僕たちの世界を見てくれ
「さて、私たちばかりが楽しんではいけないな。君のこれから最低でも三か月ほどだ。どう過ごしたい?」
鳥取島根戦争には関わりたくない。かといって鳥取側のガール帝国にいる以上いやおうなく関わるのだろうか。
「戦争には関わりたくありません」
「伝承の首狩り武者も、君のように時を経たら穏やかになったかもしれないな」
「首狩りは競技ですから」
男がうなずき、女が継ぐように誘う。
「それなら観光旅行なんてどう?三ヶ月もあれば結構回れるよ。奴隷制のない異国の百万都市は見たくない?空気すら知らなかった匂いがするよ。他にも僕たちのサイズの十倍以上の巨人が何万と住んでいた街遺跡もある。偶然掘り出された過去の工芸品が一同に展示されている施設もある。今では出すことのできない色をした金属を使った装飾品は美しいよ。僕たちのお城より大きな頭蓋骨を中心とした町もある」
本当に私を殺す気がないのか。
「それはわくわくしますね」
大人しく三ヶ月ほどただ旅行して帰る。元の世界では行方不明になった言い訳は思い出せないだけ言えばいいとして、魅力的なものに思えてきた。
「そうでしょう?それにしても最初怖がってたのに、今は落ち着いてるね。怖くないの?」
「そうですね。何ででしょうか。信頼してもいいかなって」
女との会話を男が継ぐ。この二人は、二人で一人のようだ。自然と会話を継いでくる。
「もしかしたら呼び出して敵になったら困るから、最初に見た種族や国を信用する呪いがかかっているのかもしれないな。タイミングは特技強化と同じかな。こちらとしてはありがたいことだ。君たち勇者を思うと気の毒でもある」
自分の心を見つめると時間が経つに連れて恐怖心が薄れていっていたことに気づく。
「戦争って、命がけなんですよね」
「そうだ。私たちも奇想天外な手で今夜の内に死ぬかもしれない」
言い知れぬ怒りを感じた。私以外にもあと三人が拉致され、根元のない愛国心を植えつけられ、殺し合いに向かされる。されど自称神を攻撃しようという意思も浮かんでこない。
「怒るべきなのでしょうが、その連れてきた神みたいな人に攻撃しようという気持ちがわいてきません」
「敵ながら見事な呪いだ。もちろん君が優しいだけかもしれないがな」
男が立ち上がり、女が横に並ぶ。
「決まった。君は四ヶ月、いや帰るまで私たちガール帝国が保護しよう。その間、私たちが築いた歴史、文化、下世話な種族。色々と見て回ってくれ。私たちは私たちの安全のために君を保護するのだから負い目は感じなくてもいい。それに」
「君の目にこの世界はどう映っているのか、僕たちは知りたい。自称神がろこつに命を狙う明日死ぬかも知れぬ世界。僕たちが守っている国が美しいと思ってくれる人が一人でもいて欲しいんだ」
「では握手をしよう。契約魔法なんてない。ただ信頼の証だ」
二人が片方ずつ差出し、私は二つの手を握った。
「私はガール帝国の理性、ムート」
「僕はガール帝国の感情、グガ」
「私は首狩り武者族のただの学生、ヒタネ。よろしくおねがいします」
「よろしく」
「よろしくね」