インターセプト召喚
揺れる景色の中、夏の香りが鼻の奥へ通っていった。冬の帰り道に突然だった。また今年の夏に戻れたらと思ってしまう。それが異世界へのワープゲートを通った時の気持ちだった。
夏の香りが終わり、軽い酔いの中、手足が冷たい石の感触を得た。いつの間にかへたりこんでいたことに気付き、顔を上げる。目の前には二人の男女が立っていた。どちらも皮膚が青かった。
二人は近すぎたのか三歩引き、同時に言う。
「ようこそ勇者どの」
その一言がきっかけにして、周りから割れるような拍手と歓声が聞こえた。
周りを見ると、ろくろ首、リザードマン、人魚、ゴブリン、他さまざまな種族百人近くが興奮している。
彼らの歓声と拍手は広い石室の中に閉じ込められ、何重にも私を恐ろしがらせた。異形の存在はただ存在するだけ恐ろしいというのに。
車に連れ込まれて急いで逃げたときより絶望感が強かった。何よりも孤独で、打つ手がない。
前にいる二人の女のほうが手を上げると拍手が止まる。
「みんなのおかげで無事インターセプト召喚が成せたよ。あまり怖がらせるのもよくない。みんなはパーティ会場で騒いでいてくれ。これからの会談の内容は随時知らせるので、それを肴にすればいいよ」
周りの魔物が甲高い声、野太く低い声、そしてそれらに紛れて消えてしまう声。さまざまな叫びをあげて退出していく。
恐ろしい者たちが背中を向けて後ろの出入り口へ行き、部屋の様子を見る余裕ができる。石造りで広い儀式場だ。石寺の本堂のようだ。仏様のあるところに簡素な演説台があるだけ。
「私たちはこっちから。控室で悪いが、そこで説明をしよう。旅程の話だ。立てるかい?」
女が青い手を貸してくる。
私はそれを受け取って立ち上がった。
女は私の手を離さない。
「こっちだよ。逃げ道はない。ただ娯楽はあるよ」
屈託ないの、感情だけの声だった。
歩くと帰り道のコンクリートよりざらついた感触が靴の裏に伝わる。それが妙に生々しかった。
「言葉はわかるよね?寒くない?びっくりしたでしょう?」
演説台にあがり、脇へ入る。うんうんと頭を振り、何度か目かの質問でやっと声が出た。
「はい」
私はやっと会話をして、脇の奥にある控室へ連れられて行った