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DQNの多い異世界トリップ  作者: サーモン
旧版
6/12

はぁ? なんしぃー?

「グレイウルフが南西から21体、南東から18体で挟んできている」


 塚越が真剣な表情で話し始めた。


 こっちに来てから塚越は指揮官をやっていて、指揮スキルと弓スキルを持っている。


 塚越に隣にいる瀬川は索敵スキルとマップスキルを持っていて、敵の数と敵の位置を割り出すことができる。


 と言うことは戦況のソースは瀬川だろう。


「戦闘職じゃない皆にも協力してほしい」


 塚越は頭を下げた。


 既に塚越以外の10人全員の戦闘員は出払っていて、今も交戦中らしい。


 だが、どうも数が多い。


 グレイウルフ自体の能力値も高くはないが決して低くなく、非戦闘員が素手で挑めば噛み殺されるのは目に見える。


「勿論、武器は予備を支給するし、我々戦闘員ができるだけサポートに回る。武器はなるべく槍などの敵と一定の距離を保てる長物を優先的に渡す。手伝ってくれ」


 中々丁寧な対応だった。


 あほメンバーの一人として数えてきたが、認識を改める必要があるようだ。


「弓はないの?」


 女子生徒がそう尋ねたが、多分意味がないだろう。


 弓なんかスキルなしに即興で打てるものでもないし、誤射して足手まといになるのがオチだ。


 塚越も同じ考えだったようで、その女子に弓は無理だと説明した。


「防具……盾とかって一人ずつ配れるのか?」


 クラスメイトの一人が訪ねた。


「全員分は難しいが、3人ペアで2つの盾を使えば足りる計算だな。大きい盾だから、3人で上手く陣形を組めば守ることもできる」


 クラスメイト達はそれぞれに話し合い、時間も押しているため、男子は全員参加と言うことで決定した。





「生きて帰ってきてね……」


「死んじゃやだから……」


 俺のルームメイトはそれぞれの彼女から心配の声をかけられ、照れくさそうにしていた。


 妬ましいくらいに羨ましい。


「絶対帰ってくる」


「帰ったら2人の家を作ってもらおう」


 奴らは彼女とお別れのキスをした。


 ほんと、その死亡フラグは確実に回収してもらいたいものだ。


 胸がムカムカしてきた。


 俺にも誰かいないかな……そう言えばこっちに来てから碌に女子と会話してなかった気がする。


 こんなんなら吊り橋効果でも狙っておくんだった。


 まあいい、よくないけど。


 バイザウェイ。


 俺たち3人ペアの装備の振り分けはこうなった。



 俺……盾、長めの杭、短剣、レッグガード。


 ケータ……槍、アームガード。


 健介……盾、手裏剣、長剣、レッグガード。



 役割分担で俺と健介が盾を持つ理由はケータの力が一番ないからだ。


 盾は相手の攻撃を受け止めるのにかなり力が必要になってくる。


 それを考慮した上の布陣だ。


 足がお留守にならないように盾を持つ俺達はレッグガードも装備している。


 長めの杭はケータに頼んで特注で作ってもらったものだ。


 盾も俺のは特注で、どちらも電気を通しやすく硬い材質になっている。


 俺たちの装備は他に比べて少しばかり豪華だ。


 それは偏に健介の武具錬成スキルの御蔭と言っていい。


 俺達が外に出ると右と左ではギリギリの戦闘が繰り広げられていた。


 魔法の遠隔射撃や弓でグレイウルフを牽制して掻い潜ってきた数匹を前衛が対処する。


 そんな具合に戦闘がなされていた。


 両者とも戦力は拮抗していた。


「早く来なさいよ!」


 魔法を放っている清水がこちらを振り返って、怒鳴る。


 彼女のステータスを覗くとMP残量がギリギリになってしまっていて、焦っている理由を理解する。


 周りの非戦闘員たちはどうやってあの連携に入っていくか決めあぐねていた。


 確かにあそこに入っていけば戦闘の邪魔になってしまうかも知れない。


「俺達は少し角度をつけて、横から攻撃しよう」


 健介の提案に俺とケータは頷いた。


 松明が点いていると言えども、視界が悪かった。


 走りながら暗視スキルをオンにした。


「遅くなった」


 健介は戦ってた戦闘員に声をかけて、同時に盾をグレイウルフに思い切りぶつけた。


 盾の表には刃がついていて、相手に当てるだけでダメージを与えることができる。


「殺しに行かなくていい、その場で構えとけ」


「分かってる」


 そのグレイウルフはまだ死んでいなかったが、健介の言う通りそのグレイウルフを殺しに行けば囲まれてしまうので、動かないのが正解だ。


 距離を保ち、やがて飛びかかってきたグレイウルフに俺達の盾の間からもりのような形をした槍が伸びる。


『ギャン』


 グレイウルフの腹に刺さった槍をケータは引き抜くと血を掃う。


「ナイスケータ」


 俺も負けていられない。


「こいつは俺が対処する」


「おう、任せた」


 俺を先頭に2人は後ろに隠れた。


 グレイウルフが飛びかかる。


 魔術起動、スタン。


 手持ち部分に取り付けてある木の板の刻印が薄らと光った。


 俺はグレイウルフに向かって盾とともに一歩踏み出し、盾で体当たりをかました。


 バチッ、とグレイウルフと盾の間で電流が流れる時の弾けるような音がする。


『ギャウン!』


 グレイウルフが倒れた。


 周りは戦闘中、戦闘音も煩く周囲への警戒でこちらにかまってもいられず、誰も今の音に気付いていない。


 戦闘音に掻き消されて後ろの2人にも聞こえていないはずだ。


「いいぞ、よくやったレンタロー」


「頑張ったねレンタロー」


「なんでお前等は上から目線なんだよ」


 軽口を叩きあう。


 アドレナリンが体中を駆け巡っているのかハイになっている。


 初めての戦闘で気分が高揚しているのだろう。


「2体グレイウルフが左から回り込もうとしてる。健介!」


「はいよっ」


 健介は1体のグレイウルフを盾で殴りつけるとともに斬りつけ、着地に失敗したグレイウルフをレッグガードで蹴り、ケータは健介とグレイウルフが邪魔で無理な体勢になったもう一匹のグレイウルフに槍を思い切り刺し、反動で引き抜いて、大量の血をぶちまけさせていた。


 健介はらしいと言えばらしいが、ケータも性格に似合わずエグイことをする……。


「よく見えたな」


 健介は感心するように俺を見た。


「暗視スキルだ」


「なるほどね」


 会話をする度に肩から無理な力が抜け、動きやすくなる。


 死と隣り合わせで戦うスリルが何とも言い難かった。


 口が大きな弧を描いているだろうことが分かるくらいに頬が上がる。


 これが俗にいうゲーム脳か。


 悪くない。


「次、いくぞ!」


「オーケー」


「おうよ」


 そうして、俺達は日々の鬱憤をグレイウルフ達にぶつけていくのであった。

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