いた。
この異常事態を鑑みるに神であることを信用してもいいかもしれない。
一宗教団体ができるようなことじゃない。
だが……。
欄を見ればRPG用語が並んでいる。
それぞれが表すのは上から体力または生命力、魔法を操る力(魔力)を表すはずだ。
スキルも戦闘スキルがないし、はっ? 異世界に行くんだよな? こんなステータスで大丈夫なのか?
なんだよこのインスタント魔術とかいうやつ。軽い名称つけやがって。三分待たないと発動しないとかは勘弁なんだが。
「君たちには勇者になってもらいたい」
本来なら馬鹿も休み休み言えと言っているところだが、生憎口が閉ざされていた。
俺が呆気に取られていると神は柴村先生の口で耳を疑うようなセリフを言った。
「ああ、そうだ。一応私、神様だから気安く頼み事するなよ」
いや、神だからこそ頼み事を聴かなきゃならんだろうと思ったのは俺だけではあるまい。
不穏な空気を察知した神はまたしても耳を疑うようなことを言った。
「はあ、君達は分かってない、何もわかっちゃいないな。能力を決定する賽を振ったのはこの神である私だぞ? それに逆らうなんて、天罰が下っても文句は言えないとは思わないのかい?」
頼みごとをする立場の言い草だろうか?
この状況で生き残っていけるかどうかすら怪しい。
「まあいい。君達には森か孤島、選ばしてあげるよ。二つに一つ、二択だ。君たちの持っているスマートフォンの画面に表示したから決めるがいい。身体も自由にした。存分に話し合い給え」
そう柴村の声で言うと柴村はふと何か憑き物が落ちたように踏鞴を踏む。
「おい、シバセン! どーいうことだよ! 意味わっかんねーよ」
シバセンは柴村先生の愛称だ。
クラスメイトでもよく騒ぐ連中が柴村先生に駆け寄り、問い質し始める。
だが、柴村先生も混乱していて、神はそこにいないということが分かった。
俺はズボンのポケットに入っているスマートフォンを立ち上げて見ると、そこには神が言っていたように森と孤島の表示がされていた。
その森と孤島の絵の上には0人と表示がされていて、それが選択した人数だということが分かる。
「なあ、レンタローはどっちにする?」
後ろを振り向けば仲の良い友達の一人、結城啓太がこんな状況でも律儀に椅子に座りながら聴いてきた。
俺は椅子を逆向きに座る形で振り向き直る。
「……そうだな、森が無難そうだが、あの神のことだ。何か仕掛けがあるに違いない」
「ああ、確かにそうだね。でも、それには同感だけど、そうなると孤島ってことかな? 森は近くに村や町があるかもしれないけど、孤島ってなるとなぁ」
「まっ、その村や町が味方であれば、そっちの方がいいかもな」
「……物騒だね」
「そりゃ、物騒にもなるさ。勇者を必要とするような世界らしいんだからな。治安は最悪と言っていいだろ。それに、偉い人は言ったもんだぜ、何よりも怖いものは人だってな」
「縁起でもないこと事言わないでよ……」
「ハッハッハ」
「笑い事じゃないって、マジで」
そんな他愛のない会話を楽し……真面目な話をしている時だった。
「やめろよぉ!」
声の方に目を向けてみれば、クラスの一部から虐めにあっている澤田がスマホを取り上げられて喚いていた。
「いーじゃん。孤島、楽しそーじゃん。楽しんで来れば~?」
「それ名案。ウケる―」
「俺たち澤田抑えとくからポチッちゃって」
「おけ、よろー」
虐めグループが笑いながら澤田を取り押さえ一人が澤田のスマホを操作し始める。
俺達、穏便派はそれを申し訳なさそうに、さも不本意そうに眺めている事しかできないでいる。
自分が標的にされるのが面倒だからだ。飛び火されては敵わない。
「やめろぉ! っざけんなよ!」
澤田は顔を炎の如く真っ赤にして、叫び暴れる。
だが、三人がかりで取り押さえられてるので、澤田は抜け出すことができなかった。
周りの俺達傍観者は流石にやり過ぎだと思い、先生に助けの目を向けるが、先生は具合悪そうに頭を抱えているだけだった。
「分かった、こんなことで怒んなって」
そう言って澤田のスマホを操作していたクラスメイトは澤田にスマホを返した。
澤田はそれを分捕るようにして掴み、スマホの画面を見て呟いた。
「何だよこれ……」
俺は嫌な予感がして、スマホの画面を恐る恐る覗く。
孤島の上に表記されていた筈の0の数字が1の数字に変化していたのだった。